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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第九話】 光、再考

 桔梗とか言う奴の絶え間ない連打、そしてそれはどれも命を絶たんとする急所に向かって放たれる無駄のない一撃。



 上段からの斬り上げ、刀を当てて軌道をずらす。そのまま間隔を詰めての彼女の横っ腹に向けての切り返し。

 彼女はいとも簡単に攻撃を躱し、ついでと言わんばかりに刀を振り込んできた。


 一撃を躱して一刀を斬り込む。

 冷たく乾いた冬の街に火花が散った。


 力では此方の方が上だが中々鍔迫り合いに持ち込めそうにもない。


「どうです? 私の剣術もまーま凄いでしょう?」


 彼女から繰り出される舞いのような一撃を捌き……。姿勢を低くして足目掛けて刀を払う。 


 足が地面から離れる。



 ウッ……。

 繰り出された一撃を地を転がり回避する。


 即座に体勢を立て直して追撃を仕掛ける彼女の剣の軌道を反らし、そのまま加速して彼女に向かって蹴りを入れる。


「イタッ」


「そんなものは効きませんよ」

 この動作によりお互いの位置は反転した。


 後方では道摩法師と一人の青年が共に刃を交え合っている。


「お前は鬼か?」

 彼女の口角は釣上った。


「いいえ人ですよ」

 一気に間合いを詰めて来た彼女の一太刀目を躱してそのまま斬撃を放つ。彼女も此方の攻撃を蝶のようにひらりと舞の如く回避した。


 そして間髪入れず次の一撃を……。


 取った。


 彼女の腕を掴み取り剣の動きを止める。



「俺の勝ちだ」

 力のままに放った一撃は遮る物も無くただただ彼女の肌に向かって吸い込まれる。


「アハッ、こんなので勝てるとでも?」

 宙に吊り上げられた刀は突如虹色の輝きを帯びて……。

 即座に彼女の手を離して落雷の如く縦に降り注ぐ一撃を避ける。


 おっと、そのまま近くに突き立っている山城に手をだ……。

 鋭く研ぎ澄まされた斬撃が空を切った。

 あそこで手を出していたなら致命打を負っていた。


「いい加減お前もしつこいな。そろそろ倒されてくれると有難いんだが」


「中尉は全然わかっていませんねぇ。しつこさは女の子の特権ですよ。男のしつこいはただただ醜いだけですが女の子はちょっとしつこい方が一途で可愛ってことですよ」


 知るかよ。


「んなもん。俺の前で可愛い娘演じて何になるんだよ」


「夢も希望もない英雄さんに希望を与えている桔梗ちゃんやさしー的な?」

 彼女は唇に手を当てて首を捻った。


「いやいや、それただ単にうざいだけだから」


「めんどくさい方が可愛いんですよ女の子は」


「は? ナニソレ。女の子だから何でも許されちゃうのです的な謎理論は」


「恋する乙女は無敵なのさ。悪口も批判もルールも常識も気にしない気にしない」

 それはそれは謎の乙女哲学をどうもありがとう、お礼に刀の一閃をくれてあげましょう。


「おっと酷いですねぇ。英雄さんに女の子の扱いを教えてあげている先生に刀を振るなんて」

 お互いの刀は衝突してそのまま力は右に抜け墜ちていく。

 お互いの刀が右に反れた。


「そーゆの事言うやつは身内に一人いるんで間に合っている」

 彼女の表情が一瞬凍りついたような気がした。


「ねぇそろそろ桔梗ちゃんのアイデンティティーでもある鎌を使いたいんですけど」



「なら俺も山城を使いたいんだが」

 彼女は力の限り刀を起こそうとするがそれを力でねじ伏せ段々と間合いを詰めていく。


「山城ちゃんですか可愛い名前の刀ですね」

 扶桑型姉妹の妹の方の山城ちゃんですってな。


「そうそう、斎藤山城守利政ちゃんっていう可愛い名前した刀なんだ。だから早く使わせてくれよ」


「ちょーっとそれは無理ですねぇ」

 彼女の剣が此方の重しから抜けた……。と同時に一刀両断の勢いで斬り込んでくる。



 此方は何歩か引きいたがしかし。


「アハハ、やっと私の下に戻って来た」

 彼女は地に落ちた鎌を拾い上げるとそれを警戒に自身の周りで回し始めた。


「ハハハ。どうするんですか中尉? 私としてもそろそろ中尉には死んで頂けると嬉しいんですがねぇ」

 桔梗の一撃、身を捩らせ躱す。そして体を巻き戻しながら刀を振るう。


「あのーマジで山城を使わせてくれません?」


「ダーメッ」

 地面を大鎌の先端が抉った。


 透かさず内側に押し入ろうとするが彼女の巧みなまでの鎌捌きによってまた定位置に戻されてしまう。



 此方の刀を撃ち返して後ろに数歩引きながら衛星が回るかの如く刃が横をクルリと一回転。


 そしてそこから繰り出される大振りの一撃。


 ああこれは絶対にこの刀なんぞじゃ受けることなど出来ない。

 鎌の光が顕現し、大気を裂いた。


 回避、しかし彼女を勢いを殺すどころかよりいっそ威力を何倍も増幅させて次弾を放ってくる。



 これも避けるか?


