表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の六・・・帰還
70/135

第70話 進軍

 どうやら右大臣の道案内はうまくいったようです。なだらかな山並みに入ってからは、帝にさほどのご不便もおかけすることなく、あの竹林に辿り着きました。が、直接竹林に入り込んでしまうような場所に出てしまい、竹林の中をわさわさとさまよう訳にもいかず、山の斜面を横に辿りながら、自分達が村人の案内人と別れたちょっとした空き地を見つけ出すのに大分手間取りました。

 しかし、大軍を引き込めるような場所ではありません。まだほとんどが山の中で長い行列を作って渋滞していました。

 遣いに送り出した者が村の返事を持ってくることも待たずの行軍でした。どうせ、村は返事などよこさないだろうと踏んでのことです。あの兵もどうなっておることやら・・・。

 それでも帝の権威は保たねばならない、と帝関連の一団は輿など様々な道具類と共に先へと送り出されます。右大臣が先頭を勤める竹林沿いの小道に後から後から行列が押し出されてきて、右大臣もどんどん村の方へと追いやられていきます。見覚えのある人家が点々と現れてきました。

 やがて道幅が広くなり、どんどん、人家が増え、村の中へ・・・

 右大臣は「?」とあたりを見まわしました。

 村人を一人も見かけないのです。自分が知る限り、家のある所には必ず何人かがたむろしていたはずなのですが。

 行列は、きらびやかに化粧直しされた輿に乗って地上高く担ぎ上げられた帝の列が、護衛に囲まれる形で軍の一塊りの後に続いてきます。帝も御簾の内側から村の様子を伺っておられるはずです。

 「しばらく!」

 その行列の先頭者に向かって声をかけて止まらせると、右大臣はあちこち走りまわり始めました。不安になって、「ごめん!」と叫びながら、家々の戸板を開け、中までのぞいていきます。行列から離れて、自分が見たこともない村のあたりにまで・・・。

 しかし、誰もいません。囲炉裏は・・・少し前まで誰かいたかのように炭に火は入ったままです。

 まるで、敵でも襲来するかのように一斉に逃げ出したのか?

 やはり、何か隠しておるのか?

 右大臣が、自分たちがいた病棟の建物まで行ってみようと走り出した時、行手を塞ぐように人影が、突然に、音も気配もなくふわりと現れました。

 右大臣は不意を突かれて不本意にも仰天してのけぞり、尻もちをついてしまいました。

 何事ぞと目を凝らすうち・・・それは、十二単に身を包んだ、光り輝く、

 『かぐや姫』?

 目が眩むほどに刺してくる光に、たまらず顔を背けて手をかざします。もう顔もはっきり見定められないほど白光りしていました。

 「何用でこの地へ参られましたか?」

 余韻を残すような声で問いかけてきます。

 「それは・・・既に遣いの者が伝えておるはず・・・」

 「この村を支配下に収めると」

 「支配?・・・他の村々と公平にするだけじゃ。世間の村が自分たちだけ豊かで、勝手気ままであるなど、許されるはずはなかろう」

 「貴族の暮らしは例外と」 声は言い切りました。

 「例外じゃと? 元から違うのじゃ。血筋が・・・家柄が・・・」

 「同じ『人』ではないか!」 笑いを含んだように言います。

 ―――何じゃ? これが同じ『かぐや姫』か? 現れ方といい、毒々しげな光といい・・・これはもしや、世をたばかる化け物なのか?

 まさか・・・化け物に村が食われた・・・?

 右大臣はもはや『かぐや姫』そのものを疑っていました。そして、帝より陰陽師を同道させるべきであったと悔いていました。種類が違うたら何たら申しておったが、あやかしには違いなかろう、と───。

 タケは近づいてくるもう一人の人を見ていました。

 帝でした。遠くに不思議な光を見て、好奇心を抑えられなくなって、まわりを振り切って輿から降りてきたのです。護衛すら追っ払っていました。不思議を確かめるのに妙な邪魔をされたくないのです。ましてここは宮中でも何でもないのですから。

 「これは・・・!」

 右大臣は帝の姿を見てまた仰天し、向き直って地面に平伏しました。

 「苦しゅうない。そこに直っておりゃれ」

 帝は閉じた扇で右大臣を指してポンポンと(くう)を叩くようにすると、タケに向き直りました。自らその前で片膝をつき、頭を下げます。芝居がかっているとは思いましたが、常識を超えた村であると聞いていたので、常識を超えてみたのです。

 まるで(いざな)うかのように、光が少し和らぎました。

 「あなた様がお噂の『光り輝ける麗しの姫君』様にございますかな?」 

 「そのような、もったいない! どうぞ(おもて)をお上げくださいまし!」

 と、すぐ様言われるはずでした。帝の予測では。

 「残念ながら、わたくしは間もなく里へ帰る身。あなた様のお相手をしているヒマなどないのでございますよ」 余韻の消えた『人』の声が冷ややかに応えます。

 「・・・?」

 帝は頭を下げたまま、何を言われたのか理解できず、しばらく固まっていました。そして、

 ・・・ヒマがない・・・? こうして頭まで下げているこの私に対して「ヒマがない」と申すか⁉︎

 帝はいきなり立ち上がりました。光の中に浮かび上がったその顔の何と美しいことよ!

