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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第4章 - 穏やか(?)な日常編 -

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幕間「帰宅中のあれこれ」

美月が去ったあとの管理所は、先ほどまでの賑やかさが嘘のように、いつもの落ち着いた雰囲気を取り戻していた。


来徒らいとの声と、書類をめくる音。

各部署を行き来する、職員たちの足音。


その中で。


総務管理課そうむかんりかの受付に立つ写仝シャドウだけが、微動だにしていなかった。


「…………」


受付台には、美月が置いていった決済札。


『それに、ここ好きだし……』

『まとめて全部聞いちゃったら、皆さんとちょくちょく会えないじゃないですか』


その言葉が、妙に残っている。


「……あらやだ。こっちも情緒の葬儀中かしら」


横から聞こえた声に、写仝シャドウはゆっくり顔を向けた。


種族支援課しゅぞくしえんかエニシが、書類を胸元へ抱えたまま立っている。


「既に埋葬まで済んでおります」

「済んでる顔じゃないのよねぇ〜」

「顔はありません」

「……あらぁ〜?」


エニシの狐耳が、ぴくりと動いた。


何かを嗅ぎ取るように鼻先を上げる。


「なぁんか……写仝シャドウさんから“縁”の気配がプンプンするんだけどぉ」

「……気のせいでしょう」

「縁結びの妖狐なめないでちょうだいねぇ?」

「…………」


写仝シャドウは答えない。


無表情どころか、そもそも表情のない影の輪郭を、エニシは楽しげに見つめた。


しばらくして。


「んふっ♡まぁこれ以上詰めるのは野暮ってもんだからぁ、私は失礼するわねぇ〜」

「そうしていただけると助かります」


エニシは意味ありげに尻尾を揺らし、そのまま種族支援課しゅぞくしえんかへ戻っていく。


その横で。


ザザッ……ブゥン……。


写仝シャドウの肩から頭部にかけて、輪郭が一瞬だけ大きく乱れた。


「…………勤務中ですよ」


誰に言うでもなく呟き、受付台へ視線を落とす。


写仝シャドウは人知れず、何かと戦いつづけるのであった。







一方その頃。


美月、ジャジー、ほうの三人は、拠点へ続く道を歩いていた。


先ほどまで続いていた吸血を巡る小競り合いも、ようやく少し静まっている。


その沈黙を破ったのはほうだった。


「ジャジー殿、先ほどはすまなかったでござる」 「……別に」


ジャジーは前を向いたまま、ぶっきらぼうに答える。


美月はその横顔を覗き込み、少し笑った。


「でも、隠してコンプラ守ってくれたでしょ?ありがとね」

「……まぁな」


しかし。


どうにもジャジーの顔が晴れない。


眉間には薄く皺が寄り、口元も不機嫌に曲がっている。


「ジャジー、なんでそんなむすくれてるの?」 「……なんでもねぇ」

「拙者の補給で美月殿との触れ合いが中断されたからであろう」

「そうなの?」


美月が首を傾げると、ジャジーは鼻を鳴らした。


「それもあるが、大きくは違ぇ」


その視線が、ほうへ向く。


先ほどまで顔色を悪くしていたほうは、今ではすっかり血色を取り戻していた。


肌には艶が戻り、妖力も安定している。


そこまではいい。

問題は、その顔だった。


初対面なら絶対に気づかない程度。


だが、今では毎日顔を合わせるジャジーには分かる。


目元が、ほんの少し柔らかい。

口元も、わずかに緩んでいる。


明らかに満たされている。


ジャジーのこめかみに、ぴきりと筋が浮かんだ。


「クッソムカつくくれぇほうの顔が満たされてんだよ!」

「妖力を補給できたのでござる。当然顔面にも表れよう」

「じゃあお前の今の心境、代弁してやろうか」


ジャジーの口元がヒクつく。


「美月に合法的に触れられた。血が美味かった。自分のもんだって周りに誇示出来た」

「……誇示などしておらぬ」

「してただろ!つーか他のは否定しねぇのかよ」 「……前二点については一切否定せぬ」

「ちょっと待って!誇示ってなに!?」


美月が二人の間へ顔を突っ込む。


ジャジーはほうを親指で指した。


「そりゃ綺麗なもん持ってたら自慢してぇだろ。こいつ丁寧に血ぃ飲んでると見せかけて、すげぇ悪ぃ顔周りに向けてたぞ」

「拙者は最低限節度を守るため、周囲を確認していただけでござる」

「節度守りてぇやつは管理所から出てきて美月に見惚れるやつを、あんな顔で見ねぇんだよ」

「私が気づかないとこで何の所有欲爆発させてんの!?」


美月が2人を見る。


ほうはわずかに視線を逸らした。


「……」

ほう?」

「美月の所有欲だろ」

「私は物じゃありません!」

「チッ……だから見えねぇようにしたんだよ……」 「え」


美月の動きが止まった。


「……待って……ジャジーが羽根広げてたのって……」


ジャジーは当然のような顔で口を開く。


ほうが美月に対して、自分のもんだって顔してんのが気に食わなかったからだ」


まさかのNOT気遣い宣言。


「コンプラ保護じゃなかった!」

「でもよ、結果的には守れてたんだろ」

「動機がコンプラから一番遠い!」


ほうが咳払いをする。


「拙者にそのような意図はない」

「言ってろ」

「お主は先ほどから――」

「はい! そこまで!」


また始まりそうになった二人の間へ、美月が両手を突き出した。


「帰宅するまで喧嘩禁止!さっきから全然進まない!」

「俺は歩いてる」

「拙者も歩いているでござる」

「そういう意味じゃない!」


三人の声が、道の向こうへ遠ざかっていく。


やがて、その姿も見えなくなる。




誰もいなくなった道端。


そこは以前、美月が鼻緒の切れた男と出会った場所。


風が吹き、道脇に生えた草がさわさわと揺れる。


―――ただ。


その一角。


まるで何かがそこへ座っているかのように。


草が不自然なほど深く、地面へ押しつけられていた。





幕間「帰宅中のあれこれ」- 完 -

→第5章 深まる関係編 - 第1話

「再審議」へ

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