【三章第四十話】 始まりの歌
人間如何やったら後悔を拭えるのでしょうか?
俺は如何戦えば良かったのでしょうか?
俺はどう生きれば間違えなかったんでしょうか。
いいや、最初から俺は間違えるように仕向けられていたのでしょうか、間違えるためだけに造られたのでしょうか?
訳が分からない、理解し難い。
運命とは宿命とは、鬼とは神とは一体何なのだ。
奴らは俺に何を求めているのでしょうか? 美優は一体何に成ってしまったというのでしょうか?
押し寄せる血の斬撃を切り裂く、断ち切る、薙ぎ払う。
「クサナギ、クサナギ、クサナギ」
それを抜けた所に待ち構えている烈火。
「そろそろお前もしつこいぞ」
影を開放して敵を真っ二つに切り裂く、いいや違う。突き出された槍を寸でのところで避ける。
敵は死んでも、斬られてもいいんだ。斬られること前提で戦っている、骨も身も肉も切らせた上で相対する敵を断とうとしているのだ。
レイを倒さない限りは此奴らは死ぬ事は無い。倒しても倒しても無限に立ち上がってくる不死者。
銃があれば如何にか出来てたんだろうな。
赤く救いがたい人を捨てた裏切者の成れの果てが迫る。
「はぁ、仕方ない」
その言葉の後に人の形をした血は一瞬にして細かく分解され風雨となる。
白銀の髪が風に飛ばされ宙を舞い、レイから離れた毛はキラリキラリと存在を主張しながらゆったりと落下する。
これでやっと姫君を守るものは誰も居なくなった。手の内を締め、握りを強くしレイに向って斬りかかる。
「あまりこの体で白兵戦はやりたくないなっ」
レイは腰の得物を抜き放ち周囲の血を寄せ剣の厚みを増させる。禍々しく刺々しい大剣を少女は軽々と振るって見せる。
刀と深紅の剣が打ち合う。
「届いたな、俺の刀はやっとお前に届いた」
敵の剣は芯となるサーベル以外は自由自在に姿形を変えてくる。打ち合っても透かされたり巨大な剣で防がれたりと中々此方の思う通りに戦いを進められない。
――ならば……。
身を押し出し一気に距離を詰めて刀と剣越しの力比べに持ち込む。
「なに、まだお主の武器は我の身には何一つ届いておらんよ」
レイの周りの血が形を持ち始める。
一つ。
この打ち合いで分かった、敵は素人だ、戦い慣れしていない。確かに法外にルール破りに近い位に強い、だが……。
此奴は俺としか戦っていない、此奴は肉薄した、肉を斬り合う距離の所まで詰めると途端に周りが見えなくなるようだ。
てっきり鬼は戦い慣れしていると思っていたよ。一対多数を何度も何度も味わい旨味も苦みも味わってきたのが鬼だと思っていた。
能力を使いこなせてはいるが能力を理解していない。場数を、経験を積んでいない。
多分此奴が力を持ったのはそう遠く無い日だろう。
ならば付け入ることが出来る筈――。
「それはどうかな」
そのまま左に逸れる、レイとの一体対一を放棄するのだ。まぁあのまま鍔ぜり合ってもレイの能力を展開され傷を負うのも目に見えていたしどの道あの勝負から逃げるつもりでいた。
「いい働きだわ、大和」
俺の後ろから現れた美優の一振りによってレイの右の腕が飛んだ。
飛んだ? これはそうなのか? いいや……。
目の前の鬼の平然とし、腕の一本取られたことを何も気にしていない様子をみて俺は悟った。違う、レイはあえて右腕で受けた、体を守るために、そしてそれ以外にも何かの思惑があり意図して右腕を美優の刃に奉げたのだ。
少女の無垢な笑顔が一気に悪鬼の微笑みに見えてならない。
「このような一撃今更痛がるとでも思ったか? 女」
肉を切らせて骨を断つ、敵は肉どころではなく骨まで断たれているが……。
――直感が告げる。
何一つ痛がった表情を見せていないレイは大胆にも腕の切断面を美優に見せつけるように突き出した。これはやばいぞ。そのまま刀を振り上げた。
「死ね女よ、死ね神の使いよ。貴様に紫水の隣は不釣り合いだ、隷奴にあの席は不似合いだ」
切り口から腕の代わりに紅く濁った鎌が美優に向って放出される。
「きゃぁっ」
