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異説西遊記  作者: 圓堂
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第五十三話



  「ほう…優れた唐僧が…」

 亀茲国王が興味を示す。

「はい。ちょうど我が国を訪れているようでして。陛下がお望みでしたら御前にお連れしようかと」

 頭を垂れながら大臣が言う。

「そうだな」王は玉座の背にもたれ

「大唐国の僧ともなればさぞ学識も高く、我が国の僧たちにとっても有意義だろう」

「御意」

 王の前を退出し、石の廊下をゆく大臣に声をかける者があった。

「愚鈍な王だな」

 大臣が振り返る。

「国を治めるのに仏教は有用かもしれんが…あまり優遇しすぎると僧たちを増長させることになる」

「…愚鈍であった方が都合がいいだろう。この場合」

 廊下の角から朔が姿を現した。

「本物の大臣はどうした」

「城のどこかで寝ている」

 大臣の姿のまま冴侶が言う。

「…何だ」隣でジロジロとこちらを見てくる朔に、冴侶は顔をしかめる。

「何故大臣に化けてまで玄奘法師を足止めしようとするんだ」

 唐の人間とは違い、大分濃いめの顔が城の窓から外を見やり

「玄奘法師をこの街から出せば…必ず千仏洞へと向かう」

 朔が訝しげに

「千仏洞に何かあるのか」

「…とにかくまずいんだ」

「しかし、向かわせなければいい話だろう」

 冴侶は足を止め、ため息をついた。

「玄奘法師は必ず行きたがる。絶対に」

「絶対に?」

「絶対にだ。だいたいお前は」

 朔の鼻先に指が突きつけられる。

「玄奘法師のことを大して理解していないだろ」

 不満そうに口をつぐむ相手に構わず冴侶が踵を返すと、その足元に駆け寄る影があった。

「…孫悟空の居所は分かったか」

 小さなネズミがこちらを見上げ、ヒクヒクと髭を揺らす。

「はあああああ!?」

 冴侶の声に朔とネズミが同時にビクついた。



 その城から数里離れた場所では、禁軍の四人と追捕使の四人が、間に悟浄を挟んで対峙していた。

「あなたは…あのときの…」

 まず恩享が悟浄に向かって口を開いた。

「ん…?ああ」伯欽がとろんとした目で

「よくよく見れば…玄奘法師殿のお弟子二号ではないですか」

「二号って何すか二号って!」

 すかさず悟浄が喚く。

「法師のお弟子が公開告白なんて破廉恥なことをしてよろしいのですかな?」

「破廉恥って何すか!俺はいたって純粋な…」

 ふと鼻をひくつかせ、悟浄が訊ねた。

「あの…ひょっとしてこの人、酔ってます?」

「はあ。さっきケバブと一緒に啤酒ひっかけやがりまして」

 恩享が面目なさげに答える。

「弟子二号殿もいける口と見ましたぞ。どうです向こうで一杯」

「うげえっ近寄らないで!酔っ払ったおっさんとか俺一番苦手!」

「弟子…?」

「玄奘法師の…?」

 伯欽の言葉に琉や瑰たちがざわつく。

「おい、あんた!」珪が背後に珊を庇いながら

「玄奘法師の弟子というのは本当か!」

「え、あはい、成り行きで…」

「…それが珊に何の用だ!」

「ええと、それは話せば長くなりますよお義兄さん」

