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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第二章】The Time They Are A-Changin
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【二章第十七話】 千年を生きるモノ

「はぁっっ」

 空を切る木刀、大地を踏みしめている自らの足。

 飛翔、繰り出される一撃に音を上げる木刀と的にした雑木(ぞうぼく)。揺れる腕、握り締めた木刀、眼前に落下する木刀。


 全てを眺める様に位置する神社と城の跡。


 当たり前にある日常何てものは簡単に崩れ去っていく。

 ああ知ってるよ。勿論その意味も分かっている。


 秋が過ぎて、冬を跨ぎ、夏を超えて、一年が経った。


 鬼の襲撃の日から俺は何にも変わっちゃいない。あれから皆も何も変われやしない。

朝起きて、学校に行って、誰かに話しかけられたら最低限応じる、社会科準備室で昼飯を食べ、午後の授業を受け帰宅する。帰宅したら制服からジャージに着替えランニングや素振りなどのトレーニングに励み、晩御飯を食べて、ゲームをやって寝る。

 正しくそれの繰返しだ。


 社会科準備室での昼飯もたまに銀雪と話すって程度の関係だ。俺も彼奴も互いに本を読んでいるばかりだし。

 クリスマスも春休みも夏休みも何かはしたけれどももう内容までは飛んでしまっている。


 俺のこの変わらぬ生活を支えた名古屋はほかの都市と比べ領土は狭いがいたって平穏。


 各地で張られた戦線は膠着せずに当方が優勢。

 尾張旭市、長久手市、日進市、あま市、春日井市、北名古屋市、そして鬼の本隊が陣取っていた小牧市を奪還し、連帯の連絡すら困難を極めていた豊田市との連帯を完全なまでにとれるようにまでなっていた。


 イケイケどんどんの勝ち戦もつい最近までの話だ……。

 岐阜から一宮に鬼の大部隊が派遣され、清和軍は総力をもって取り掛かっていた犬山攻略作戦を中止し、一宮に陣を置こうと撤退しようとした。


 犬山勢は引いていく軍に奇襲を加え小隊を壊滅させた。

 犬山勢に南下されると余計に戦況が悪化してしまうので軍もその一部を押さえの為に犬山に留めるほかなかった。

 しかし元々一宮に残存している清和軍少なく、所詮隊を裂いた犬山方の軍が加わったところで戦況に変化は見られなかった。


 彼らは獅子奮迅の活躍をし、劣勢の中でもで辛うじて敵を一宮に留め小さな拮抗を作り上げることに成功していた。

 それを見越した清和軍本部は市に残っていた兵を掻き集め斯波市長を総大将に担ぎ上げ、援軍派遣を決定。


 出兵するその兵の中に一応の階級は持ってはいるが卒業すらしていない俺達高校生も含まれていた。

 そして出陣の日も定められた、市長が援軍の派遣を決意したその日の一か月後の同日。


 今の俺からしたらあと残り3週間で俺はあそこに舞い戻ることが出来る。


「まぁ、こんな所かな」

 地に落ちた木刀を掴み取ってズボンに付いた土煙を払い落す。


 軍が学生の動員を決定した次の日……。

 学校は緊急集会を開き、そこで校長がテストをすると発表した。テストならよくある事だ、しかしこのテストはいつものあんなお遊びなテストとは違う。


 今回のテストは自分の生き死にの確率を、戦わずに出世できる可能性を秘めているテストなのだ。

 いつもは評価される学科試験などはもうおまけとしてしか扱われない。全ては実技、全ては最終日に行われるこの学校の最大のテスト。


 今までおちゃらけていた人間でさえこのテストで結果を残したのなら出世頭として重宝されるようになる。それがこの最終日に行われる一対一での剣術、暗器、槍術、CQCのぶつけ合い。弓矢や拳銃以外なら何でもありの模擬の殺し合いを行わせ勝ち抜いたものだけに問答無用で評価をしていく最高のテストだ。

