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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第一章】終わりの始まり
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【一章第九話】 最高の仕打ち

「あれから一体どれだけ時間が経っただろうか? 何故だか音が聴こえるようになった。一人の少年に私は不覚を取ってしまった、屈辱である……。殺してくれ、殺してくれ、そう叫ぼうにも喉に突き刺さるような痛みを感じるだけで声が出ない。体全体に感じる衝撃、幾たびも私は殺されるが、死ねない……。殺してくれ、殺してくれ、散らばった肉片を想像しながら私はそんな理想を抱くが無情にも体が再生していく感覚がある。ああ、あれだけ感じていた痛みが突如抜けていく目の再生の邪魔をしていた物が消えている。なんだか久々に外の世界をこの目で見れるような気がする。眩しい、目の裏からでも光を感じられる。恐る恐るだが私は目を開いてみる……。美しいっ‼ 貴方は女神様ですか? 一人の少女を取り囲むように無数の鮮やかな赤い花が咲いている……。そして少女は私に微笑みかけながら悪魔の仕草をしながらこういったのであった……。 「どうせこんな事考えてたんだろ? お・ん・みょ・う・じ」」


 最後だけ地声を使ってみる。

 ハッとしたように、法師は怯えたようにこっちを見て来る。


「マンジュシャゲ、彼岸花だ。悲しき思い出、情熱、再生、諦め、今の俺たちにピッタリだろ?」

 これも地声を使ってみた。

 血の成れの果てに咲き誇る無数の彼岸の花。

「どうして少女の姿をしているかって? まぁいわばおふざけだ、ただお前俺の声をを聞いただけで発狂しっぱなしだったんだぞ。ああこれでは理由になっていないか……」

 周りの体に闇を纏い、元に戻ろうとしたとき……。

 法師はその場でただただ言葉もなく暴れ始める。拘束された腕を引きちぎる勢いで暴れているが、決して無傷の法師の腕がどうとこうとなる事はない。

 法師にあざとそうな笑みを見せながら、闇を祓う。


 地面に咲いている彼岸花を一輪積み取り、さっきよりは軽い拘束になった法師に向かって投げつける。


 パキッ……。


 親指を使って人差し指を押し出し音を鳴らした。


 赤い花は火花を噴き上げ、周囲のに咲いた彼岸花をあの時の復讐の業火が包む。


 法師がボロボロと涙を流し始める。


「ねぇ、ねぇ今の気持ちってどんな感じかな? 分かっていても期待してしまった、少しでも希望を抱いてしまっつた自分になんて言ってあげたい?」

 燃え上がり火達磨になった法師は声すら上げず、体をガタガタと震わせ吊り上げられた腕についている手錠を解こうとしている。


「なぁに心が熱いと思い込んでいるだけだ。心頭滅却すれば火もまた涼し、快川紹喜の言葉だよ」

 くるりとロングスカートを持ち回って見せる、と同時に彼岸花に変わってまた別の花が咲きだす。

 彼岸花が燃えて落ちると同時に法師を包んでいた火焔もいつの間にか消え去っていた。


「アザミって言うんだ。復讐の意味を持っている。一部の地域では祝福の花らしいけど、それも血塗られた歴史の上の祝福だよ」

 女の子の真似ってこんな感じかな? アニメや漫画の知識をフル動員して自分なりの理想の少女を演じてみる。(理想の二次元キャラ)


