迷宮調査へ! スキルなしだけどトラップ探知できる『地味力』見せます!
「……で? 何ですか、このミスリルの迷宮って」
ヒロトはギルドの依頼票を見て、目をこすった。眠気ではない、純粋な信じたくなさからくる反応である。
「文字どおり、未踏破のダンジョンだ」
エドワードがごつい腕で机を叩く。その隣ではクラウスが、すでにロングマントを翻して、出発前演技の練習をしていた。
「詳しくはまだわかっていないが、100階以上あるとも言われていてな……特に下層では、トラップによる死者多数」
「ほらー! 絶対やばいやつじゃないですか!!」
「だが依頼内容はあくまで上層階の調査。トラップの位置確認と地図作成がメイン任務だ」
「地味……っ!! 逆に怖い!」
だがヒロトは、何となく引っかかるものを感じていた。
(最近、俺でも何かできるって思えてきてたけど……こういう罠みたいな、地味だけど重要な仕事って、案外向いてるんじゃ……?)
「ヒロト君なら大丈夫さ。トラップを見つける感覚、つまり気づく力こそ、凡人に与えられた最高のスキルだよ」
「……なんかもっともらしいけど、たぶん根拠ないですよねそれ」
「もちろんないとも!」
クラウスのドヤ顔がまぶしい。
こうしてヒロト、クラウス、レイナ、ルミナの4人は迷宮調査に向かった。
ギルドから馬車で半日、岩山のふもとにぽっかりと開いた黒い口――それが、ミスリルの迷宮だった。
「見た目からしてヤバいじゃん……ラスボスの玄関口かよ」
「安心して。初見殺しが多いけど、ヒロトさんなら直感でわかるかもしれません」
「直感て……そんなファジーな判断基準で挑むダンジョンじゃないですよね!?」
とは言え、既に足を踏み入れてしまっている。
ダンジョン内部は、ひんやりと湿った空気に包まれていた。
「第1階層。ここはまだ安全圏です」とレイナが言う。
だが、歩き始めて5分――
「ちょっと待ってください! 床、なんか変じゃ……」
ヒロトが立ち止まる。薄く埃の積もったタイルの並びに、微妙な違和感があった。
「ここだけ、少しだけ浮いてる……?」
レイナが剣の柄でコンと叩く。
――ガシュン!
床が開いて、無数のトゲが飛び出した。
「なっ……!」
全員、間一髪で後退。
「ヒロト君、ナイスファインドだ!」
「うわ、マジで当たってた!? え、俺すごくない!?」
「まさか本当に、気づき力で乗り越えるとは……」
レイナとルミナも驚いた様子でヒロトを見る。
その後も、ヒロトの違和感センサーは冴え渡った。
・異常にキレイな石像(→動く罠)
・ランプの位置だけが左右非対称な通路(→吹き矢)
・不自然に広い空間(→落とし穴)
その度に、ヒロトが「ちょっと嫌な予感がする」と言うだけでパーティーは一度立ち止まり、結果としてすべての罠を未然に回避した。
「ヒロトさん、すごいです……もしかして、前世で探偵とかされてました?」
「いや、ただのフリーターでしたけど……」
「逆にすごいなそれ」
クラウスは地図を描きながら、感心している。
「君の存在がここまで輝くとはね……これはもう、トラップ回避系ユーティリティスキル:ヒロトとして売り出してもいいのでは?」
「それは俺が商品化されてません!?」
だが、その先に進んだ第5階層で事件は起きた。
「――が、がぁああああ!!」
突如、壁が崩れ、複数のトラップ・ゴーレムが出現。これまでの罠を擬態していた守護者らしい。
「囲まれた……!」
クラウスが詠唱に入るが、魔力干渉で詠唱が妨害されている。
「魔法無効空間!?」
「だったら、物理でいくしかないッ!!」
レイナが剣を抜き、ルミナがナイフで援護に回る。
ヒロトも必死に目の前の状況を見極めた。
(くそっ……俺は戦えない。でも、見て気づくことはできる!)
ゴーレムの中の1体――胸の魔石が微かに光っていた。
「レイナさん、そいつの胸! 他より深く光ってる!」
「……了解!」
レイナが一点集中で斬りつけ、魔石を粉砕。すると、ゴーレム全体が崩れ落ちた。
「……ヒロト、すごい」
「すごいよ、ヒロト君! 君の観察力が、僕たちを救ったんだ!」
「うぅ……スキルはないけど……この地味力は本物だった……!」
思わず目頭を押さえるヒロト。
その後、無事に5階層の調査を終えて戻ったパーティーは、ギルドから特別感謝報酬とともに、ヒロト個人宛の感謝状まで受け取った。
「細かすぎて伝わる罠発見士って肩書き、ギルドが勝手につけました……」
「かっこいいじゃないか! 僕は音の剣士って言われてるよ!」
「そっちもだいぶ痛い部類ですけど!?」
だが、何より嬉しかったのは、レイナとルミナの言葉だった。
「ヒロト……次も、よろしく」
「これからも、一緒に冒険したいです!」
その時ヒロトは、自分が、パーティーの中にちゃんと存在してると実感した。
(スキルがなくても、戦えなくても……役割は、あるんだ)




