第12話
時刻は1700。午後の部が始まった。昼とは打って変わり照明は暗めに設定されている。俺は担当になったバーカウンターにいた。
「後ろに酒瓶……いやソフトドリンクがあるのか……なんかクオリティ高くね?値段も高そうだし。割ったらめっちゃ怒られそう……」
グラスもそれなりにお高いものなのだろうと思いつつ拭きあげていく。時間が進むにつれてカウンター席に着く人が増えてきた。給仕をしながら座っている生徒の話に耳を傾ける。内容はもっぱら流行りのアイドルだったり、愚痴だったり様々で聞いている側としても面白い。なんて思っていると前に座った生徒から声がかかった。
「あの!午前の時に助けてくださった方ですよね!」
顔を上げればそこには護衛対象の宗森三笠がいた。そしてその隣には今1番会いたくない人物がいた。
「この人が話してた人?」
「そうです。雅先輩」
仲がいいとは聞いていたがこんなに早く会うことになるとは……
2人は席に着くと各々飲み物を注文してきた。
「私はオレンジジュースにしようかしら、三笠ちゃんは?」
「私は、アイスティーにします」
「うん。じゃあオレンジジュースとアイスティーをお願いします」
「かしこまりました」
グラスに氷を入れて、それぞれ注ぐ。ストローを挿せば完成。まぁカクテルを出す訳じゃないからシェイカーとか振ってもな。
「お待たせいたしました。こちらになります」
「ありがとうございます」
2人は飲み物を受け取るとそのまま話を始める。内容的には良くあるもので、学校には慣れたかとか生徒会はどう感じるなどといったたわいもない内容であった。しかし宗森の一言で空気が変わった。
「そういえば雅先輩。いつも一緒にいる男の方は今日はいないんですか?」
「そうなのよね……今日はアルバイトだから来れないって。この前誘ったら振られちゃった」
「えぇ!いつも一緒なのでてっきり今日もこの後会うのかと……」
「いつも一緒じゃないよ。私には私の、彼には彼の交友もあるもの」
「お付き合いは?」
「してないよ」
「でもほぼ毎日一緒に登下校してますし、噂によると一緒に住んでるみたいな話もありますよ」
やっぱり目立ってるよなぁ……一緒に動くのやめた方がいいかも。俺はともかく雅に変な噂が立つのは避けたい。しばらく距離を取るべきか……?そう感じていると段々話の内容は雅の俺に対する愚痴になってきた。
「大体夏輝君は自己肯定感が低すぎるの。何を言っても"自分なんか、自分よりも"って。聞いてるこっちも腹が立ってしょうがないもの」
「う〜ん……確かにそうですよね」
「私としては別に何かしてほしいとかじゃないの。ただ隣にいてくれるだけでいいんだけどね。夏輝君が優しいし、真面目で家族想いなのも知ってるけど……私には何も話してくれないんだもん」
「何か隠してるってなんでわかるんです?」
「長年の付き合いだもの。今更隠し事なんて無理よ。家族同然だって言ってはくれるけど……そこから前に進まなくてね……」
悲報、隠し事バレてる。それにしても雅がそんな風に感じていたとは……こんな形で知りたくはなかったな。よし。聞かなかったことにしよう。それがいい!聞こえないフリをして黙々とグラスを拭く。
すると会場内がザワつき出した。どうやら誰かについて話している様だ。そちらを向けばそこにいたのは今回の最重要人物。晴黒月夜本人だった。晴黒はスマホを操作しながら何やら取り巻きに指示を出していた。
「ボス。晴黒が来た」
『よし、警戒度を上げろ。動ける様にしろ。保護対象は今どこだ』
「目の前にいる。初動は任せてくれ。その後のフォローを頼む」
『了解。保護対象から目を離すな』
