【一章第十六話】 START:DASH!!
「どうせこんなもの効いていないだろ」
口から言葉が漏れ出す。
人では絶対有り得ない硬いものを殴った感覚、痛みは感じないがいつもより手の赤みが増している。顔を殴られた法師は驚いた表情で此方を見ている。
「俺は討ち果たせと命じたぞ」
「申し訳ありません」
法師は俺に向かって平伏する。幕の中で臣は心からの謝罪を行動として見せている。
「お前に出来ない命令ではなかっただろ、そんなものでは俺が困る」
「復讐の為ですか……」
彼は頭を垂れながらをおずおずと申し訳なさそうに此方に問いを返す。
復讐のため……。確かにそうではある、そうでしかない。
心の中で黒々とした感情がぐつぐつと煮えたぎり浮いていた何かが次々と灼熱の底なし沼に沈んで溶ける。
ここに来るまでに色々なモノを棄てた。
物であったり者であったり。それはただ一つ、憎くて憎くてどうかなってしまいそうな誰かを理想の人間に変えるために、要らない所全てを切り落とした。
理想の人間になる為に――
俺はそのために捨てた、でも違うといえば違う。
何を思っているか分からないが、俺もきっと分かっていない。
昨日はあんなにも楽しかったのに、身勝手を振舞える人間にあれ程憧れていたのに。
――どうしてだ? この複雑で曖昧で怪奇なこの気持ちは。
「殿の言う復讐とは何ですか。安否の分からない友や自分を傷つけた人間を殺すことですか? 人間を大勢滅することですか? 鬼を大量に屠る事ですか? それともその両方ですか?」
「そんなものは普通臣下が察するものではないのか?」
法師は俯きながらも言葉を発した。
「しかし……。私は知りとうございます。何を選び何を捨てたのか、そして何に向かって突き進んでいるのか。その曇った眼の中に宿っている光は何のための灯なのか」
法師は切なげな声を漏らした、彼は臣としてこの複雑で入り組んだ主君を知ろうと向き合っているのだ。
何を選び何を捨てたのか。
いまだに俺は何を捨てたかすら分かっちゃいない。ただ漠然として分かっているのことはある。俺は人として大事な何かをあの消えそうな火にくべた。
それから俺は自分でさえも分かるほどに変わってしまたと思う、でも……。
――もしかしたら俺は変わってないのかもしれない。
「分かった教えてやろう。その代わり幻滅するなよ。俺は俺の復讐の定義などまだ決めていない」
「決めていない……」
法師は驚いたように呟いた。
ただなんだかどこかで予想していたようなそんな驚き方。彼は本気で俺の言葉に驚いているわけではないと思う。
「そうだ、未だに俺も自分の中にある復讐という感情が何に対して向いているかが分からない。俺を傷つけた奴らにでもないでもない」
頭をガシガシと力強く搔き毟るように撫でる。
「もっと大雑把な感情が俺の中で生まれた事がある。その何とも言えない憎しみにも似たその感情は人間自体に向いた感情なのかもしれない。が、俺にその想いを願いを叶えうるほどの力を手にする機会が到来した時、俺はその力を受け入れを拒否していた」
未だに俺はあの行動の意味が分からない。正直言って俺は俺が分からない。
昔からそうだ、助けたいと思っていて見捨てたり、壊れて欲しいと思っていて大事に扱って来たり、面倒だと思っていた学校も基本毎日遅刻せずに通っていたり……。
数えれば自らの想いと行動が矛盾していたことなどキリがないほど上がってくる。
俺は昔から俺が分からない……。
「鬼が契約を持ち込んで来た時、俺は無意識に化け物になることを拒んでいた……」
あの時のあれは鬼だったのであろう。
何故俺はこんな人間でいる事に拘ってしまったのだ。
俺は俺が分からない。もしかしたら俺自身のこの一色への憎悪に満ちた復讐心も過程上の事で最終的な目標ではないのかもしれない。
俺は自信、本当にそれを望んでいるのか? とすら思う事がある。
ただ心に焼き付けられた一色らへの復讐心は本物だ。紛う事の無いホンモノだ。
俺が昔から欲しがっていた、自分に嘘を付いていないレプリカでも紛い物でも妥協した物でもない、本心から望んでいる復讐心だ。
いいや?