「誰がお義兄さんだ!」

 珪の後ろで、珊は怯えた表情で悟浄を見つめている。

「弟子二号殿」伯欽が悟浄にもたれながら酒臭い息で

「こちらの四人は、さる御方の命令で、玄奘法師の命を狙っているのですよ」

「その二号って呼び方とくっついてくるのやめて!?っていうか狙う!?お師匠さまを!?」

「さてはこの変質者…」瑰が悟浄を見据え

「玄奘法師を守るために珊に妙なことを言って俺たちに近づこうと…」

「いや、それはないっす」

「秒で否定した!?あの、弟子二号さん?とりあえず何しに来たかお訊きしても…」

「おたくらこそ、こんなとこで何向かい合ってんすか?」

 恩享に問われ、改めて禁軍と追捕使の一行を見回した悟浄は

「…ひょっとして取り込み中でした?」

「取り込み中というか…一触即発だったところにあなたの派手な告白のお陰で冷や水を浴びせられたというか」

「やだ恥ずかしい!」

「フッ…おもしれー男」

「酔っ払いは黙ってましょうね!?でもちょうどいいや二号さん助けてください!あの人たち、私たちが玄奘法師抹殺を邪魔してたことに激おこなんです!」

「えっええ!?」

 そこへ杵が打ち込まれ、悟浄と追捕使隊が飛び退いた。

「ごちゃごちゃと…」琉がめりこんだ杵を引き抜き

「要はこの四人と怪しい弟子をまとめて始末すればいいんだろ。命令には背いていない」

「ひいいっ助けてください二号さん!」

 しがみつく恩享に悟浄が月牙鎩を構え

「色々整理したいけど…落ち着いて話せる状況じゃないのは理解したっす」



「悟浄は…大丈夫でしょうか」

 一方の玄奘法師たちは、悟浄の後を追い街なかをキョロキョロと進んでいた。

 そこへ、槍を携えた兵士の集団が立ち塞がった。

「玄奘法師ですか」

 隊長らしい髭の男が覗き込むように訊ねる。

「は、はい…いえっはい…」

 思わず身を引きながら答える法師に、隊長は一礼すると

「我が亀茲国王、帛陛下の命で参りました。陛下におかれましては、大唐帝国の高名な玄奘法師に是非、御説法を賜りたいとのことです」

「説…法?」

 さっと玄奘法師の顔から血の気が引く。

「だだ駄目ですよ無理ですよ私なんかが国王陛下の御前で説法なんて…!」

 はっと法師が口を塞ぎ、八戒を見る。



「え?え?大丈夫ですか!?」

 急に首を押さえて苦しみだした悟浄に、恩享が怯えてたずねる。

「だっだっ大丈夫っす…」悟浄が咳込みつつ

「幸い、一瞬で済んだんで」

 それに瑰、珪、琉が訝しげな視線を向け

「え…自分で自分の首を絞めてたんだけど」

「やっぱり変態だな」

「危険だ…絶対に珊に近づけるな」

「ああっ早くも変人認定に…!」

「結構初手から危険視されてたと思いますよ」

「フッ…おもしれー男」

「恪洵!恭大!」

 はっと悟浄が振り返ると、恪洵と恭大が瑰と琉に拘束されていた。珪がそれに剣を向けながら 

「遠い異国のこの地で果てるか…安西節度使の役人に長安まで護送されてそこで罰を受けるか…いま選べ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよお義兄さん!そもそも何なんすかお師匠さまを抹殺とか!何の為に…」

