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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の四・・・混迷
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第56話 美の幻惑

 官職たちも姫君のことを聞いている以上、彼らを差し置いて先遣隊の面々が姫の所に通うわけにはいかなくなりました。まだまだ官職たちは回復途上であるものの、姫の家は近くなので、そこへ行くぐらいは村人たちも許していました。村人は姫に会うことには寛大なようです。

 隊長に案内され、五人はぞろぞろと姫の家までついて行きました。自分の着物で身だしなみを整え、もちろん烏帽子も被っています。中納言石貝麻呂足はまだ重苦しいあばらを手で押さえながらも遅れを取るまいとしています。今しばらく大事にせよと村人から言われているのですが。

 「姫君は決して姿を現そうとはなさいませぬ。我らはただ竹垣の外から御簾の向こうを想い見るしかないのでござりまする」

 竹垣前に到着して隊長はそう言うと、配下らしく少し離れて片膝をつき、待機の形になりました。

 五人は御簾の下がった縁側の方をのぞき込みました。何だか不思議な虹色に滲む金色の光が御簾の隙間から湧き出しています。そこに黒く揺れる人影らしきものが・・・。

 香でも焚いているのか、えも言われぬ美味な香りも漂ってきます。五人ともただならぬ空気を感じていました。

 しかし、まさか家に乗り込んで姫に会わせろ、など要求できるものでもありません。

 「少しずつ、でおじゃるな」

 時がたって、村にも馴染んでくれば、また機会も訪れるであろう―――。

 五人は、今日はとりあえずこれくらいで、と病棟の方に戻り始めました。

 ん・・・? 村に馴染む・・・?


 かぐや姫は、御簾の陰から五人の様子を伺っていました。そして、いたずら心にそっと御簾の端を押し開いて外をのぞき見ました。

 

 「あー‼︎」 それを見逃さなかった隊長が思わず声を上げてしまいました。何と美しい!

 「いー⁉︎」 その声を聞いて五人が一斉に振り返ります。隊長が御簾の方を指差して棒立ちになっていました。

 「うー!」 誰かが唸り声を上げました。しかし、隊長が見た姿はすでになく、御簾が確かに押し開かれたことを示すかのように揺れ残っているだけです。

 「えーい! 見たのか見たのか?」 五人が隊長に迫ります。

 「おーホッホッホ!」

 笑い声が響きました。

 隊長も初めて聞く、いまだ名も知らぬ『姫君』の、鈴を振るような美しい声でした。


 姫は思わず声を立てて笑ってしまい、御簾の端でまだくっくっと肩を震わせて笑いを堪えていました。まだ外で揉めている男たちがおかしくてたまりません。姫が肩を揺らすたびに外へ広がる光も波打つのですから、騒ぎもおさまりません。

 「姫〜〜! そこにおられますのじゃなあ!」

 「ひ、ひと目ご尊顔を!」   

 「何とぞー!」

 姫は無視して、部屋の真ん中に寝転がりました。うつ伏せになって『竹取の姫の物語』を手に取り、めくり始めました。文庫にただ一冊しかない、挿絵入りのものは今は姫の手元にありました。これをもとに、これから地上の人々が何をしてきてもここから大幅に逸れてしまわないように、タケが月に願うように対処せねばならないのです。『月』が望むように。

 五人の貴族たちに求婚の条件となる使命を下す部分を読み終えると、

 「やるしかないのよねえ」

 と悩ましげにつぶやきました。


 光が御簾の内にスっと引っ込んでしまったので、男たちは「あああ」と後を追って竹垣にへばりつきながらも、やがてあきらめて病棟に戻っていきました。寝床に並んで、改めて隊長は責め立てられていました。「自分だけ見てずるい!」と言うのです。何とも理不尽な言いようです。それでも自分だけ見られた幸運に、隊長は得意になって目に焼きついている一瞬の美の瞬きを語って聞かせました。

 先遣隊の面々も、隊長は官職たちの方に入ってしまったのか、と半ばうらめしげに、ただ話を聞いているばかりです。とにかく、自分たちが姫を見定める仲間に入れないのは、もう今となっては確実なのですから。

 姫と親しくなれないなら、村人と親しくなるしかこの日々を過ごす方法はないのではないか? と思うようになってきました。


 ある日、五人はきっちりと今までにないほどに身なりを整え、正装した気分で姫の家を訪れました。やはり、正式に家に会見を申し込まねば埒は開かぬのではないか? ということになったのです。

 竹職人のおじいとおばあは、いよいよ、と腹を決めて五人を出迎えました。姫は御簾の下がっている隣の部屋で、今は光ももれないように引き戸が締め切られています。

 「世にも稀なる美しき姫君とお伺い申した。我ら、この地を訪れ、ひと方ならぬ手厚き看護に預かりしも奇なる(えにし)、せめて土産話にひと目、姫にお目もじ叶いませぬか」

 右大臣阿布御主人が代表で用件を申し述べました。かなり下手(したて)に出たつもりです。

 「お待ちなされや。お会いするもせんも姫の気持ち一つでございますでな」

 おじいはそう言うと、引き戸の端に立ててある、自慢の竹製の衝立の向こうに回り込みました。そこに身を沈めて引き戸の向こうの姫と何やらひそひそと話をするような空気を醸し出します。

 衝立から出てきたおじいは元の場所に座り、一つ咳払いすると、

 「姫は会うても良いと申しております」

 五人があっさりしたことに少し驚いていると、おじいがすぐに立って引き戸の手前の御簾を巻き上げました。すると、目の前の引き戸が真ん中から両側に開き始めました。引き戸はまるで勝手に開いていくようです。その隙間からすぐさまあの光が輝き出し、その中に艶やかに十二単に身を包んだ姫が座っていました。開いた扇を両手で胸元に持ち、顔の下半分を覆っています。

 人々は息を呑んでしまいました。声も出ません。キラキラした輝きの中で、姫のその美しすぎる眼差しは視線の矢頭となって、五人をひと絡げで串刺しにしました。体の力がどんどん萎えていき・・・

 後に残ったのは、抗いようのない恋心の種火。

 気がついたら、引き戸はまた締め切られていました。

 ・・・今のは何じゃ? 夢か(うつつ)か幻か・・・?

 現れて、一瞬にして消えてしまった姫の面影を追うとき、種火はメラメラと炎を吹き上げ始めました。

 五人とも床に様々に両手をついて、かしこまったところなど微塵もなくぐったりとしています。床に寝転がってしまいたいほどです。

 「しっかりしなされや、もう」

 おじいとおばあは盆を手に、気つけの薬草茶を配ってまわりました。いつ来てもいいように、用意はできていました。

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