#16: 愛決戦でありふれたこと
「下がれ!」
ノアの声が鋭く響く。
同時に、剣がもう一度振り抜かれる。
金属音がぶつかり、火花が散る。
(硬すぎでしょ……)
見た目もおかしいけど、中身も普通じゃない。
明らかに異常。
「右から来る!」
セリアの声。
体が反応するより先に、腕を引かれる。
一歩、後ろへ。
その瞬間、さっきまでいた場所を黒い腕が薙ぐ。
(危な……!)
風圧だけで分かる。
当たってたら、終わってた。
「ロゼリア様、こちらに」
「分かってる」
言いながらも、視線は外せない。
モンスターの動き。
ノアの剣。
全部を追っている。
「集中が切れているぞ」
ノアが低く言う。
「見てるだけじゃ意味がない」
(いや、分かってるって)
でも。
今はまだ
「随分と過保護だな」
横から、マイケルの声。
余裕のある調子。
でも、視線は鋭い。
「少しは自分で動かせたらどうだ?」
(この状況でそれ言う?)
思わず睨む。
「今はそれどころじゃないでしょ」
「そうか?」
軽く笑う。
「案外、こういう時の方が本質が出るぞ」
(本質ってなに)
言い返す暇もない。
「前を見てください」
セリアの声が、少し強くなる。
「今、狙われています」
(分かってる!)
言われなくても感じてる。
視線。
明確な“敵意”。
それが、ずっと自分に向いている。
「……ちっ」
ノアが小さく舌打ちする。
「やはり標的は――」
「ロゼリア様です」
セリアが続ける。
(やっぱりか)
分かっていたけど、確定すると重い。
「理由は?」
マイケルが聞く。
「不明です」
即答。
(知らないのね)
少しだけ安心。
誰も分かってない。
つまり。
(完全にイレギュラー)
その時。
モンスターが、また動く。
今度は一直線。
迷いなく、こちらへ。
「来るぞ!」
ノアが割り込む。
剣で軌道を逸らす。
でも、止まらない。
(しつこい!)
「下がってください!」
セリアがさらに引こうとする。
でも。
(……待って)
ふと、違和感。
動き。
視線。
タイミング。
(今なら)
頭より先に、体が動く。
セリアの手を、ほんの少しだけ外す。
「ロゼリア様!?」
一歩、前に出る。
自分でも驚くくらい自然に。
モンスターの腕が振り下ろされる。
(落ち着いて)
さっきの訓練。
力を入れすぎない。
流れを見る。
(ここ)
体をずらす。
完全じゃない。
でも、直撃は避ける。
風がかすめる。
そのまま。
空いた距離。
手が、勝手に動く。
「っ――!」
振り抜く。
狙いなんて甘い。
形も完璧じゃない。
それでも。
――当たる。
鈍い感触。
さっきとは違う。
今度は、生々しい。
「……!」
モンスターの体が、わずかに揺れる。
ほんの一瞬だけ。
止まる。
(当たった……?)
自分でも信じられない。
でも。
確かに、反応した。
その瞬間。
「……ほう」
マイケルの声が低くなる。
「やるじゃないか」
ノアも、一瞬だけこちらを見る。
驚きと、評価が混ざった視線。
セリアは何も言わない。
でも、位置を変えた。
少しだけ、前へ。
(……あ)
フォーメーションが変わる。
さっきまで守られていた位置じゃない。
少しだけ。
“戦力として見られている位置”。
(うそでしょ)
心の中で呟く。
全然そんなつもりじゃなかったのに。
その時。
モンスターが、ゆっくりと顔を上げる。
また。
こっちを見る。
(……まだ来るの?)
さっきよりも、はっきりと。
意思を持った動きで。
(やっぱりおかしい)
胸の奥がざわつく。
これはただの戦闘じゃない。
ただの襲撃でもない。
(これ……)
喉の奥で、言葉が引っかかる。
(なんで私なのよ)
モンスターの動きが、また変わる。
さっきまでの無秩序な攻撃じゃない。
明確に。
狙っている。
(やっぱり……)
一歩、後ろに下がる。
でも、視線は外さない。
外せない。
「ロゼリア様、距離を」
セリアの声。
いつも通り落ち着いている。
でも。
ほんのわずかにだけ、速い。
(焦ってる?)
その時。
モンスターが、ぐにゃりと歪む。
まるで何かを“探す”ように。
そして。
また、こっちを見る。
完全に。
迷いなく。
「……確定ですね」
セリアが、小さく呟く。
「なにが?」
思わず聞き返す。
視線は前のまま。
「偶然ではありません」
短く。
はっきりと。
(やっぱりそれか)
「この個体」
セリアは一歩前に出る。
ロゼリアとモンスターの間に入る形。
「ロゼリア様に対して、反応しています」
「……分かってる」
嫌でも。
さっきからずっと。
「ですが」
セリアは続ける。
「通常の誘導や敵意とは異なります」
(異なる?)
ノアが眉をひそめる。
「どういう意味だ」
「説明は後で」
即答。
戦闘中のやり取りとしては、それで十分。
マイケルが、少し楽しそうに笑う。
「つまり、特別扱いってことか?」
(嬉しくないやつ)
「肯定はしません」
セリアは冷静に返す。
「ただ――」
ほんの一瞬、間を置く。
「原因がロゼリア様側にある可能性は高いかと」
(は?)
一瞬、思考が止まる。
「私?」
「はい」
迷いがない。
「接触後の反応変化、視線固定、行動優先度」
淡々と分析していく。
「すべてが一致しています」
(ちょっと待って)
頭が追いつかない。
「そんなの――」
否定しようとして。
止まる。
(でも)
さっき。
確かに。
触れたあと。
動きが変わった。
「……」
言葉が出ない。
その沈黙を。
モンスターが、埋める。
ドッ、と床を蹴る音。
また来る。
「来るぞ!」
ノアが前に出る。
剣が振り下ろされる。
でも。
モンスターは、そっちを無視する。
一直線。
ロゼリアへ。
(やっぱり!)
「ロゼリア様!」
セリアが動く。
でも、わずかに遅れる。
その瞬間。
マイケルの手が、軽く前に出る。
「――止まれ」
低い声。
空気が、歪む。
見えない何かが、モンスターの動きをわずかに鈍らせる。
(今)
その隙。
体が、反応する。
後ろに下がるんじゃなくて。
横へ。
ずらす。
腕が振り下ろされる。
すれ違う。
かすめる。
でも当たらない。
(見えた)
ほんの一瞬だけ。
動きの“癖”が。
「……」
モンスターが止まる。
また。
こちらを見る。
さっきよりも、はっきりと。
執着するように。
(なんなのよ、ほんとに)
息が、少し荒くなる。
怖い。
普通に。
でも。
それ以上に。
(意味が分からないのが一番怖い)
セリアの声が、静かに落ちる。
「このままでは」
一瞬の間。
「ロゼリア様を中心に戦闘が成立してしまいます」
(最悪すぎる)
つまり。
「囮ってこと?」
「結果としては」
否定しない。
(でしょーね)
小さく息を吐く。
笑えない。
でも。
完全に逃げるのも、違う。
「……じゃあ」
視線を、モンスターから外さずに言う。
「逆に利用する?」
一瞬。
空気が止まる。
ノアが、こちらを見る。
マイケルも、目を細める。
セリアだけが。
ほんのわずかに。
口元を緩めた。
「それが最適かと」
(やっぱりそうなるのね)
今日の章はここまで。さて、診断書なので、ゲームをしようと思いますww
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