怯えた声が小さく微かにだが確かに美優から漏れ出る、声すら出ないほどにこの逆転劇に驚いてしまっているのだ。
とっさの事に風も対処も出来ていない。
「糞ッツ」
影を開放してレイの血で作られた鎌に向って黒い刃を振り下ろす。
「甘いな英雄、お主にそんな甘さがあったとは。この者を見捨て我を狙えば我も無事ではいられなかっただろうに」
レイの口角が上がる。
「こんなことでは我は止められない、お主は大きな間違いを犯した。今仕留めておくのが最大の好機だったのになぁ、次は無い」
真っ二つに断たれた鎌は地面には落ちずレイの右腕に再度集結し始める。いや、それだけではない。
レイの周りに血が集う。体に付着した血も血に濡れた服からも血を染める赤も刀に纏わりつく朱も全て姫君の思いのまま、命じられた通りに動く。
「一旦引くぞ美優」
そんな言葉をかけても彼女からは返事も返答も強気な発言も何一つとして帰ってこない。さっきまでの威勢は何処に行ってしまったのか。
今までのあの超然とした雰囲気は、俺を簡単に切り捨てたあの冷たさは……。
「ふっ、命のやり取りも碌にした事のない小娘がしゃしゃり出た結果だ。神や御仏には味方されてもお前がそんなのでは一度死んでいる、死を踏破した鬼には勝てんよ」
しょうがない。
どうしようもない。
荒っぽく襟首を掴んで強引に美優を後ろへ引っ張る。勿論敵はそうやすやすとは逃がしてはくれない。
美優をモノのようにに突き放し追撃に来た血の棘に刃を突き立てる。
俺がライトノベルの主人公だったらもっと華麗にまちがえなく間違いもなくこの状況を対処出来ていたかもしれないなぁッ。
「その程度か、この程度か、あの者たちはこの程度の者達を選んだというのか……」
ああちょっとは後悔しているよ、もし俺が彼奴らに与していたならこんなことにはならなかっただろうな。
もっと強くなれていただろうし、もっと上手に美優を守れてもいただろう。
そしてこんな時に道満も莉乃もいない。
いや、普段は散々邪魔するなとか言っておいてこんな時だけ彼奴らの助太刀を期待するのは虫のいい話だ。
今回くらいは、この因縁くらいは俺の手で片付け、手打ちにせねばならん。
少し戦い方を変える、大きく考えを変える、恐怖を痛みを超越する。この俺が此奴に勝つにはこうするしかないだろう。
「信者に、鬼武蔵に、武蔵の従者、そしてレイ」
「それが紫水の力だ。お主には越えられない仲間という、結束という壁だよ」
「そうか、そうかじゃぁ……」
息を吐き力を抜く、戦いに全てを掛ける、己の全てを戦いに特化させる。
一歩しくじったら死か達磨か欠損か……。
「お前ら全員を殺したら紫水はどんな顔して俺に怒ってくるんだろうかにゃぁ。彼奴はどれだけ強い復讐心を持つんだぎゃぁにゃぁ」
「クッ……」
何かを言おうとして止めるレイ、ただ着々と俺を確実に殺せる量の血の武器が宙で生産されて行っている。
「美優力を貸せ、動機や理由は何でもいい。そんなところで棒立ちしているんじゃなく何でもいいから目の前の此奴を殺す手助けをしろ」
返事も返答も何もない。
周囲はまるで嵐でも起きそうな位に静まり返っている。
「さて魔術も能力も固有結界も持たない俺が、たった3本しか剣を持っていない凡夫な雑種がお前相手にどれだけ立ち回れるだろうか」
クルッ。感覚がそう告げる。
「敵は我が想い人を殺そうとする者草薙大和、敵は母を殺した女と同類のそこにいる卑しい雌」
血の義手を纏ったレイはサーベルを振るい臣下たちに号令を出す。
無数の武器が迫る、無数の命が俺を殺しに掛かる。
「美優、いいんだな。此奴が紫水の隣を独占するのをお前は許すんだな」
俺は知っている、俺は知っていても尚更期待するタチの悪人間だ。
打ち落とす、回避する、次々と襲い来る深淵を紙一重で突き放していく。彼奴と俺は同類、美優と俺は似たり寄ったり。
似たり寄ったりだから魅かれ合うんじゃなく遠ざけ退けられた。
彼奴も俺も自分の命がとっても可愛いんだ、大切な人に命を投げ打てるほど余裕がないんだ。余裕がないからこそ必死に余裕のあるフリや装いで周囲と接する。