「さっきから防戦どころか避けてばっかりですね。アハァ、英雄さんこれ以上私の攻撃を躱せるとは思わない方がいいですよ、NEえ」


 彼女の眼は大きく見開かれた。


 それはそれは獲物を殺すことしか考えていない空虚で一色に染め上げられた目だ。

 そして彼女は宙を舞った。


「行きますよ英雄、クサナギヤマトッ」

 振り上げられた鎌から影が迸る。


 ポトリポトリと重力に連れられて塊となった血が落ちて水玉模様に地面を彩っていく。



 彼女の体から出た黒い靄のような煙は、彼女の傷口を塞いでいた黒い影は。全てが全て刃の影へと飛び散り集って、鋭く尖れた狂気の実体化は巨大な姿を露わにした。


 その巨大な狂気は渦を巻く風の如く闇を迸らせながら一人の人間に向かって放たれた。


 あの影の大きさ的に退路は無いな。

「ふっふっふっふ。此処が最期かならば最期の最後まで俺らしく足掻かせて貰おうじゃないか」

 ガードを捨てて彼女に向かって足を進めようと大きく踏み込ん……。






 でぇ?




 世界が途端に停止しと思ったら訳の分からない所に俺はいた。


『信仰せよ、彼らが主を、我らが母を信仰せよ。人間よ祈れ、そして神にその身を捧げよ。人間よ貴様は我が主によって選ばれた。貴様に人でも鬼でもない究極を、完璧をくれてやろう』



 耳の中に、頭に直接語り掛けられるような嫌な感覚。



『どうした? 何故祈らぬ。主はお主の事を気に入っているのに何故お主は平伏さない。何故お主は助けを乞わない』



 誰だ? お前、なんだそれ。

 祈り? 助けを乞う? 散々乞うてきたさ幾千も幾万も、なのになぜだ。何故今更、何故今頃そんな救いなど齎そうとする。



 そんなものはいらない。


 それに俺はもうお前らのこのなんてこれっぽっちも信じちゃいない。



『やれやれ、せっかく主はお前に期待し、ヒトに定められた限界を外しやすくしてやったというのに』


 知らんな。なら主様に言っといてくれよ。俺の望みを知ってる癖して勝手にそんなことしてんじゃねぇと。

『人間よあまり図に乗るなよ』


 お前らも求めていない時に、そんなものを求めていない人間の敷地に我が物顔で入ってきて何が助けてあげたので信仰せよだ。馬鹿じゃねぇの。


 俺のような無神論者などではなく熱心な門徒様にでも奇跡をしめして協力して貰え。


『いいや。お前は神を信じている。形がどうあれ、形式や教えがどうあれ、お前は熱心なまでにそれに欠かさず祈りを行っている』


 は? 訳の分からぬことを。


『狂信者よ。毎日毎日少女たちに欠かさず此奴のように自分も助けてくれと祈っていた信徒よ。腐敗した教会より、金に眼がくらんだ亡者たちより。一心不乱にただただ助けを求め続けるお前は紛う事無き我々の仲間だ』

 ――御使いの身だがお前に一つ奇跡を見せてやろう。




 クッ……。


 どうしてお前がここに。


「何よ大和。私がここに居てはいけないの?」

 金剛どうしてお前が。なぁ美優どうしてお前が。



「私は―――事が―――好きなの」


 美優の口だけは動いているのにそれはそれは可笑しな雑音が混じり点繋ぎにしかそれを聞き取ることが出来なかった。




 ――私は紫水の事が好きなの。




 勝手に虫に喰われたところに自分の憶測とそうであった現実を入れ込んだ。

 何故だか一筋の涙が頬を伝った。


「いいよ言えよ早く。あの時のように俺を突き放せよ」

 美しくそして優しい彼女が俺に覆い被さった。



 これが俺の求めていたもの……。俺は愛されたかった、皆にも。


 だがお前だけは特別だ。そんなお前と皆を天秤にかけたとしても釣り合ってしまう位にお前は特別だ。


 俺はお前に愛されたかった。



 彼女の吐息が耳を擽る。それすら愛おしくてそして温かい。

『私は大和の事が……』



 俺は目を閉じて遊んだ居た手が彼女を抱きしめていた。


 彼女を力強く抱きしめんと……。




 あれ? ナンデ。



『我が主に忠誠を示せ。さすれば世界はある程度はお前の思う通りに動くようになるであろう。きっとお前は本当にお前の望んでいたものが手に入る』



 眼を見開いた。

 目の前に居た筈の。そして温もりで俺を包んでいた筈の彼女は全くそこにはいなかった。



『彼女の愛を欲すか? クサナギヤマト』

 ココデイノッテミレバマタカノジョニ。



『お前は奇跡のような存在だ。ある時は鬼に殺され、ある時は自ら命を絶ち、ある時は鬼になり、ある時は時は正義を貫く本当の英雄でありそして目の前の桔梗と愛し合っていた』


 俺には無限の可能性があると?


