プロローグ
無我夢中。それは今の俺に最も相応しい言葉だ。
俺は、ほとんど機械的に男を刺し続けていた。肉を抉る耳障りな音が、夜のしじまを破壊する。
話があると呼び出し、無言で身体ごとぶつかった一突き目は、男の貧相な腹を深々と突き刺した。くぐもり声が聞こえた瞬間離れると、男は仰向けに倒れた。腹から溢れ出る血。痙攣する身体。俺は男に跨がり、胸や腹めがけてジャックナイフを振り落とす。何度も、何度も――。
男は目を剥き、掠れた呻き声を上げていたが、やがて聞こえなくなった。抵抗する間もなく、何故自分が刺されたのか訳も分からず死んだのだろう。
それでも俺は飽き足らず、ナイフを振り落とすピッチを上げた。顔に血飛沫がかかり、血生臭さが鼻腔を刺激する。俺は顔をしかめた。
公園内にある消えかかった街灯が点滅する度、赤が目に飛び込んでくる。
気持ち悪い――。
昔からそうだった。赤を見ると発狂しそうな恐怖に襲われる。心に押さえ付けていたものが飛び出してしまいそうな感覚に陥るのだ。
俺は、右手だけで握っていたナイフを両手に持ち替え、男の身体をひたすら損壊する。これまでの鬱憤を晴らすかのように力を込めて。
真冬の夜だというのに息が上がり、汗が滲んだ。腕がもう筋肉痛を訴え始めている。
雪崩れ込む感情が押さえ切れない。不平、不満、憤怒、憎悪――これまでひた隠しにしてきた俺の負を引きずり出した男は、みるみるうちに赤い肉塊に姿を変えていく。
しつこく耳にこびりついて離れない男の言葉。それを払拭するように俺はナイフを突き立てる。
ふと、左から強い視線を感じた。
俺は作業を一時中断し、その方向を見た。
子供が立っていた。俺がいる公園の外で、目を丸くし、口を半開きにして固まっている姿が街灯に照らし出されている。少女のような面立ちだが、俺にはすぐに少年だと分かった。
少年は俺と目が合うと、スイッチが入ったように慌てて走り去っていった。
厄介なところを見られてしまった。一瞬追いかけようか迷ったが、やめた。ショック状態の今は何を言ったところで聞き入れられないだろう。
それにしても、可哀相な事をした。ナイーブな子だから、トラウマになってしまうかもしれない。フラッシュバックに苦しんで精神的に病んでしまわないか心配だ。
俺は、ぼんやりとした頭で少年を気遣った。それと同時に、彼ならきっと俺の気持ちを理解してくれるだろうと思った。
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