心が二つに割れている、俺ですらこの変わりように困惑を覚えているほどに。
一色同行の事はまぁまだいいとしよう、しかしこれだけは確実であり、揺るがない事実であり真実でもある。
真相は、深層にある真相だけは変わることなんてない。
俺は分かっている筈だ、俺は昔から殺したくて、殺したくてどうしようもない相手は誰かなんて事くらい。
もしかしたら一色への復讐なんてものは適当な理由、この気持ちを向けれさえすれば誰だっていいのかもしれない。
俺はそれをしないと前に進めないから、俺はそれにすがってまでもまだ――。
否だと俺は心の中で呟いた。だかその声もはいとも簡単に疑問や不安によってかき消される。確かな気持ちを確実なものにするために俺は自問自答のごとく気持ちを言葉にする。
――それは本当にお前が欲しているモノなのか? 惚けるな、目を逸らすな、お前の中ではもうとっくに答えなんて出ている筈だ。
「俺は迷っているのだ、俺自身のこの復讐心が本当に正しいかどうか、復讐と呼べるモノなのかどうか、俺の行為はただの八つ当たりかもしれない、憂さ晴らしでしかないかもしれない。でも、少なくともどうやら俺は曖昧な復讐心に縋らなければ生きていけないのようだ。どうだ? 復讐に囚われた、復讐でしか生きられない人間は哀れか?」
少し自嘲気味に俺は法師に問いかけた。
これは俺の本当の気持ちなのか、たぶんホンモノ。
哀れか?
これは誰に向けた言葉なのか少なくともこれを理由に掲げて何かを納得させている自分もそこにはイタ。
「いえ……。家族の一族の仇を討つため自分の人生の全てを捧げ、曖昧な敵ともいえぬ、仇ですらない者ばかりを斬りまくり、それでもまだ満足に至らず鬼にな成り果てた人間ななんてものは散々見てきました。復讐がいけないとか、哀れだとか、虚しいとか、そんな事は全く思いません。もし私がそれを否定したら復讐を生きる糧としてきた人たちを否定することになってしまいます」
と法師はこちらの眼を見てはっきりと答えた。
正直に言おう今の俺は法師を手打ちにする気さえ有る。もしお互いの考えが合わないのであらば、もし法師は上っ面だけで肯定しているのであればこの山城を法師の心の臓に突き立ててやる覚悟だ。
――俺の事を理解してくれるモノでなければ嫌だ。
一体いつの言葉だろうか。
そうだ俺は昔から俺自身を肯定してくれる人間が欲しかった。代償を払う気はないのに俺は俺を必要としてくれる人が出来て欲しかった。
俺を特別扱いしてくれる人間を欲していた。
どーしようもない屑な癖して、俺は自分に見合わないほどの物を抱え込めると思っていた。
昔の俺に言ってやりたい。お前は傲慢だと。
だが今の俺は違う、今の俺はこの身までもを代償にして、我が身を掛け金として運命様に差し出せる覚悟がある。
「俺の復讐は綺麗なものではないぞ。無差別に殺し、奪い、破壊する、気に入らないものは討ち果たすやってることは大して鬼と変わらないそんなものだぞ」
俺はここで道摩法師の心の内を探っておきたかった。こいつは俺に本当に相応しいのかと、此奴は代償を払っていってもいいモノなのかと。
此奴は本当に信じるに値するものなのかと。
俺のやることを肯定してくれるか。
「復讐に綺麗も汚いもありません。人間だって同じです。どれだけ綺麗な人間を装おうが、皆どこかでその手を穢しています。彼らだって、仇の領民だからという理由で無辜の民から奪い、破壊し、犯し、手に掛け、命を弄びます。関わり無き者でも仇と認定したら、復讐のためと宣言したならどんなことをされたか、やられたかなどは関係なくそれはもう復讐になるのです」
黒々とした闇に等しき眼が俺を捉えて離さない。
「今はどんな思想の元、世の中が成り立っているかは知りませんが、どれだけ人類が発展しようとも復讐がこの世から消える事は無いでしょう。これは私が千年近く生きて思ったことなのですが、人間の考えというものはもう遥か昔から最終段階へとたどり着いています。復讐が空虚で虚しいなんてことは私が都にいたころから言われていました。しかしどうでしょう、千年以上経っても復讐がこの世から消える事はありません、それはもう人間にとって復讐はなくてはならないものだからです」
静寂に包まれる。俺も法師もお互いを見合ったまま全く動くことはない。
お互いがお互い目を逸らす事はない。
——本気。
なぁ俺よ、理解してくれる人間が現れたぞ―― これで満足か?
