#番外編 6:捨てるのに良い
部屋は静かだった。
余計な音がない分、思考がはっきりする。
テーブルの上。
黒い結晶。
変わらない見た目。
変わらない沈黙。
(……結論は出てる)
ロゼリアはそれを手に取る。
軽い。
ただの石みたいに。
でも
普通じゃない。
「フラム」
「はい」
背後から、すぐに返事。
「これ、捨てる」
短く言う。
迷いはない。
「妥当な判断です」
いつも通りの声音。
否定も、肯定も強くない。
ただの事実みたいに。
(まあ、そうよね)
制御不能。
侵食の可能性。
情報不足。
使う理由より、捨てる理由の方が多い。
それだけ。
「場所、変える」
そのまま歩き出す。
フラムも音もなく後ろにつく。
廊下を抜けて、中庭へ。
風が少しだけ強い。
人の気配はない。
ちょうどいい。
(ここでいいか)
立ち止まる。
手の中の結晶を見る。
最後に一度だけ。
何も起きない。
静か。
(ほんと、分かりやすいわね)
小さく息を吐く。
腕を軽く振る。
投げる。
その瞬間。
ぴき、と。
何かが歪む。
視界が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……っ」
反射的に目を細める。
落ちるはずの軌道。
でも。
見えない。
「ロゼリア様」
フラムの声。
少しだけ低い。
警戒。
時間が、止まったみたいに感じる。
音が消える。
風も。
空気も。
全部。
(……何これ)
指先に、違和感。
見れば。
結晶は
まだ、手の中にある。
「は?」
確かに投げた。
でも、戻ってる。
いや。
最初から動いてないみたいに。
(ありえないでしょ)
その瞬間。
結晶が、わずかに光る。
黒いまま。
でも、内部だけが揺れる。
――ざ、と。
何かが流れ込む。
景色。
音。
知らないはずの感覚。
高い天井。
光。
声。
(……これ)
どこかで。
見たことがある。
でも。
知らない。
「……っ」
思わず息が詰まる。
一瞬だけ。
ほんの一瞬。
誰かの視点が、重なる。
(違う、これ)
自分じゃない。
でも。
完全に他人でもない。
――“似てる”。
その感覚だけが残る。
「ロゼリア様」
フラムの声で、意識が戻る。
空気が、元に戻る。
風の音。
木の揺れ。
全部、普通に戻る。
「今のは」
「分かってる」
短く返す。
視線は結晶から外さない。
静かだ。
何もなかったみたいに。
(……ふざけてる)
投げたのに。
戻った。
反応した。
しかも
意味の分からない“何か”まで見せてきた。
「破棄は困難かと」
フラムが静かに言う。
「見れば分かる」
小さく呟く。
手の中の重さ。
さっきより、わずかに“ある”。
気のせいじゃない。
「……はあ」
深く息を吐く。
完全に、選択肢が一つ消えた。
捨てる。
それはもう無理。
「最悪」
でも。
口元が、ほんの少しだけ上がる。
(面白くなってきた)
完全に危険。
でも。
完全に無価値じゃない。
むしろ
「これ」
軽く持ち上げる。
「捨てていいものじゃないわね」
フラムは何も言わない。
ただ、静かに見ている。
その視線は、少しだけ深い。
ロゼリアは結晶を握る。
今度は、離さない。
「保留」
ぽつりと呟く。
「使うかは、まだ決めない」
でも。
捨てない。
それだけは確定した。
空を見上げる。
さっきと同じ景色。
でも、少しだけ違って見える。
(……完全に、巻き込まれてるなこれ)
小さく笑う。
面倒で。
危険で。
でも。
嫌いじゃない。
視線を落とす。
黒い結晶。
静かに。
でも確かに、そこにある。
ロゼリアはそれを見つめながら、静かに言った。
「……捨てるのには、まだ早い」
興奮して、この番外編の2章から6章まで、短編ではなくストーリーアークを作りました、ハハハ、次の章では短い個別のストーリーになります。
ついに試験週間が昨日で終わった!やったー!
(※成績の証拠として一応書いておく)
歴史:100点満点中100点
数学:100点満点中100点
理科:100点満点中98点
どうでもいいし名前も覚える気にならなかった科目:100点満点中85点




