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転生した失地王がハーブ畑を耕したら、押し掛け魔女に癒しのカフェをはじめないかと誘われました!  作者: 日埜和なこ


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第23話 一悶着起こしつつも、それぞれの持ち場へ向かう

 ログハウスに戻ると、丁度トレヴァーが欠伸をしながら起きてきた。

 切ったパンにサラダと焼いたベーコンを挟み、簡単な朝食を用意している間に、大工のヨークが森に行くことになったとトレヴァーに話したらしい。

 テーブルに朝食を並べると、不満げな顔のトレヴァーが俺を見た。


「……俺、力仕事はそんな得意じゃないんだよな」

「なにいってんのよ。そこは魔法で保管できるじゃない」

「だったら、お前が行けよ!」

「あたしはルーファスとお祭りの用意だもーん」

「だもーん、じゃねぇ! お前、どうせ食う専門だろう!?」


 騒ぐトレヴァーに、ジャスミンは全く怯む様子もなく、大きな口でパンに嚙り付いた。パンからはみ出たトマトソースが見事に口の端を汚すが、そんなことを気にせずもう一口嚙り付く。

 早朝から作業をしていたから、だいぶ腹が減っていたのだろう。


「俺が森に行ければよかったんだが」


 苦笑しながら、ヨークの前にも皿を出す。彼は「私の分まですみませんな」といいながら、嬉しそうにパンを掴んだ。

 トレヴァーは唸りながら、カップのハーブティーを一口飲んだ。そうして深い息つくと、少しだけ声を落ち着けた。


「……ルーファスが行けないのはわかってる。けど、こいつが」

「朝からハーブの手入れ手伝った上に、森に行けとかいうの?」


 口元についたトマトソースをぺろりと舐めたジャスミンは「ま、あたしの方が有能だから構わないけど」と、煽るようなことをいった。

 二人がばちばちと火花を散らすように睨み合うのにも、俺はだいぶ見慣れたのだが、初めて目にしたヨークははらはらとしている。俺にこっそりと「いいんですか?」と尋ねた。


 いいもなにも、これが日常でもあるからな。

 ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、トレヴァーは怒りを押し込めようとする。まあ、年下にいわれっぱなしでは腹も立つだろう。


「ジャスミン、あまりトレヴァーを煽るな」

「煽ってないわよ。ま、あたしの魔法で手伝ってもいいんだけど。大工さんが、せーっかくトレヴァーを指名してくれてるのに、手伝わないとかってないじゃない?」


 すっかり皿を空にして、ハーブティーの湯気を吸い込んだジャスミンはヨークを見ると「あたしがいい?」と訊ねた。

 困惑するヨークがトレヴァーをちらりと見る。


「……あー、もう、わかったって! 村に手を貸すって約束だからな。行くよ!!」

「最初っから、素直にそういえばいいのに~」

「うるせぇ! 俺が働きてる間、お前もしっかり働けよな!」

「いわれなくっても、しーっかり味見してくるわよ」


 そこで料理を手伝うとならないあたりがジャスミンだ。本当にこいつは食う専門だからな。

 

