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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の一・・・事の始め
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第84話 変貌

 次の日から、ももはしろを外へ連れ出し、他の子たちと一緒になって走りまわりました。しろはまるで生まれた時からここにいるかのように皆とコロコロとじゃれ合います。しろはあっという間に村じゅうの子たちの人気者になりました。

 雨の日以外の日々をしろと外で遊んで過ごすうち、ある日、遊び疲れて家に戻ってきた夕暮れ時に、いつもなら戸口を入ると決まったように藁の寝床に直行するしろが、その日は戸口を一歩入った途端に身を翻してぱあっと外へ走り出てしまいました。

 「しろ!?」

 ももはびっくりしてあわてて後を追いましたが、ものすごい速さでしろは走っていきます。まるで何かを思い出したかのようです。

 しろは真っ直ぐに洗濯場の堤の方へ向かって行くようです。歩を緩めもせずにしろは堤を駆け上がり、あっという間に向こう側に姿を消してしまいました。ももが息を弾ませながら追いかけます。それを見かけた村人たちは誰もがびっくりした顔でその姿を見送っていました。

 ももが堤を越えて洗濯場の岩場に辿り着くと、しろは祠の真正面で、こちらを向いてきっちりと前足を揃えてお行儀よく座っていました。ももが来るのを待っていたかのようです。

 「一体・・・何じゃ・・・こんなとこへ来て・・・」

 ももは息を切らせながら両手を膝についてしろに向かい合いました。

 しろはももを見つめると、くるりと祠の方を向いて半ば後ろ足立ちになり、中にいっぱい物が詰まっている祠の入口に両の前足をかけて片方で中のものをつんつんとつつき始めました。

 「何してるんじゃ?」

 ももは不思議そうにその場にしゃがみました。確かにしろはここで拾われたけど、何でしろは祠を知ってるのか・・・。まだここでしろと遊んだことはないのに。

 しろはもの問いたげにももを振り返ると、また向き直って中のものをつつきました。何度も。中身を取り出したいとでも言いたげです。そのせいで中のちょっと変わった色合いの石ころや枯れた木の葉や蛇の皮のようなものがいくつかバラバラと崩れ落ちてきました。

 「何か欲しいもんがあるんか?」

 ももは尚も問いかけますが、しろはますます熱心に掘り出そうとします。

 ももは手伝うのをためらいました。みんなの見つけたものの置き場所なのです。勝手に放り出していいものとも思えません。しかし、しろがどうしてしまったのか知りたいとも思いました。きっとこの自分に何かを言いたいのだ・・・。

 ももは思い切りました。しろに並んで中身をガサガサと掻き出し始めます。するとしろはまるで仕事を譲るかのように掘り出すのをやめ、その場におとなしく座りました。

 中身を全部掻き出してしまうと、前にまわりに敷き詰めた白い花の枯れたかたまりと混じって、祠の前はぐちゃぐちゃになってしまいました。それでも、ももは祠の石の床面を手のひらでさらうように細かい草くずなんかもきれいに掃き出すと、立って両手をパチパチと払いました。

 しろは待っていたかのように祠の中に入ると、ももに向き直ってまたお行儀よく座りました。そして、またももを見つめながらひょこっと首を傾げました。

 「一体、何をやりたい―――」 しろに向かってそう問いかけた瞬間、

 天から一条の白い光が落ちてきました。ももはもの凄い衝撃に後ろの方へ吹っ飛ばされてしまいました。

 星が瞬き始めた薄藍色の空から音もなく落ちてきた閃光は祠を直撃し、同時に、しろをも祠から弾き出していました。

 一人と一匹は共に気を失って地面に転がりました。

 空は何事もなかったかのように、うっすらと星々を煌めかせています。

 

 松明の明かりが堤を越えて現れました。

 ももがしろを追いかけて家を飛び出して行ったのは、おかあもおとうも見かけていました。すぐに捕まえて帰ってくるだろうと思っていたのですが、あまりに遅いので二人して探しにきたのです。洗濯場の方に向かって行ったので、まずはここへ来てみたのですが。

