第2期 : プロローグ - ロゼリアのお昼寝-
夕暮れ。
柔らかい光が部屋の中に差し込んでいる。
静かだ。
風の音だけが、カーテンをわずかに揺らしている。
ロゼリアはソファに身を預けていた。
力を抜いている。
こんな時間は、久しぶりだった。
(……何もない)
考えることがない。
誰かが騒ぐわけでもなく、問題が起きるわけでもなく。
ただ、時間が流れているだけ。
「……平和ね」
小さく呟く。
その言葉に、少しだけ違和感を覚える。
でも、深くは考えない。
目を閉じる。
呼吸がゆっくりになる。
意識が、沈んでいく。
---
(……)
どこかで、音がする。
遠い。
曖昧。
誰かが、何かを言っている。
「――――」
聞き取れない。
でも。
意味だけが、残る。
(選択……?)
その言葉に、意識がわずかに浮く。
けれど、身体は動かない。
夢と現実の間。
曖昧な場所。
(表示……されない)
何かが足りない。
本来あるはずのものが、ない。
(選択肢が……)
浮かばない。
以前は、あった。
見えないけれど、確かに感じていた“それ”。
進むべき方向。
避けるべき未来。
でも、今は――
何もない。
「……おかしい」
声に出たのか、分からない。
空間が、少しだけ歪む。
景色が変わる。
一瞬だけ。
庭。
知らない場所。
いや、知っている。
でも、記憶と一致しない。
「ここは……」
誰かがいる。
背中だけ。
振り向かない。
「ロゼリア」
呼ばれる。
でも。
その声は、少しだけ違う。
(誰?)
問いかける前に。
景色が揺れる。
崩れる。
ノイズのように、切れる。
---
(……違う)
感覚が戻る。
でも、完全じゃない。
まだ、どこかに引っかかっている。
「……」
自分の名前。
ロゼリア。
それは間違っていない。
でも――
ほんの一瞬。
別の名前が浮かんだ気がした。
(……誰の?)
思い出せない。
思い出そうとすると、ぼやける。
まるで最初からなかったみたいに。
「……」
静か。
何も起きていない。
それなのに。
妙に、落ち着かない。
---
「ロゼリア様?」
声。
現実。
目を開ける。
セリアが立っている。
いつも通り。
何も変わらない。
「……何?」
「少し眠っておられました」
「そう」
身体を起こす。
少しだけ重い。
でも、問題ない。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
カップを受け取る。
温かい。
現実の感触。
一口飲む。
味は、いつも通り。
(正常)
何もおかしくない。
はずなのに。
「……セリア」
「はい」
「さっき、誰か来た?」
「いいえ」
即答。
迷いなし。
(そう)
やっぱり。
「夢、でしょうか」
セリアが静かに言う。
「……多分ね」
曖昧に返す。
でも。
違う気がする。
ただの夢じゃない。
そう断言する材料はない。
でも、感覚が残っている。
“何かが足りない”感覚。
---
セリアが部屋を出る。
一人になる。
静寂が戻る。
ロゼリアはゆっくり立ち上がる。
窓の方へ歩く。
外を見る。
夕焼け。
穏やかな景色。
変わらない世界。
「……」
ガラスに、自分が映る。
ロゼリアの姿。
見慣れた顔。
でも。
ほんの一瞬だけ。
ズレる。
「……?」
瞬きをする。
元に戻る。
気のせい。
そう思うしかない。
手をガラスに触れる。
冷たい。
現実。
(……終わったはず)
処刑は回避した。
全部、うまくいった。
だから。
もう、問題はない。
そう、思っていた。
「……」
でも。
胸の奥に、残る違和感。
消えない。
静かに。
確実に。
広がっている。
ロゼリアは目を細める。
夕焼けの向こう。
何もないはずの空を、見つめる。
そして、小さく呟く。
「……まだ、終わってない」
その言葉だけが、静かに残った。
次の章(第2期・第1話)は来週公開予定です。今後『愛か処刑か』は、毎週月曜日または火曜日に更新されます。
それではまた!