「ルーファスの旦那、もしかしてこれが日常なのかい? 大変だな」

「まあ、慣れるもんだ」


 苦笑しながら答えれば、ヨークは「そんなもんかね」と呟き、パンに嚙り付いた。


 一騒動の後、トレヴァーはヨークが森へ向かうと、俺とジャスミンは台所を手早く片付けた。それから向かったのは村長の家だ。

 辿り着くと賑やかな婦人たちに出迎えられた。その中心は村長の奥さんとモナだ。


「それじゃ、今日もよろしく頼むよ!」

「ジャスミンちゃんも、いっぱい食べてね」

「そうそう。遠慮しないで食べとくれよ!」

「若い子の感想は重要だからね」


 集まる女性たちに、ジャスミンはもみくちゃにされている。まあ、彼女たちにとっては娘も同然ってところか。

 奥のキッチンに進むと、ジャスミンは「今日はなにを作るの?」と興味津々な顔で尋ねた。

 作業台に持ってきたは乾燥ハーブの瓶を並べた。そこには、今朝、剪定した山風樹の枝葉もある。

 モナに用意してもらった果物も並べられた。色鮮やかなベリーとプラムだ。


「ハーブを活かした料理を作ろうと思うが、その前にワインでドリンクを作ろうかと思ってな」

「ワインでドリンク? あたしは飲めないじゃない」

「まあ、黙って見てろ。モナさん、スターアニスありますか?」


 鍋にワインを注ぎ入れ、そこに甘い香りが漂うスパイスのスターアニス、乾燥させた山風樹の枝、シスルジンガーの葉もいれる。そうして火にかけている間に、ぷらむを切り分けた。


「ワインを煮てどうするんだい?」

「ホットワインですよ。秋の夜ともなれば、少し風が冷たくなる。温かい飲み物が喜ばれると思って」

 

 鍋をゆっくりかき混ぜ、沸騰する前にまずは色とりどりのベリーを入れた。これは少し煮た方が旨味が出る。とはいえ、煮すぎはよくない。


「甘い香り~美味しそう!」

「でも、ジャスミンちゃんにはまだ早そうだね」


 モナにいわれて、ジャスミンは頬を膨らませた。

 頃合いを見てさらにプラムを加え、沸騰直前で鍋を火からおろした。そこに、ハチミツで甘みを加えて完成だ。

 人数分のカップにホットワインを注ぎ入れ、どうぞと差し出すと、婦人会の面々は興味津々に中身を見た。

 ふわりと立ち上がるワインの香りに、甘みとスパイシーさが重なる。


「スパイスのスターアニスなんて、ワインに合うのかと思ったけど、悪くないね」

「あら、美味しい! ワインを温めて飲むなんて考えつかなかったよ」

「果物も合うんだね。温かいプラムなんて初めてだよ!」

「こんな飲み方があったなんてね」


 頬を少し赤くしながらも、婦人たちの感想はおおむね良好だ。それを眺めるジャスミンは、不満そうだが。


「皆だけずるい!」


 そういうと思ったからな。

 小鍋にホットワインを少し移し、再度火にかけた。


「なに作るの?」

「まあ、見ていろ」


 鍋がふつふつと泡立ち始め、キッチンにワインの香りが広がった。


 しばらくすれば、キッチンがすっかり華やかな香りで満たされた。

 しっかり沸騰させたワインの量が三分の一になるまで煮詰め、小鍋を作業台に戻した。さらに粗熱が冷めるまでかき混ぜていくと、さらさらしていたワインは、とろりとしたシロップのようになった。


 カップに残しておいた果物を入れ、そこに煮詰めたワインを注ぎ、さらにハチミツをかけた。そこに水を注ぎ入れ、静かにかき混ぜれば完成だ。出来れば冷やした方が美味いだろうが、これでも充分だろう。


「ほら、これなら平気だろう」


 ジャスミンにカップを差し出すと、目をキラキラと輝かせて口をつけた。

 アルコールはしっかり飛ばしたはずだ。酔うことはないと思うが……ジャスミンの様子を窺っていると、その顔がぱあっと輝いたように見えた。どうやら、口に合ったらしい。

 スプーンですくった果物を口に入れ、また一口飲む。カップの中身は、見る間に空となった。


「甘くて美味しい!」

「ハチミツが入っているからな」

「これ、冷やしたらもっと美味しいんじゃないの?」

「そうだろうな。けど、氷は貴重だからな……」

「あたしが魔法で作ろうか?」

「……まあ、おいおい考えよう」


 そもそも、氷室のような氷を保管できる場所がログハウスにはないから、氷を作れたとしても保存に困るな。


「ルーファス、このシロップをパンケーキやスコーンにかけても美味しいんじゃない?」


 ジャスミンが何気なくいうと、モナたちは興味津々な視線を鍋に注いだ。そうして、とりだしたスプーンで、残っているシロップをすくい、それに小指をつけてぺろりと舐めて味を確かめた。


