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NDA20

ようやく投稿できました……

ギリギリ一週間以内、ということで有言実行しましたよ?




「で、新しくシオンが仲間に入ったわけだが……とりあえず、今後の方針を決めようと思う」


 いつもより二割増しの真面目な顔でカジカは切り出した。カイと別れた後、四人は揃って酒場に来ていた。ユーリ以外の三人は何度か来たことがある様子だったが、初めて入るユーリは明らかに挙動不審な態度を取っていた。席に座ってからも物珍しそうに店の中を見回している。


「来るの、初めて?」


 ユーリの様子にシオンは首を傾げながら尋ねる。森に行くような人間が一度も酒場に来たことがない、というのが信じられないといった様子だった。酒場と名前はついているので、一応酒とつまみは提供してくれるが、多くのプレイヤーにとって、ここは食事をする所ではなく、ましてや酒を飲みかわすところでもなかった。レストランや居酒屋風の食事処は他に幾つもある。ここは人と情報の集まる場所だった。


「じゃあ、先に酒場の説明をしておくか。ここは完全にNPCが運営している店で、そこにいる黒服がマスターだ」


 カジカの指差した先にはバーテンダーらしき大柄な男が立っていた。その眼光は鋭く、歴戦の勇者を思わせる風格が漂っている。それらしい服のおかげでバーテンダーに見えないこともないが、はっきり言って似合っていない。


「一応、元冒険者って設定で、初心者にはアドバイスなんかもしてくれる。顔はあんなだけど、いい人だ。何か欲しい情報があるときはマスターに聞けばいい。もし、それに該当しそうな情報があれば、代金を払って教えてもらう。逆に、情報を売りたいときは普通に話せばいい。話し終わったらそれに見合った代金を払ってくれる」


「うわ……そういうところはやっぱりゲームなんだ……」


「ユーリお姉さま、本当に酒場に来たことがなかったんですね……」


 ユーリの反応を見て、クロエもため息を零す。その言葉にユーリは申し訳なさそうに肩を竦める。カジカ曰く、ゲームを始めたばかりのプレイヤーは必ず酒場に来る、ということらしい。種族やスキル、武器の熟練度など基本的なことはここで教えてもらう、ということらしい。ベータ版からの古参組を除くとここに来ていないプレイヤーはいないんじゃないか、と言われ、ユーリは苦笑するしかなかった。


「そっか……」


「……むしろ、誰に教えてもらったのかが気になる」


 酒場に来る以外で、ゲームに関する基本的なことを教えてくれる場はない。それにも関わらず、ユーリがここまでゲームを進めることができたのは事前にベータ版のテスターだったノエルに教えてもらったからである。それを思い出したユーリは思わず、顔を顰めた。


「……もしかして、聞いちゃダメ、だった?」


 ユーリの顔を見て、シオンが尋ねる。


「……いや、そんなことはない」


 そう言ってユーリは首を横に振った。ノエルと別れてもう何日も経っている。しかし、ノエルのことを思うだけで胸の奥が掻き乱されるようだった。捨てられたことを恨む気持ちはある。憎む気持ちもある。(ノエル)に対する怒りはあの時から少しも消えていない。しかし、どろどろとした負の感情が渦巻く一方で、姉に対する好意もまたユーリの中に残っていた。この世に生を受けて、物心をついたときから幾度となく有紀には泣かされてきた。喧嘩の回数も数えきれないほどだ。しかし、いつも有理の傍にいてくれたのも有紀だった。数えきれないくらい泣かされて、しかし、それに負けないくらい助けられてきた。その積み重ねがあるからこそ、有理は姉のことを心のどこかで、まだ、信じていた。否、(ノエル)への信頼を捨てきれなかった。だからこそ、胸の中で渦巻く葛藤に苦しんでいた。


「姉さんがベータ版のテスターだったから、姉さんに……ノエルに教えてもらったんだ……」


 苦しげな声で呟いたユーリとは対照的に、その言葉を聞いたクロエとシオンは目を見開いていた。


「あの、ノエルってもしかして……《妖精女王(ティターニア)》のギルマスのノエルさんですか?」


 いつになく興奮した様子でクロエがユーリに迫る。シオンもユーリに熱い視線を送ってくる。


「え、いや……そう、なのか?」


 ノエルがベータ版の仲間と組むという話は聞いていたが、ギルド名まで知らず、困惑した表情を浮かべた。そんなユーリにカジカが助け舟を出す。


「そうだ、あのノエルだ。ちなみに《妖精女王(ティターニア)っていうのはベータ版から古参組で構成されたギルドで、今、攻略の最前線にいるギルドの一つだ」


「《妖精女王(ティターニア)》は女性だけで構成されていて、弓使いのノエルさんがギルマスで、二刀流のアザミさん、斧使いのリアさん、回復薬役(ヒーラー)のソフィアさん、魔法使い(メイジ)のアイリスさんとアウローラさんの六人組なんです。ベータ版の頃から有名で、今回も一番で街道をクリアしたギルドなんです」


