表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
2『This fire is――』
17/39

カゾク(?)会議・上

 ――むしろ。忙しさがないからか。

 体感、帰りの方が長く感じるまであった。


 事が済んでから一時間後、みざくろケーサツサービスの買収された車道数台が到着。彼等に対して情報共有と、最低言の事実確認で更に二時間。

 そこから短くない移動を経て、やっとのこさポリスに帰れたと思いきや、最も反動が重かった事もあって、みざくろ製薬の経由を余儀なくされ。


「かれこれぇ……も~朝日でてんじゃないですかぁあぁ……っ、がくし」


「いや、よかったじゃん。いつも一週間くらいかけるのが、行った日のウチに帰れたんでしょ」


「普段の一週間以上に、一日の疲れが勝る日もあるんすよ……」


「……さいですか」


 いま、世界で最も不幸なのは私めです。

 と全身で訴える大女を背負いつつ、危なげない足取りで少女は扉を閉めて、手探りに部屋の灯りを付けた。


 ついで、原型を伴っていたテント内の荷物の袋詰めも置き去る。ちなみに簡易ベットは御釈迦となった。ナンマンダブ。


 ともあれ。いろいろ、不揃いな指がスイッチを間違える数だけスポットライトは降り、まだ少女――イロハが見慣れぬ役者等が彼女らを歓迎する。


 イロハでは身長が倍ないと足りない高さのキッチン、カーテンの向こうにある薄汚れた白のテラス、畳んだ洗濯物の並んだ食卓。それと、


「ちょっと。っだめ。フトンいっちゃダメ。汚れんじゃん」


「……すこし。十五分だけ」


「横になったら終わりだよ。少なくとも、わたしはそうなるよ」


 ――いや、嘘つけぃ!


 などと涼しげな顔に言える理性などカッ飛んで、勝手に前へ歩み出した腰のベルトを掴まれる豊山。

 誇張でもライトのせいでもなく輝いて見えたのであろう、ぬいぐるみの添えられたベッドが目の前にあった。


 実際。イロハの方は正直、余裕である。

 一度血が多量に昇った頭は、そりゃあ休息は変わらず必要なのだが、余分に有り余ったエネルギーで幾らでも動きはする。今更、多少寝れなくとも誤差でしかない。


「お姉ちゃん呼びしてほしいならやってよ、そのくらい……わたし手伝うから。おフロ、先入れる?」


「……体あらってくる」


「わかった、じゃあ、わたしあとから――」


 故に、疲労に一ミリの憂慮も共感もなく、威厳の欠片も見せぬ先輩社員に無表情でそう応対。

 慣れきったように、彼女を浴室に送り届けるのみ。

 ――と、普段ならそれだけだったのだが。


「……なぁ。お前サマ等、いつの間に喧嘩でもしていたのか」


 玄関口から、ナチュラルに低い声は響く。

 それは明らかな女子の部屋、小物と薄い暖色が散見される空間、振り替えたイロハ等の背後に、ムダに礼儀良く靴を揃えて入門していた。


「せ、先輩、おつかれさまです! すいません、だいぶ書類面おしつけちゃって……えと?」


「新入りにはさせられない業務だ、気にするな――その。盗み聞く気はなかったんだが、先程の二人の声は、どうも低まって聞こえたもんでな」


「えーそんなことないですよはっはっは、ね、イロハちゃん、イロハちゃん、ねっ??」


 八雲カフク。薄汚れた袴姿をより一層目立たせる彼は、だが周りの浮き具合なんぞ気にせず普段の調子でいて、ミノルはそのまま現状を肯定――しかし唯一、二人だけの部屋と慣れきっていたイロハ。


「……えっ、と。なんで、八雲さんがここに?」


「いや。ここ、本来なら和多志の部屋なんだが」


 ――そうなの!?

