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#10:セリア・アプリコットの剣トレーニング

訓練場に足を踏み入れた瞬間、少しだけ後悔した。


(……来るんじゃなかったかも)


空気が、違う。


屋敷とも、街とも違う。


乾いた土の匂いと、金属がぶつかる音。


規則正しい掛け声。


視線を上げれば、剣を振るう騎士たち。


その中に


明らかに場違いな存在が一人。


(私だ)


「……」


とりあえず、立っている。


どうすればいいのか分からないまま。 


その時。 


「ロゼリア様がお越しだ!」


誰かの声が響いた。 


(ちょっと待って)


一瞬で、空気が変わる。


動いていた騎士たちの視線が、一斉にこちらに向く。


(やめて、ほんとに) 


無駄に通る声。


無駄に丁寧な紹介。


いや、間違ってはいないけど。


今それいらない。


「……ごきげんよう」


とりあえず、口に出す。


貴族らしく。


いつも通りに。


沈黙。


数秒。


やけに長く感じる。 


それから。 


「……はっ!」 


慌てて敬礼の音が揃う。


逆に気まずい。


(なんなの、この空気) 


少しだけ視線を逸らす。


その時。


「こちらへどうぞ」


落ち着いた声。


振り向くと、見覚えのある顔。


セリア・アプリコット。


昨日のことが、一瞬で頭をよぎる。


「見学でしたよね」


変わらない、落ち着いた表情。


でも、その目はどこか鋭い。


(やっぱり、この子……)


「ええ」


短く答える。


余計なことは言わない。


「邪魔にならない場所に案内します」


そう言って、歩き出す。


迷いのない足取り。


自然と、その後を追う形になる。


案内された場所は、少し高くなった位置。


全体がよく見える。


「ここなら安全です」


振り返って言う。


その言葉に、少しだけ引っかかる。


(安全って何)


一瞬だけ考えるけど、深くは突っ込まない。


「ありがとう」


そう返すと、セリアは軽く頷いた。


それ以上は何も言わない。 


少しの間。 


静かに、訓練を見ていた。 


剣がぶつかる音。


足音。


掛け声。


どれも規則的で、無駄がない。


その中で。 


「……あ」


思わず、声が漏れる。


一人、動きが違う。 


速い。 


無駄がない。


まるで流れるみたいに、剣が動く。


「すごいでしょ」


横から、声。


いつの間にか隣に立っていたセリア。


視線は前のまま。


「あれが、今一番伸びてる人です」


淡々と説明する。


 


(いや、普通にすごいけど)


 


目が追いつかない。


さっき何した?


今のどうなってるの?


「……今の」


思わず聞く。


「どういう動き?」


素直に。


理解できなさすぎて。 


セリアは一瞬だけこちらを見た。


ほんの少しだけ、意外そうな顔。


「分からないんですか?」


(分かるわけないでしょ)


でも、それは言わない。


「ええ」


あくまで落ち着いて答える。


「専門外ですので」


それっぽく言う。


セリアは、少しだけ目を細めた。


それから。


「そうですか」


それだけ。 


でも。 


(なんか、今の間……何?)


少しだけ、気になる。


再び視線を前に戻す。


剣の動きは、相変わらず速い。 


でも。 


さっきよりも。


少しだけ、見え方が変わった気がした。


「ロゼリア様」


隣から声をかけられて、視線を戻す。


セリアがこちらを見ていた。


「少し、試してみますか?」 


(……は?)


一瞬、意味が分からない。


「試すって」


聞き返すと、セリアは軽く頷いた。


「簡単な動きだけです」


さらっと言う。


まるで、誰にでもできるみたいに。 


(いや無理でしょ) 


でも。


ここで断るのも、なんか悔しい。


変に思われるのも嫌だ。


「……少しだけなら」


気づけば、そう答えていた。 


数分後。 


木剣を持っている自分がいた。


(なんでこうなったの)


重い。


思ってたより重い。


というか、持ち方これで合ってる?


「構えてください」


セリアの声。


完全に指導モード。


「こうです」


軽く実演する。


無駄のない動き。


分かりやすい。


……分かりやすいけど。


(できるとは言ってない) 


とりあえず真似する。


それっぽく。


たぶん。


沈黙。 


「……」


セリアが何も言わない。


逆に怖い。


「……どう?」


思わず聞く。


一拍。


「面白いですね」


(面白いって何)


褒めてるのかどうか分からない。


いや、多分違う。


「力、入りすぎです」


そう言って、軽く腕に触れる。


一瞬だけ、力を抜かれる感覚。


「もっと自然に」


言われても困る。


自然って何。


もう一度、振る。


―ぶん。


(遅い)


自分でも分かる。


明らかに遅い。


さっき見た動きと、別の世界。


 


「……」


 


セリアが、また黙る。


(やめてその沈黙)


「まあ」


やっと口を開く。


「最初はそんなものです」


フォローっぽい言葉。


でも、微妙に優しくない。


木剣を下ろす。


少しだけ、腕がだるい。


「やっぱり向いてないわね」


素直に言う。


変に取り繕っても仕方ない。


セリアは、少しだけ笑った。


ほんの少しだけ。


「そうかもしれませんね」


あっさり肯定。 


(否定してよそこは) 


でも、その後に続く。


「でも」


少しだけ、こちらを見る。


「さっきよりは、自然でした」 


(……それ、どういう意味) 


最初よりマシってこと?


それとも。


別の意味? 


考えかけたところで。


「おーい!」


遠くから声が飛んできた。


振り向くと、数人の騎士たちがこちらを見ている。


少し休憩に入ったらしい。


空気が、さっきまでよりゆるい。


その中の一人が、こちらに向かって声を上げた。


「そういえばさ!」


妙に明るい声。 


嫌な予感がする。 


「俺に惚れてる女性とか、いるのかな?!」


(は?)


一瞬、思考が止まる。


何その話題。 


周りから笑い声が上がる。


誰かが茶化している。


「いるわけないだろ!」


「夢見すぎだって!」


完全に雑談モード。


……なのに。


(なんでこっち見てるのよ)


なぜか視線が集まる。


巻き込まれてる。


完全に。


「ロゼリア様なら分かるんじゃないですか?」


誰かが言う。


(分かるわけないでしょ) 


「さあ」


適当に流そうとする。


でも。


「セリアはどう思う?」


 


(巻き込まないで)


 


話が広がる。


完全に広がってる。


セリアは、少しだけ考える素振りをしてから。


「どうでしょう」


淡々と答える。


それから。 


「本人に聞いた方が早いんじゃないですか?」


(やめなさい) 


場がまた笑いに包まれる。


くだらない。


でも。


(……なんか) 


少しだけ。

さっきまでの重さが、軽くなっていた。


「極楽街」が好きです、良い漫画です

先生が私のクラスにエドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」を読むように課題を出したので、私はそれを読み終えなければなりません。

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