 厳密に言うならば、街道のクリアがギルド設立の条件の一つなので、順序としては逆になるのだがそこについては誰も気にしない。


「《妖精女王(ティターニア)》は本当にすごいギルド。攻略組の中でも本当に上の方……《幻影騎士団ゲシュペルストリッター》、《時の守り人(クロノス)》、《黒獅子(ブラックレオン)》の三つのギルドと合わせて四強って呼ばれてる」


 どちらかというと無口なシオンがわざわざ話すのだからその凄さじゃ自ずと予想ができる。ギルドの構成メンバーが知られている時点で異常と言っていい。しかし、それはギルドの実力の高さの裏返しであり、それだけの力を有するギルドだということは疎いユーリにも理解できた。そして、心のどこかで安堵している自分がいることにユーリは気付いた。ノエルと別れたあの日から、ユーリはノエルを見ていない。ベータ版の経験者であるノエルがそう簡単にやられるはずはないと頭では理解しているのだが、もしかして、という不安を拭い切れないままでいた。


「……そうか」


――――俺と一緒になれないわけだ……


 嫉妬と安堵。二つの感情が混じり合い、ため息となって桜色の唇から漏れる。ノエルにはノエルの仲間がいて、ノエルの為の居場所がある。その事実が妙に痛く突き刺さる。きっと、そこはどこよりも危険で、しかし、どこよりも安全な場所に違いない。


「ちなみに、カジはノエルがその《妖精女王(ティターニア)》のギルマスだって知ってて俺に言わなかったのか?」


「あぁ。言ってもどうしようもねぇしな。あと、誤解のねぇように言っておくが、初めて会ったときは本当に知らなかったからな」


 カジカの気遣いにユーリは黙って目礼を返す。燃えるように紅い髪のおかげもあり、一見すると粗野で軽薄に見えるカジカだが、実際は細かい気配りのでき、見た目ほど軽い人間ではない。出逢ってからまだ一週間も経っていないがユーリはカジカに助けられてばかりだった。


「いや、カジを疑ってるわけじゃないんだ……ごめん、おかしなことを聞いて。これからどうするかを決めるんだろ?どうするつもりなんだ?」


 話題を切り替えたユーリの顔に憂いはなかった。


「そうだな……その話をする前に現状を確認しておきたいから少し待っていてくれ」


 カジカはそう言うと席を立って、マスターの下へと向かった。マスターと話している様子を見る限り、すぐに終わるようには見えなかった。しばらく、時間がかかると判断したユーリはもう一度酒場を見渡した。広いとは言えないが決して狭くはない店内はほんのりと薄暗く、店の至る所にランプの光がきらめいていた。カウンター席は10人分ほどで、テーブル席が大小合わせて8つある。客の数はまばらでユーリ達を含めてもプレイヤーは4組しかいない。そうやって店の中を見ていると奥の壁にかかっていた掲示板に目が留まった。そこにはメモのようなものが幾つを留めてあった。


「クロエ、あれってなんだ?」


「あれ?あぁ、トレード掲示板のことですね。使い方は簡単で、テーブルに紙に交換条件を書いて、アイテムと一緒にあのウェイトレスさんに渡すだけです。他のプレイヤーが条件を見て、いいなって思ったらその条件通りのアイテムやお金をウェイトレスさんに渡すと紙に書いてあったものがもらえるシステムです。ちなみに、完全匿名性で取引した相手の名前はお互いにわからないようになってます」


 曰く、酒場を介した無人販売のような仕組みらしく、素材を売買する伝手のないプレイヤーがよく使用しているとのことだった。素材以外にも武器や防具、アイテムの交換も行われていて、それなりに便利らしい。


「あくまでもプレイヤー同士の為の交換システムなので、普通だと売れないスキルでも売れます。まぁ、スキルの場合だと、スキル同士を交換する人がほとんどですけど。ちなみに武器と違って、レベルもそのまま相手に引き継がれるそうです」


