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十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。  作者: あいみ
ルビアの場合

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1

 私は美しい。物語のお姫様のように。


 それなのに……。私は十六歳になると死んでしまう。それは絶対だった。


 生まれたとき、数年生きられたらいいほうだと、医者は残念そうに言った。


 病弱で、一人で歩くことすら出来ない私は、普通の人と違うことに早々に気付く。


 両親も使用人でさえ、美しい私の死を嘆く。


 外に出ることも叶わず、ベッドで過ごすほうが多い。


 私の世話をするのは、そばかすの赤毛。


 不細工でぎこちない笑顔ばかり浮かべている。


 あれが姉だと認めたくない。



 醜い容姿もそうだけど、あんなのが私よりも長生きするなんて。


 妬ましい。


 愛される私の命が短く、中傷ばかりを浴びせられる姉が何十年と生きることが。


 なぜ?なぜ!!?私こそが生きるべきなのに!!


 姉といっても母親が違う。政略結婚の相手に選ばれただけの本妻の娘。


 私は愛人の娘。


 その本妻はとっくに事故で死んで、今では私の母が伯爵夫人。


 出生が平民ということもあり社交界に出席することは叶わない。


 私には平民と貴族の血が半分ずつ流れている。正当な貴族ではないけど、お父様は私を愛してくれている。

 愛しいお母様の娘として。


 前妻が死んですぐに本妻として正式に迎えてくれた。それはつまり、前妻は所詮、政略結婚の相手にすぎなくて、本当に愛しているのはお母様だけってこと。


 そして、その娘である私が一番愛されるのは必然。


 前妻と違って美しく、私はお母様の美貌を受け継いだ。誰もに愛される美しい容姿は、どんな男でも虜にする。


 片や姉は、死んだ母親に生き写し。

 それが気味悪がられて、今ではお父様からも愛されなくなった。

 

 「貴様!!ルビアの体調を悪化させたいのか!!」

 「私はただ、空気を入れ替えようと……」

 「嘘おっしゃい!!あの子の可憐さに嫉妬して、早く殺そうとするなんて!!」


 醜くみすぼらしい姉はいつも、私の部屋でお叱りを受ける。


 私がそうしてくれと頼んだから。


 ──あぁ……なんて気持ち良いのかしら。


 姉が傷つき不幸になるのは楽しい。私に与えられた唯一の娯楽。


 その表情を見る度に心が踊る。


 「コホッ…。お父様、お母様。私は大丈夫よ。ちょっと体が冷えてしまっただけだから」

 「まぁ!可哀想に!咳込んでいるじゃない。すぐに温かい飲み物を用意させるわ」

 「何をボーッと突っ立っている!!さっさと厨房に行かんか!!」

 「は、はい」

 「ちょっと!ルビアに謝りもしないで行くつもり!?」

 「……ルビア」


 姉が私の名前を呼ぶと、バチン!と音が響く。


 お父様が姉を叩いたのだ。


 頬はじんわりと赤くなっていく。


 痛みに驚く暇なんてない。


 お父様に頭を掴まれて、無理やり土下座をさせられる。


 「貴様如き醜い者がルビアを呼び捨てにしていいと思っているのか!?敬称を付けんか!!」

 「いいのよお父様。その人は私の姉なんでしょう?妹を呼び捨てにするのは当然よ」

 「おお、なんて慈悲深いんだ。だがなルビア。こんな不出来な醜女を姉と思う必要はない」

 「そうよ。この女はルビアから健康な体を奪った盗っ人。罪人なのだから」


 そうだ。姉がいなければ私は健康な体に生まれたかもしれないんだ。


 私の人生を台無しにしたのは他でもない、《《この女》》。


 罰を受けるべき罪人。


 「ねぇ、醜い赤毛さん。謝罪の言葉もないの?貴女のせいで私、体調が悪くなってしまったんだけど?」


 咳き込めば激怒したお母様が赤毛を掴み、長く伸ばした爪で引っ掻いた。


 流れる血は頬から床に。一滴の赤い染みが浮かぶ。


 「この!!貴様の汚らわしい血でルビアの部屋を汚すとは何事だ!!」


 今度はさっきよりももっと、力が加えられたビンタ。


 脳が揺れるほどの強さ。


 赤毛は床に倒れ込む。


 「何をしているの!さっさと掃除をしなさい!ルビアの部屋は常に清潔にしないといけないのよ!!」

 「お父様、お母様、もういいです」

 「なんて優しい子なんだろうね、ルビアは。こんな女に慈悲を与えてあげるなんて」

 「流石は自慢の娘だ」

 「だって……そんな汚いのが部屋にいたら、空気がもっと悪くなっちゃうでしょ?」

 「それもそうね!ごめんなさいね、ルビア。そんなことも気付かないで、こんなゴミを部屋に入れてしまって」


 赤毛を無理やり部屋から追い出し、いつまでも地べたに這いつくばったままの体を蹴り飛ばす。


 私はメイドが部屋を掃除する間、別室に移動する。


 タイミング良く婚約者の、リックヴォードがお見舞いに来てくれた。


 「リック!会いに来てくれたの?嬉しい!」

 「当然だ。ルビアは愛する婚約者なんだからな」


 元々、リックは赤毛の婚約者。


 お互いに一目惚れをした私達は親を説得し、新たに婚約をした。


 成長するにつれて私は、少しずつ体調が安定し、普通に日々を過ごせるようになったのだ。


 この変化の背景には、リックの存在があった。リックは公爵家の一員で、私のことをいつも気にかけてくれている。彼は私のために高価な薬を買ってくれたのだ。伯爵家の私達には到底手の届かないその薬も、公爵家の裕福さのおかげで容易に手に入れることができた。


 薬の効果もあり、以前のように頻繁に床に伏せることはなくなっていった。


 まだ長時間、外を出歩けないためリックと会うのはいつも屋敷内。

 たまに人気のお芝居に連れて行ってくれるときもある。


 貴族専用のボックス席は見晴らしがよく、下々の人間を見下せる優越感にも浸れた。


 イケメンでお金持ち。しかも次期公爵。こんなにも完璧に私の夫となる条件を満たした男は他にいない。


 ──ふふ、赤毛が婚約者だったときには、安物でさえ何も買ってくれたことはないというのに。


 それだけ愛されていなかった証拠。


 醜いせいで捨てられた哀れな赤毛。


 平気なふりをして強がってはいるけど、捨てられた女に価値はない。


 心身共に傷ついて、生きることが惨めになってきたはず。


 「愛しいルビア。醜い赤毛にいじめられていないか?」

 「あの女!酷いのよ。私の体が弱いことを知っているくせに、窓を開けて風邪を引かそうとして」

 「何だと!?」


 私のために怒ってくれるリックに胸がときめく。

 赤毛に身の程を弁えさせようと意気込んでくれるのは嬉しいけど、私といるときに他の女のことを考えるのは嫌。


 腕にしがみついて上目遣いで見つめれば、リックは頬を染めて甘いキスをしてくれた。


 別室に着くなり、そっと服を脱がされる。

 優しく壊れ物を扱うかのように。


 そこからは至福のひととき。


 リックに愛され、求められ。女としての価値を見出してくれるリックを私は愛している。

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