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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第一章】終わりの始まり
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【一章第十一話】 ズレてる方がいい

 誰もいなくなってしまった道……。

 太陽の残した灯なのか、ただの火事なのか、遠くの方が茜色に照らされた空。


「殿どちらへ向かうのですか?」

 宵が掛かってきた道の中、街灯に照らされた法師が答えた。

「名古屋だ」


 法師は大きく頷いて敵がいないか如何かを確認する為先行する。

 

「殿……。危険ですのでこれ以上は絶対に近づかないで下さい」

 

 道の先に鬼数体がそれより遥かに多い十数人の人間を追い回しこちらに近づいてきている。

 騎馬なし、雑兵の格好したモノ共だけの集団。

 法師は道端の安全そうな所に俺のバッグを優しく置いた。


「うぁぁぁ……。なんたってんだ」

「誰か助けて……」

 息を切らせながら人々はこちらに迫って来る。

 彼らは皆地獄でも見て来たかのような顔をしている。彼らと過去の弱き自分が重なる。


「んなんだよ、彼奴鎧なんて着て」

「きっと助けだわ……」

「やったー、俺達助かったんだ」

 鎧を着ている法師を発見したのか彼らは大きな声を上げ、あからさまに希望を抱いた顔に変わっていっている。


 彼らはもう根拠もない助けに己の全てを委ねていた。

 簡単に言うと勝手に期待したのである。道摩に……。


 鬼も鬼で間抜けだ。法師を仲間だと思い込み歩みを止めもう挟み撃ちモードに入っている。


「殿どうしますか?」

 法師の低い声が俺の耳の中に響いた。法師は俺が殺せと言ったらこの無関係な人間達も殺すことも出来ると言っているみたいだ。


「鬼をやれ」

 俺は法師に命じた。静かに、冷徹に尚且つ殺意を持って。

 引き金を引いた。

「はっ!」

 俺の命令を聞いた法師は刀を抜き一気に加速して。

 法師に希望を託したものたちもこの時ばかりは掌返しをして刀を抜き放ち迫ってきた法師に危機を覚え警戒すらしていた。

 勝手に期待して、勝手に裏切っていく……。


 そして道満が過ぎ去った瞬間にまた勝手に期待する。

 刀を抜き放った道満が人間を攻撃せずこちらに向かってくると見た鬼たちは急に慌てはじめ刀を構えだした。

 法師の刀捌きは見事なものであった。自分の剣の間合いに入った瞬間一匹の鬼を斬り倒し、左右からの攻撃を躱し、振り向きざまに武器を持った手に攻撃をして無力化する。


 法師の後ろから奇襲を仕掛けたモノはいつの間にか法師によって押し出された同胞に刃を向けていた。


 鈍い音が周囲に響く……。

 同胞に剣が刺さる事は全くなく、ただ皮膚に触れた瞬間刀身が中ほどからポキッと折れて宙を舞った。

「なんだ、鬼が宿った武器も渡して貰えない貧弱な餓鬼たちか」

 法師が憐れそうにそう呟く。

 盾にした鬼の後ろから刀を突刺し鬼二匹を串刺しにする。


 残り一匹……。

 瞬く間に彼は俺以外のものに希望を齎していた。

「あと一体」

「兄ちゃん頑張れ」

 法師はこの一瞬この場にいる主君以外のものから応援や励ましの言葉が投げかけられていた。


 法師は最後の鬼とじりじりと距離を詰め鬼を追い詰める。

 訳の分からない言葉を呟き、大きな声を上げ鬼が逆上して法師に斬りかかるが、簡単に刀で弾かれ、奴の心臓にいとも簡単に刀が突き刺さる。


 鞘に刀を納め、何か念仏のようなものを呟き陰陽師は帰還した。

 血塗られた法師に人々が群がる。

 まるでこの世の救世主でも見たかのような、まるで神でも見ているかのような……。彼らの眼は信仰で狂っていた。


 人々は湧き立っている。


「有難う兄ちゃんほんとに助かったぜ」

 皆々は法師の進路まで遮り感謝に湧き立っていた。


「あの……。私の家に帰るのに付き合ってくれませんか?」

 一人の女が法師の手を取り誘惑を始めた。


「うるせぇ、こんな目に遭って未だにお家にいる誰かか、お家にある物が大切かよ」

 中年の男が女をどつき声を荒らげる。


「皆で避難しましょう、学校か、市の施設か、自衛隊の駐屯地かどこか安全なとこに」

 一人の男がそう皆の前で語り始めた。


「自分の財産などはそれからです。相手の武器は中世的な物ばかり、そうでしょう。そんなものに現代の自衛隊の銃火器が負けるとは思えません」

 人々はもうこの男をリーダーにして動く気満々だ。仕切りたがり屋なようだ、彼奴の様に、彼奴みたいにすぐさま人に優劣を付けて仕切る。


「この悪夢も自衛隊の手に掛かれば数日で覚め元通りの生活を送れるでしょう、だからここは安全な場所に避難しましょう……」

 男は手を法師に向かって突き出した。

「彼と」


 勝手に話が進みそして皆がそれに同調していく。法師に有無を言わせず、法師の参加前提の計画が発表される。

 断る隙など与えない。

 