 この学校で単騎で誰が一番強いかを推し量る、負けさえしなければこの学校の最強になれてしまう。


 上位の入ってしまうだけで階級が一つ上がる。

 ただし下位に位置してしまうと中段送りだ。まぁほかの学校の生徒は最前線送りだと聞いたからそれでも恵まれている方なのかもしれないが。


 楽しみだ、楽しみな面のある。もしかしたらあいつに勝てるかもしれない。今まで負け続けている俺だが、今回の戦いは例え俺でも本気で、殺す気でやれとそう言っておいた。


「ふっふっふ、お前にだけは負けないぞ、陰陽師」

 秘策はある。

 二刀をひっさげた俺は玉砂利の上を歩いてついさっき俺が投擲した物を取りに行った。


 明々後日のテストが楽しみだよ。


 筆記試験? 知らん……。

 英語とか英語とか英語とか。


 まぁあれも人並みには頑張っているからいいや、それに歴史関連は結構いいし。


 今までの我慢はここで報われる。何事も全ては計画通り。

 それなりに期待された新人が、期待されたままに王者の座に就くのと、無名の人間が何も受けずに、それらを討ち破りその座に就くのは違う。


 先日の光景が頭の中に蘇る。

 業後に木刀持参で呼び出しを受けた時の話だ。微量な力の生徒は業後に呼び出されて武術の師範みたいな外部講師の老人に日が暮れるまでしごかれる、だから俺もその類で呼び出されたと思っていた。


 一礼して道場に入り、入り口に背を向けて無人の道場の中心に佇んでいる師匠とか皆から呼ばれている人の下に向かう。


 その老人が俺の気配に気づいたのか、俺の方に体を向けた。


 体と共に木刀までもが力を込めて、殺気さえ感じられる一撃が首下に放たれていた。


 ――なんじゃ、やっぱりそうであったか。やっぱりお主は強いではないか。


 気付いた時にはその一閃を俺は手にした木刀で受け止めていた。正直無意識だった。


 ――儂の眼もまだまだ鈍ってはおらんな。ああどうして分かったのかという顔をしているじゃろう、それは目だよ。体の動きはいくらでも誤魔化しがきく、でもお主がいつも適当にやって負けているあの授業でもお主の眼の奥の光だけは相手の剣の動きを捉えておる無意識的にな。


 高々に笑った老人は俺に返ってよいとそう言った。


 ――お前今度のテストは本気でやるよな? 儂は内心だがお前に期待しておるぞ、あのハリマよりも。


 昔の俺ならきっと喜んでいただろう。誰かにやっと認められた気がするんだ。誰かがやっと自分の事を見てくれたんだ。

 しかし俺にあるのは皮肉にも無そのもの。

 別段それに心が踊ることも無かった。


 そのまま俺は何も言わずに無言で道場を後にした。


 ああ、脅かし驚かせてやるさ。

 お前らを混乱させてやる、何事も皆の予想通りにいかないってことを証明してやる。


-----------------------


 テスト、テスト、テストと色々と様々なテストをやらされた。


 英語も数学も分かりませーん。

 まぁ、自己採点の結果英語31点と、数学56点、まぁその代わりに歴史が97点、古文が93点、国語が88点とそれなりだった。


 戦術のテストや武術の流派や刀や槍の名称などを書かされるテストも並々の成績だ。


 さて、テストも最終日俺が待ちに待ったこの日がやって来た。

 お貴族連中は気楽で軍や戦場なんてものとは無縁なので参加しない人と興味本位で参加する人などが出ている。


 しかしこの参加するのにもあれだ。八百長などをしている奴もいる。


 何故知ってるかって? 


 俺に手紙が届いたからだよ。当家に息子に負けて頂けませんかと。操作を行って貴方と我が息子が戦うことになりますがどうか負けて頂けませんかと。

 これを呑んだ暁には中段送りは何としてでも阻止しましょうと。金銭の方でも援助を行うとも書いてあったな。 手紙の下にはそれに協力して頂けるのならその御貴族様のお屋敷に出向けとも書いてあったな。