 と何気なく。本当に何気なく。

 地味ながら暮らしの常識が上書きされる、今日一番の驚愕に至った。




「んじゃ、自分お先失礼しまぁーすっ!」


 と、ひと足先に、異様なハイテンションで浴室の戸を閉めるミノル。立て付けが悪いのもあってか、盛大な音も伴っていた。

 今思うと、わざわざ和室ベースになっていたのは彼女でなく、彼の嗜好が大きかったのかも知れない。


「……畏取は、いなくなられると困る社員には、頼まなくとも専用の部屋をよこすんだ」


「かといって、和多志は実家があったもんで、物置程度にしか使わず腐らせるのも悪かったから、豊山に使わせてるってわけだ」


「……そっか」


 お役目ご苦労、と真顔で手を振り後輩を見送ったのち。

 八雲は引き出した古椅子に座す。

 猫背だが、足と手は綺麗に揃ってというチグハグぶりが珍妙でならない。


 ――えっ、いや待て。

 今言ったのを口実に、暫く居座るおつもりですか。


 と、未だ生活空間に入り込んだ異物、兼恩人、兼家主への対応が、一人残されたイロハの難問で。

 お茶でも持ってくればいいのだろうが、そんな択など頭にあるわけでもなく、ただ自分の拍動のみを聞きつつ立ち尽くした所。


 あーだのんーだの、イロハが唸っているだけの静寂を破ったのは、八雲の方であった。


「……あいつ、最近どうだ」


「――、別に……いつも元気、ってわけじゃないんだな。とは思ったけど」


「……そうか。まぁ、驚くよな。最初は」


 そうなのである。

 実のところ、豊山ミノルは常時あのテンションではない。

 というか、普段はこの場の二人同様、無感動で無表情な、無愛想真顔人間なのだ。


 それが基本、八雲カフクが居るとなると打って変わるのは何故か、かねてよりイロハは気になってはいた――のだが。


「……まぁ、あれだ。畏取で戦闘員志望する奴は、身内を怪人にやられてたりするヤツも少なくなくてな。アイツのはその中でも、特殊な個体で……」


「一時期、墓前でビタとも動かんヤツだったが、今はソイツを倒さんと躍起になってんだよ」


「で、八雲さんが、その手の『先輩』?」


「そういうこった」


 ――うん。

 やはり。なにか、ただならぬワケがあるらしい。


 まァ、そりゃそうだよなとは思う。

 せっかく畏能という唯一無二を得ておいて、しかもこんな恵まれた街で暮らしを謳歌して、選ぶ仕事が傭兵まがいなど。余程の理由か、若いうちに稼げる確証なしでやれるヤツが居るものか。

 少なくとも、そうでもないとイロハはしたいとは思えない。


 だからどんなに周囲を頼ろうとも、イロハはこれまで、そういう深い事情は、触れてこなかったワケなのだが。


「……ただ、終えた後に何も残らんのは割に合わない。アイツには、別に居場所を見つけて欲しいもんだ」


「……重い話だね」


「いいや。喧嘩をしていなくて何より、というだけの話だ」


 むしろ、もっと無遠慮に付き合ってくれていい。とさえ言う彼は、こんな事でさえ淡々と真正面で口にした。

 なんだか。この人に至っては、親が死んでも何の感慨も得ないのではとさえ思えてくる。


「そっか。そりゃよかった」


「ああ。掛け値なくな」


 ――しかし、そうか。

 とりあえず今日、その居場所の予定地くらいは守られたのか。


「……さて。和多志もお暇させていただく。もっと詳しく知りたければ、そのうち本人の口から聞いてくれ」


 そんな、何の感慨も共有しあわない顔合わせも終いらしい。


 座っても見上げなければならない視線が急上昇。

 机に置いた資料を今一度抱え、おざなりに言い残して歩を進め出す。

 さすがに疲労が彼にもあるのか、少し歩みが重く、重心にはわずかながら偏りが見て取れた。


 今なら殺せる。と自然、めぐる思考。

 思わずイロハは、その背後に追従し、


「……うん、いいや。なんかまたヘタやって、今のセーカツ壊れるかもと思うとね」


「二度ある事は何とやら、とも言うしな」


「今日はゼンブぶっ壊した後なんだからノーカンでしょ」


「んだそりゃ」


 ――終わらせたくはない。終わってなどいない。


 まだ聞きたい事は多くある。

 そもそも今日、イロハは豊山ミノルの目的である復讐と、行われた調査の関係も知らないし、あの得体の知れない肉骨粉だって。

 しかし。そういう事にして、玄関口で靴を履く過程を見届ける。


 八雲カフクが、一体なにを根底とするのか。


 この何の感情もない、イロハのように表に出すやり方を知らないのでなく、内側に持ち合わせてすらいない男が、なにがあって豊山ミノルと復讐を共にするのか。

 まるで、わかっちゃいないが。


「うん。見逃してやるか」


「……、すまない。今なんつった?」


「ん~、なんでもないよ――またね。次は、ミノルも一緒に」


 そうなのだ。

 深入りするより、この得難い今に、また次の日があってほしい。

 一緒の仕事じゃなく、一緒に暮らす僅かな機会が、続いてほしい――少なくとも彼が、彼女にそう望んでいたように。


 死にたくないでもなく、生きたいでもなく、生きていたい。だから。


「…………、また明日。か」


「期待、したくないなぁ」


 扉が閉じた後。足音が去り、浴室からの水音だけの残る深夜の一室。

 その報酬に、少女は鍵をかけて持ち帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