 彼らは皆法師とその男に拍手や励ましの言葉を浴びせ続けた。


 法師は困った顔をしている。

 どうしますか? 法師はそんな顔をこちらに向けて来る。

 俺は法師の近くに駆け寄り、人々を押しのけ……。


「なんだよ坊主が、ここから先は大人である我々が先を決めるから黙っていろ」

 なんだよ……。俺たちは何時仲間になった。

 王である奴は口を開くことはないがその取り巻きが一気に過激になっていく。もう自分の役割を理解したようだ。

 とても勝手な役割だが。


「そうだすっこんでろ」

 誰かの手が俺を突き飛ばす。

 流石に法師が何かしようとしたが、俺は目でそれを制止する。


「俺たちが決める? ならば俺たちは巻き込まないで貰いたい。俺たちは名古屋に向かう、例え目的地が同じだとしても行動は共にしない……。それが俺たちの結論だ」

 押されても尚、俺はずかずかと歩く。

 流石に何かを察したのか俺が歩こうとした道が開かれる。


「馬鹿野郎。こーゆ時だから協力していかなけれならないんだぞ」

 誰かがそう呟く。集団の心理だ、皆が皆同じ恐怖を経験している。そして今一人の男によって恐怖から解放された。

 だから人々は今まで味わってきた屈辱を発散するように立場的にこの場で一番弱そうな俺にそれをぶつけ始める。


「すっこんでろ」

「子供は大人に従いなさい」

「そうよ、この機に人々が協力しあえる世を作るのよ、私たちがその先駆けになるのよ」


 俺は法師に近づくと……。


「皆で協力して生き……」

 骨と骨が擦れ合い指が音を上げた。

 この一瞬でこの集団を先導してしまった男が口を開いた瞬間、俺は法師の腰から小太刀を抜き放ち首に突き立てる。

 血は流れた、鮮血が舞う。


「きゃぁぁああ」

「なんてことを」

 あまりの光景に嘔吐するものも現れた。

 人々にまた恐怖の花が咲く。

 ただただそれは力の無い非力なものたちばかり。後ろ盾を得て調子に乗っている勇敢な男たちは俺を取り押さえようと、囲みを作る。


「お前そんな事をして許されると思っているのか?」

「暴力に飢えた、高校生が……」

「おい君その人の前でそんな事をしていいのか? 早く止めちゃってください」

 名も知らぬ男の首から小太刀を抜き取ると、殴りかかってきた体格のいい男の拳を回避する。

 男の拳は法師の鎧に弾かれる。

「いってぇぇ」

 男は鎧の硬さに驚き手を振るわせようとしたとき……。男の腹に刀が刺さる。


「本当に自分勝手な連中だな。そもそも人にものを頼みたいってんなら、普通その人の名前くらい聞こうとするだろ」

 刀を抜き、地面で悶え苦しんでいる男の腹に向かって足を乗せる。

「おい答えろや、この集団で誰か此奴の名前が分かる奴はいるのか?」

 