――余裕がないからこそ余裕を作るために凡夫な俺たちは何かを捨てなければ、何かを捧げなければスペースを作れない。
紫水の事を口に出せば多少なりとも美優は此方に戻ってくる、此方に戻ってしまえば途端に命が可愛くなってきてしまう。
死を前にしたら俺も美優も諦めるのではなく見苦しく足掻く。
電流が走る、電撃が体を貫く、耳の感覚が段々薄れ拍動は強くなる。
口角が上がる、気持ちが高揚する。
死の舞踏。
理不尽なまでの蹂躙、強敵、狂的、チート。
体に刺さった剣はすぐさまドロドロとなんにでも混じってしまうただの血に立ち返る。
ふっふっふっ。
突風が周囲の紅い塊を細かい水滴へと変化させ、一瞬だけでも血の雨は止み晴天と静寂が訪れる。
「ハァハァハァ、これで文句ないでしょ」
震え、そして息の上がった声が揺れる風音と共に耳に届く。
「ああしっかりしてくれよキャスター」
あれ返事がないな……。
「厨二臭い、昔の貴方はそんなんじゃなかったはずよ」
えっ魔術師だの戦士だの言ってたのは貴方では……。
腰の刀を抜き美優を信じてレイに向う。
「そうやすやすと何度も同じ手を喰らうか」
眼前まで、焼かれる寸前まで引き付けた第六天魔を勢い任せに袈裟懸けに斬り落とす。
「美優」
「長可」
炎は風を飲み込み、そして風は猪突猛進な火の勢いをその場に留め周囲に熱とエネルギーを放出する。
「もういい加減お前も眠れ、織田の家臣よ」
オレンジ色の戦後の夕暮れは互いを隔て何者の覗き見を拒む。
「クサナギ、シスイサマ、レイ、カミノツカイ」
炎のような靄になってまでも、姫君の隷属に落ちてまでも彼は未だに立ち向かおうとしている。心に一つの業火を炊き続ける戦国武将。
最後まで、最期まで、死んでも、二度死んでも尚未だに諦めを捨てず立ち向かい続ける乱世を生きたもののふ。
徐々に徐々にだが意志を持った薄い紅蓮の塊は前進し大きく体を広げて俺を飲み込もうと迫り……。
レイの位置は大体分かっている、草薙大和からの特別なプレゼントだよ、っと。
放たれた刀は勢いを増し固執で出来た黄昏の幕を突き破り駆ける。焔を突き抜けた刀はレイの盾となった血の兵士たちを粉砕し寸分違えずレイの心臓を捉えた。
捉えてはいた、狙いに狂いもなかった、だけれども、それでも届きはしない。
「痛いじゃないか大和」
右手の血の義手も左手の手の平も白く艶めく細い腕も鋼は何一つ差別なく貫き、切っ先は皮膚を擦っていた。
「血が流れる、我の血が流れれば流れるほど他者の血と我の血はより強く結びつきまた力となる」
あえて受けたのだよと言いたげだな、レイよ。 蔑みの籠った鋭く冷たいサディスティックな目で俺を睨むレイ。
彼女の眼の中には、周囲の血の中には妙に眼を光らせた男が立っていた。
「これでは終わらんよ」
「ああ、我もだ」
血はレイの回りの血はレイの命令に……。
従わないんだよ。
「あー痛かったぞ、痛い痛い。どうだ気に入ってくれたか?」
笑う、嗤う、哂う。
嘲る、罵る。
煽る。
「お主まさか……」
「ああ、痛みはあんまり感じないが分かるよ。腕に少しの斬り込みを入れるだけでも辛いなぁ、もう手が意識してないと勝手に震えて力が抜けていくよ」
血が落ちる、血が流れる。
血が混じる、血が同化する。
レイの命令には従わない生きた者の血。彼奴の能力は死者の血を自在に操ることが出来る。死者の成れの果てが大半の鬼にはそれはとても脅威だ。
彼女一人で莫大で茫漠で計り知れない戦力となる。
死した者なら一瞬にして内なる血をレイに支配され中から裂け爆ぜさせられる。
ただ生者として鬼になった道満にはそれが効かなかった。
俺もあれからお前の対策を昼夜考えていたんだよ。
レイの自らの血を周囲の血に混ぜることによって周囲の血を自らの血と同じモノにしていた。
じゃぁそこにある血は、死者の血に俺の血が混じったら……。 それはどうなる、それはもはや死んだ者の血と言えるのか?