「うるさい。お前には関係もなければお義兄さんでもない」

「関係ないことないっすよ、俺は一応弟子なんすから!」

「そうだな」ゆらりと伯欽が珪に近づく。

「確認しておきたいが…貴殿らは何故陛下が玄奘法師を消せと命じたのか…理由を聞いているのか」

「理由など…」珪が伯欽を睨み

「受けた命に黙って従うのが忠臣だ!理由を問うなど不敬でしかない!」

「ほう」伯欽が更に間合いを詰める。

「私は全て聞いて知っているが…魏徴さまに」

「黙れ佞臣どもが!」

 珪が伯欽に剣を振り下ろすのと同時に、伯欽が瑰と琉の眼前に剣を払った。

「伯欽さま!」

 弓を構えた恩享が叫ぶ。

「…手助け痛み入ります。二号殿」

「その、二号ってやめてくれません?」

 珪の剣を月牙鎩で防ぎながら悟浄が言った。

 伯欽の切っ先に瑰と琉が怯んだ隙に、その腕から抜け出した恪洵と恭大が恩享の背後に隠れる。

「あの…お義兄さんっ」

 月牙鎩を構えたまま悟浄が

「お互いにっ一度落ち着いて話しませんかっ」

 珪がギリギリとそれを押さえ込みながら

「黙れ…お前と話すこともなければお義兄さんでもない。瑰!琉!」

 ばっと瑰と琉が悟浄の背に飛びかかる。その瞬間、その場にいた全員の上に大量の水が降りかかった。

「皆…落ち着いて」

 両手に鋭い刃のついた鉄環の圏を握り、珊が低く言った。珪、琉、瑰がとたんに慌てる。

「さ、珊も落ち着いて!俺たちも落ち着くから!」

「分かった、とりあえず話そう!な?」

「あー濡れたお陰で頭が冷えたなー!ありがと珊!」

「私もちょうど喉が渇いていた」

「飲んじゃ駄目ですよ伯欽さま。これたぶん河の水ですよ」

「…そう。良かった」ほっとした珊が、悟浄に目を向けた。

「あの、さっきは有難うございました。それで…玄奘法師のお弟子さんというのは、本当ですか」

「えっあっはい、まあ」

 悟浄がずぶ濡れのままかしこまる。大きな瞳に見つめられ、どぎまぎしている相手から珊は仲間たちに視線を移した。

「皆…私やっぱり事情を知りたい」

「珊…!」

「だって、いくら国禁を犯したからってお坊さまの命を狙うなんておかしいでしょう?それに…何の事情も知らないまま、皆を人殺しにしたくないの」

 その言葉に禁軍の三人は黙り込む。珊は伯欽を振り返った。

「教えてもらえますか。本当の理由を」

 伯欽の目がつい、と遠くを見る。

「それは——」

 言いかけたとたん、「おえええ」と屈み込んだ。

「だ、大丈夫ですか伯欽さま!」

「胃が…食べてすぐ動いたから胃が…」

「それよりも強くもないのに飲み過ぎなんですよ!」

 恩享に介抱される伯欽を眺める悟浄が

「村で会ったときも思ったけど…おたくの上司さんって結構アレなんすね」

「はあ…時々頼りになるんですが、だいたいアレなんです」

 申し訳なさげに言う恭大の隣で、恪洵が顔を赤くする。

「珊!」

 悟浄がはっと目をやると、硬直した珊の背後で今度は大量の水が渦を巻いていた。

「珊、落ち着け!見ちゃ駄目だ!」

「あれは虹だ!虹だぞ珊!」

「いやいやさすがに無理があるでしょ」

「うるさいぞ瑰!」

 懸命に宥める仲間たちの声も聞こえないのか、珊の背後で渦がどんどん大きくなり、やがて辺り一帯を呑み込めるほど巨大化する。

「ひいいっ溺死する!」

 恭大と恪洵が抱き合う。

「珊…!」

「やめろ竜玉!!」

 渦がピタリと動きを止めた。

「だからお前は加減を知らないって言ってるだろ!人間の感情に過剰に反応するな!」

 悟浄に叱られ、勢いをなくした渦はそろそろと河へ戻ってゆく。

 誰もが呆気に取られるなか、珊が呟いた。

「竜…玉…?」

 そして懐から玉を取り出し

「この、玉の名前ですか…?あのときもやっぱり、あなたの所に飛んでいったんですね…あなたは一体…」

 悟浄はしばしためらっていたが、意を決したように珊と向き合う。

「それは竜玉と言って、俺が二百年前に…大切な人に預けた物なんです」

 珊の瞳が見開かれる。

「二百年前…」

「つまり」瑰が悟浄を眺め

「人間じゃないってことだよね…あんた」

「…玄奘法師が妖怪を弟子にしてるってのは本当だったのか」

「妖怪だろうと関係ない…いや、妖怪なら尚更そんな詭弁で珊に近づけさせるか!」

 また剣を構える珪を制し、珊が玉を見つめ

「ずっと不思議だったんです…何故自分が生まれたときからこの玉を持っているのか。…けど」

 と悟浄を見上げ

「どうしてこれを…その人に預けたんですか」

「それはっ…」答えかけた悟浄の前に、二百年前の記憶が水面に映るように鮮やかに蘇った。

「それは…」

——悟浄…

(ああそうか…)

 今更のように思い知った。自分はただ、

「もう一度…巡り合えるように…」

「…そっか」珊も呟いた。

「だから…大切な人」

 微笑まれ、悟浄は思わず泣きそうになる。

——沙羅…

(やっと…やっと…会えた)