 声を低くして、手に持った刀を人々に向ける。


「何逆切れしてんだよ」

「貴方許されないことをしてるのよ、分かってるの?」

「子供は黙ってなさい。さっきまでは余裕が無かったのよ。そう、これからそうしようと思ってたんだよ」

 人々は一斉に言い訳や、俺に刀を捨てる事、説得などを始めるが自分の非を認める者など一人も出てこない。


「よーく分かった……」

 姿勢を低くして一気に加速して、人混みの中に突進する。

 致命傷じゃなくてもいい、ただ刀の刃を肉に食い込ませさえすればいい。

「世界の崩壊により、秩序も常識も崩れた、だからお前ら皆死刑だ」

 血に染め上げられた刀を振るう。

 躊躇なく刀を振り上げる。


「あんた何やってんだよ、早くあの少年を止めてくれよ」

 皆が怒号交じりに法師に叫んだ。皆法師が救ってくれると信じている、皆法師に期待している、皆勝手に法師を信じ込んでいる。


「相分かった」

 人々にまた希望が戻り始める。

 法師は刀を抜き……。

「主命は下された。私は主の命令に従うのみ」

 首が飛んだ……。首が飛んだ。悲鳴と共に、絶望と共に。

 絶望を連れて来るのは希望。希望は絶望が化けている姿に過ぎない。

 そして化けの皮は剥がれた。絶望が忠義を寄せる者の命によって、自ら希望という仮面を取った、彼らの希望は絶望へと成り代わってしまったのだ。


 もう喚き嘆くものしかいない、逃げるもの、逃げるもの、人々を押し倒し自らが助かろうと絶望に他人を捧げていくもの。


 いい眺めだ。これが彼奴の気分、これがやりたかったこと、これが成りたかった自分。

 手に持った刀を振るおうとしたとき……。


「何邪魔してんだ? 蘆屋道満」

 法師が目の前に立った。

「従者が十分対応できるのにも関わらず主人が手を汚すのはいかがなものかと……。従者としては見ていられない光景ですね」

 法師の前に立ち、手に持った小太刀を人に背を向けて逃げる人に投げつける。

「あとは任せた」

 法師は逃げる者を捨て置き逃げ残されたものを狩り倒していく。

 周囲に響く悲鳴はきっとこの世界で起きている、何万何千の中の小さな小さなうちの一つでしかないのであろう。

 

「数名狩り漏らしましたが、ここにいるもの共は皆絶命させました」

 赤く染め上げられた法師に闇が纏わりつき、離れ、法師や法師の衣類が何故か新品のように小奇麗になっていた。

 法師は本身の刀を消すと、鞘に収まった刀を取り出しアスファルトの上に置き、跪いた。


「行くぞ」

 俺は法師に背を向け歩き出した。


 世界は崩壊した。態々前の世界の規則を律儀に守る必要などない。

 ああ、学校で習ったぜ、勉強よりももっと大切な事を。


 この世は力のあるものはルールを破ろうが、倫理に反した行為をしようがその力に見合った行動ならば皆がそれを見逃し肯定してくれると。

 まぁあの場に大人が居れば止めるものも出たであろう。

 つまりだ、バレなきゃ何やってもいいんだよ。混乱に紛れて、憎いやつを殺しても今人々を襲っている未知の生物がやりましたー、で何とかなる。


 一色達の紫水への暴行は皆が肯定した、しかし俺の紫水への攻撃は野蛮だのなんだのと言われ、女子からは危険な人認定をされた。


 暴力はいけないことでーす。暴力はいけません。人に手を出すのは止めましょう。人が困ることなどしてはいけません。日本は平和の国です、だから貴方たちも人に手を出すような事をしてはいけません。

 無機質な声俺の中に響いてくる。ただ俺にはそうは聞こえない。ありきたりの回答、ありきたりの答え。


 ただ現状はそうはいかない。都合のいい時だけ人々はこれを使う。


 愛の拳、愛の打撃、私も痛いの。

 ああならば俺も愛が籠っている。敵として、獲物として俺は彼らの死に逝く姿に惚れていた……。とでも理由にしておこう。

 俺が救った命、捨てようが弄ぼうが俺の自由だ。

 そうだな、俺は満たされていればいいのだ。空になった皿が朱い液体で。復讐で出来た器が無関係なものの肉片で。

 俺はこの世の良し悪しを全て俺が決める。

 狂う? こんな状況で何をもって正気だと。これから先もし同じことが起きたとしても俺は同じように行動しているだろう。


 ああ、俺は悪人になりたいのだ。過去の自分と違い俺は本当に自分を殺せるか試してみたかったのだ。本当に甘い感情が消えてしまっていたのか試してみたかった。

 世界は改まった。もう常識も何の意味の持たない。

 正義は人それぞれ違うものだ。だから正義と正義はぶつかり合う、だが俺はそうはいかない、俺は悪だ。悪というだけで何をしても納得はされる……。そんな免罪符が欲しいのだ。

 壊れてしまった世界で、壊れてしまった日常で俺は正義のような悪になりたい、そしてその果てを俺は望む。これは復讐だ。


 俺達の通った道には人はいない……。怯えただただ助けを求めるもの達は皆物へと変わってしまった。

 それでも人々がいくら減ろうが世界は崩壊を止めることはない。

 戦わなければ得る物などない、戦え、戦え、剣を獲れ、祈るな、祈っている暇があればその手で剣を掴め。

 戦え、戦え、例え何を犠牲にしようとも戦い続けろ。例えそれが人間として大切な品性でも。

 戦え、戦え……。

 

 鬼に慈悲などない。ただ本当は心配だったのだ、俺はちゃんと人間を殺せるかどうかが、しかと人間相手に復讐が出来るかどうかが。

 だが俺はまた慈悲を与えてしまってした。彼らの言い分を聞いてしまっていた。


 俺達が通る道には血が絶えず流れた。



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