 勿論そんな紙は名前とその屋敷の住所だけを破り捨てて置いて学校の廊下の誰か拾ういそうな所に捨てて来た。 

 ああー、ごめんなさい。ドジっ子なんで家紋の部分だけは破り捨てなかったかも~。 

 その子の信用が無くなっても知ったこっちゃない。

 まぁ俺以外にも送ってるだろうし誰がやったかはバレないだろうな。バレたところでっていう話だが。


 この日は医学科の生徒のテストも同時進行で行われるみたいだ。

 運悪く木刀が当たってしまった生徒をどう対処するかというのがテスト内容らしいが。


 なんか開会式みたいなものが催され、学校や軍のお偉いさんたちが皆の前で挨拶や皆を鼓舞することなどしていた、熱弁を振るった人間もいたな。

 大して頭に入ってこなかったが。


 式後に俺達に予定表が配られた。

 試合はトーナメント形式、一度でも負けたらそこで終了。


 しかしこれは酷い。


 そのトーナメント表は見込みのある者や貴族の参加者たちがシードやシードじゃなくともその近辺の戦う人たちをわざと弱い人たちに集中されていたりと、もう私情丸出しのトーナメント表だった。


 勿論期待されているハリマや貴族なのにあの頭の逝かれた連中と互角以上に渡り合えている莉乃はシードだったり、そのお膳立てされたところに配置させられていた。


 俺とハリマ達の位置は逆か……。

 となると戦うとしたら決勝戦でと言うことになるな。


 まぁ、身内といきなり戦うのもあれだし、よかったという所かな。


 で……。俺の戦う相手はっと。

 中村雄大、そうこの紙には記されていた。


「大和、決勝で会おう」

 紙を眺めている俺に法師はそう声を掛けた。

 剣道ほどではないがボディーアーマーののようなものに身を包んだ法師。たしかこれは一定の強さのものが当たったら音が鳴るとか言ってたな。


 音が鳴った時点でそいつは死亡扱いで敗北だそうだ。


「ああそうだな、明智なんかに負けんじゃねーぞ」

「ええ、絶対に負けませんよ。大和の方も、そのいきなり戦うことになる剣道部の主将に負けないで下さいよ」

 ああ此奴剣道部の主将なんだな。 

 それはそれは期待されるわけだ。しかし俺もこれでも特別採用枠の生徒だぞ。同じ特別採用枠に貴族狩りとか陰口を叩かれるのを聞いた事有るが。


「それでは私は軍の人たちへの見世物なんで行ってまいります」

 ああ確かに法師は一番最初に戦うことになっているな。それもC組の生徒と。完全にパフォーマンス係じゃねぇかよ。

 俺はトロトロと更衣室に向かって行った。


 制服から軍服に着替えて、軍服の下にボディーアーマー擬きを着込んだ。


 式典とかそんなときにしか着こまない軍服だが、戦場に出るとこれが常用装備になるのでに慣れるためにもこの軍服を着るのを今回のテストでは奨励されている。あくまで奨励だが。

 それに態々こんな厚手のコートなど着こむ必要など無かったのだが。今回はこの軍服の下に色々と仕掛けをしてあるからなぁ。


 そしてそれから長々とした他人の試合を眺めさせられることになった。


 小一時間くらい待ってやっと自分の一回戦が回って来た。


 俺はすぐさま木刀を三本掴んで学生からお偉いさんまでもが見守る会場の自分の位置に立った。

 勿論三刀流なんてやるつもりはない、これはただのスペアだ。

 それになんか強敵の初戦だからなちゃんと警戒していかないとな


「ふん、こんなもんすぐさま終わらせてやる」

 俺の前に立った剣道部の主将がそう息を巻いている。

 荒武者だなぁ、猪武者だ。壮士なり。持っていた剣二本を地面の上に落した。


「使わなくっていいのか?」

 目の前の男は余裕をもって俺に問いかけて来た。


「時が来たら使うさ」

「ならお前は使わずに終わるかもな。一発だ、一発でお前を終らせてやる」

 はぁー、まーた勝利宣言か。

 口の悪い人間だな、日本人でそんな出過ぎた真似をすると打たれるかは分からないが、少なくとも疎まれはするぞ。


「そうか」

 

