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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第十四話】 Daydream café

 音楽は鳴り響く。

 場違いなまでの明るく可愛げな音楽は。


 跳ねたくなるようなふわふわした音楽を鳴らすスマホは地面に落ちてなおもいまだに音を奏でている。

 ついさっきまでそんな曲に唖然としていた鬼だが今は唯々地面をゴロゴロと目を押さえながら転がっている。

 時より吐瀉物を巻き散らかすやつも、そしてその吐瀉物の上を気にせずにゴロゴロと転がるばっちーい、鬼もいる。


「トゥラ、 トゥラ、トゥラ。ワレ奇襲ニ成功セリ」


 それはあまりに唐突で、あまりに見知らぬものであった。

 皆が皆その間の抜けた音楽のなる方を注視してしまっていたのだ。


 これは勝てる。勝てるぞ。


「たかが普通の攻撃が通らないだけで驕っているからこうなるのだよ。お前らとやり合う方法なんていくらでも存在する」


 たかが敵は普通の刃物が通らないだけでここまで驕り高ぶっていやがる。


 紅蓮の火焔はその身を焦がし焼き尽くすのに。

 冷たい水の中に首を押さえて沈めてしまうと数分で動かなくなるのに。

 体内に害のある毒物を流し込んだだけで簡単に臓腑は機能を止めてしまうのに。


 人間の弱点を数個無効化しただけでこの様だ。人でいられなかった、ヒトでいるときに事を成せなかった負け組の癖して。


 焼死、溺死、窒息死、毒殺、圧殺ETC・ETC、お前らに有効打を与える方法など幾らでも存在する。

 現にお前らの尻尾を人間の化学力は掴んでいるのだ。


 ついさっきの閃光弾が正にそれだ。敵は大いに乱れきって混乱を起こしている。


「さぁて最後の無敵時間だ。さぁ諸君ら思いのままに刈り倒すがよい」

 付けていたマスクを外し、手に持っていたマスクが地面に落下すると同タイミングで一帯に爆音が響いた。


 しかし一帯に曲は未だ流れ続けている。


「さぁ声を出せ、光の暗黒に包まれた敵に恐怖を与えろ。声で兵の数を増やせ、四面を楚歌で埋めろ」

 世界は昼のように明るく人類が作り上げた疑似的な太陽によって照らされた。


「オオオオオオ」

 兵士たちの叫びは一帯を揺すり、草木を伝い鬼へおも伝染した。


「ふっふっふ、あんよがじょうずってな。さぁよちよち歩きでもうまくうばってみろよ」

 余程の強者なのであろうか敵の鎧武者が一人刀を手に取り覚束ない足取りでよたよたと得物を振り回しながら向かってきている。


「ウオオオオオオオオオオ」

 右も左も分からぬ鬼はただ声のする方に進んでいた、ただの感覚に任せて体を動かしていた。


 しかし一帯に広がる音声の波に飲み込まれてこいつは周りを認識できなくなっている。


 兵士たちは思うがままに地面をのたうち回っている敵をまるで稲刈りのようにスパスパと刈り倒していっている。


 負けちゃいれないな。


 鎧武者の正面に堂々と立った。

 流石はと言った所か。鬼は落ち等の存在に気が付いて刀を振るった……。


 刹那、刀が敵の肉に到達する前に首は宙を舞っていた。

 敵の重厚な糸脅しの鎧に包まれた同は膝をつき崩れ落ちた。

 