心に問いかけるも岩戸籠りをなされたようで返事など帰ってこない。違う、俺がこいつを討とうとしたのは、意見の違いにより殺そうとしたのは――
……なのかもしれない。
違うと、信じたい。
俺の中に芽生えた思いをかき消すかの如く全てを破棄して俺は長井道利の傍に何故か落ちていた鞘を拾い刀を納めた。
「そうかお前は俺のやることは否定しないんだな」
「正しい正しくないは別にして、私は殿の思っている事は間違っては無いと思います。私は殿の臣下として一命を賭して御仕えするのみです」
興ざめだ、興にも悦にも浸れない。
法師は忠誠の証として地に手を付ける、それと同時に俺は刀を闇に返した。
「贖罪の為にか? 俺の親を殺し、俺さえも殺そうとしたことへの報いか?」
法師から返事が返ってこない、静寂が二人の間を包んだ。
そうか……。
「法師ならば、これが償いだと申すなら俺のやることに絶対に文句は言うな」
「ハッ、畏まりました」
「そうか。ではまず、そのためにはまずこの戦場を抜けないとな」
空に狼煙が幾本も上がった。
黒煙ではなく珍しい白い白い煙。まるで何かを伝えるような狼煙……。
烏が一斉にバタバタと音を上げ薄く曇った空へと飛び立ってゆく。
「もう俺たちが大将を潰したことがバレたのか」
一月の冷たい風が俺の血に染まったコートに、体当たりをかます。
隣の臣はブルっと一つ身を震わせた。体の芯まで冷ます風のせいか、それとも恐ろしいことを予期したのか。
「遂に来ましたか神帝軍、いえ今は自衛隊特殊非常事態対策部隊でしたっけ……。予想よりは早かったがこれも鬼にとっては計算内でしたね」
法師の口から聞きなれない部隊の名前が発せられた。
「なんだそれ?」
「古来から家業として鬼と戦ってきた者や鬼と戦う技術を持った組織は幾つか在りました。その中の一つが我々陰陽師です。彼らは鬼の襲来を幾度も防いできました」
なんだか法師は俯き話を始めた。
「そして時が経ち明治維新を迎えます。政府と鬼が協力関係だったその時代、政府が鬼の暴動を恐れ抑止力として全国の鬼と戦える技術を持った者を秘密裏に集め結成された軍隊、それが神帝軍です。ただ彼らは軍とは名ばかりで帝国が解体されるまで一度だって戦場に出たことはありません。鉄の雨が吹き荒れる中で戦っていたのはいつも私たち鬼でした……」
法師は熱を持ち尚且つ悲し気にそして仇でも見ているような目で俺に語り掛けて来る。
「それで戦争に負けて用済みになったお前らをこの世界から追い出したのはそいつ等ってことか。ようやく昨日の話に合点がいった」
法師は静かに悔しそうに首を縦に振った。
「神帝軍はそれからも解体されず、名称を変えこのこの国の対鬼用の部隊として存続しています。それが自衛隊特殊非常事態対策部隊です」
そうかじゃあ俺はその部隊に入ればいいんだな。
「一つ質問していいか。お前みたいな角の無い鬼と人間とで見分け方ってあるのか?鬼が人間に混じって諜報活動するとかあるのか?」
長井の兜を掴み、首をぶら下げながら立ち上がる。
「人が見分けることは出来ませんが、人を殺めたくなる衝動を抑えながら鬼が人間に混じって諜報活動することは確率的にはほぼないでしょう。それを抑えることが出来る鬼は非常に優秀だと思っておいて下さい。それに文化の差や文明の発展の具合について行けずに一人だと簡単に軍に見つかって終わりでしょう」
俺の中で一つの構想が生まれた、その構想を実現可能かどうか確かめる為、後方にいる法師に問いかけた。
「因みにお前は自称心は人間なんだからそんな感情ないよね?」
法師はうんと大きく頷いた。