「もう少し甘くしたら良さそうだね」

「ハチミツをもっと入れてみないかい?」


 そんなことをいい合いながら、すっかりワインシロップに夢中な様子だ。

 ワインに合うと聞いて肉料理ばかり考えれいたが、デザートを用意するのもいいかもしれないな。それなら、酒に弱い人や子どもでも楽しめる。


「果物にかけるだけじゃ食べごたえがないね」

「それなら……パンケーキに果物とワインシロップをかけ、ひと口大に切り分けて提供するのはどうだろうか?」

「それいいね。早速やってみようじゃないかい!」


 俺の提案にモナが真っ先に賛同した。

 さすが女性陣は甘いものが好きなようで、テンション高めにフライパンを取り出して、パンケーキを焼く用意を始める。ジャスミンも、今度は一緒に試食が出来ると大喜びだ。


 パンケーキは任せるとして、さて、次の料理を考えないとな。

 スープはトマトや玉ねぎ、野菜をふんだんに使って作ることが決まっている。肉料理は鹿肉やイノシシ肉の串焼きだ。香草焼きとは別に、ソースを楽しむものも作りたいところだが。


 持ってきた料理のリストを眺めながら、次に作るものを考えていると、部屋にパンケーキが焼ける香りが立ち上がった。ほんのりとバターが焦げる香りは食欲をそそる。


「モナさん、もうすぐ?」

「そろそろかね。果物の用意は出来てるかい?」

「もちろんさ!」


 フライパンの上で返されたパンケーキが、じゅわわっと音を立て、甘い香りを含んだ湯気がふわりと立ち上った。

 焼き上がったほかほかの生地に果物が盛りつけられていく。ジャスミンの頬が緩み、ワインシロップがかけられようとしたその時──


 屋敷の呼び出し鈴がけたたましく鳴った。


「大変だ!! ルーファスの旦那はいるかい!?」


 玄関から叫び声が聞こえた。

 手を止めて急いで玄関に向かうと、そこで若い村人が汗だくになって息を切らして立っていた。


「ああ、旦那! 急いで森に来てくれ!!」

「森……なにがあったんだ?」


 ただ事ではない様子で、男は顔色を悪くすると「凍っちまったんだ!」と叫んだ。この暑い時期に凍ったというのはどういう事か。それに、なにが凍ったというのか。

 意味がわからないのは俺だけではなかったようで、婦人会の女性たちも小声でざわついた。ただ、ジャスミンだけは厳しい表情になって「まさか」と呟いた。


「……凍った?」

「ああ、そうさ。木が凍り付いちまったんだよ!」

「木が凍り付く?」

「ちょいと落ち着いて説明しておくれよ。あたしらには、なんのことかさっぱりだよ!」


 モナが腰に手を当てていうと、男は「俺だってわかんねーよ!」と叫んだ。


「鳥がいて、倒木に巻き込まれそうだったから、トレヴァーがそいつを逃がそうとしたら、突然、凍っちまったんだ!」


 理解に苦しむ訴えに押し黙ると、ジャスミンが「鳥?」と呟いた。


「……その鳥は、どんな姿だった?」

「青白い、キラキラ光るやつだ。そんな大きくはない。カラスくらいの大きさだ。とにかく、そいつが暴れたら、木が凍っちまったんだよ!」


 その時の恐怖を思い出したのだろう。男はぶるりと震えると顔を青くした。


「ジャスミン、なにかわかるか?」

「……もしかしたら、グラシエアかも」

「グラシエア?」


 聞き覚えのない単語に首を傾げたが、それにジャスミンは答えず、バタバタとキッチンに戻った。かと思えば、ハーブの瓶を手に持って戻ってきた。


「ハーブ? それをどうするんだ?」

「暴れてるなら、まずは落ち着けないとでしょ。急ごう!!」


 ハーブの香りを使うつもりか。

 心配するモナたちを残し、俺とジャスミンは男の案内で森の中へと急いだ。

駆け足で更新して参りましたが、残り3話となります

次回、明日8時頃の更新を予定しています


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