レイは刀を引き抜き自らの支配下のいない所に捨てた。
「あんまりやりたくはなかったけどやっぱり効いたな」
「防御」
周囲の俺の血が混じってない所をを全力で搔き集め防衛に当ててくるがそんなこと気にせずに刀を振り下ろす。
「このまま押し切る」
「させぬ」
地面を濡らす血が針となり俺の足に突き刺さる。
腿の裏が貫かれる、だがいい。それはいい、此奴を倒すには多少の代償はいる。俺は戦い方を変えた、急所に致命傷さえ避ければそれでいい。
ぐうううう。
腕と足がガタつき悲鳴を上げる。
大段上から大きく振りかぶって雷光の如く刀を振り落とす。
「その腕ではきついだろう、人間」
紅く固まった血の盾がレイを守り、火花を散らせぶつかり合い軌道が逸れてしまう。
「これが想いの力だ」
「心臓は無理だが身の一つくらいはくれてやる」
作り上げられたの血の姿の兵士の刀が横っ腹を突き刺した。何とかだが別のモノの心臓に迫る一撃だけは防ぐことが出来たが。
貫通とまではいかなかった確実に刀で腹を突かれた。
「満身創痍だな」
「お前もな」
倒れ込むように体を捻る。
周囲にはレイの兵隊や武器四方八方から俺を穿とうと迫り来る。
「ふっふっふ、敵は俺一人ではないぞ」
「貴様、オンナ……。お前、お前は」
鎌風、ソニックブーム、多分それはそう呼ばれるものだろう……。
鋼鉄と同義の鬼の体をも真っ二つにする美優の冴えた鋭い風による一撃が放たれた。
それでも吹き飛ばされて尚も倒れていないレイの腹には深い深い紅い一閃が走っている。
「腹の中の子供まで切り裂く程の嫉妬に狂った女、お主はそれだ、まさしくそれである。我が等しく憎む存在、愛を得る為ならなんだってやる人種。お主は力を得るために、紫水の隣に入れるだけの存在に成り得る為だけに神の奴隷となったのか」
切り裂かれたレイの皮膚は、血肉は全てが全て血で補強され、そして……。
「私はもう恐れない、紫水を誑かす悪鬼羅刹を私はこの手で」
ツッ。
姫君のサーベルは血と影と纏い美優へと直進し、顔を、右の眼を斬った。脳天を勝ち割られるよりはマシだが女の子としてはこれは一番辛い仕打ちだろう。
ただ美優は進んだ。
自分の顔の傷を代償としてレイに十文字に斬った。
「ハァハァハァ、我はまだ死なんよ」
普通の人間ならこれで死んでいるだろう、いやさっきの一撃でもう死んでいた。ただ敵は体を震わしながらも後方に飛び逃げる余裕さえ残っている。
「我はそもそもが人ですらない、だからこのような傷で我は死なない。残念だったな神の使いよ」
お返しだといわんばかりに美優の腹に血で固められた剣が突き立ち解けていく。
レイの周りに血が集まり、光る。刀を握っていた手がだらりと下がり美優は口から血を吐き噎せ返る。
「このままではちと我に分が悪いな、悪いがこの勝負は……」
グッとレイの胸ぐらを掴み傍に寄りピッタリとくっ付く。
「どこ行くの~、レイちゃん? もしかして紫水の所? それとも王様や将軍様の所? 何処でもいいから俺も連れてってよ」
前のように逃さないし取り逃がす気もない。
こんな手負いの俺だが、これだけ負傷し血を流し傷を晒している俺だが最後まで足掻き倒してやる覚悟はある。
レイに触れた途端に体を含めた周囲が輝きを持ち始める。
例え鬼の領域に送られようが、例え紫水の元に送られようとも散々に抵抗してやる。
そして……。
「ダメダ、ダメダ。此奴を、この男を紫水の元には連れてはいけぬ……」
ビンゴ、此奴はやはり紫水の元に飛ぼうとしていた。
視界が霞む、片足は正直もうほとんど使い物にならないし手も段々力が抜けて行っている、紫水や鬼たちの所に連れていかれたら勝てる気だってしない。
それでも、それでも、俺は……。
紫水に打倒されるなら本望だ。
