NDA53
お待たせしました。
約三週間ぶりの投稿になります。どうぞ、お楽しみください♪
リオンと別れたユーリはそのままシオンとミカンをギルド協会で待ち、合流した後にカジカに連絡を入れた。ほどなくして、カジカ達が迎えに来ると一向はギルドハウス候補の建物へと向かった。ニコスの街の東側に建つその建物はヨーロッパ的な雰囲気の漂う石造りの三階建ての建物で、一階は作業場にも店舗にも使える大きな石畳の部屋が二つあり、片方には小さいながらも鍛冶用の炉が備え付けてあった。二階と三階は居住スペースとなっており、キッチンやシャワーなどの設備もしっかりと整っていた。六人で住むには大きすぎる気がしないでもないが、ミカンの工房やシオンの作業場、カジカのレストランなども入ることを考えるとこれでも小さいくらいだった。
「ふーん、で、ここにするのか?」
建物を見ながらユーリが呟くとカジカは小さく頷いた。
「俺はそのつもりだが、独断で決めるわけにもいかないからな」
意見を聞かせてくれ、とカジカはミカンとシオンに視線を向けた。ミカンは一瞬戸惑った表情を浮かべ、そして、自信なさそうにカジカに言った。
「えーと、私はいいと思います。でも、一階でお店をするなら、少し狭くないでしょうか?」
作業場が欲しい、と言ったミカンの望みどおり、鍛冶用の炉の付いた建物であることは素直に嬉しかったのだが、その分、カジカの求めていたレストラン用に使える部分はかなり少ない。調理器具やカウンター、テーブルなどを並べれば10人座れるかどうか、といった広さである。更に、この建物は通りに面しているとはいえ、大通りから外れているため、ここの立地条件は決して良くはない。ミカンの要求を叶えるために、カジカが我慢しているのではないか、と考えてしまうと素直に頷くことはできなかった。しかし、カジカは何でもないように首を横に振った。
「そのことなら気にしなくて良い。店と言ってもまだ、何の準備もできてないし、そこまで優先するほどのことでもない」
「でも……」
「それに、料理を作れるのは俺一人しかいないんだ。そんなに大きな店を持っても、むしろ困る。これくらいがちょうどいいんだ」
隠れた名店みたいだろ、と笑うカジカにミカンの表情もいつのまにか笑顔に変わっていた。
「シオンはどうだ?」
「……作業場用に一部屋、欲しい。それだけ」
カジカの質問にシオンはそれだけしか言わなかった。しかし、カジカにはそれだけで十分だった。二階と三階の居住スペースには余分な部屋もある。シオンの望みを叶えるには十分だった。
「じゃ、ここでいいか」
改めて確認するようにカジカが五人の顔を見る。それぞれ小さく頷くのを見て、カジカも頷いた。
「それじゃ、ここでお願いします」
ギルド協会の人にそう言って、カジカは契約手続きに入った。
・*・
「とりあえず、部屋割りには二階が男性、三階が女性でいいか?」
カジカの言葉に五人はそれぞれ頷き、女性陣は三階へと上がっていった。年頃の男女が一つ屋根の下で、となると色々と厄介なことが起きそうなものだが、このパーティーに限って言えば、それらしい気配は皆無だった。なんだかんだで、このメンバーでパーティーを組んでしばらく経ち、野宿をしたことも、ひとつの部屋で寝たこともあるが、それらしいことが起きた例がない。一見すると色々なタイプの美女、美少女に囲まれたカジカのハーレムパーティーのように見えるが、そのカジカがそれらしい素振りを見せず、カジカにそういった類のことを求めていない女性陣からアプローチをかける、といったこともない。ユーリもまた同様で、見た目が貧乳系エルフ美人にしか見えないため、そういった対象に見られることはなく、クロエのセクハラまがいのスキンシップが偶にあるかどうか、といったところである。
「で、ユーリはどこにする?余った部屋はシオンの作業場と物置に使うから、好きな場所を選んでくれ」
「選べって言われてもな……」
間取りに大きな違いはないため、どの部屋を選んでも同じだ、と思ったユーリだが、それは口に出さずに一番右側の部屋へと入る。決して大きいとはいえないながらも、しっかりした作りのベッドがあるだけの部屋は殺風景で、どこか寂しくさえ感じられた。広さで言うと四畳半以上、六畳未満といった大きさで現実世界のユーリの部屋より若干、広い印象を受ける。