 素材やアイテム、装備品であればプレイヤー同士で売買することも可能だが、スキルの売買は通常でできない。唯一の例外がこのトレード掲示板を利用した交換だった。


「ついでに、向こうの掲示板は募集用」


 シオンが指差した先はまた別の掲示板があった。トレード掲示板と同じようにメモが幾つも貼ってある。募集という言葉どり書いてある内容もパーティーメンバー募集に関するものばかりである。


「あのメモに連絡先が書いてあって、フレンド通信みたいに連絡ができる」


「なるほど」


 そうしているうちにマスターから情報を得てきたカジカがテーブルに戻ってくる。気のせいかその表情はどことなく硬い。思った情報が得られなかったことは疎いユーリでもすぐに察しがついた。


「悪い、待たせたな。とりあえず、現在の時点で街道をクリアしたプレイヤーは全部で9組だ。まぁ、ほとんどがベータ版からの古参組だけど、新規組でも2組したらしい。ギルド名は《火鉄(カデツ)》と《アドレンジャー》で、ギルド名以外の情報は今の所は不明だな。街道の攻略情報については前と変化なし」


「じゃあ、これからの予定はどうする?武器も新しくしたから馴染むまで少しかかるだろ?」


「あぁ、だから、明日はもう一度森に行こうと思う。準備は今日の内にしておいて、明後日出発しようと思う」


 カジカが提案すると他の三人はそれに同意するように頷いた。元々、急ぐ理由はない。出発が予定から少し遅れたところで問題はない。


「で、その前に自己紹介も兼ねて、お互いのスキルをもう一度確認しておこうと思う。シオン、いいか?」


 パーティーを組むと決めた以上、シオンに断る理由もなく、頷いて答える。


「それじゃ、まず、俺からだな。名前はカジカ。種族は人間(ヒューマン)でスキルは【料理】、【目利き】、【採集】の三つだ。【料理】で作った料理ならHPやMP回復ができるからポーションの代わりにはなる。武器はいまのところ、ナイフを使っている」


 カジカの態度はどことなく堂々としていて、妙な風格がある。


「わたしはクロエといいます。種族は見ての通り、猫人(リンクス)でスキルは固有スキルの【猫の目】と【爪術】、それに【鑑定】です。武器が爪なんで前衛になっちゃいますね」


 クロエは挨拶代わりだとピクピクと猫耳を動かしてみせた。

 

「俺はユーリ。種族はエルフで、スキルは【剣術】と【両手持ち】、【軽業】、【下級魔法(風)】の四つだ。一応、前衛も後衛もこなせる」


 そう名乗ったユーリをシオンはまじまじと見つめた。


「本当に男の子、なんだよね?見えない……」


 ユーリの性別については仲間に誘ってすぐに伝えてあるのだが、それでも信じきれないのか、シオンの目にはまだ疑いの色が残っていた。スキルが4つあることよりもユーリの性別の真偽に興味が向いていることからもその疑いのほどを窺うことができる。


「あぁ、そうだ。ステータス画面でも確認しただろ」


 シオンを仲間にしたときにユーリの性別についてはシオンもステータス画面で確認している、そのため、ユーリの性別が男であることはシオンも理解しているのだが、それでも素直に受け入れようとしなたかった。曰く、あんなに美人なメイドが男の娘であるはずがない、と。


「とりあえず、シオンも自己紹介してくれ」


「……シオン。ホビット。スキルは【調合】、【下級魔法(火)】、【隠密】だけど、INTが高くないからナイフも使う。材料があればポーションも作れる、たぶん」



 回復役のいないこのパーティーにおいて、ポーションやその代用品を作成できるカジカとシオンは貴重な存在である。そもそも、ゲームの中でも、ポーションを作れる人間は稀少だった。ちなみに【料理】で作った料理は本当の代用品であり、回復量はよくて本物のポーションの半分程度である。材料や労力を考えるとNPCから購入した方が効率がいい為、情報が出回っているわりには普及していなかったりする。


「よろしくな、シオン」


「うん」


 はにかむように微笑みながらシオンは頷いた。


次々回かあるいは次々々回には街道攻略に出発できると思います。それにしても、ここまで本当に長かった……(苦笑



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


次回の投稿は11月17日の予定です。


それでは、次回をお楽しみに♪

ではでは。




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