「じゃあやっぱり、この玉には色んな能力(ちから)があるんですね」

「あっはい、だいたいは持ち主を守る能力なんですけど」

「私はきっと、何度もこの玉に守られてたんですね」

 珊は玉を握りしめる。

「それに、水を操ったりとか。だから干ばつのときなんかは人間が欲しがったり…」

 珊の顔が強張った。珊だけでなく、珪、琉、瑰の顔色も変わったことに悟浄は気づかず

「それに、そいつ、いつまで経っても加減を知らないから色々と大変じゃなか…」

「それじゃあ…」

 震えた声音に悟浄がはっとする。珊がうつむいたまま

「じゃあ、あのとき…村が襲われたのは…私の…」

 ばっと竜玉を押し付けるように悟浄に渡し、珊が駆け出した。

「珊!」

 その後を追おうとする三人のなか、珪が振り返り悟浄を見る。

「お前も妖怪なら人間に関わるな。…互いに不幸になるだけだ」

 そう言い残し駆けてゆく四人の背中を、悟浄はひとり呆然と見送る。その手には、竜玉が静かに輝いている。

 かける言葉も見つからず悟浄を見つめる追捕使隊の側に、誰かが近づいた。

「悟浄」

 悟浄がゆっくり振り向くと、いつのまにか八戒が立っていた。

「悟浄…大丈夫?」

 珍しく気遣わしげなその表情に、悟浄はただ弱々しく微笑み返した。



 ふと、玄奘法師が窓の外に目をやる。

「捜していらしたお弟子殿のことですか」

 前を行く大臣が言った。

「後で兵たちにも捜させましょう。すぐに見つかりますよ」

「…有難うございます」

 頭を下げ、大臣の後に従いながら法師はささやいた。

「八戒は悟浄を見つけられたでしょうか」

「大丈夫ですよ玄奘さまっ八戒の鼻を以てすればっ」

 肩の小鈴が小声で答える。

「こちらです」

 重い扉が開かれ、高い天井までタイルで装飾された、壮麗な謁見の間が目の前に広がる。

「貴殿が、大唐の高僧、玄奘法師か」

 正面の玉座に座る恰幅のいい王が言った。

「国王陛下…この度はお招きいただきまして」

 拝跪しながら法師が答える。

「貴国の高僧、鳩摩羅什尊師が我が国にもたらしてくださった仏法の数々は、今でも何物にも代えがたい至宝でございます。唐の一僧侶として厚くお礼申し上げます」

 玄奘法師が挨拶を述べている間も、王の傍らに立つ大臣が何やら耳打ちしている。

 やがて頷くと、国王はその艶やかな髭を撫でながら

「我が国の古の王族、鳩摩羅什尊師を深く慕っている貴殿を見込んで、一つ頼みがあるのだが」

「はあ」唐突な申し出に玄奘法師が首を傾げる。

「言うまでもなく、我が国は古来よりの仏教国だが、説一切有部…つまり小乗の教えがほとんどでな。鳩摩羅什尊師の説かれた大乗の教えがほぼ残っていないのだ」

「はあ」

「そこでだ」国王が玉座から身を乗り出す。

「是非、改めて貴殿にこの亀茲国で大乗の教えを広めて欲しいのだ」

「ええっ!?そんなっとんでもないっ!」

 玄奘法師は思わず膝で後ずさりしながら

「私などが…いえっ私のような者が…そのっ私はまだまだ…」

 どう言っても弱音になってしまうことに困惑する玄奘法師の背で、頭巾に隠れた小鈴がささやいた。

「玄奘さま…ここは私にお任せを」

「小鈴…!」

 そこで玄奘法師が立ち上がり、一礼する。

「えー、有難いお申し出、恐悦至極に存じます」

「ふむ。急に声が可愛らしくなったな」

「確かに私は唐でも一、二を争う名僧として名を馳せておりますれば、知識も容姿も品性もトップオブザトップでございまして」

「強気な発言とは裏腹に表情が死んでるが?」

「貴国に大乗の教えを広めることは私にかかれば屁の河童でござりますれば、けどたけど遺憾ながら私は天竺への取経という重要任務の途中でありますれば」

「ふむ」髭を撫でる国王にまた大臣が耳打ちする。

「別に天竺に行くのは我が国に留まった後でも良かろう」

「げ」

「げ?」

 大臣がまた耳打ちする。

「無論、我が国に滞在する間は国賓並みの待遇を約束しよう。なあに、多少遅くなったところで天竺も経も逃げはせん」

「それとも」と国王が目を細め

「貴殿は我が国の啓蒙より取経のほうが重要と申すのかな」

 玄奘法師はぐっと怯む。

「ふっざけんじゃないわよこの髭達磨!!」

