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義両親とはいえ、家族になるはずだった二人が晒す醜態は見るに耐えない。
その二人の間に生まれた天使のようなルビアだけは無垢で美しかった。
やはりルビアは、本当に天使の子供なのではないだろうか?あんな醜い人間の血が一滴だろうと、流れているなんて考えたくもない。
「何を自分は無関係みたいな顔をしているのだ?次は貴様の番だぞ」
業鏡が向けられる。だが、リックフォードは慌てることなく冷静。
知られて困る秘密などないからだ。
ミュルに失望したルビアは、堂々とした男らしいリックフォードの背中にうっとりしていた。
その勇ましい姿に閻魔は感心した。
地上を見ることが出来ない閻魔にとって、業鏡が写し出した映像で初めてその人間のことを知れる。
本当に秘密がないのか。或いは……。
長年、烙印者と関わってきた閻魔だからこそ、断言出来た。
リックフォードにもまた、決して知られてはいけない秘密があることを。
「つまらんな」
立派なお家柄に生まれたリックフォードは、次期公爵になるべく、幼少期から厳しい教育を受けて育ってきた。
スカーレットと出会ったときも、至って普通の青年。秘密という秘密は隠されていなかった。
強いて言うなら、スカーレットに対する小さな恋心。
だがそれは、秘密と呼ぶにはあまりにも弱い。
違う。これはリックフォードが隠しておきたい秘密ではない。
あまりにも普通の出来事に、ルビアは何もわかっていなかった。
少なくとも自分と出会う前、リックフォードはスカーレットに恋をしていたことを。
そんな恋心は、ルビアと出会うことで脆くも崩れ去る。
懐かしい瞬間を見て、当の本人達の胸に、あの日の温もりが蘇ってきた。
つまらない。それに尽きる。
ルビアと出会い、新たに婚約を結び、屋敷にいる全員でスカーレットをいじめ、虐待する。
これまでの烙印者と大差なかったが、ある場面に差し掛かるとリックフォードは急に大声を上げた。
「もういいだろ!!俺に秘密なんてない!!」
冷静を装っているが、その表情はひどく動揺している。
気づかれないようにだが、視線はチラチラとルビアに向いていた。
リックフォードの態度そのものが、ここから先は見てはならないと言っている。
「それを決めるのは貴様ではなく妾だ」
ルビアが熱を出したある日。リックフォードは帰宅することなく、スカーレットの部屋へと足を運ぶ。
それだけならばいい。惨めなスカーレットを笑い、侮辱するだけならば。
「…………は?」
次に流れる映像が、ルビアから感情のない一言を引き出した。
リックフォードがスカーレットを抱いた。それも自分の意志で。
「ル、ルビ……」
「嘘つき!!赤毛に脅されたって、そう言ったくせに!!」
ルビアの叫びが耳に響く。彼女の声は激しく、失望と怒りが入り混じっていた。
リックフォードの秘密はこれだけに留まらない。
リックフォードは静かに俯いた。彼が隠し続けてきた秘密は、ただの一度や二度の過ちではなかった。月に一度とはいかないが、年に数回、ルビアが病に臥せって会えない日には必ず、屋根裏部屋でスカーレットと体を重ねていたのだ。
それは誰のせいでもない、自分の意志であることは明白。
ルビアに対しての重大な裏切り。こんなことをしておいて、身の潔白を信じていた理由。それは……。
リックフォードにとって、スカーレットとの関係などその程度。覚えておく価値すらなかった。
特に、死を迎える最後の一年間は体の関係はなく、弱っていくスカーレットを痛めつけるばかりの日々。
ルビアの誕生日を迎える数日前には、誰も部屋に寄り付かなくなった。そのせいもあって、余計に記憶は薄れていき、最終的には綺麗さっぱり消え去った。
リックフォードにとってルビアとの思い出こそが特別であり、死ぬまで覚えておきたい。そこに、スカーレットが入る余地などなかった。
「あんな赤毛を抱いた手で、私を抱いたの!?」
「あれは気の迷いというか……」
リックフォードは言葉を選んだが、どこか自分の行動を正当化するような響きがあった。
「酷いわ!!私のことを愛してるって言ったくせに!!リックだって汚いじゃない!!」
穢らわしいと一緒に嘲笑っておきながら、隠れてスカーレットと体を重ねた。一度だけならば目を瞑ってあげてもいいものを、ルビアに会えない日を選びスカーレットと……。
ルビアの涙は溢れ出し、耐えきれずに泣き出した。慰めようにも、伸ばした手は振り払われる。
どうしてこんなことになってしまったのか。リックフォードは自問自答した。ルビアを傷つけるつもりなどなかったのに。
ではなぜ、ルビアは泣いているのか。
そのとき、リックフォードの怒りは別の対象に向けられた。目の前にいる人物、閻魔へと。
涙の原因が閻魔であることは明白だった。ルビアを傷つけ、泣かせたのは閻魔の仕業だと確信したリックフォードは、閻魔の胸ぐらを掴んだ。
閻魔が余計なことさえしなければ、幸せな思い出だけを胸に生きていけた。
そう……悪いのは閻魔だ。泣かせたのも、心に傷を負わせたのも全部。
「貴様は学習能力がないようだな」
呆れたため息をついた瞬間、閻魔を守るべく、二体の白鬼がリックフォードの体を真っ二つに引き裂いた。
血の匂いと、裂ける肉の感触が感覚を支配し、思わず叫び声を上げてしまう。
だが、リックフォードの体はすぐに再生を始めた。棺桶の針に刺されたときの痛みとは比べ物にならない激しい苦痛に耐えながらも、無様に転げ回り、もがき続ける。
その様子に笑みを漏らしながらも、次なる晒し者をどちらにしようかと、閻魔の視線はリックフォードから外れた。
「次はお主にするとしよう。名は……ルビアといったか?貴様の秘密も、妾を楽しませてくれるのだろう?」




