表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいい子には地獄見せろ  作者: 鶴ヶ友護


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

第2話 愛浦千尋は悪人である

 期末テストから数日。

 私達は駅前のカラオケに来ていた。

「よーし! テスト終わり記念に遊ぶぞー!」

 マイク片手に立ち上がっているのは、立花(たちばな)美惚(みほ)ちゃん。

 健康的に焼けた肌とショートカットがよく似合う、元気いっぱいのスポーツ少女だ。サッカー部に所属していて、テンションと声量はクラスでも一番。

 今も、ひとりだけライブか以上みたいな盛り上がり方をしている。

「美惚ちゃん元気だねぇ」

 そう言って、ふわっと笑うのは伴澤(はんざわ)茉陽瑠(まひる)ちゃん。

 柔らかな雰囲気をまとった癒し系の美少女で、見ているだけで心が和む。ただおっとりしすぎて、たまに心配になることもある。

 ふたりとも私のクラスメイトで、大好きな友達だ。

「だって、テスト終わったんだよ⁉ テンション上がるでしょ!」

 美惚ちゃんが楽しそうに笑う。

 そんなふたりを見ながら、私はジュースを一口。

 うん。

 平和だな。

 もうテスト終わったし。

 お腹痛くないし。

 今日は楽しい放課後になる──はずだった。

「そういえば唯恋」

 その声に、びくっと肩が跳ねた。

 隣を見ると、案の定。

 千尋がにやりと笑っていた。

「今回の勝負、私の勝ちだったね」

「…………」

 やめて。

 その話、今ここでしないで。

「勝負?」

 茉陽瑠ちゃんが首を傾げる。

「なになに? ふたり何かしてたの?」

 美惚ちゃんまで食いついてきた。

 うぅ……。

 説明したくない。

 そんな私の内心を他所に、千尋は楽しそうに口を開く。

「テストの合計点数で勝負してたんだ」

「へえー!」

「負けた方は勝った方の言うことなんでも聞くって約束でね」

「えっ!」

 茉陽瑠ちゃんの顔が少し赤くなる。

「え、それって……」

「超楽しそうじゃん!」

 美惚ちゃんは完全に面白がっている。

 そんな二人とは対照的に、私は頭を抱えたくなる。

 なんで今言うの……。

「それで、どっちが勝ったの?」

 美惚ちゃんが身を乗り出して聞いてくる。

 すると千尋はゆっくりと笑って。

「私」

 二枚の紙をテーブルに置いた。

 そこに掛かれているのは。

 愛浦千尋──合計891点。

 河居唯恋──合計715点。

「…………」

 一瞬、空気が凍る。

 そして──

「あはははははははははは」

 大きな笑い声が響いた。

「唯恋、意外と低っ!」

「もう、美惚ちゃん。笑いすぎだよ」

 思い切り笑いだした美惚ちゃんを、茉陽瑠ちゃんがやんわりと注意した。

 うう……。

 でも仕方ないじゃん。

 あの地獄みたいな腹痛のせいで、化学が壊滅したんだから。

「唯恋ちゃん、前のテストはもっと点数高くなかった?」

「そ、それは……」

 言えるわけがない。

「うんこ我慢してました」なんて。

 曖昧に笑ってごまかそうとした瞬間──

「化学の時、大変そうだったもんね」

 千尋がわざとらしく言った。

「~~~~っ!」

 思わず顔が熱くなる。

 絶対にわざとだ。

 あのニヤニヤ顔。

 絶対にわざと言ったんだ。

『……トイレ、行きたいの』

 耳元で囁いた黒歴史を、絶対に思い出してる!

「なにそれ? なにがあったの⁉」

 興味津々で聞いてくる美惚ちゃん。

 やめて。

 聞かないで。

 美惚ちゃんに翻弄される私を見て、千尋は楽しそうに笑った。

「まあ、それは置いといて」

 いや、置いておくなら最初から言うな!

「唯恋」

「……なに」

「罰ゲーム、受けてもらおうか」

 その笑顔を見た瞬間。

 ぞくりと背中に寒気が走った。

「な、なにするの?」

 かわいらしく首を傾げて聞いてみる。

 すると千尋はわざとらしく、顎に手を当てて考え始める。

「うーん。どうしようかな」

「絶対もう決まってるでしょ」

「あはは、バレた?」

 ジトっとにらみつける私に、千尋は楽しそうに笑う。

「今日の唯恋、凄くかわいいね」

「うん」

「そんなかわいい唯恋に私を癒してほしいな」

「うん?」

「癒すって何をすればいいの?」そう聞き返そうとしたら、千尋は自分の頬を指さして──

「キスしてほしいな」

「…………え?」

 キス。

 今この人、キスって言った?