「じゃあお前はその姿辞めて俺くらいの若者の姿にしろ。あとこれからはその鎧も辞めろ」
「一体如何するおつもりで……」
法師が疑問に体を震わせながら呟いた。いかにも嫌な予感しかしないという顔だ。
「お前はこれから高校生として現代の知識を学んで俺と一緒に軍に入って貰う。だから早く姿形を早く変えろ」
「衣は……。服はどんな感じにすれば良いですか?」
「知らん。今まで会ってきた人や昨日の俺の服を参考にしろ」
首を地に落し、ハンカチで手を軽く拭った後にポケットからスマホを出して検索を掛けた。
スマホのインターネットアプリを起動するが全然ページが表れない。
やっとのことでホームが表示されたと思ったら、ホーム画面のネットニュースに大々的に書かれている各国の壊滅的な状態……。
しかし俺はそれすらもあまりよく見ずに検索欄に言葉を打ち込んだが、それにしても重い、全然回線に繋がらない。
何度かやり直しの結果、やっとのことで画像検索で出た写真を見せ何とか見た目は高校生に見えるようになった。
そしてスマホをポケットにねじ込んで満足そうな死に顔の敵将の首を再度拾い上げる。
如何してこのようなことをしているのか―― それは報告のためだ。子どもが親に褒めて貰う為に自分の行為を見せるのに似ている。
俺は幕の外に出て仇を取ったことを伝えようと有岡さんの所に近寄った。
俺は知った、俺は知ってしまった。
ただ何も言わずに無言で地面にうつぶせになるように倒れている彼を俺は仰向けに寝かせた。
しかし彼はもうこの世のものでは無かった。
閉じられた瞼、もう動かすことの出来ないであろう五体、そして徐々に下がっていっている彼の体温、彼はもう死んでいた。
彼にコートを敷き、お供え物のように仇の首を置き手を合わせた。彼を死者として弔い冥土に送るのだ。
貴方の仲間から何か使えそうなものお借りします。そう心の中で話しかけた後すぐさま自衛隊の死体から使えそうなものを漁った。
一応専門外だが武器の類も見てみる。
「八九式小銃か? 使い方は昔なんかの雑誌で読んだことあるような? ネット小説だったっけな?」
そもそも俺は歴オタであって、軍オタでも銃オタでもない。歴オタと軍オタは特に一緒にされがちだが、腐女子とオタクくらいの差があるといっても過言ではない。
銃の製造の歴史なんて殆ど知らないし、銃の種類についても詳しくない。
奴らとは全く別の生命体だ。
彼らと共有できる話は彼の戦争の兵器の話くらいだ。(ツイッターの知らない人と)
銃オタ的には宝物が捨ててあるみたいな価値観なのかな? 銃に詳しくない俺はゾンビが攻めて来られたら工具じゃなくシャベルを握ってるところだったな。
だが今回の敵は改造釘打ち機やスコップで倒せるような相手じゃない、もちろん銃でも。辺り一面に倒れた自衛隊がそのことを証明している……。
「殿使えるものは有りましたか?」
手を止めていた俺を覗き込みながら法師が問いかける。
「駄目だ、どれも専門外だ」
手を振りお手上げだということを伝え立ち上がる。
そうして彼らの残骸を最後に見通した。
持っていけ……。どこかからそう聞こえたような気がした。
有岡さんの死体の前にポツリと置かれているヘルメット。埃と誇りに塗れた緑の人の兜そのもの。
そんなヘルメットを手に持ち砂埃を払い落す。
大事にさせて貰います、そう心の中で一つ俺は呟いた。
ヘルメットを頭に被った俺は守護者達の亡骸に大きく敬礼をする。
「行くぞ……」
俺は言った自分ですらも分かるような何とも切なげな声で法師に口走ている。
強き者の死……。俺が強き者だと思っていた人間はああも簡単に死ぬのか。
俺は俺の望んだ人間に本当に成れたのか?
