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双魂英雄譚  作者: 遅刻
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プロローグ

今何時間経ったのだろうか。まず俺は今どこにいるのだろうか。

わからない。

ただ一つ分かることは、彼女と喧嘩してしまったことだけは覚えている。

なんで俺はいつも肝心な所でダメなのだろうか。俺はなんてクズなんだ、、彼女を泣かせてしまった。



彼女と初めて出会ったのは、中学生の時だった。

彼女が他県から親の用事で転校してきた。

頭が良く、コミュ力も高い。そして中学生とは思えない大人のオーラがあった。

当時は彼女とはクラスが違い、友達数人と共に1回遊んだだけだった。

しかし高校入学後、彼女とSNSを通して繋がるようになり、親交を深め、男女の仲になった。

そのきっかけにもなった事実がある。

彼女は高校には入学せず、働いてい他のだ。

彼女が理由を話してくれることはなかったが、何か話したくない内容だったのだろう。

異例な人生ルートではあるが、彼女の人生であり、彼女の選択を尊重しようと思っていた。

将来働きたくない。そんな思想を持つ俺にとって、

自分と同年代でありながら、働いている彼女を尊敬している。

職場での愚痴や同年代が羨ましいと話しながらも懸命に働く姿。

そんな彼女に惹かれないはずがなかった。


--7月6日 午後10:20--

7月7日七夕の日、それが彼女の誕生日だった。

俺もそれ自体は覚えていたし、何かしてあげようと思っていた。

もちろん、男たるもの誕生日プレゼントは自分で一生懸命考えた。

彼女はきっちりしているタイプなので、時間などもよく確認している。

"なら可愛らしい時計をプレゼントしよう"そんな浅はかな男子高校生が考えたプレゼント。

しかし彼女ならきっと気に入ってくれる。そう確信していた。

あとは一番最初に連絡してあげよう。女性はそーいうの気にするからな。

そう考えながら眠気に襲われた。


--7月7日 午前8:05--

朝日が窓から差し込み、外は快晴。起床した時刻は午前8:05、登校最終時刻は午前8:30。

気づく人はお気付きであろう。間違いなくやばい。遅刻だ。

そこからの思考は超高速だった。

学校までは走って15分+風呂が3分+軽い身支度に2分+誤差修正用2分。

「ギリ間に合うな。」

そう確信してからの行動は早かった。

遅刻寸前の人の行動は限界を越える。

高速シャワー、高速タオル。高速早着替え。

4分後には家を出ていた。

学校に着き、教室内の時計を確認すると時刻は8:26分。

「これぞ遅刻をしてきた人間だけが生み出せる底力だな」

そんなことを呟きながら右ポケットにあるのスマホを取り出そうとするが見当たらない。

じゃ左かと思いつつポケットを触るが、あるはずもない。

そこで思い出す、スマホがまだ布団の横にあることに

「……終わった。」

今日が何の日かを思い出した。

 七月七日。

 七夕。

そして――金島マリ 俺の彼女の誕生日。

"一番最初におめでとうって言う。"

昨日、眠る前にそう決めたばかりだった。

なのに俺は、その唯一の約束すら守れなかった。

「やってしまったー。。」

そんな感情でその日の学校はいっぱいだった。

授業中も落ち着かなかった。

時計の針だけがやけに速く進んでいく。

休み時間になるたび、

「今頃もう友達から祝われてるよな。」

「いや、まだ間に合うか……。」

そんなことばかり考えていた。

けれど何もできない。

スマホは家。

学校を抜け出せるわけもない。

ただ時間だけが残酷に過ぎていった。


--7月7日 午後4:20--

放課後。

誰よりも早く教室を飛び出した。

家まで全力で走る。

玄関を開け、布団の横に投げ出されたスマホを掴む。

画面を点けた瞬間。

通知は何も来ていなかった。

しかし

その静けさが逆に一番怖かった。


「大丈夫、素直に謝ろう。そしてちゃんと誠実に接しよう。」

震える指で電話をかけた。

プルルル……

一回目。

出ない。


二回目。

出ない。


三回目。

ようやく繋がった。


「何?仕事中なんだけど。」

早口で、冷たさを感じる声。

「マリ! 本当にごめん!昨日夜寝ちゃって、朝さ、寝坊してスマホ家に忘れて…...」


そこからは必死だった。

言い訳なんてしたくなかった。

でも、ただマリに嫌われたくなかった。

「……。」

「プレゼントもあるし、本当に祝うつもりだったんだよ・・」

「……。」

「本当にごめん。。」

長い沈黙。

スマホの向こうから、小さく鼻をすする音が聞こえた。

「別にいいよ。その程度だったんだなってよくわかった。」

「他の人は、一番に『おめでとう』って言ってくれたよ。」

「……。」

「翔は。」

「違う、違うんだ!」

「幸せにするって。」

 嗚咽が混じる。

「いつも言ってたよね。」

 胸が痛い。

「口だけだね。」

”違う”

