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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第6章 - 縁から宴編 -

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第6章 縁から宴編 - 第1話「ようやくスタートライン」


「というわけで、今日から恋人としてよろしくお願いします」


朝。


いつものように三人で居間へ集まり、いつものように朝の挨拶を交わした直後。


美月は、今日の予定を読み上げるかの如く、平然と告げた。


「…………」

「…………」


返事はない。


ジャジーと鳳《ほう》は、揃って美月を見つめていた。


「あれ?なんか変だった?」


先に口を開いたのはジャジーだった。


「お前……」


心底残念そうな顔をしている。


「相手の立場になって考えてみろよ……」

「うん?」


何も分かっていない美月の表情に、ジャジーの肩が落ちた。


「朝が来た」

「うん」

「居間に集まって挨拶した」

「うん」

「“というわけで今日から恋人としてよろしくお願いします”だぞ」

「あっ、朝礼だ!」


ようやく気づいた美月の顔が引きつる。


鳳《ほう》も静かに頷いた。


「まるで人事異動の報告でござる」

「“今日から美月職員が恋人として配属されます”じゃねぇんだよ」

「拙者たちの決死の告白が伝達事項のように語られたでござる」

「ンァァァァ私ってば恋愛の点数が低すぎるぅ!」


美月は頭を抱えた。


「赤点だろ」

「補習案件でござる」

「容赦ない!」


顔を上げると、ジャジーが顎で美月を示した。


「やり直せ」

「え?」

「再試でござるな」

「補習する暇は!?」

「俺らが待ってられねぇ」

「教師の都合が私情!」


鳳《ほう》まで真面目な顔で続ける。


「せめて朝礼でないもので頼みとうござる」

「うぅ……」


先ほどまでの勢いはどこへやら、美月は胸の前で小さく手を重ねた。


改めて言えと言われると、急に恥ずかしくなる。


ジャジーも鳳《ほう》も、黙って待っている。


「……わ、私……」


喉が詰まった。


「ふ、二人のことが……凄く、大切で……その……」


自分の鼓動ばかりが、やけに大きく聞こえる。


「これからも一緒にいられたら……すっ、凄く幸せだろうなって思ってて……あの……っ……」


言葉は何度もつっかえた。


それでも、昨日まで散々考えた気持ちだけは、どうしても伝えたかった。


「っ……だから……!」


美月は思い切って二人の手を取った。


「私の恋人に、なってくれる……?」


言った瞬間、恥ずかしさに身体が縮こまり、無意識に腕が引かれる。


当然。


握ったままの二人の手まで、一緒に引き寄せられた。


「…………」

「…………」


また沈黙。


「……ふたりとも……?」


すると。


ジャジーが掠れた声を落とした。


「……だめだろ……」

「想定外でござる……」

「想定外なほどの低得点!?」


美月は慌てて手を離し、両頬を包む。


「違ぇよ!」


ジャジーが思わず前へ身を乗り出した。


「赤点だったやつが補習ゼロのまま満点叩き出すなんざ思ってもみねぇだろ!」

「満点!?……でも言葉噛み噛みで全然スムーズじゃないし……」

「告白の返事に業務報告みてぇな流暢さいらねぇんだよ!」

「そ、そう……?」


鳳《ほう》も胸元へ手を当てていた。


「拙者も横転しかけたでござる」

「鳳まで!?」

「そなたがあまりにもいじらしいからでござる!」

「いじらしい?」

「左様。拙者らの告白に対し、今感じていることを懸命に伝えてくださった。それが非常に嬉しいのでござる」


真っ直ぐ言われ、美月の頬がさらに熱くなる。


その横で、ジャジーが口元を押さえた。


「あと、あんな真っ赤んなって俺らの手に縋るとか、俺の淫魔と略奪側ハーピーがR指定入る顔してる」

「すでに顔に出ちゃってるよ!」


金色の目は、完全に捕食者になっていた。


鳳《ほう》も口元へ手を添える。


「……拙者も、僵尸《きょうし》が騒いでおる」


黄色い瞳の瞳孔が、いつもより細い。


「周りが圧倒的捕食者すぎる!」

「こん中にあの東《あづま》ってやつも入るかもしれねぇんだろ?」

「捕食者三つ巴を完成させないで!」


ジャジーは笑ったあと、ふっと表情を緩めた。


「……恋人」

「へ?」

「なるに決まってんだろ」


そして、少しだけ低い声で続ける。


「つーか、今さら逃がしてたまるかよ」

「最後まで捕食者守らなくていい!」


鳳《ほう》は、美月へ静かに頭を下げた。


「拙者も、喜んで。不惜身命《ふしゃくしんみょう》の覚悟でそなたをお守り致そう」

「この二人、温度が真逆すぎない……?」


そう呟いた直後。


ジャジーの腕が伸びた。


「ふわぁ……!?」


片腕が美月の腰へ回り、そのままぐっと引き寄せられる。


唐突に消えた距離に、心臓が跳ねた。


「……なぁ」

「ひぅ……っ……」


耳元へ、熱い吐息が落ちる。


「お前の言う“恋人”って、どこまでが許されんだよ」

「っ……!」


美月の顔が首まで赤くなった。


人間界で言う恋人。


もちろん個人差はあるが、双方が望めば、それ以上の深い触れ合いへ進む者だって珍しくない。


だからこそ。


「っ……キスまで!私基準はキスまでです!」 「チッ……そっちで決められんのかよ」

「座敷わらしにR方面を求めないで!」


ジャジーは露骨に不満そうな顔をしたものの、すぐに口角を上げた。


「でもよ。もう触れ合いも、ハグも、キスも、補給関係なくしていいってことだろ?」

「……まぁ……はぃ……」

「なら、そこは遠慮しねぇでいいな」


額へ、柔らかな感触が落ちた。


「わ……」

「お前の心臓が爆発しねぇように、今日はこれで耐えてやる」

「……ありがと……」


美月がほっと息を吐いた、その時。


「ジャジー殿」


鳳《ほう》の声が飛んだ。


「美月殿は、お主だけの恋人ではござらぬ」

「はいはい。しっかしまぁ、お前も攻めるようになったよなぁ」

「我慢大会はせぬよう申されたゆえ」

「極端なんだよ!」


鳳《ほう》は美月へ手を差し出した。


「美月殿、こちらへ」

「わっ……」


今度は鳳《ほう》に手を引かれる。


そのまま腕の中へ収められ、美月は昨日に続いて再び固まった。


「もう、顔が爆発しそう……」

「拙者の水で冷やそう」

「物理!」


美月は思わず両手で顔を覆《おお》った。


「見えぬ」


即座に手を退かされる。


「鳳《ほう》、遠慮しなくなったね……」

「美月殿の反応が愛《う》いゆえ」

「意地悪に進化した!」


鳳《ほう》の目元が、ほんの少しだけ柔らかくなる。


「……美月殿」

「……うん」


ゆっくり顔が近づく。


美月も、今度は逃げずに目を閉じかけた。







その時。








ふわりと。


二人の間を、潮の香りが走った。




第6章 縁から宴編 - 第1話

「ようやくスタートライン」

→第6章 縁から宴編 - 第2話

「未定」


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