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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第4章 - 深まる関係編 -

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幕間「また一歩」


東《あづま》からもらった魚は、驚くほど美味しかった。


刺身にした身は透き通るように艶があった。

口に入れれば、舌の上でほどけるように脂が広がる。


「美味しいぃぃ……」


美月は箸を持ったまま震えた。


「美味しくて全身から涙出そう」

「新種の妖《あやかし》じゃねぇか」


ジャジーが呆れたように言う。


鳳《ほう》は静かに刺身を口へ運び、ひとつ頷いた。


「自分が見初めた者に、粗末なものを渡す訳がなかろう」

「ちゃんとあの海の主《ぬし》してるんだなぁ」


美月はふと思う。


「ていうか、魚と話せたりするのかな?」

「言語として通じずとも、多少の意志の疎通は可能であろう」

「じゃあ魚を捕まえる時、どうするんだろう」


美月は東の気持ちになって考える。


「“悪ぃな。てめぇの命もらうぜ”、みたいな感じなのかな」

「ぶふっ!」


ジャジーが吹き出す。


鳳《ほう》の眉間にも皺が寄った。


「海を治める者の言葉ではござらぬな…」

「俺だったら慣れねぇ水温の海だとしても引っ越しを決意するわ」

「今度東《あづま》に妖力文《ようりょくぶん》で聞いてみようかな」


そして、大量にあったはずの魚は、驚くほどの速さで消えていった。





食事を終え、片付けまでを済ませた三人。


洗い物を終えた美月は卓へついた。


すると、鳳《ほう》が静かに口を開いた。


「緊急会議を開催するでござる」

「そうでした」


美月は即座に正座した。


ジャジーが片眉を上げる。


「議題は分かってんだよな?」

「私のストレージ不足についてでしょうか」

「まずキャッシュを消せ!」


ジャジーの口角が、じわりと上がる。


「お前、さっきなんでもするっつったよなぁ?」


そのまま美月の顔を覗き込むような位置で、卓に頬杖をついた。


「あれは疫病神さんが家の中に入っていた場合に成立した発言であって、結果的に縁側だったので減刑の余地はあるかと」


美月は真顔で答える。


「都合よく変えんな!」


ジャジーが眉を吊り上げながら声を張った横で、鳳《ほう》が腕を組む。


「……先ほどの者は、疫病神と言ったでござるな」


その問いに、美月の肩が下がる。


「うん……。何の報告もしないまま、連れて帰ってきちゃってごめんね……」


しかし。


「よい。困っている者に手を差し伸べることは、悪いことではござらぬゆえ」


全く責める様子のない鳳《ほう》に、美月はわずかに目を見開く。


「鳳……」

「こっちは気が気じゃねぇけどな」

「ジャジーも……」


二人を見比べ、美月の顔が少しだけ緩む。


鳳《ほう》は続けた。


「拙者らの体にも、何の影響もない。ならば今回の来客については不問にござる」

「鳳……!」


美月が鳳の慈悲深さに感動しかけた時。


「されど、拙者らとの約束は十二分に守ってもらうでござる」

「ん゛十二分!?」


しっかりと落とし前を回収する予定の発言に、美月の肩が跳ねた。


次の瞬間、深々と額を床につける。


「全身キスマークにしないとか、失血死しない程度で、なにとぞ手を打っておくんなまし……」

「何もそこまで貰うとは言っておらぬ!」

「お前俺らを何だと思ってんだ!」

「物理補給型属性過多妖怪」

「おい」

「冗談です」


すると鳳《ほう》の声が、少し低くなった。


「美月殿」

「ひぃぃ声が執行人!」


鳳《ほう》は短く息を吐く。


「海へ行く前に、拙者が言ったことを覚えているでござろうか」

「あ……伝えたいことがあるってやつ?」

「左様」

「覚えてるよ。遅くなってごめんね。何を伝えたかったの?」


鳳《ほう》は美月ではなく、隣のジャジーを見た。


「ジャジー殿」

「目で威圧すんな。いったんお前らだけにすりゃいいんだろ」


ジャジーは立ち上がる。


「じゃ、俺ぁ外の風にでも当たってくるわ」 「え、ジャジー?」