俺が真に成りたかった人間。それはこの人たちのような、この人達よりもきっと優れている、そう彼奴ではないだろうか?
いいや、彼奴は結局は身勝手に負けた。
俺は憧れた人間に成れている筈だ。
「はいそうですね。行きましょうか、そろそろ周辺の鬼たちが神帝軍との決戦の為戻っ来る頃でしょうし」
「また戦わなきゃいけないのか?」
少し速足になりながら法師に問いかける。
「その必要は多分無いでしょう。神帝兵の発見は即急な対応を要する事態ですから、私たちには目もくれず本陣に向かう筈です。そして彼らはそこでなんとも変わり果てた指揮官の姿を見て大混乱を起こし統率の取れなくなった兵たちは自然と四散していくでしょう」
桶狭間の今川軍ってこんな感じで崩れていったのか。まぁ指揮官を失った状態で戦に挑んでも相当な兵力差が無い限りは勝てないだろうな。
「殿は思わぬところで神帝軍の味方をしてしまいましたな」
「そんな事はいい。名古屋は直ぐ傍まで来ている、ちょっと走るぞ」
それからかなりの時間を走ったがまだ見ぬコミケや、父親との喧嘩に勝つためや、徹夜でゲームやっても体調を崩さない様にと一応鍛えていた身体が役に立っているのか、長時間荷物を担いで走ることが出来た。
庄内川に沿って出来た自衛隊や警察官が防衛しているバリケードが見え始めた。
防衛場所を減らす為か幾つか折れている橋もある。どうやら庄内川より向こう側が安全圏内のようだ。
「そういえば大切なことを忘れていた……」
「何か忘れものでも?」
法師は呑気に聞いてくる。
「お前あの中でも蘆屋道満で暮らす気か? それと殿ってのも止めろ、名前で呼べ、名前で」
「あっ……」
法師の意表を突かれたような声が漏れた。
「いいかよく聞け、お前は俺と幼馴染だが現在通ってる高校は違って、俺の家に一緒にいたところ外に人を襲う何かの大軍を目撃し、即座にお前の提案で名古屋に向かって逃げた。そして清州の辺りで奴らとの交戦で通信が途絶し、重傷を負った自衛隊の人に道を教えられ此処まで来たって設定だぞ。で、自衛隊の人にあった時間帯も少し早めて言う、首の事を聞かれても知らないと言え。で名前は……」
自分で決めろと言おうとしたとき……。
「私は殿から名前を貰いたいです」
即答だった。法師は羨望の眼差しのようなものを此方に向けて名前を授かるのを待っている。
「分かった、俺が命名してやろう。あと殿は止めろ。お前は今日から……」
ダメだアニメや既存の人物の名前しか出てこない。
突如頭の中に二つの文字が浮かび上がった、それはとある武将の名前。
「楠木ハリマこんなのでどうだ。ハリマはカタカナだ」
スマホを取り出しメモに文字を打ち込んでいく。
楠木 ハリマ。
法師は地面に手を付忠誠を示すようなポーズをとった。
主君の為なら千の手駒しかなくても百万を相手どる彼の忠臣のように。
それが楠木たる所以だ。
「蘆屋道満は楠木ハリマとして一層殿のお役に立てるよう働いていきます」
「いや? これはあくまでも人間にバレないようにするための名であって、人がいないとこではいつも通りに呼ばせて貰うぞ」
一息ついて、そして法師の前でニコリと笑って見せた。
「ただこれだけは言っておく、期待してるぞハリマ」
ハリマの返事を掻き消すように周囲に川辺の冷たく強い風が吹き荒れる。
世界は崩壊を迎えた。
しかしまた新たなる世界は花を咲かすその時まで……。
悲しみに閉ざられて泣くだけの俺ではもはやない。
悲しみに閉ざされて泣くだけじゃつまらない。
俺は新たなる世界への一歩を踏み出した。
——きっと俺は俺自身のチカラで、未来を切り開く筈さ。
終わりの始まり、終わりこそがまた新たなる始まりの始まり。
エンディングテーマはオープニングテーマにも成り得る。
終わりを告げるエンディングテーマはもう終わった。さぁこれからが本編、新たなる世界の始まり。




