#9 告白と、空に散った花
濃紺の空に、星が眩しい程に瞬く夜。
僕とよすがは、地元の夏祭りに来ていた。
僕は今の夜と同じ色の浴衣。そしてよすがは、僕の浴衣と同じ色に大きな朝顔が描かれた少し大人っぽい浴衣。それにいつもはポニーテールをしているのを、「夜会巻き」と言うのだろうか? これまた大人びた、いつもと違う髪型をしている。待ち合わせ場所で初めて見たときは、ドキッとしたけど平静を装った。……あれは本当に危なかった。思わず「……天使……いや、女神がいる……」と沢山の人がいる中で口走って、キスしてしまうところだった……。
そんなことを思い、ぶるっと身震いしている僕の傍らで。
「あれは本当に危なかった……。思わず『地球……いや、宇宙で一番格好良い……良すぎ……きゃあーっ♡』っていっぱい人がいる中で口走って、キスしちゃうところだった……」
よすがも、何故かぶつぶつ呟いた直後ぶるっと身震いをしていた。
「「……? よすが(王)、どうしたの?」」
「……?」
「???」
そんな世にも珍しい会話(?)が繰り広げられた。
「んん~っ♡ 王っ、美味しいねっ!」
蛸焼きはふやけていたし、焼き蕎麦はパサパサとしていて、林檎飴は毒々しいまでに真っ赤で正直食欲が失せる程だったが、よすがは全て美味しそうに食べていた。
……いや、それよりも人が多い。
「ねぇよすが、もう少しで花火始まるから、良く見えて人気の少ない場所行こう……」
「ん~? うん、そうだね行こ~……ってどうしたの王⁉ げっそり窶れてるよぉっ⁉」
「ああ……人多すぎて……」
「そ、そう……じゃ、早く行こう……」
そして、僕たちは花火を見る場所に向かった。
「へぇ~っ、こんな穴場があったなんて!すごいね王」
「生まれも育ちもここだからね。っていうかよすがは最近こっちに来たんでしょ」
「えへ、まあね」
そう言って、よすがは向日葵のような、太陽のような微笑みを浮かべた。
「……っ、そんな可愛く笑わないでよ……っ」
ドキドキしすぎちゃうじゃないか。
「えへへ、じゃあもっとドキドキさせちゃうー!」
「っ⁉ ちょ、よすがそれは悪戯が過ぎるって! 僕死んじゃうよ⁉」
「えぇ~? 私にドキドキしすぎて?」
「そうだよっ、何か悪い?」
「ん~んっ、ただぁ……」
そう言うと、先刻までの純粋で優しい笑みは何処へやら。悪い笑みを浮かべた。……そう言う笑みでも僕死んじゃうよ、よすがさん。
「いっっっっっっっっつも冷静沈着でクールで穏やかで私の渾身の惚けも華麗にスルーする王がさ⁉ 私の笑み一つで取り乱すんだよっ⁉ こんなに嬉しいことないよ!」
……。
「よすがが、『冷静沈着』なんて言葉知ってるなんて……」
「そっち⁉」
よすががガーンとショックを受けた様子で固まった。……先刻の仕返し。
すると、よすがが急に黙り込んでしまった。
何か考え事をしているようだ。
そうして、よすがが考え出して五分は経っただろうか。やっと、口を開いた。
「あのね、王。私のお母さんは病気で死んだってこと、話したよね。……その病気、遺伝——」
そこまでよすがが言った途端、花火がドンッ! と上がり、よすがの声を搔き消した。
「……あ……ううん、何でもないや。それより花火見よ」
「っ……分かった」
よすがに倣うように花火を見るけれど、美しい筈の花火は目に入って来ない。
——花火の音にかき消され、聞こえにくかったけど。でも、僕の耳には小さいながらも飛び込んできた。
「——する病気で、私……死ぬ、かも」
——よすがが、死ぬ? 病気、で?
僕を、残して?