「そこにするのか?」
部屋の外から尋ねるカジカの声。
「あぁ、ここに決めた」
部屋を決めたユーリはすぐに部屋を出て、カジカに言った。
「そういえば、ギルド協会で待ってるときにリオンっていうプレイヤーに声をかけられて、フレンド登録しちゃったんで、一応、報告しとくな」
報・連・相は社会人の常識であるが、フレンド登録に関して一々ユーリがカジカに報告する必要はない。しかし、それでもユーリがカジカに報告したのは相手がただのプレイヤーではなかったからである。現在、ゲーム内で最強を争うギルドの一角『黒獅子』のギルドマスター、リオン。おそらく、プレイヤー個人としての技量だけを言えばノエル達と同格か、それ以上のものを持っている可能性さえある相手である。デスゲームにも関らず、ベータ版の時と同様、三人でギルドを組んでいる、という点だけ見て取っても、ただのプレイヤーではないことがわかる。しかし、カジカの反応は意外にも冷静なものだった。
「そうか」
それだけしか言わなかったカジカにユーリは首を傾げた。
「そうかって、それだけ?」
尋ねられたカジカもまた、首を傾げていた。
「他に、何かあるのか?別に俺たちはそこのギルドと何かを競っているわけじゃないし、協力して何かに取り組んでいるわけでもない。他に言いようがないだろ?」
「いや、まぁ、そうだけどさ……」
仮にもトッププレイヤーの一人である。何がある、というわけではないが、何もない、というわけでもないのでは、と思いながらもユーリはそれ以上、何も言わなかった。
「ところで、この後はどうするんだ?」
「整理するほど荷物があるわけでもないし、もう一度ギルド協会に行って、何か依頼でも受けてこようと思う」
時間で言うとまだ昼過ぎであり、簡単な依頼であれば日が暮れるまでに終わらせることも可能である。なにより、契約の頭金でかなりの額を使ってしまったため、頑張って働く必要がある、というのは紛れもない事実だ。カジカの店を開くためには、まだまだ準備しなければならないことが数多くあり、そのためにはお金も必要になってくる。ギルドの依頼を受けに行く、というカジカの案にはユーリも賛成だった。そのことを女性陣にも話したところ、シオンとミカンはそれぞれしたいことがあるから、と断られ、夜型のエリザにも同じく断られ、結局、クロエを含めた三人でギルド協会に向かうことになった。
・*・
「そういえば、この三人で動くのって久しぶりだよな」
ギルド協会で依頼を受けた三人はニコスの大通りを並んで歩いていた。突然呟いたユーリの言葉にカジカとクロエもそれぞれ頷いた。色々あって、今は六人でパーティーを組んでいるが、元々はこの三人だけでパーティーを組んでいたのである。
「今更ながら、かなり無謀なことをしてたよな……」
六人で戦うことに慣れてしまった今では、三人だけで、しかも、回復役抜きで戦っていたことが恐ろしくて仕方がなかった。今も回復役はいないが、シオンのおかげでポーション類の補給は十分足りていた。昼こそ頼りにならないエリザも、夜になれば無類の強さを発揮し、そのおかげで夜間の強行軍をできたことは紛れもない事実だった。そして、ミカンは小柄ながらも盾役として活躍し、パーティーへの攻撃を一手に引き受けていた。振り返ってみると、メンバーが増えてから、かなり戦いやすくなっていた。
「ですね」
「だな」
クロエとカジカもその自覚があるのか、ユーリの言葉に同意するように頷いた。
「なんだか、あの頃のことがずっと昔のことのようですね」
クロエがそう言って、懐かしそうに微笑んだ。実際にはそれほど昔のことでもないのだが、命の危険を常に感じるような濃密な時間を過ごしていると時間の流れが今まで以上に早く感じてしまう。クロエに言葉に頷きながら、感慨に浸っていたユーリだったが、ほどなくして、カジカの言葉で現実に引き戻される。
「着いたぞ」
カジカに連れてこられたのはニコスの大通りに面する大きなレストランだった。
「……なぁ、本当にここ、なのか?」
「あぁ、ここで間違いない」