そう叫びたかった。

でも。何も言えなかった。言ってはいけなかった。

スマホの向こうで、

冷たい静寂なかで小さく聞こえないように

彼女が泣いていた。

でも俺は聞き取った。

聞き取ってしまった。

俺のせいで。

俺が泣かせた。


数秒後。

プツッ。

通話は切れた。


気付けば家を飛び出し,近所の公園まで来ていた。

理由?理由なんてものはない。ただ今は雨の中、雨が俺の罪悪感も濡らして薄くしてもらいたいのだ。

空を見上げる。

沖縄の空はさっきまで青かった。

なのに今は黒い雲が空を覆い、

激しい雨が容赦なく俺の体に打ちつける。

制服なんて一瞬でびしょ濡れだった。

雨なのか。

涙なのか。

もう分からない。

「最低だ……。」

歩きながら何度も呟く。

「何が幸せにするだよ。クズが。。俺は最低だ。」


プレゼントなんか。

一番に祝えなかった時点で意味なんかなかった。

時計なんかより、

たった一言、

"誕生日おめでとう"

それだけでよかったのかもしれない。

俺は優先順位を間違ってしまった。

。。。。

「よし、今からプレゼント渡そう。そしてちゃんと土下座でもなんでもしよう。マリに

許してもらえなくても、謝ろう。」

そして、家にプレゼントを取りに行く途中だった。

雨はさらに強くなる。

山道の脇を歩く。

さらに雨は強くなっていき、滝のように思えてきた。

地面が軋む音がした。

 ゴゴゴゴ……

「……え?」

振り返る。

山肌が崩れていた。

大量の土砂。

岩。

木々。

逃げる暇なんてない。


今何時間経ったのだろうか。まず俺は今どこにいるのだろうか。

わからない。

ただ一つ分かることは、彼女と喧嘩してしまったことだけは覚えている。

なんで俺はいつも肝心な所でダメなのだろうか。俺はなんてクズなんだ、、彼女を泣かせてしまった。


俺は大きな岩と土の下で埋もれていた。

「マリ……。」

最後に浮かんだのは、

彼女の顔だった。

「幸せにしてあげられなくて、ごめんな……マリ。」

頭が痛い。腕が痛い。足が痛い。

視界も最初から見えてなかったかのように何も見えない。

「もし……次なん...チャンスがある...なら。」

意識が消えていく。

「好きな人くらい...幸せにできるような人になりてーな……。」

心音。

そして。

静寂。


これが――

島袋 翔。17歳。

彼の最後である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

暗闇だった。

何も見えない。

何も聞こえない。

ただ、どこか遠くから鼓動だけが響いてくる。


ドクン。

ドクン。

ドクン。

(……なんだ?)


自分の体がない。

いや。

ある。

けれど思うように動かない。

ぼんやりとした、小さな意識。


『……おぎゃ……』


誰かの声。

違う。

俺の声……なのか?

腹が減った。

何か飲みたい。

苦しい。

狭い。

そんな原始的な感情だけが流れ込んでくる。

(誰だ……?)

その意識は、まだ名前も知らない。

世界も知らない。

ただ「出たい」「苦しい」「怖い」。

それだけしか理解できない、産まれる直前の赤子だった。

俺の意識は、その小さな魂とゆっくり重なっていく。

二つの魂が、一つになる。


「お願い……! 生きて!」

女性の悲痛な叫びが聞こえた。

「アル! しっかりしろ!」

男性の声。

「奥さん!あともう少しですよ!」

誰かが叫ぶ。

「はい、いきんで!」

「フーウンンン!」

眩しい光。

冷たい空気。

「生まれましたよ!奥さん、旦那さん。」

「ンギぁぁー」

産声が響く。


「アン!ありがとう、よく頑張ったよ。」

ベッドの横で涙ながらに感謝している男性がいた。

「ヴァン。この子に名前をつけてあげて。」

「アン。この子には君が名前をつけてくれ。この子は君が必死に産んだ子だ。君が決めるべきだ。」

「.....ヴァル。」

涙声で女性が呟く。

「この子の名前は――ヴァル・トン・ケイレツ。」


カール王国。

市民騎士、ヴァン・トン・ケイレツ。

その妻、アル・トン・ケイレツ。

二人の間に生まれた小さな命は、静かに目を開いた。

その瞳の奥には、まだ誰にも知られていない、二人で一つの双魂が眠っていた。

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