「ええええええっ!」

 茉陽瑠ちゃんが一気に真っ赤になった。

「ええ! キス!」

 美惚ちゃんまで騒ぎ出した。

 そんなふたりの声に、私の頭も騒がしくなる。

「な、なんでそうなるの⁉」

「罰ゲームだから」

 当然のように言う千尋。

 こいつ、絶対楽しんでるな。

「ほら、早く」

 にやにやしながら頬を寄せてくる。

 近い。

 顔がいい。

 肌きれい。

 ずるい。

「うう……」

 キスとかやだよ……。

 でも──

 千尋から逃げ出すとかもっと嫌だ。

 ここで逃げたら、それこそ負けだろう。

「……やればいいんでしょ」

 精一杯、覚悟を決める。

 ちらっと横を見ると、ふたりがこちらを見つめている。

 茉陽瑠ちゃんは両手を胸の前で握ってそわそわしている。

 美惚ちゃんは顔を隠しているくせに、指の隙間からめちゃくちゃ見ている。

 ……見世物じゃないんだけどな。

 そう思いながら、改めて千尋に向き直る。

 長いまつげに、綺麗な横顔。

 そして、ほんのりといい匂いまでしてくる。

 数センチ。

 あと少しで触れ合う。

「「はわわ……!」」

 横から変な声が聞こえてきたけど、無視だ。

 目の前の千尋に集中しないと。

 あと数センチの距離を少しずつ縮めて。

 そのまま、唇を軽く押し当てた。

 柔らかい。

 その感触に心臓が跳ねるよりも早く、距離を取って視線を上げる。

「ど、どう?」

 平静を装って、聞くと千尋は満足そうに笑った。

「うん。かわいかったよ」

「~~~~っ!」

 その笑顔が、妙に綺麗で──

 見惚れそうになってしまう。

 ……いやいや!

 なに見惚れそうになってるの私!

 見惚れさせるのは、かわいい私の役目なんだけど!

 悔しくなって、千尋を見惚れさせるべく、とびっきりかわいい笑顔を千尋に送る。

 その笑顔に千尋は綺麗な笑顔を返して──

 結局、私達の見つめ合いが終わるのは、「終了十分前です」と店員さんが声をかけてからだった。


   ***


「はあー、すごかったなー」

 帰り道にて、ぽつりと呟いたのは茉陽瑠ちゃん。

「ねー」

 美惚ちゃんも、どこか興奮した様子で頷く。

「ふたりとも、私達のことなんてお構いなしにイチャイチャし始めるんだもん」

 その言葉に、私はぴくっと反応する。

「イチャイチャしてないし!」

「ふふ、唯恋が興奮して求めてくるから、私もついね」

「してないって言ってるでしょ!」

 にやにやと笑う千尋を、私はかわいく睨みつける。

 ……くそ、余裕そうな顔しやがって。

 本当はもっと言ってやりたいけど、口で勝てる相手じゃないから止めておこう。

 ──その代わり、別の人に絡みにいこう。

「えーん、茉陽瑠ちゃーん。千尋がいじめるよー」

 ウソ泣きで甘える私を、茉陽瑠ちゃんは優しく受け止めてくれる。

「よしよーし。大丈夫だよ、唯恋ちゃん」

 優しく頭を撫でられて、思わず頬が緩む。

「茉陽瑠ちゃん、好きー」

 さらに甘えると、茉陽瑠ちゃんはぎゅっと強く抱きしめてくれた。

 そんな私達を見て、美惚ちゃんがにやにやと笑った。

「ちひろー、私達もイチャイチャしよー!」

 勢いよく千尋に飛びつく──。

 けれど、千尋はひょいと躱して、なぜかこちらにやってくる。

「唯恋。私がいついじめたって?」

 そのまま、茉陽瑠ちゃんごと私を抱きしめる。

 ……ちょっと待って、近いんだけど。

「えー、さっきいじめてきたもん」

「いじめてないし。嘘言わないで」

「いじめた」

「いじめてない」

「した」

「してない」

「まあまあ、ふたりとも」

 子供みたいに言い合う私達に、困ったように茉陽瑠ちゃんが笑う。

 その反応が面白くて、私達はますます調子に乗った。

「やった」

「やってない」

「やっ──わあ!」

 そんなやり取りをしてると、突然横から強い力で抱きつかれた。

「もー、三人でずるいよ! 私も混ぜて!」

 美惚ちゃんは子供みたいにぷっくりと頬を膨らませ、自慢のパワーで私達をぎゅーと抱きしめる。

 私達はその力を、嫌がることなく受け入れる。

 四人で抱きしめ合って、もう誰が誰に触れているのかわからない。

 笑い声と体温が混ざり合う。

 騒がしさも、今はとても心地いい。

 それに、四人でこうして抱き合ってるのは

 ──とってもかわいい。

 こんな幸せな時間があったから。

 ……まあ、今日の千尋のいじわるは許してやってもいいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