 指を鳴らし、拘束されている法師を囲むように鏡を置く。

 鏡には道満の後姿と、若干髪が茶色に染まったセミロングの少女が映し出されている。

 まぁ、俺の評価的には八十点かな。天真爛漫そうな雰囲気はあるがどうしても眼がね……。それに妄想の姿でも自分に満点など付けられる訳が無いだろ。


 なぜか片目だけが光を宿しているようにも感じた。

 そして俺は笑っている物凄くいい笑顔で、誰にも縛られない喜びを笑った。


 鏡の中の自分の茶色い眼の中に鏡のようにはっきりと映しだされる狂いかけの男。

 この世界姿形は好きに変えられるのに、どうしても眼の感じだけが変わらない……。

 一歩間違えたらヤンデレ方面の目だよ……。


 目だけが変えられない理由は多分分かっている、でもそこに触れてはいけないと思う。


「今の情けない自分を見てどんな風に思う?」

 法師はだんまりを決め込んだまま喋らない。

 地面のアザミを一輪取り、指を鳴らして『とある釘』に変化させる。


「奇跡から生まれたこの花は、救世主の奇跡を宿したこの花は、いずれまた奇跡の残り香を残したものへと返り咲く」


 親指を使って人差し指を鳴らし暴れる鬼の横っ腹に釘を突刺す。

 血と水が体を伝い地面に流れ落ちる。

 聖釘が落ちる、落ちる。

 血と釘が絡み合い花が咲く。尖った尖った針に塗れたトールの花。俺が一番大好きな花。

 

「しょうがないな~ こんな手は使いたくなかったけど」

 目の前の法師が急に汗を吹き出し、ジタバタと暴れ出す。


「今までやっこと事の痛みを一気に味わいたくなかったら早く喋ってね。三十秒ごとに前の倍の衝撃が貴方の体に走っていくからね」

 俺は虚ろになった法師をジッと見つめる。

 法師は息を吐き出すだけで何もしゃべろうとはしなかった。


「10、9、8、7、6,5」

 法師は吸うことを止めて魚みたく口をパクパクさせただただ空気だけを吐き出し続ける。

「4~ さぁん~」


 俺は少女らしいあざとい声を上げる。

 

「……無念…… です」

 掠れそうな声で道摩は訴える。尊厳も何もかもを捨て彼は堕ちた。


「よろしい、ならば遊びは此処までだ。これからは本題に入るよ」

 うう、ちょっと厨二な口調が混じった。まぁいいか声は少女の声なんだし。

「率直に聞こう、お前を含めて今日攻めて奴らは何者なの?」

 

 カウントダウンが始まる……。


 しかし今回の道摩の回答はさっきより全然早かった。

 どうやら少女らしく話していれば此奴の怯えは幾分もマシになるみたいだ。あの時は全然答えてくれなかったが。

 

 まあ要するにこーゆことらしい(俺訳)

 

 彼らは鬼と呼ばれる存在で人を器に活動してるらしい。もともと鬼は人の目に見えないらしくこの状態の鬼はなんの危害も加えてこない、ただ鬼が自分に見合った人間を見つけると心の中に現れ、霊体鬼の唯一の食料である悪感情を提供すれば力をやると契約を持ちかける。この契約を人間が断ると鬼は勝手に心から消えていくが、もし人間が鬼と契約してしまうと人間が使えないような鬼の能力も使えるようになるみたいだ。が、あくまで契約の為デメリットも多々あるみたいだ。一度鬼が自分の心を住み場所としてしまうと心の鬼を屈服させない限りは一生鬼と協力関係を結ばなければならなくなる。もし人間が鬼に力を求め過ぎると支配率が変わり鬼が表になり人間が裏になる。不慮の事故や若いうちに無念の病死するのもこれと同様鬼に体を乗っ取られるらしい。


 戦場に転がった死体を器にすることもあるみたいだ。

 鬼にもいろいろな種がいるらしく、器になる人間によって様々な種に分けられる。

 どの種の鬼でも、人を喰らうことによって自らの能力や知能を高めることが出来る為、鬼たちは好んで人を食すみたいだ。


 そして鬼にも特別な鬼がいるらしくこの世の中に強い恨みを持ちながら死んでいった人間が自ら望んで鬼にることもあるらしい。自ら望んで鬼になった者たちは普通の鬼より潜在能力が非常に高く、通常の鬼が力を得るために行う食事の為の殺人以外にも自らの欲を満たすためにも残虐的な活動を好んだり、鬼を率いて軍を造り生前の望みを叶えようと行動したりもするため非常に厄介な種らしい。