だがレイは俺の気迫に恐れてか、俺を紫水と合わせたくなかったのかは知らないが飛ぶのを躊躇った。躊躇ったら此方のモノだ。
「俺の勝ちだ」
レイの腹に黒々とした暗黒を纏った刀が突き立ち、貫き突き抜ける。
そうして刀の柄から手を放しもう一本の刀を手に取り……。
「我は死なぬぞ、我は概念、血は受け継がれる。我は人に成れなかった少女の種の意思に宿った鬼。何度でもお主の前に立って足掻き姥貝て苦しめてやる。これで勝ったと、これで終わりだと思うでないぞ」
レイはハッキリと自信をもってそう宣言する。まるで死を恐れてはいない、まるで死ぬことを何とも思っていないように見える。
これで死ぬのか? という疑問すら過るが。
血が脇腹を腿を肌を肉を切り裂いていく。崩れ落ちる姫君の最後の足掻き、最後の攻撃、必死の、懸命の抵抗。
「じゃぁ、死なないのなら最期に、紫水に会ったら伝えろ」
何処からともなくそんな言葉が零れ落ちた。
血の姫君を、紫水の仲間を俺は……。
「シスイ、少しの間お別れだ。大丈夫だ、大丈夫、心配するな。また近いうちに我は其方の隣に行くから」
肩から腰に掛けて肉も骨も鬼の剣は断った。
「次こそは、今度こそは、『如何か俺を、こんな俺を助け救ってくれ』と」
美しい銀髪も、愛らしげなその身体も剣は等しく両断した。
レイを斬るとともに一気に世界に光が差した。立ち込めてた赤黒いものが全て消え失せたのだ。
この一撃を加えると共に意図せずとも足が勝手に嗤う、ガタガタと俺を嘲り手も震え始める。
レイの死体は起き上がりも立ち上がりもしない、あれだけやたらに騒々しく周囲に漂っていた血の霧も晴れ光が照り付けてくる。
「ハァハァハァ、ああ何度も死ぬかと思ったよ、何度も諦めかけたよ」
美優の方を見る。
美優はお腹を押さえながらへなりと地面に座り込んでいた。
「大丈夫か美優……」
顔には深い傷が残り血がダラダラと流れ落ち腹には少々だが風穴開けられている。
「ええ、これ位の傷で死ぬ事は無いわ、それが私が得たギフトの一部だもの……」
ゼイゼイと息を吐きながらも美優は答えた。
「それより貴方の方こそ大丈夫なの? 今の貴方を見たら多分莉乃さんは……」
「それ以上莉乃について喋……」
グッ。
ぼけた視界でそれを捉え無理やりに体を動かし、美優に下段から刀を振り上げた。
いや違う、正確に言うなら美優を守るために美優をすれすれで避けながらもその飛来物を防いで見せた。
「なんだよ、水を差すなよ。殺されたいのかお前? 相手をしてやろうか?」
地面にクナイが落下し音を上げる。
目の前には清和軍の格好をした兵士がクナイを再度装填している。
「お前鬼だな、俺には分かる」
「見破られてはこの見せかけという術は意味を為さないな」
そういって鬼は鬼神教の信者の姿に化ける。
と同時に手に持っていたクナイを此方に向って投げた。
カーン。
クナイを造作なく叩き落す。
しかし――。
目の前の敵は消え、何処にもいなかった。
「姫君が敗れるとはな……。特等席での見物中々に楽しかったぞ、英雄」
何処からともなく風景からそんな声が発せられる。
「出て来い、戦ってやる」
「今回の私の役目は寸分違えず結果を伝える事、そしてお前たちを見極める事。故に此度は引かせて貰おう」
それ以上にいくら呼び掛けても返事がなかった。
それどころかちょっと心を緩めただけで勝手に膝からがくりとその場に崩れ落ち、手の刀はウナギのようにするりと抜け落ち地面にポトリと落下していた。
次の瞬間に突如として視界から色が消えた。
これにより整った。
金剛美優が欲するモノを手にする手筈が整った。
――それによってレイも欲していたモノを手に入れてしまった。
しかしまだ草薙大和は知らない。
彼は未だにいいように使われてばかり。