引き続き晴黒を観察する。どうやら誰かを探しているようだ。たぶん目の前のこの子だろう。避難させたいが理由もなく避難なんてできないし、ましてや保護対象ですなんて言えるわけない。仕方ない。いつでも動ける様にしつつ様子見か。晴黒を警戒視しているとどうやらこちらにいる事に気づいた様だ。取り巻きを集めて近づいてくる。
「宗森ちゃんみ〜っけ!」
「え……晴黒先輩……どうしてここに……」
「そりゃ新入生の子達と仲良くなる為に決まってるじゃん。お、隣にいるのは雅ちゃんじゃん!久しぶり!」
「何か用ですか」
「連れないねぇ〜。楽しくお話ししたいだけだよ」
そう言うと晴黒は宗森の隣に腰掛ける。左胸に僅かな膨らみ。銃か。右ポケットは……たぶんバタフライナイフだな。
「知ってる?俺の父親捕まっちゃったんだよね。しかも捕まえたのが宗森ちゃんのお父さんなんだよ」
「だからなんなんですか。私は父の仕事を誇りに思います!悪事を働いた人を逮捕するのが父の仕事です!」
「はいはいそうだねぇ。そんなことはどうでも良くてさ。親父が捕まっちゃったから俺達、今物凄いストレス溜まってるの。そのストレスを発散するのに付き合ってくれないかなぁ〜って」
「三笠ちゃん。こんな人に付き合わなくていいわ。行きましょう」
雅が宗森の手を取り抜け出そうとするが、取り巻きに阻まれてしまう。
「そんなに急がなくてもいいじゃん。それとも何?俺達といるのがそんなに嫌?あぁ、一緒に参加したいの?それなら大歓迎だよ」
「そんなワケないでしょう!」
雅が声を荒げると晴黒は痺れを切らした様に2人に近づくとナイフを首元に当て告げる。
「大人しくついて来い。死にたくないだろう?」
目をやれば雅にも同じ様にナイフが突きつけられている。周りから見えない様に。姑息な野郎だ。ジッと見ていると晴黒から言われる。
「何見てるんだ。さっさと失せろ。俺達はこれからヤることがあるんだ」
目を宗森に向ければ、助けを求める目をしていた。ならばやる事は1つだろう。
「承知いたしました」
晴黒達に背を向けて歩く。後ろから微かに宗森の声がしたが無視して歩き……カウンターの外へ。晴黒の正面、宗森達の横に立つ。
「あ?なんだ、お前」
「失礼ながら……レディを口説くにしてはいささか物騒な言葉遣いとお見受けします」
「あ?なんだお前。喧嘩売ってんのか?」
晴黒の意識が俺に向きナイフが宗森から離れる。好都合だ。右足を振り抜きナイフをカウンター内に蹴り飛ばす。
「まずはレディに対するコミュニケーションから学んだ方がよろしいと思いますが……いかがでしょうか、晴黒月夜様」
「テメェ!舐めてんのか!邪魔するんじゃ……!」
「薬物の密売、女子生徒に対する脅迫と売春の強要……どれも証拠は十分です」
晴黒は見知らぬ人物に自分の名前と今まで行っていた、悪業の数々を暴露され動けない様だった。
「ご安心を。貴方様のような品性も分別もない方には、法と倫理の扱いは少々難しいものですから。ですがご心配なく。誰でも最初は初心者です。これから学べば良いのです。最も貴方様は卒業できるかも怪しいですが」
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……!決めたぞ。テメェもぶっ殺してやる!」
その言葉を皮切りに取り巻きの意識も俺に向く。右足を微かに引き体を斜めに。腕は自然に体に沿わせ顔は相手を見る。数は正面に3、後ろに2。銃手1、武器持ち4。近接のみ、銃火器ナシ。
「ダンスのお誘いとお見受けしました。お相手を務めさせていただきます」
「舐めてんじゃねぇぞ!ぶっ殺せ!」
さぁ、舞踏会の始まりだ。
会場内で戦闘が起きる少し前。学園の正門前に一台のマイクロバスがいた。乗っているのは黒ずくめの人物達。手にはそれぞれ銃が握られている。ここでもまた新たな火種が降り注ごうとしていた。