手元の地図を確認して、カジカは頷いた。それを見たユーリは盛大にため息を零した。ユーリ達が受けた依頼とは、このレストランの手伝いである。初めての依頼だから、と心のどこかで胸躍らせていたユーリにとってはまさかの依頼だった。とはいえ、カジカが料理好きだから、という理由でこの依頼を受けたわけではない。ギルド協会に行った時点では討伐系や採集系の依頼も幾つかあったのだが、三人で挑むにはいささか危険であり、だからといって配達系の依頼はそれなりの時間を拘束される割りに、報酬がよくない。街から街へ移動する護衛系の依頼など言うまでもない。そうなると、残っているのは派遣系、いわゆるお手伝いの依頼である。これも拘束される時間はかなりのものだが、その分、報酬も高く、安全にお金を稼ぐという意味では最適の依頼だった。その中でも、この依頼は最低一人は【料理人】を持っていなければ、受けることができないものであり、現状、誰も達成したことのない依頼だった。
「どうも、協会から派遣されてきたカジカです」
扉をくぐると、レストランのオーナーらしき人物が三人を出迎えた。ぽっこりと膨らんだお腹はよく言えば恰幅のいい、悪く言えば中年太りのお腹だったが、見た感じ、貧の悪さは感じられなかった。しかし、焦っていることは確かなようで、うっすらと滲んだ汗を見れば、見た目ほど落ち着いていられる状況でないことがわかる。ユーリ達の受けた依頼の概要を説明すると、そこそこ規模の大きいパーティーを開くことになったので、従業員が足りないからレストランに手伝いに来て欲しい、というものである。
「ふーん、君か……まぁ、いい。猫の手でも借りたいからな。悪いがパーティーまで時間がない。すぐに厨房に行ってくれ。詳しいことは料理長に聞いてくれ。で、君たちはこれに着替えて、給仕に回ってくれ。詳しいことはジョルジュに聞いてくれ」
そう言って、給仕服に身を包んだ壮年の男性が二人に黒い給仕服を差し出した。
「えーと、これはタキシード?」
「の、ようですね」
受け取った黒服を見て、ユーリは内心、安堵のため息を零した。もし、これがフランであれば、渡されていた服は十中八九、メイド服に違いなかった。普段のアイテムと同じようにメニュー画面で装備変更すると一瞬にして、ユーリの服装がタキシードへと変わる。それを見たクロエは思わず、ため息を零した。
「お姉さま、素敵です」
小さく可愛らしい黒の蝶ネクタイに優しい丸みのある襟。決して派手さはないが、だからこそ、ユーリの持つ生来の美質をこの上なく引き立てる装いだった。給仕服は男女による違いはないらしく、クロエの服も猫人用に尻尾の通る穴が開いていたことを除くとユーリとまったく同じ装いだった。
「では、こちらにどうぞ」
そういって、ジョルジュは二人を店の奥へと案内し、仕事の説明をしてくれた。今回は立食形式のバイキングであるため、料理を厨房から会場に運ぶだけの仕事であり、給仕は今回が初めての二人でもなんとかなりそうな仕事だった。それからまもなくして、会食が始まったが、参加者が全員NPCということもあり、ゲーム上、男であるユーリにおかしな声をかけてくる者もいなかった。見知った顔としてはギルド協会の支部長であるブッシュの姿を見かけたが、給仕に徹するユーリに声をかける暇などなく、また、ブッシュも声をかけるような場所ではない、と心得ているか、あるいはユーリに気づいていないのか、一言も言葉を交わすことなく、パーティーは終わってしまった。途中、幾つか小さなアクシデントが起きたものの、全体的に見ればパーティーは無事に終了し、おまけです、とにっこり笑いながらジョルジュは給仕服を二人にくれた。依頼の報酬は別に受け取っているため、文字通り、おまけである。しかし、断る理由もなかった二人は素直に給仕服を受け取り、お礼を言った。それからまもなくして、疲れ果てたカジカが二人の前に姿を現した。
「……死ぬかと思った」
息も絶え絶えになりながら、ため息を漏らしたカジカではあったが、その表情にが依頼をやり遂げた達成感が確かにあった。空を見上げれば既に星空が広がっており、優しい星明りが三人を照らしていた。なにはともあれ、ギルドから受けた初めての依頼は無事に達成したのである。
「お疲れ様、カジカ」
カジカの労をねぎらいながら、三人はギルドホームへと歩き始めた。
というわけで、次回からは本格的に依頼を受けたり、冒険したり、な話になると思います、多分。
60話近く費やしてようやく、ですが今後も『Non Division Adventure ‐翻弄されるエルフの剣士‐』をよろしくお願いします。