「位置について」

 審判員のような人間が旗を掲げた。

 俺達は軍の高官が見ている方に一礼して、向き直ってお互いに敬意も何も籠っていない空虚な動作をした。


「構えッ」

 向こうの敵は正眼の位置で木刀を構えた、対する俺も正眼の位置で剣を構える。

 号令は未だに掛からない。

 ワイシャツの上にボディーアーマーを着込んだいかにも速度重視で無駄な重さを全部取り払ったような感じの男との読み合いは既に始まっていた。


「始めッ」

 開始の合図が送られても男は動くことは無い……。

 お互いに見合ったままその手が動くことがない。


 そろりそろりと地面をこするように半歩ずつ接近してくる。


 彼の中の一定の射程なのだろうか? ある特定の位置に来ると決まって彼は決まって剣を小刻みに震わせ、その後何かを悟ったように半歩引きながら剣の震えを止めさせる。

 別にこちらは構えたまま何かをしているつもりはないのだが。


 どうした早く打って来いよ……。いつもなら絶対にこういっているがさすがにこの場でそれを言うのは憚られる。


 一向に彼は一定の動作を繰り返し続けている。

 しかしここまで時間にしてまだ分にも達していない秒の値。

 数える事、三度(みたび)、またもや彼はその彼自身の定めた一定の距離の内に入り込み剣を小刻みに震わせた。


 しかし今回の彼は違う。


 半歩半歩と少しずつだが距離を縮めてきている。


 遂には刀の穂先と穂先が触れ合った。


「フヤァァァ」

 それは一瞬の事だった。

 俺の剣の穂先よりも相手の剣の穂先が上部に位置したその一瞬を狙って彼は五体を使って攻勢に出て来た。

 そろりそろりとしていた動きも急に躍動的になり爪先だけが地面を付いているような状態であった。


 荒馬のように大地を踏みしめ突進し、空を切り裂き脳天に向けてコンマ一秒の世界の高速で華麗なる一撃を披露する。

 様式美に染まった世界の、平和ボケした一撃だ。


 躱してやろうか? 此奴の一撃を躱してカウンターを決めてやろうか。


 否、否。


 高々と剣を振り上げたものだ。この角度から此処を撃てばっと。


 きっと相手も此処に自ら突っ込んでくるだろう。木と木が触れ合い、つぶし合って一帯に音を響かせた。


「これで終わりっと……」

 眼の前の男の頭で加速させた剣を寸止めする。見えない剣でも構えるように男は唖然となったまま動かなかった。


 少し遅れて地に木剣が落下する。


「止めッツ」

 そこで男はやっとそれに気が付く。自分は負けたのだと。自分はその頼れる命を吹き飛ばされていたのだと。

 速さに頼り過ぎた結果がそれだ。自らの急所への攻撃へ自らが突っ込んできた。


「戦場で剣を失うな、次はないぞ。次それをやったらお前の命はない」

 納刀するように剣を腰に付けた手の中に戻してお互いに最初の位置に戻り礼を行う。

 帰り際に地面の木刀を拾った。

 ああ、結局これを使う機会は来なかったな。


 いやここでそんな敵が来られたら困る。これは法師への秘策だからな。

 外野の眼の色が急に変わり皆が騒めきに包まれる。

 予想だにしないモノの勝利。ああ、これからだ。これからが始まりだ。

 

 運命にも定めにも左右されない、何もない人間は強者を一人狩り立てた。


 そして俺は次々にこの中村の為に用意された道を駆け上がった。

 一、二試合は何事もなく余裕で勝ちあがることが出来た。





「準決勝始めッ」


 張り詰めたような会場の雰囲気、そしてその張り詰めた強張りを最大限まで切り落とす審判の一言。


 動く……。

 くる、避っ


 命令を認識して体が即座に反応する。

 眼前に繰り出された長槍の一撃を避ける。


 この動き明らかに他とは精度も練度も違う、ほかの生易しい連中とはまるで比べ物にならないその槍捌き、分かる此奴は俺と同じA組の特別採用枠の生徒だ。


 追尾……。


 剣に手を当て穂先に狙いを定め力の限りの一撃を繰り出す。

 槍の動きは止まった。いや、まだだ。


 敵は槍を引き、防御するかの如く身の回りで槍を回す。攻撃の隙が無いな。槍の回転に持っていかれるだけだ。


 いけるか?

