第42話 消えた黄金
タケとかぐや姫が会っている頃、村ではまた別な騒ぎが起こっていました。
相変わらず竹からは大量の黄金が生み出されています。それを竹職人のおじいは今日も袋に詰めて、親戚の若者に「はい、今日の分」と言って渡します。預かった若者は窯場の道具小屋に納めに行くのです。黄金が出始めてからおじいに呼ばれて以来、その若者が運搬係のようになっていました。そして今日、若者は異変に気がついたのです。
そう毎度袋の数を数えているわけではないのですが、前回来た時には何段かに積み上がった上の、新たな段の一番左端に袋を置いたはずなのです。今日はその隣に二つ目を置くつもりで来たのですが・・・
その一つ目がありません。
もちろん、小屋には錠などついていませんが、黄金などこの村では何の用もなさないのですから、誰かが持ち出す理由もありません。鍛治士が材料に持って行くにしても、足元に別に口を開けた袋が一つ置いてあり、そこから必要な分だけ取って行くのです。もし鍛治士が一袋使い切って新しく袋を開けたのなら、空になった袋が置き場所になければなりません。空の袋を回収するのも自分の仕事で、他の者が手を出すはずはないのです。が、小屋の中やまわりを探してみても空の袋はどこにもなく、それどころか鍛治士は最近来てないのか、口の開いた袋は前回と様子が変わってないようです。中身もまだたくさん残っています。
一袋丸々のうなっとるて、一体誰が・・・?
ここでは用がないとは言え、外の世界では莫大な富になることは誰もが承知しています。しかし、その『富』が実際どういう感じのものなのかがわかっているわけではありません。同じく『貧しい』ということもよくわからないのです。
・・・誰か、色気づいたもんがおるんか・・・? この村の、平和なゆるゆるとした暮らしよりも、富を巡って争うような暮らしに走るヤツが出た・・・?
若者はわからないなりに、最近外から来て居着いた『弥作』という男から聞いた話を想像してみました。
そしてとりあえず持ってきた袋を左端に積むと、まず竹職人のおじいに知らせるべく小屋を飛び出して行きました。
知らせを受けたおじいが小屋に急行し、呼びかけて集まった多くの者と共に袋の数を数え直して実際に一つ足りないことを確かめると、村で一斉に袋の捜索と心当たりの者の聞き込みが始まりました。数が足りないのが問題なのではなく、そういう事態が起こることが問題なのです。
そして、人間も一人足りなくなっていることに村人たちが気がついたのは、探しあぐねて、みんながおじいの家に戻ってきた日暮れになってからでした。
いました。確かにひとり。
重い袋をカゴに入れて背負い、村の隠し山道を越えて行った男が。まだ夜も明けきらぬうちの脱出行でした。
村では珍しく一人暮らしをしている男でしたが、そろそろ所帯を持とうかと村人たちに相談し始めていた矢先でした。
五年ほど前にこの村に入ってきた『弥作』と名乗るひとりの男―――。
村で蓄えていたなけなしの年貢米を盗んだという濡れ衣から投石に遭い、真犯人が捜されることもなく一方的に村から追放され・・・
昔に聞いた『伝説の村』のことを思い出し、どうせ行き倒れるも同じと命を断ったつもりで身重の女房と共に『あの山の向こう』を目指したのです。投石で傷を負っていた女房は山越えに耐えきれずに寸前で命を落とし、供養のためにもと弥作は山越えを成し遂げようとしました。
そこで、お決まりの崖落ち、助けられ、療養し―――。
村人たちは、ここが伝説の村である、とは言いませんでしたが、間違いないと信じました。
求めて来たものの、村の、見返りを求めず、互いに提供し合うという生活に、それまでの生活とのあまりの落差のためかなかなか馴染めず、村人の声かけにもどちらかというと孤立したがるような感じでしたが、やがては少しずつ村に溶け込むようにもなっていきました。そのままもう五年近く過ごして来たというのに。
道中で女房を亡くしていることもあり、この村でもなかなか嫁を取ろうとはしませんでした。が、少なくとも、出ていく理由があったとは思えません。村の掟にも従って『比奈田』という苗字も村人と相談して考えました。女房の名前までは言っていません。それでもようやっと、心が落ち着いてきたのでしょうか。ぼそりと嫁の相談をし始めていた矢先なのです。
それとも、黄金を手に入れて、それを元手に元の村かどこかで何かをやらかす気にでもなったのでしょうか・・・?
村では行方知れずになった弥作を捜索すべきかどうか、文庫の部屋に集まって夜遅くまで話し合いが持たれました。
その場にはタケルも、そのまま部屋にいたタケもかぐや姫も出ていました。タケの隣で今も輝いています。今はかぐや姫よりも重大なことが起ころうとしているのです。村人は姫を眺める気持ちにはあまりなれないようです。期せずして姫と話をすることになってしまったタケは、結局姫が興味深げに文庫の本棚を見てまわる間に冊子を仕上げることになり、そのあとも姫と言葉を交わすうち、何だか姫が分身のように感じ始めていました。そう。双子の片割れ?とはこういうものかも知れない・・・と。
タケルも小屋で袋の数を確かめた一人でしたが、話し合いをするとなって文庫の部屋に来ると、わらわらと集まってくる人々の間にタケと姫が何ということもなく並んで座っているのを見て驚きました。タケの隣に場所を取ったタケルはタケに目で問いかけると、タケはその視線に応えて「ようわかった」とだけ言いました。見ると、タケと姫の並んだ膝の間で二人の手が絡み合っています。まるで年老いたタケと若い姫君とが親子か、孫のようです。
やがて、竹職人のおじいが皆の前に立って話し合いが始まりました。タケルはとりあえず今は気持ちを話し合いに向けることにしました。