 あんまりよく分からないが、まぁこいつ等が何か少し分かったような気がする。


 今日集団となって襲ってきたあの鬼たちとは違い野良の鬼である道摩はあの軍の情報を殆ど持ってはいなかった……。

 ただ東海を攻める事になっている鬼は基本的に同族には規律が緩い。いわば鬼の将軍の中では優しい鬼らしく、法師のような軍に属していない鬼でも本軍と距離さえ置けば好きに捕食行動に及べるとさ。

 それで俺の家を狙ったのは、近隣で法師独特の嗅覚が恨みや辛み不満に不平などそーいった他より幾分も強い悪感情をかぎ取ったからだそうだ。


「貴方があの時使った武器はなんなのかな?」

 ちょっと可愛い子っぽく喋ってみた。

 さっきよりは鬼は落ち着いた口調で話し始める。


「私したち鬼は人以外にも万物に宿る。刀以外にも槍にも槌にもだ、私はこの目で見た事は無いが大きな鋼鉄の船や、空飛ぶ鉄の蜻蛉にも宿るらしいです」

 蜻蛉って飛行機かな?

「その武器は通常の武器なら返してしまう鬼の体に刃を入れることが出来、手足を失ったとしてもすぐさま生えてくる鬼自身の異常な再生能力を一時的に遅延させることが出来ます。そして鬼が宿った物は常時所有者に憑依している為その手の内からいつでも取り出すことができます。これだけではなく、鬼や刀の性能にもよりますが刀身がとどかない距離があっても能力で斬ることができるようになります」


 とある程度は鬼についての情報は聞き出すことが出来た。というか飽きてきたし、聞いてなんだけど全然意味わかんねぇ。

 一先ず此奴は生かしておけないな。こいつを殺して刀だけは奪っておこう、刀さえあれば取り敢えず鬼とは戦えるらしい。


 天真爛漫な笑顔を浮かべながら少女はこう言った。


「よく分かったよ、ありがとう」

 安心させといて奈落に突き落とす。

 親指で人差し指を鳴らす。この音を聞いたことにより、法師の顔がトラウマと恐怖で怯え歪み始める。

 空間全体に割れるような叫び声が響く。


「じゃあ聞きたいことは全部聞いたんでさっきの続きをやろうよ」

 法師は今まで蓄積された痛みを一気に受けている。

「この砂時計が下に全部落ちたら休憩にしてあげます」

 法師はまだ希望があると信じて三十秒ごとに倍になっていく痛みに耐えている。

 其処に少しでも希望がチラつくといとも簡単に縋る、人も鬼も変わらないようだな。

 

 もちろん、砂が全部落ち切ることは無い。

 

 感づき始めたタイミングを見計らってネタ晴らしをする。

「あっ、ごめんなさい、これ最期まで落ちる事無いからね「せいぜい精神が完全に死ぬまでこの痛みを受け続けろよ」」

 俺の声を聴き大粒の涙が地面に落下する。

 法師が狂ったように奇声をあげ、遂に痛みに身を委ね始めた。

 ここまでこればもうあと少しで此奴の精神は崩壊する。


「私を喰らう気だったんだろ? 私を絶望の底に落すつもりだったんだろ? なのに見てみろよこのザマを。ほらほらこの私を殺してみろよ、まあ出来る分け無いだろうがな。じゃろ?」

 少女の口調の真似をしてみたが、もう今では口調が崩壊していた。

 

 視界が黒く閉ざされた…… ってことは蘆屋道満の精神が完全に崩壊したってことだな。


 世界は流転する、もちろん誰しもがそれに流される。

 そこで俺はとある決意を固めた。

 俺は幾たびも願っていた、何度も祈った願いを自らの手で叶える。

 俺は復讐という名の悪逆非道な行為にでる……。


 一色お前なら必ず生き延びるであろうな、この世界の終焉から。

 始まりで待っている。だから、誰か、俺を……。


 さぁ現実への帰還だ。


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