「あとは鳳《ほう》に聞け」


そのまま玄関の扉が閉まった。


急に静かになった部屋で、美月は鳳《ほう》を見る。


鳳《ほう》の視線は、美月の唇へ落ちていた。


「……鳳……?」


そして、鳳《ほう》は口を開く。


「……拙者らは、まだ返事をもらっておらぬ」

「……うん。ごめ―――」


美月の唇から出かけた言葉。


それを鳳《ほう》は、自身の人差し指を美月の唇へと重ね、静かに止める。


「謝っていただきたい訳ではござらぬ」


そう言うと、指を外す。


「返事をもらわねど、ジャジー殿と美月殿は口付けを交わしておる」

「う、うん。まぁ、補給だから仕方ないよね」

「……仕方なしに、口付けをしているのでござるか」

「え……」


美月の脳裏に、自分の言葉が蘇《よみがえ》る。


『嫌じゃない』


自分は確かにそう言った。


「……違う」


小さく答えると、鳳《ほう》の目が細まった。


「もし、美月殿が仕方なしにしているのであれば、この話はここで終いにしようと思っていた」 「……うん」

「されど、そうでないのならば……」


鳳《ほう》は、そっと美月の手を取った。


「拙者も、美月殿と口付けを交わしとうござる」


一気に、美月の頬が熱を持つ。


「……もしかして……」

「……」

「ジャジーとだけ、ずるいって思ってた?」

「……左様」


あまりにも素直な返事に、美月は余計に赤くなった。


それでも、少し笑う。


「……いいよ」

「……!」


鳳《ほう》の目が見開かれる。


「鳳なら大丈夫だと思うけど、舌とかは入れないでね?」

「し……っ! 無論にござる!」


わずかな沈黙。


鳳《ほう》の大きな手が、美月の肩へ触れる。


思ったよりも、熱い。


そのまま腕が背へ回り、鳳《ほう》が軽く美月を引き寄せると、二人の距離がゆっくり縮まった。


そして、鼻先が触れる。


「……よいか」

「……うん」


軽く。

本当に軽く。


唇が重なった。


互いの体温だけを確かめるような、短い口付け。


やがて。


示し合わせたわけでもなく、二人は同時に離れる。


目を開ければ、相手の顔は真っ赤に染まっていた。


沈黙の中、美月が口を開く。


「……鳳《ほう》」

「……なんだ」

「ござる、消えたね」

「……余裕がないゆえ」


視線は、やや外側に外された。


美月は柔らかく微笑む。


「……キス、しちゃったね」

「……うむ……」


窓の向こうでは、月が静かに光っていた。


美月はふっと笑う。


「ふふ。なんだか今日は、ゆっくり眠れそう」


すでに夜も更けた。

あとは湯浴みをして、ベッドに入って目を閉じるだけ。


温かく、柔らかい感情で心が満たされていく。


その時だった。


「まだ、終わっておらぬが」


鳳《ほう》は当然のように告げる。


「……」


美月が停止する。


「………え゜!?」


その時、鳳《ほう》が美月の手首を引き寄せる。


そのまま、手首へ唇を触れさせた。


「十二分に、と申したでござろう?」


ほんの少しだけ、悪戯っぽい笑み。


美月の落ち着いていた熱が、一気に上昇していく。


「やっぱりゆっくり眠れないぃぃぃ!!」


しばらくすると。


ベッドの上で、巨大なダンゴムシのように布団へ丸まる美月と。


その隣には、補給を終え、満足げに目を細めている鳳《ほう》。


そして家の外。


木の上では、ジャジーがあぐらをかき、頬杖をついていた。


「……あいつら、完全に俺のこと忘れてんだろ」


夜風に黒い羽が揺れる。


「ったく。議長が会議中止してどうすんだよ」


悪態をつきながらも、その口元はどこか楽しそうだった。


鳳《ほう》が、ようやく自分の欲を言葉にしたこと。

美月が、それを受け止めたこと。


それを見届けられたなら、今夜くらい外で待つのも悪くない。


その夜、三人には。


過去最高に騒がしくて。


それでも、どうしようもなく平和な夜が訪れたのだった。





幕間「また一歩」- 完 -

→第6章 縁から宴編 - 第1話

「ようやくスタートライン」へ




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