信じ、られない。
できることなら、聞きたくなかった。
でも。聞いてしまったんだ。
——だから、彼氏である僕も、覚悟しなければ。信じたくないけど……見な、きゃ。
「よすが」
「ん? どうしたの?」
「聞こえたよ。うん、分かった。よすがが死ぬ、なんて、想像できないけど……二人で、乗り越えよう」
そう僕が言うと、よすがははっと目を見開いた。そして、みるみる目尻に涙が溜まり、透明な雫が止めどなく溢れ落ちる。
「うん……っ」
僕はふっと微笑み、言う。
「よすが。そう言えば、言ってなかったことがあったんだ」
え、と、よすがが潤んだ黒曜石のような瞳を上げ、こちらを見る。そんなよすがにもう一度僕は微笑み、唇をつけた。
「好きだよ、よすが。この世で一番、堪らなく大好きだ——」
「好きだよ、よすが。この世で一番、堪らなく大好きだ」
あぁ、もう。折角止まってた涙が、また溢れて来たじゃない。
「……っ、わたし、も……王がっ、この世で一番っ、大、好き……!」
「……ふふ、両想いだね」
「前から……いや、私たちが生まれる前からだよ、王」
そう。私と王が出会ったのは、偶然じゃなくて運命。
そんな想いを込めて言った言葉は、ちゃんと王には伝わったようで。ふっ、と、穏やかで、優しくて、それでいてしっかりとした、花火のような笑みを浮かべ。王は私をぐいっと立たせ、自分は跪いた。
「よすが——結婚、しよう」
そして、私に向かって、細くて長い綺麗な手を差し伸べた。
私も、ニコリと笑ってその手を取る。
「——はい」
そう、頷いた途端。まるで、私たちを祝福するように、大きくて、美しくて、色彩豊かな花火が、爆ぜ咲いた。
「あぁ……もう、よすが……あんなこと言われて、花火目に入らなかったじゃないか」
「えへ、いやぁ王には言っとかないとかなぁって思って」
「別に、怒ってはないけど……さ」
帰り道。僕とよすがは、着替えを持って来ていなかった為、浴衣のまま家に帰ることになった。
そして、よすがの家の前。
「じゃあね」
「ん、じゃあね。気軽にメール送ってねー」
よすがが冗談めかして言う。……そうは言っても、気軽にメールを送っている自分の姿なんか想像もつかない。
「……いや、多分よすがからだよ」
「えぇ~? 送ってよぉ~……いっつも私王からメール返って来たら一人ニヤついてるんだからね!」
「……え?」
「~、あっ、今ドン引いたでしょぉ!」
「ん~ん、恥ずかしがるとこも可愛いなって」
「~っ⁉」
でも、僕の返信だけでニヤついちゃってるよすがかぁ……。……。あ、やばい、ニヤつきが止まらない。
「ほらっ、ニヤニヤしてるじゃん! やっぱ揶揄ってるでしょっ⁉」
「いやぁ、可愛くて」
「可愛い可愛い言うなぁっ‼」
やっばい顔真っ赤にして起こってるのも可愛い……けど、よすがが少し可哀想に見えて来たので、謝って置く。
「あはは、ごめんごめん」
「うぅ~っ」
頬を膨らませて起こるとこも可愛い。
そんなことを考えていると、ぼそっとよすがが何かを呟いた。
「……私は、王の『よすが』になれてるかな」
「ん? 何?」
「ううん、何でも」
そして、僕たちは別れた。(決して恋人をという意味じゃない)
『よ:王っ、明日王の家行ってみたい!』
朝そんなメールが届いていたので、返事する。
『の:ん、いいよ。明日は母さんも姫もいないし』
『よ:姫?』
『の:あれ、話してなかったっけ。僕の妹だよ』
『よ:えぇ~っ、会いたい‼』
『の:じゃあ今日?』
『よ:うんっ‼』
そんなこんなで、僕の家によすがが来ることとなった。
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