第43話 何かがいる・・・
村を脱け出した弥作は、自分が生まれ育ち、女房と住み暮らして、結局何もかもを失った故郷を目指していました。
袋にどれくらいの黄金が入っているのかはわかりませんが、ずっしりと背中にのしかかっているのは確かです。絶望の淵にあったところをせっかく新しい暮らしへと救い出してくれたのに、恩を仇で返すようなことをしている・・・それは十分わかっているつもりでした。追いかけてきて、殺されても文句は言えない。しかし、いくら貯まろうと、黄金はあの村には少しも必要のないものであることも確かなのです。
弥作はそれを元の村で、少なくとも自分たちをハメる側には立たずに、味方とまでは言わずとも責め立てる騒ぎには加わらなかった者たちに分けようと思っていました。今も変わらず役人からの不法な取り立てに苦しんでいるはずです。
同じような貧しい苦しみの中にいる他の村の人たちにも配るつもりでした。年貢米を盗んだのは弥作だと決めつけて投石を仕掛けてきた連中にさえも。大もとは貧しさから起こった争いだったのですから。
ただ貯め込むばかりで黄金を役立たせようともしない村に眠らせておくより、そういう村々に配った方がよほど世のためだ・・・。
話し合いは結局、弥作のあとは追わない、ということにまとまりました。何か不穏なことが起こりそうな時に、村の者を外で危ない目に遭わせるようなことはできない。成り行きに任せるしかない。物語に沿って出来事が起こるなら、誰かがやって来たにしても『かぐや姫』が撃退してくれることになるだろう。帝や軍隊が現れたとしても姫が骨抜きにして天に昇れば終わり。
そう。姫のことが外に知られるのはこの出来事なのか?
タケとタケルは姫の誕生時から懸念していたことを初めて村人たちに伝えました。村の中の者たちで物語が進められると思えない以上、外からそれに当たる者たちがやってくるに違いない。なら、どうやって姫のことが外に伝わるのか―――。
物語は『弥作』という一番の新参者に白羽の矢を立てたらしい。
もう、その場に姫がいることを気にしている空気ではありませんでした。もちろん、皆が集まり始めた時点で、タケが物語のことは姫に話したと言っておいたこともあります。そして姫も「私は物語のようにします」とタケに口添えしたのです。
今や、村の安全までもが『かぐや姫』頼みのような雰囲気になっていました。
話し合いが終わり、姫はおじいとおばあと共に、タケはタケルと共に家に戻りました。
そして、やっと、タケルに自分の全てを、今までわからなかったことも洗いざらい告白できるような気がしていました。
タケルノカミの『人の子でない』とは、自分も姫と同じ『月の人』であること、同じように竹から生まれたということ。姫は自分を月へ帰らせるためにここにやって来た、しかし、自分がこの村を嫌って月に帰りたいと望まない限り月からの迎えは来ない・・・姫はそう言った、とタケルに語りました。そして『竹取の姫の物語』のことも月ではバレていて、それを利用してタケを帰らせようとしている、だから姫は物語の中の『かぐや姫』として地上に降ろされた、と。
「どうやらわしはこの村で寿命を全うしそうじゃな。いくらわしが『月の人』でも、タケルもこの村の衆のことも嫌になるはずがないからのう。かぐや姫は結局一人で天に昇ることになるんじゃろ」 タケはその点において、自分は結局物語に巻き込まれずに済むんだろう、と少し安堵はしていました。
タケルは腕を組んで黙って聞いていました。タケが話し終わると、しばらく間を置いて、ぼそりと言いました。
「竹から生まれたときに拾うたもんは、何でわざわざこの村まで捨てに来たんじゃろ?」
「・・・・」
姫から色々聞かされたとは言え、そこだけはまだタケにも姫にもわからない部分でした。最初に拾われた所で育てられていたら、もっと早くに地上に絶望して月に帰れたものを、と月は言っている、と姫から聞かされただけ。月からしたら、一瞬姿を見失い、次に見つけたときにはこの村にいたと言う。
「わしはどうやらずっと月に見張られとったみたいじゃ・・・姫は見張っとるんではのうて、見守っとるんじゃて言うとったけど。で、タケルノカミは自分が天へ帰るために、代わりにわしがここへ呼ばれたみたいなことを言うとった・・・けど名前つけられて人の守り神にされてしもうたから、わしが来ても結局帰れんようになった、て」 タケが昔の夢に残された言葉を思い起こしながら言います。
「タケルノカミは月とは別なんか?」 タケルの疑問は続きます。
「そうじゃな・・・姫もタケルノカミなんか知らん言うとった。わしが話して聞かしても何のことかわからんみたいじゃ」
「タケルノカミが自分でお前を呼び寄せたわけでもないんじゃろ?」 確かめるようにタケを見つめるタケルの視線が固まりました。「かぐや姫の上に月がおるなら、タケルノカミの上にも・・・」
「・・・何かおる・・・? 月にもわからんもんが、もう一つ・・・?」 タケが青ざめてきました。
「もしかして、そいつがこの後も何か絡んでくるとしたら・・・」 タケルが言うと、
「物語の通りになるとは限らん⁉︎」 二人が互いを凝視し合ってほとんど同時に叫びました。
「・・・お天道様なんか・・・?」 タケがつぶやきました。
「じゃとしたら、わしら、もしかしたら、日と月に遊ばれとんのか?」
タケルの言葉にタケは唖然としました。自分が『月の人』なら、自分はこの地上を弄ぶ側の者ということに・・・!
「そんなことあるはずないわ!」
一気に『人』の感情が押し寄せてきて、タケはタケルの胸に身を投げて泣き伏しました。
姫のことが分身のように思えてきたとしても、タケにとって、この地上は絶対に失いたくない世界でした。タケルは今も抱きしめてくれるけど、いつまでも、未来永劫に、抱きしめてほしいと思うのです。