 否っ。


 大地を砕く踏み込みから繰り出される一閃。


 躱しても事ある如く追い立ててくる乱れ突き。

 間合いに入り込むことが出来ない……。


 やるか? 秘策を、いやまだだ。


 こんな復讐に飢えた特別採用の生徒に使うもんじゃない。

 俺はお前以上に強いやつを知っている。


 ふっう……。


 この身を後ろに寄せて槍の動きを透かした。今ならこの一瞬なら。

 体を一気に寄せて引き際の槍の柄をぐっと掴む。


 そのまま柄を伝って此奴に一撃を……。



 張り詰められた線から力が抜けた。


 槍を棄てたか。


 俺の一撃を躱して拳を叩きこんでくる。


 回避……。


 地を転がり、姿勢が保てたところで下段から足への攻撃を飛ばす。

 飛翔したか。ッ槍を拾っていやがる。


「草薙大和、お前が此処までやるとは予想外だ。ただし俺は何百もの鬼を殺してでも辿り着かねばならない鬼がいるんだよ」

 復讐者は初めて口を開いた。

 槍の一閃、服を掠めた。掠めたのはあくまで服だ。肩じゃない。


 お前の姿勢は前傾に、この槍の一撃を撃つために前方に重心がいっている筈だ。


 見えた……。


 姿勢を崩しながらも落下地点を予想して足を絡める。

 転んだ。よしっ、いやまだだ。


 飛ばされた槍を刀で振り払う。

 敵も自分の最期をどうやら悟っていたようだ。全てを懸けた、命を懸けた、その命尽きる寸前の抗い故の投擲。

 しかし運悪くもそれは俺に当たることは無かった。


「これで終わりだ」

 倒れた男に向かって刀を突き当てた。


 本当はこれから組み合いがあるんだろうが今回はそれは無しなのが助かった。

 男は恨めしそうに涙を流した。


「こんなところで止まってられるか……。俺は俺は……。あの宍戸とかいう鬼と家族を皆殺しにした俺たちと同じ格好をした鬼を殺さなければならいのに」


「そうか……」


「どうして貴族狩りの貴族にしか勝った事の無い草薙に負けるんだよ」

 男は自分に言い聞かせるように呟いた。

 やっぱり俺そんな感じに思われていたのか……。まぁ戦う気のない貴族にしか勝っていなかったが。


 手を男に差し伸べた。

 この男も素直に俺の手を握り立ち上がった。


「俺もいろいろあるんだよ。何万殺してもやり返さなきゃならんヤツがいる。そいつの周りの奴だろうと、隣人だろうと巻き込んでも知ったこっちゃない。彼奴から全部奪いとってやる」

 周りの人間に聞こえないように男の耳元で囁いた。

 男は一瞬身を震わせた。


「ああ、お互い頑張ろうぜ。決勝戦負けんなよ」

 男は戦う前よりも復讐の色を濃くして俺の眼前から去っていった。


 家族の為か……。


 俺には理解できんな。彼奴らの為に自分を追い詰めてまでもそうなる理由と必要が。


 そこまで親の為に、家族の為に何か行動できるというのか。

 全くもって理解できない。

 

-----------------------



 眼前に立ちはだかる強敵。莉乃は此奴と善戦したが負けてしまった。


「ついにこの時が来たなハリマ」


「ええ、大和。良くぞ此処まで」


 周りの人間には勝者はもはや決まっているような様子であった。

 ボトリと地面に木剣を落す。


「それが大和の秘策ですか」

「いや? これはただの予備だ。お前に刀一本で勝てるとは思っちゃいないからな」

「そうですか……」

 余裕に満ち溢れている法師は剣を構えずに未だその場に立ち続けている。


「構えッ」

 瞬間的に法師は武人のような気迫が目の色に浮かび上がってくる。

 対して俺はいつものような曇った眼をしているだろうな、きっと。



 構えはお互いに正眼の位置。


「始めっ」



 互いに地を蹴って剣を交わらせた。

 

 

 

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