 もしかして、前の時の子犬も山へ逃げて行ったが、しろもそうなのか? と思い巡らしたりします。それにしても限られた村の中、どこかへ行くといっても知れているのです。山道を抜けて行くはずもないのですから、行方知れずになることなどあり得ません。

 堤を登ろうとした時、突然、稲光が堤の向こうの間近に落ちました。空全体に昼間のような光が閃き、しかし雷鳴のようなものもなく、静寂のうちに一瞬にしてそれは終わりました。

 二人は一瞬、身を縮め、その場にしゃがみ込みました。が、顔を見合わせると何か不吉な予感がして、急ぎ足で堤を越えました。

 そして、揺らぐ松明の明かりの中に二人が見つけたのは、

 岩場の真ん中あたりで長々とのびている一人の、二十歳になるかと思える若者と、

 同じように四つ足を横様に投げ出して横たわっている一匹の真っ白な成犬の姿でした。 


 若者はゆっくりと目を開けました。

 心配そうに見下ろすおとうとおかあの顔が星空を遮っています。

 そこに、しろの顔が加わってきました。

 すっかり大人になったしろの顔が・・・。

 「おとう・・・おかあ・・・」

 「桃太郎・・・か?」

 おかあが不安げに問いかけてきます。

 「違いない。この犬っこもしろじゃ。深くは考えまい。詮ないことじゃ」

 おとうが、不思議は深掘りせぬに越したことはない、と諦めたように言います。かの『かぐや姫』も三月(みつき)で幼な子から年頃の娘になったのですから。大体、桃から生まれたこと自体で、もう何でもありな空気になっているのです。

 桃太郎はゆっくりと起き上がりました。うっと肘に痛みを感じて見てみると、派手に擦りむいています。他にもあちこちに擦り傷を負っているようです。一体、何が起こったのか───。

 「もしかして、さっきの稲光にでも打たれたんか?」 おかあが恐る恐る聞きました。「全く、何があったんじゃ、はよ戻って手当てせにゃ」 おとうも傷だらけなのに更に驚いたようです。

 それにしても一気に成長してしまった桃太郎が着ている小袖は、まさにぴちぴちで、今にも張り裂けそうです。

 「なんか・・・肩凝るなあ」 桃太郎は右手で左肩を押さえて首を左右に傾げました。

 「もう、脱いだらええ。誰も見とらん」 おとうが言います。

 「そうか」と言ってうつむいた桃太郎は、自分の着ているものを見て「何じゃこりゃ!?」と声を上げました。「どないなっとるんじゃ・・・?」 言いながら、小袖を脱ぎ始めました。脱ぐのも一苦労です。

 一体、何がどうなってるのか皆目見当が・・・・

 「うわあ」

 脱ぎながら立ち上がる桃太郎に、おとうとおかあは思わず声を上げました。六尺になるかと思える長身になっているのです。見上げなければなりません。そして、おとうが手に持つ松明のゆらめき中で微妙に微笑む桃太郎は、おかあも見惚れるほどの美貌の青年になっていました。

 確かに、ももは愛らしい顔つきの子ではあったけど、ここまでになるとは・・・! 人の子でない印だとでも言うのでしょうか?

 桃太郎はおとうから松明を受け取ると、小さな小袖を腰に巻きつけた格好で、高々と道を照らしながら親子三人、家へと戻って行きました。

 大人しく傍らで待っていたしろが、当たり前のようについて行きました。

 

 松明の明かりが堤の向こうへ消え去った頃、祠の中から二体の動物らしきものが互いに絡み合いながら転がり出てきました。三人とも、背後の祠の中で音もなく渦巻くように起こっていた出来事には気がつかなかったようです。

 その動物は転がった勢いで、それぞれ一体ずつになって離れると、気分が朦朧としているのか、しばらく荒い息の中で目を閉じ、じっとしていました。

 やがてそれも落ち着くと、目を開け、ゆっくりとこわごわのようにあたりを見まわしました。そして、お互いの存在に気がつくと・・・

 「ギャ〜〜〜!」

 「ケーン!」

 お互いの姿に飛び上がるようにして悲鳴らしき声を上げると、ワタワタとどこともわからぬ木々の茂みの間に紛れ込んでいきました。


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