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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第3章 - 近づく距離編 -

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第3章 近づく距離編 - 最終話前編「己の意志」


ドガァァアン!!


「んひゃぃ!!?」


つい先ほどまで静かだった居間へ、木材の砕ける凄まじい音が響き渡った。


「えっ!?」


何が起きたのか、理解する暇すらなかった。

視界の端で、玄関の扉だったものが、木片となって宙を舞う。


次の瞬間。


「わっ……!?」


美月の身体が、突然床から浮いた。


誰かの腕が腰と背中へ回り、そのまま勢いよく抱き上げられる。


「美月殿!!」


先ほどまで美月を包んでいた鳳《ほう》の腕が空になる。


鳳《ほう》は即座に立ち上がり、牙を覗かせながら身構えた。


「何奴《なにやつ》!」


だが、砂煙の中から現れたのは、見慣れた姿だった。


「…てめぇ…!」


ギリ…ッと、歯が軋む音が鳴る。


「美月に何してんだ!!」


聞き覚えのある声に、美月の目が大きく開いた。


自分を抱えている大きな翼腕《よくわん》。

灰色の肌。

背後で荒々しく広がる黒い翼。


金色の瞳には、今まで見たことがないほど強い感情が浮かんでいる。


「!?ジャジー!?」


丸一日以上姿を消していたジャジーが、美月を自分の胸元へ抱え込んでいた。


牙を剥き出しにし、肩を大きく上下させながら鳳《ほう》を睨みつけている。


鳳《ほう》もジャジーを睨み返す。


「戻られたかと思えば扉を破壊するなど、お主の方が何をしておる!」


珍しく剣幕だ。


「美月がてめぇに襲われてんのに、丁寧にドアを叩くわけねぇだろ!!」

「誰が襲っておったというのでござる!」

「押さえつけて首噛もうとしてただろうが!!」


美月の顔が、一瞬で固まった。


「……あ……」


ジャジーの言っていることは、見たままなら何一つ間違っていない。


鳳《ほう》に抱きしめられ、首筋へ顔を寄せられていた。

牙も、もうすぐそこまで来ていた。


問題は―――


「ジャジー! 違うの! あれはちょっとわけがあって……!」

「押さえつけられて噛まれそうになってる状況のわけなんざ血ぃ飲みてぇからに決まってんだろ!!」

「ひぃん今からあれを依頼したのは自分ですって不本意な性癖開示しなきゃいけない地獄の門が目の前にあるぅ……!」


言い切り、美月はそのまま硬直した。


まだ何も聞かれていない。

なのに、自ら全部吐いた。


「……は?」


ジャジーの顔から怒りが消え、代わりに浮かんだのは困惑だった。


「っ……」


そしてその向こうでは、鳳《ほう》が肩を震わせている。


美月は目を細めた。


「鳳《ほう》、笑ってる?」

「……笑っておらぬ」

「肩めちゃくちゃ揺れてるけど」

「気のせいにござる」

「絶対違う!」


だが、今は鳳《ほう》を問い詰めている場合ではない。


ジャジーがゆっくりと美月を見る。


「………どういうことだ」


美月は腹を括った。


「だから、私が鳳《ほう》にお願いしたの!」

「何を」

「首筋から吸血するふりを!」

「なんで」

「乙女の夢だから!」

「乙女の夢ってなんだ」

「ンァァ性癖尋問地獄!」


美月は両手で顔を覆った。


「待って!この話順番に説明したらもっと恥ずかしい!」

「そもそもなんでそんなもん頼むんだよ!」

「吸血って乙女のロマンなの!」

「知らねぇよ!」

「知らないから聞かないで!」

「お前が言い出したんだろ!!」


美月の顔がさらに赤くなる。


そんな二人を見ていた鳳《ほう》が、ようやく表情を改めた。


「ジャジー殿」


静かな声。


先ほどまで笑いを堪えていた気配は消えている。


黄色い瞳が、真っ直ぐジャジーへ向く。


「……なんだよ」


ジャジーも美月から視線を外し、鳳《ほう》を見る。


「一つ、聞く」

「あ?」

「お主は、なぜそこまで美月殿に執着しておる」


ジャジーの眉が動いた。

「……別に」

「別に、で扉を粉砕する者がおるか」

「……」

「美月殿が危険であると思った。それは分かる。だが、事情を知った今も、お主の顔は晴れておらぬ」


ジャジーが黙り、視線を逸らした。


鳳《ほう》は続ける。


「ではなぜ、そのように取り乱したのでござろう」


少しの間。


「……知らねぇ」


低い声が落ちた。


その言葉に、美月の胸が小さく揺れた。

ジャジーは視線を逸らしたまま、拳を固く握っている。


「……知らねぇんだよ」


もう一度。

今度は、少しだけ苦しそうに。


鳳《ほう》はそれ以上、同じ問いを重ねなかった。


「ならば、問いを変えよう」

「……あ?」


黄色い目が細められる。


「お主は、美月殿をどう思っておるのだ」 「……」


すぐに返事は返らなかった。


数秒後、ジャジーの口が一度開く。


「……俺……」


だが。

その先が出てこない。


「……」


美月は、自分がまだ抱き上げられたままだということに今さら気づいた。


「……あの」

「……」

「話すのはいいけど、先に下ろしてくれる?」 「……あ……」


ジャジーもようやく気づいたらしい。


「わ、悪ぃ……」


ゆっくりと美月の身体を床へ戻す。


足裏が床へ触れたと同時に、それまで美月を抱えていたジャジーの両腕が、力を失ったようにだらんと下がる。


腕の中から美月の体温が消えた。


「……答えぬのか」


鳳《ほう》が静かに問いかける。


「……俺は……」


ジャジーが美月を見る。


「……美月、の……」


また止まった。

言葉が出ない。


美月も何も言えずに、ジャジーを見つめ返した。


数秒。


その沈黙を破ったのは、鳳《ほう》だった。


「……ならば」


黄色い瞳が、ジャジーから美月へ移る。


「拙者が先に話す」

「……は?」


ジャジーが顔を上げる。

美月も目を瞬いた。


「鳳《ほう》?」


鳳《ほう》はゆっくり美月の前へ進み出た。






―――そして。


彼女の目の前で、静かに片膝をついた。






第3章 近づく距離編 - 最終話

前編「己の意志」- 完 -

→第3章 近づく距離編 - 最終話

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