 オッっーと。



 視界が開けた瞬間に到達する刃。

 それはフライパンすらもいとも簡単に貫くと有名な軽量的な武器だ。


 一重にこれを見た人類は、容易く敵を見た人間はこうゆうだろう【忍び】。


「お前が敵の大将か?」


 目の前に立ちはだかった黒装束の男にそう問いかける。


 音もなく、声も話も無く、男は飛翔した、ご自慢の手裏剣の投擲という土産までつけて。

 男の後ろからは一匹の閃光を回避した鬼が刀を抜いて此方に突進してくる。


「ハリマや……」

 飛んできた武器を容易くかわすと同時に我が家臣に命令しようと。



 目の前の鬼が血を噴き上げバタリと地に伏せた。


「ヒュウ。なかなかやるではないか、お前名は?」

 目の前の鬼は切り殺されてしまった、俺より年上の最初にこの隊の事を説明したあの男に。


 意図も容易く。


「伊勢大河です、以後お見知りおきを」

 返り血塗れの階級の尉を表す色の軍服を着た男はそう答えた。


「助太刀した方がよろしいでしょうか? 英雄」


「イラン。奴は俺の獲物だ。これ以上の助太刀は無用」

 伊勢を打ち倒さんとサーベルを抜いて向かってきた軽装の明治の軍服を着た鬼を斬り倒した。


「了解」

 男の存在はそのまま俺とこの忍者だけの世界からフェードアウトしていった。


「さぁて続きをやろうぜ御大将さんよ、この清和の英雄くッ」


「語るに及ばず」


 此方の名乗りを効きもせずに男の両手から棒状の軽くて薄い剣は放たれた。


 地面を蹴って一気に速度を上げて敵の側面へと走り込む。

 放たれる手裏剣や苦無を回避しながら。

 敵の武器は音を上げて加速する。


 回避。


 次弾来るッ。


 カキーン。


 一帯に甲高くそしてとにかく大きな音が響いた。

 棒手裏剣は宙を舞い地に迎撃された。


 それは鬼の武器ではなくただの武器であった。

 そのまま盾にした鬼の胸に剣を突き立てた。


 そしてそのまま……。


 剣を突き立ててままこの鎧武者ごと敵に向かって突進していった。


 それはそれは見事な盾であった。光を上げながらも肉体の硬さはまだまだ残っている模様で鬼の皮膚に触れた刃は皆無力化され地に落ちていっている。


 鬼の胸に突き立った剣を闇に消し去り山城が敵の体に吸い込まれて行った。


「ふっ、童が」


 鬼の腕から生え出た鍔なしの刀によって此方の攻撃は意図も容易く無力化されてしまった。

 そして大将は自身の身体能力を活かして飛翔して距離を取った。引きざまにギラリと輝く刃を放ちながら。


「甘い」

 着地地点一帯を法師の刀が薙ぎ払った。


「ほう、そのなりで人類に味方するというのか」

 刀をや糧に持ち直して法師の剣戟を止めた。


 法師の次弾。


 男は手の中で器用に刀を回し、持ち替え敵の動きを封じていっている。

 火花と鋼の音が一体に鳴り響いている。


 今のところは状況は拮抗……。


 だが……。

 それは一対一での話。


 御大将の額擦れ擦れを山城は通った。

 朱い生命の一筋は敵の額から重力に従い引き摺られ地を染めた。


「お主一角か」

 男の額から禍々しき、そして立派で鋭利な刃物のように尖った角が形作られた。


「なんだそれ?」

 独り言のようにだが法師に聞いてみせた。


「鬼の一角。最上位種が得ることが出来る能力を捨て去り代わりに身体能力が最上位種以上に格段に強化される種です。最上位種の端くれという鬼もおれば、最上位種よりも強い鬼というモノもいます。この種に選ばれるヒトは道半ばに打ち取られた武術家が多いです」


