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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の三・・・誘惑
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第49話 京の思惑

 どれぐらい眠り込んだのでしょう。

 一行が目を覚ますと、あたりはすでに夕暮れていました。じりじりと待っているだろう宮中の官吏たちのことが浮かびましたが、今から下りの道を探索するのも危ういこと―――。

 隊長はまたしても早めの夜営を命じました。休憩からそのまま夜営になだれ込む感じです。

 頂上は樹木もなく開けていますが、ここでまともに松明を焚くのは村から見つかる恐れもあるので、登ってきた方の斜面を少し下りて隠れるように明かりが取られました。

 弥作は、逃げ出すのはまだ早い、と思っていました。ここまで来たからには是非とも全員落ちてもらわねばなりません。そうすれば先遣隊としての動きそのものを封じ込めることができるかもしれません。それにはうまくそこまで行ってもらわねば。

 もちろん、道になりそうな場所はそこしかないので、当然連中もそこを辿って確実に崖へと向かって行くでしょう。自分はそれを誘導し、落ちるのを確かめ、村へ知らせる―――。

 弥作はそういう算段を立てていました。


 翌朝、一行は簡単な食事を済ませると、早速下りの道に取りかかりました。頂上は開けていても、樹木はまるでそこだけ遠慮しているかのように早速密な集まりを作り始めています。その先の様子など(うかが)い知ることもできません。

 隊長は、村の観察役として頂上に二人を残す、と指示しました。

 弥作はあわてました。何か起これば京に伝令が走ってしまいます。

 「途中にものすごい木の根っこやら岩やらが密集しとるとこがあるで、とてもじゃないが全員でかからんとその先へは進めんぞ。言うたじゃろ、難所が一つあるて」

 突然の弥作の言葉に隊長はいぶかしげに弥作を見ました。

 「ここから割とすぐのとこじゃから、そこをやっつけてから戻っても遅うないべ」

 弥作は言い張りました。実際にそんな感じの場所だからあながち嘘ではありません。

 「村なんぞ見張ったって、別に何か怪しいことをやっとるわけじゃなし、ただ景色を眺めて楽しむだけになるで」

 黙ったままの隊長に、弥作はさらに言葉を重ねました。

 「二人も遊ばしとってええんかい」

 そうまで言う弥作に、隊長はさすがに疑いの目を向けました。

 「なんか企んどるんか?」

 「企む? ほんまのことじゃから言うてやってるだけじゃ!」

 しばらく弥作と隊長の睨み合いが続きました。

 やがて隊長がフッと笑うように言いました。

 「なるほど、今までのことからしても、二人も欠けたらその分時もかかろうし、難しゅうなることもあろうわの」

 隊長は滑り落ちて多少の傷を負った者を残そうとしたのですが、別にその後に足手まといになるほどでもなく、確かにここから眺める村の風景はただただ美しいばかりです。内裏に報告するにしても、内裏をさもありなん、と納得させるような何かが見えるようにも思えません。それに黄金のことを確かめるのは本隊の仕事、この美しさが黄金のなせる技かどうかまで先遣隊の知るところではありません。道さえ造ればいいのです。

 「ようし、全員で一気に開くぞ!」

 隊長はそう命じました。


 弥作の言う場所から下りの道を造り始めて長くかからずに、その難所にぶつかりました。両側から巨大な岩がせり出し、道幅を一人分ぐらいに狭め、覗き見るその岩を抜けた先には枯れた大木の根っこや倒木らしき物がいくつもどっかりと居座って行く手を塞いでいるようで、手前に倒れそうに張り出している岩を登って越えるというのも現実的ではなさそうです。

 「お前はどうやってここを抜けた?」 隊長が弥作に聞いてきました。

 「わしゃひとりで身軽じゃったから、岩の隙間をすり抜けるみたいにして、木の根っこも何とか越えられたんじゃ」 適当なことを答えます。自分の知っている同じ道を辿れてよかった、と思いながら。先遣隊は一人一人が大なり小なり装備を身につけているので、とても身軽というわけにはいきません。

 「とにかく抜けて見せてみい」 隊長は引き下がりません。

 「そんなら」

 細身の弥作は目の前の岩をすりすりとすり抜け、岩をまわり込んで、根っこのそばから隊長をのぞき込みました。本当に、人ひとりがどうにか通れるかどうかの隙間です。

 「このでっかい木の根っこを根こそぎどけたら何とかなるじゃろう」 弥作が隙間に声を張り上げてきます。

 根っこと言っても人の背丈以上に幹が立ち、折れ口が棘立っているのが何本も曲がりくねって絡み合うように隙間なく行く手を阻んでいるのです。そこに倒木も重なり、その向こうの地面の様子などのぞき見ることもできません。

 仕方あるまい、と隊長は根っこを掘り出すことにしました。

 装備を置いて身一つになり一人ずつ隙間を抜け、後から道具を一つずつ通す形で、抜けた先には何とか全員が寄り集まれるぐらいの場所はあるようです。隙間を通せない道具がなかったのも幸いです。中には太身の男もいるので、隙間を抜けること自体に苦労する者もいましたが。

 総がかりでどんどん掘り起こしているうちに・・・

 突然、足下が緩んで根っこもろともに崩れ出しました。予感していた弥作は慌てて岩の隙間に逃げ込みました。

 人々は予想外の事態に何をするヒマもなく、土砂と多数の樹木と巨大ないくつもの根っこと多数の岩石に紛れて、十人ともが木の根っこの向こう側の崖をなぞるように落ちていきました。誰一人として残る場所はありませんでした。

 弥作は縮めた両腕をつっぱるように隙間にしがみつき、目の前に新たにできた急な崖にガタガタと身を震わせていました。崩落が止まるまで必死につっぱり・・・ただただこの岩の所まで崩れなくてよかったと思うばかりです。もともとこの向こうに道を造れるような場所はないのですから。


 隙間から引き返した弥作は途中から『隠し山道』に入り、必死で走るように辿っていました。ここからならそれほどの距離ではありません。

 弥作にとってこれは上出来の事態でした。まして雨をたっぷりと吸っているし、根っこを掘れば崩れることは予想できましたが、こんなにも一気に全員を『崖落とし』できるとは・・・。

 自分が誘導するだけではとても難しいと思っていました。が、彼らは自分たちで勝手に新しく道ならぬ崖を造って落ちていったのです。弥作の知ったことではありませんでした。

 今や弥作には一つの考えしかありません。自分のやったことを洗いざらい白状し、彼らの正体と京の思惑を村に知らせることです。


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