『ああそうだ。お前の祈り次第ではお前の下に彼女だけではなく紫水も家族もそして顔も見ぬ引き籠りの戦友も、全てお前は手にすることが出来る』


 美優。美優。美優。紫水。紫水。同志イフリート。



『主にお前の全てを捧げよ。此処にあるすべてを、お前の身を、お前の仲間を、お前の敵を。この街で戦う者全てを捧げよ。お前を中心に世界は書き換わり分岐を始める』

 目の前に光の靄が現れ周囲にはオーブが飛び交い始めた。



『助けて下さいと昔のように今一度神に祈るのだ。ただ一言だけでいい。助けてと』



 ああ、主よ、神様よ。

 本当に俺に救いを齎したいというならあのままいつも通りに見逃してくれよ。



 眼だけがギラギラと輝く光の煙に向かって剣を薙いだ。


「神に言っとけ。いいからほっとけと。もっと信心深くて義理堅く皆の正義の味方のような人間にこの役目を負わせましょうと」

 光は蒸発ではなくどろどろと形が変わり地面に溶けて、周りのオーブは赤く燃え尽き始めた。



 ――予言しよう。お前は何時か我々に助けを乞う。いやいつかではないな。すぐさまお前は私達に祈りを乞うであろう。



 そうか。


 ――このまま運命に付き従ってしまえばお前にとって最悪の終わりが訪れるぞ。そうなる前に我々に助けを乞うていた方がいいぞと忠告しておく。なぁにお前のそれは前金だ、力が欲しくなったときはまた私達を呼ぶよう……。




 光を両断し、足を振り下ろし地面に擦り付ける。





 ハッ!

 闇が影が自分に向かって加速するガッ……。


 がら空きなんだよ。

 彼女の心の臓腑に向かって剣を投擲した。


「ホウカイ」

 鎌に纏わりついていた影は剥がれ落ち世界に拡散された。


 刃から影は完全に崩れ落ちつつも放出されて剣を飲み込み勢いを止めた。


「これで終わりですね」

 地上に降りた彼女は何の隙も躊躇もなく鎌を振り下ろすが……。


 それを躱して地面に転がっていた【約束された勝利の剣】を掴み上げた。


「あーあー、もう疲れたよ」


「ならすぐ殺してあげるんで抵抗は止めて下さい」

 そうだにゃぁ、どうしよっか。ああ、そうだなぁ。


 さっきのお返しをさせて貰うか。



 手数を増やして一気に攻勢に出る。

 彼女も彼女で此方の攻撃に対応しつつも一度攻撃を加え……。


 此処を躱して完全に回いの内側に入って。勿論彼女は距離を取ろうとしてくるが柄の部分を一瞬だけ掴んで大鎌ごと彼女の動きを止め回転するように彼女の間合いの外に出た。


 ああ彼女は気が付いたようだ。


「高君」

 彼女の声に反応した男は法師の攻撃を捌き此方の攻撃を受けようと踏み込み剣を振るうが……。

 ッ、甲高い鉄と鉄が触れ合う音が響く。


 そして後ろからは鎌の振るわれる音……。


 剣をちっとばかし持っていかれたが関係ない。

 彼の勢いを利用して足を払った。


 いってぇなぁ、足が縺れた男の後方に回り込んで後ろ首当たりの袖口を掴み取って体を密着させつつも喉仏に刀を当てた。


「刀を下せ。死にたいか」

 男は刀を下そうとッ……。


「命など取りたきゃ取ればいい」

 法師の刀の峰が男の腕を叩き刀を地に落した。


「お前にはまだ生きて貰うぞ。これからの戦いお前が生きていたほうが何かと有利に進みそうだからな」



 彼女の眼から闇が迸った。


「草薙、クサ薙、草ナギ、クサナギ」

 彼女の眼は段々と生気を失い赤黒く光り始める。


「お前は、オマエハマタ私から好きな人間をウバウノカ」


「一体何の事を言っているのだか」

 だから何のことだよ。

「お前がリナを。お前がお前が私のリナヲコワシタ」


 リナって……。

 リナってあれか? あれの事なのか? 俺の考えているあれであっているのか?


「オマ、オマ、お前がワタシノ梨奈をコロシタンダ」

  彼女の声は静かなる裏路地に響き渡った。


 いや別に俺何もしてないし。つまりあの梨奈ではないという事かな。

 

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