 帝はその傲慢な言葉を許してなるものか、と光の中に飛び込み、いきなり姫を抱きすくめました。

 「どうなさるのですか?」

 応えているのは、かぐやでした。

 「私のものにして差し上げるだけですよ」 耳元に囁くように言います。

 「ならば、言う通りにするなら、村のことは忘れてやろうとおっしゃってくださいまし」

 「陛下! それはなりませぬ!」

 はたで二人に目を奪われていた右大臣は我に返って叫びました。

 「うんうん、何でも叶えて差し上げましょうぞ」

 姫の十二単を何とかしようと手をまさぐらせながら言います。右大臣の声など届いていないかのようです。

 「では、すぐにも方々(かたがた)にご下命下さいまし。軍を引き揚げよと。そして今後一切、村に手出しは罷りならぬと」

 「いと易きことよ」

 帝は言い切り、姫の両肩を抱いたまま、身をよじって右大臣の方を見ました。

 「陛下! 何とぞ!」

 帝が何か言う前に右大臣は押し留めるように両手を突き出し、悲痛なまでの声を上げました。簡単に落とされていく帝が信じられませんでした。いや、自分も一時的にはやられていたのかも―――とにかく、この瞬間さえ耐えれば、すぐにも正気に───

 「聞いての通りじゃ。皆に伝えよ」 帝は冷たくも指示なさいました。

 「伝えませぬ! こたびの指揮権は私共に一任されておりまする。これは策略にございます。すぐにも進軍を命じまする!」

 「ならぬ!」

 帝がすぐに叫んでも、もうそこに右大臣の姿はありませんでした。

 かぐやはその隙に帝の腕をふわりとすり抜け、同時に帝から三間ほども離れた背後にいました。「お約束は叶わないようでございますね」 冷たく言い放ちます。

 突然、姫が腕の中から消えたような感覚に襲われた帝はあちこちにキョロキョロと目をさまよわせた後、その言葉の方を振り返りました。

 程なく、南から、わーっと言う大勢の雄叫びと地響きのようなものが伝わってきました。道を空けるべく、端の方にぎゅうぎゅうに退避していた行幸の行列の傍らをすり抜けるようにして武人の一団が刀や槍を振り上げてなだれ込んできます。

 「ああ、何ということ・・・」

 目の前を通り過ぎていく大軍に、帝はがくりと地面に座り込みました。世の中に一つぐらいはそういう村があっても良かろうと思っていたのに―――。だからこそ美しき女ともまみえることもできよう。貧しくては美しさを磨くこともできぬ。かといって、全ての村を豊かにするのも難しいこと。いっそ、始めから勝手に豊かな村があるならば、それはそれで・・・。それに今まで京には何の手出しもしてこなかったのだ。そのままであるならば、これから先、脅威の存在になどなり得るのか・・・? ずっと、あるのかないのかさえわからないまるで霞のような姿だったのだから。それこそ、こちらさえ何も手出しをしなければ・・・

 「ささ、こちらへ」

 そんな思索を邪魔するように中の一人が帝のそばに駆け寄り、抱き抱えるようにして安全な所へ避難させました。乱入する軍勢に巻き込まれないよう、我が身で帝を覆うようにして軍勢に背を向けています。

 「どうする気じゃ」

 帝の問いに、武人は一歩引き下がって平伏しました。自分が巻き込まれそうです。 

 「右大臣様は、いきなり陛下に取り入るは怪しき証拠と申されて、村を制圧した後に黄金を捜索すると」

 「中止せよ。軍を引け!」 帝は蒼白になって命令しました。

 「恐れながら、こたびの軍の指揮権は右大臣様が一手に握っておられます。陛下はあくまでも行幸でお訪ねになるのみでございます」

 また言われてしまいました。今回もお飾りなのか・・・。

 会議を半分上の空で聞いていたのが失敗だったようです。だが、いくら何でもこれは越権行為、横暴ではないのか? ここでは家臣までもが私を無視すると言うのか?

 しかし、時既に遅し―――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