「だる…?」

「そんなの玄奘さまの良心に付け込んだ、ただの脅しじゃない!何が啓蒙よ!国民を教育したかったらまず国王のあんたが努力しなさいよ!」

「小鈴…!」

 背中の小鈴を押し止め、法師が亀茲国王を見た。

「国王陛下…本当に有難いお話ではございますが、いまの私にとっては天竺への取経が何より優先すべきこと。どうか、他にもっと相応しい方をお探しください」 

 再び耳打ちする大臣に、「ふむ」と王は髭を撫で

「玄奘法師」

「はい」

「貴殿、ケチだな」

「はい?」

「そもそも我が国の僧である鳩摩羅什尊師が貴国に広めた教えを、改めて伝えて欲しいと言っているだけだというのに…それを断るとは」

「そそそんなっ私は…」

「きいいいっどこまで勝手なのこの髭達磨!玄奘さま、もう行きましょう!」

 小鈴に引かれ部屋を出ようとした法師の前に、兵士たちが立ち塞がった。

「だからそう先を急がずともよいだろう玄奘法師」

 背後で国王が言う。

「しばしこの国に留まれば、気も変わろう」

「玄奘さま…!ちょっと、放せこのっ!」

「小鈴!」

 玄奘法師を捕らえる手を引きはがそうとする小鈴を、兵士の一人がつかまえる。

 兵士たちに引きずられるように連れてゆかれる法師が肩越しに振り返った。

「お願いします…悟浄と八戒を…!」

 それを聞いた小鈴は頷くと、兵士の手に噛みついた。

「ぐわっ」

 手が離れた瞬間小鈴は全速力でその場から飛び出す。

(待っていてください玄奘さま!)




「玄奘法師さまはしばらく我が国に留まり、布教に尽力してくださる由。弟子の方々にもそうお伝えするようにとのことです」

 城の入口を守る兵が、大声で告げた。

「え…どうしよ悟浄」

 八戒が隣の悟浄を見る。悟浄はうつむいたまま

「そっか…それじゃあ、しょうがないよな」

 言うなり城に背を向け、悟浄が歩き出す。八戒はその後を追いつつ、城を振り返り

「いいのかな…こんな終わり方で」

「だから…仕方ないんだよ」 

 前を行く悟浄は振り向きもせず

「お師匠さまは人間で…俺たちとは違うんだ。一緒にいられなくても…仕方ないんだ」

 そう呟き遠ざかってゆく後ろ姿に、城のほうを気にしながら八戒も従ってゆく。



「もうっ八戒も悟浄もどこ行っちゃったのよ!」

 亀茲の街の上を飛び回る小鈴が叫ぶ。

 干し煉瓦で出来た街の建物はどれも同じような造りで、人を捜すとなると迷宮のように混乱してくる。

「やっぱり…一度戻って白竜の鼻に頼るしかないわね」

 厩に繋がれている白竜を連れ出すため、再び城へと取って返した小鈴の目が、ちょうど白竜を引き出している玄奘法師をとらえた。

「玄奘さま!」

「小鈴!」

 飛び込んできた相手を法師が受け止める。

「すみません玄奘さま!白竜にも捜してもらおうと…よく逃げ出せましたね!?」

「ええ。城の一番奥の部屋に閉じ込められたんですが、兵たちの隙を突いて何とか」

「さすが玄奘さま!」

「ヴェッヒン!」

「とにかく、城の外へ出ましょう」

 幸い入り口を守る兵の姿はなく、三人はソロソロと城の外へと脱出した。


「…そうですか。悟浄と八戒は見つかりませんでしたか」

 駆ける白竜の背で玄奘法師が呟く。その肩で小鈴が

「もう一度戻って捜してみましょうか」

「いえ…」

 振り向くと、夕陽に照らされた亀茲国の城門がだいぶ小さくなっている。

「また捕らえられる危険がある以上、いまは少しでもあの国から離れておいた方がいいでしょう」

「でも…」

 不安げに後ろを見つめる小鈴に、「大丈夫ですよ」と玄奘法師が前を向く。

「きっと二人とも、後から追ってきてくれます」

「…そうですね!」

 こうして三人だけになった一行は、再び西へと向かい夕陽のなかを進んで行った。



 一方その頃、亀茲国の城の一番奥の部屋では、玄奘法師が一人閉じ込められていた。

「皆…大丈夫でしょうか。小鈴…白竜…悟浄、八戒…」

 ため息が暗い部屋に響く。

「悟空…」


 




 





 


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