最終回 (21): 実行は正常に阻止されました。 ― ロゼリアの平和と考察 ―
数日が経った。
驚くくらい、何も起きていない。
……いや、正確には。
「表面上は」何も起きていない。
(平和って、こんなに落ち着かないものだっけ)
廊下を歩きながら、小さく息を吐く。
視線はある。
でも、あの時とは違う。
露骨な敵意じゃない。
探るような、測るような視線。
(まあ、当然か)
処分保留。
監視付き。
調査協力。
完全に自由ってわけじゃない。
でも。
(処刑されてないだけで、十分すぎる)
軽く肩を回す。
生きてる。
普通に。
それだけで、だいぶ違う。
「ロゼリア様」
横に並ぶ声。
「今日の予定ですが」
「聞いてる」
軽く返す。
セリアは相変わらず落ち着いている。
でも。
(前より距離近くない?)
ほんのわずか。
護衛としてじゃなくて。
もう少し自然な距離。
「監視の件、問題はありませんか」
「今のところはね」
制限はある。
でも、耐えられないほどじゃない。
むしろ――
(都合いい部分もある)
堂々と動ける理由ができた。
言い訳にもなる。
「そうですか」
セリアはそれ以上は踏み込まない。
信じている顔。
(ほんと変わったな、この関係)
前はただの従者。
今は..
少し違う。
前方から、ノアが歩いてくる。
視線が合う。
一瞬。
「……」
いつもの無言。
でも。
「監視付きか」
短く言う。
「そうよ」
「妥当だな」
(容赦ないね)
でも、それがノアらしい。
「でも」
続ける。
「悪くない判断だ」
ほんの少しだけ、声が柔らかい。
「そう思う?」
「ああ」
迷いなく頷く。
「少なくとも、あの場で潰されるよりはな」
(まあ、それはそう)
「助言、ありがとう」
ふと口に出る。
自分でも少し意外。
ノアは一瞬だけ目を見開いて、それから小さく息を吐いた。
「礼を言うタイプだったか」
「たまにはね」
軽く返す。
それ以上は言わない。
ノアも深くは追及しない。
それでいい。
「相変わらず面白いな」
後ろから声。
振り返らなくても分かる。
「聞き耳立てるの好きなの?」
「情報収集と言ってほしいな」
マイケルが隣に並ぶ。
いつも通りの余裕。
でも。
(ちょっと楽しそうすぎない?)
「で」
覗き込むように顔を寄せてくる。
「生き延びた感想は?」
(直球だな)
「普通」
あえてそう答える。
「へえ?」
「もっとドラマチックな答えがよかった?」
少しだけ目を細める。
「いや」
マイケルはくすっと笑う。
「その方がらしい」
(でしょ)
「でも」
そのまま続ける。
「これで終わりじゃないよな?」
(さすがに分かってるか)
「当然でしょ」
即答する。
「むしろここからじゃない?」
マイケルの目が、少しだけ細くなる。
興味。
完全に。
「いいね」
小さく呟く。
その反応を無視して、前を向く。
歩き続ける。
(終わってない)
むしろ。
始まったばかり。
少しだけ、視線を上げる。
窓の外。
広がる空。
あの時。
処刑台に立つはずだった未来。
何度も見た、あの結末。
(回避した)
確かに。
自分の選択で。
でも。
(“終わり”じゃない)
ゲームの知識も、もう当てにならない。
展開は変わってる。
人も変わってる。
(完全に別物)
小さく息を吐く。
でも。
それでいい。
むしろ、その方が..
「退屈しない」
ぽつりと呟く。
誰に聞かせるでもなく。
自分に向けて。
口元が、ほんの少しだけ上がった。
中庭に出る。
風が少しだけ強い。
ざわ、と木が揺れる音がする。
人の気配は少ない。
ちょうどいい。
(静かだ)
ゆっくりと歩く。
特に目的もなく。
ただ、足の向くままに。
石畳の上で足音が小さく響く。
それを聞きながら、ふと立ち止まる。
空を見上げる。
高い。
青い。
変わらない景色。
(ほんとに、終わったんだな)
あの場所。
あの空気。
あの視線。
全部、まだはっきり覚えてる。
でも。
今はここにいる。
処刑台じゃない。
普通に立ってる。
(……生きてる)
当たり前みたいで。
全然当たり前じゃない。
小さく息を吐く。
肩の力が、少しだけ抜ける。
「……」
少しだけ、考える。
元のゲーム。
知っていた結末。
何度も見た、あの“終わり”。
(あれが来なかった理由)
運じゃない。
偶然でもない。
全部
選んだ結果。
(逃げなかった)
向き合った。
利用した。
変えた。
それだけ。
「……ふふ」
小さく笑う。
誰もいないから、隠す必要もない。
(ほんと、面倒なことしたな私)
でも。
後悔はない。
むしろ。
(嫌いじゃない)
視線を少し落とす。
手を軽く握る。
まだ、全部が終わったわけじゃない。
むしろ。
これからの方が長い。
面倒で。
予測不能で。
でも
「まあ、いいか」
ぽつりと呟く。
どうせ。
どんな未来でも。
「どうにかするし」
軽く肩をすくめる。
それくらいでいい。
完璧じゃなくていい。
勝ち続けなくてもいい。
ただ――
終わらなければいい。
顔を上げる。
風が、また吹く。
髪が揺れる。
そのまま、ゆっくりと歩き出す。
前へ。
止まらずに。
少しだけ、口元を上げながら。
これは、私、ロゼリア・フォン・アルブレヒトがどのようにしての処刑を免れたかの物語である。
-エンド-
これが最終回です。ほぼ1ヶ月の連載期間中、「愛か処刑か」を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。。さらに、「ロゼリア エピローグ / ミチコの普通の生活 」という追加章もあります。いずれリリースされるでしょう。もし可能であれば、私の今後の作品をぜひ読んでみてください!
--伝統を守るために --
4月シーズンのアニメ23作品の中で、私が特に楽しんで見ているのは「黄泉のツガイ」と「カナン様はあくまでチョロい」です。