「ほお、此奴は変な力は使ってこないのか」


「はい。彼らはとっくの昔に力を得る代償として術は棄てていますから。彼らの中には武という一字を極限まで突き詰めることしかもう残ってはおりません」

 鬼は持ち方を変えて斬りかかって来た。


「手出し無用。これは此奴と俺との戦いだ。お前は梅雨払いだ。一人でも多くの雑兵を討ち取れ」

 それに此奴には聞かねばならん事がある


 此奴と相対した時に流れ込んできた不自然な他人の記憶について。


「ワッパ鬼の戦い方というモノを教えてやろうではないか」

 闇が敵を包み込んだ。



 巨大化……。


 敵の体躯が一回り程大きくなり、そしてそのまま飛翔。

 敵の剣が刀の身を叩いた。


 すぐさま敵は刀を引き戻し、そして……。


 あれだけがっしりと太かった腕が、今度は猿のように細長い腕に切り替わっている。

 目にも止まらぬ敵の一撃。


 切り返しの斬り返し。

 敵の背は縮み空を切り裂いていた。


 だが此処では終われん。

 そのまま稲妻のように角を付けて刀を振り下ろす。


 地を転がり敵は此方の攻撃を躱した。


 休む暇も与えてはくれない。


 間一髪のところで敵の大段上からの切り下げを躱す。


 きらりと光る敵の玉鋼。

 その瞬間、本能の命ずるままに敵の腹を蹴り後方に数歩引き下がった。


 小刀による奇襲は失敗かと思われたその矢先、敵の腕はまた大きく変貌を遂げた。



 マニアエッ。



 刀は小刀を地に叩き付けていた。


「姿形を厭わない鬼だからこそ出来る芸当か」

 手裏剣の飛来。


 横に少し反れて紙一重の回避を……。


 クッまだまだか。


 回避、回避、回避、回避。


 回避ッ。 



 できない……。


 刀を棒状の武器に当てることによって何とか難を逃れることは出来た。


「近中距離はその迫るように操ってくる刀で対応して長距離となると手裏剣が飛んでくる、やりずらい相手よのう」

 男の体はボコボコと膨らみ始め、それが形木菟られた瞬間に……。


 ガギン。


 兜割の如き一撃が上空から振り落ちて来た。


 重さも、力もそこには乗り切っていた。

 脚が全てを支えている。此処を引いてしまえば命などはない。


 渾身の力を込めて……。


 何とか少し押し返したのを見ると刀を抜いた。


 堰を切った川のようにそれは瞬く間に降下したが……。

 間一髪を躱し、手に向かって剣を薙いだ。


 刀は地へと叩き落とされてしまった。


「さぁて得物を失ったぞ、どうする? どうする?」

 男の体目掛けて剣を振り放った。

 男は腰の辺りから何かを取り出すと。


 ガキーン。


 アブッ……。



 ナイッ。



 体を後ろに引いて敵の攻撃を躱す。

 あの佐々木桔梗の鎌とは比べ物にならない小さな鎌の周りには鎖と分銅が巻き付けられていた。


「鎖鎌か?」

 脊椎に向かって放った鎌が躱されるのを見るや敵の鬼も距離を取っていた。


「自身の命などイランといい何の危惧も無く肉を断ち切り、敵の骨を断つ一撃をかましてくる割には、此方の命を狙った攻撃はちゃんと身躱してくる。相も変わらずやりにくい敵だ、死兵め」

 鎌の周りに巻かれていた鎖は主人の許しを得て自由にそして雄大に広がった。


「ただし、某はそんな男の攻略に今までを費やしてきた。あの男を超える為、あの男のような化け物を次こそは討ち倒す為、某は此処まで鍛錬を積んできたのだ」

 鬼の周りを沿うようにそして絡みつくように分銅は加速し始めた。


「聞けわっぱ、我が名は宍戸、ただの宍戸よ」

 男の大音声の名乗りと共に分銅は敵に向かって投じられた。


 これを刀で撃ち落すと持ってかれる。


 鎌と刀がぶつかり合った。


 分銅はあくまでフェイクか。分銅に集中し過ぎると鎌が来て、鎌に集中すぎると分銅に頭蓋を粉砕される。


 一撃を防がれたとみるや、即時敵は間合いの外の外、分銅の間合いに体を寄せた。


「宍戸‼ おお、鎖鎌の達人宍戸梅軒か」


「ほう、私は後世にそう伝わっておるのか、鎖鎌の達人として。ただし某はそんな名前ではなか」



 口角が釣上った。



「ああすまんすまん。ただの剣鬼宮本武蔵に討ち取られたああ? 誰だっけ? 確か新免武蔵守もお主の名前は憶えてはおらなんだな。鎖鎌? せめて由利鎌乃介ゆりかまのすけでも連れて来いよ、なぁ宍戸某なる鎖鎌の使い手さん」

 カチカチと鎖がすれる音が耳の中に響く。


「黙れ小童が……。お主は許さん、お主は私が殺す。お主のような、あの剣鬼のような死ぬためだけに突き進む、己の道以外はすべて意図も容易く突き崩す奴は某が滅して見せようぞ」

 音を立て分銅の回転の速度が速くなっている。



 クル……。



 分銅は鎖に操られ蛇行しながら此方の体に迫って来た。

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