宣戦布告
「お待たせいたしました」
俺が視線を上げると、彼女の姿はゲームキャラクター仮面4のうさちーコスだった。
ツインテールにピンクのメガネ、八百万神学園の黒を基調としたアニメチックなミニスカニーソのセーラー服姿だった。
俺は一瞬自分の理解が追いつかなくて、ポカンと口を開けてしまった。
「う、うさちー?」
「はい、やっぱりわかっていただけるのですね」
嵐ちゃんは感激しているようで体をくねらせている、だが反対に俺の温度は低い。
「あのですね、悠介様にはこちらの制服に着替えていただきたいのですが」
「これは…」
俺が手渡された服を手に取って広げると、それは八百万神学園男子制服だった、ご丁寧に黒縁のメガネまで用意されている。
「これって…仮面4の主人公制服じゃ」
「はい、そうですわ」
緊張しているのか興奮しているのかはわからないが、嵐ちゃんの顔は少し赤く、息も荒い気がする。
「伊達さんの家で吹雪ちゃんのコスプレをしている雷火さんを見まして、私も是非やってみたいと思っていたのです」
「コスプレをだよね?」
「はい」
あの、そんなに潤んだ瞳で見つめられても困るのですが…。何故初めてきた家で初コスプレを…。
「うん、嵐ちゃんのは凄く可愛いと思う」
「ありがとうございます、私とても嬉しいですわ。悠介様が一緒にしていただければどれだけ嬉しいか」
チラっとこちらの様子を伺う嵐ちゃん。今火恋先輩に初めてコスプレさせたときの気持ちがわかった気がする。それはないと思うよね、普通は。
「う、うん、いいよ」
「本当ですか!?ありがとうございます」
俺はイケメンもじゃもじゃ執事に案内されて、着替え室。金持ちすげーな、着替えるだけの部屋とかあるんだぜ。で着替えをすます。
全身を見ることが出来る、大きな鏡でコスプレ姿を見るが、ほんと全国の仮面4ファンの皆さんごめんなさいって感じだ。
背中に質量のある幽霊でものっけている気分で、トボトボと客間に戻った。
「着替えていただけたのですね、とてもお似合いですわ」
嵐ちゃんは、まぁと手を合わせ、目を輝かせて喜んでいる。
「あ、ありがとう」
「どうしてずっと横を向いてらっしゃるのですか?」
「夢を壊さない為の抵抗かな…」
俺のレジスタンス活動は回り込んできた、嵐ちゃんにより一瞬で瓦解した。
「とてもよろしいですわ」
よく見ると、嵐ちゃんはその手に携帯のカメラを構えていた。
お願いやめて、これ以上辱めないで!B○keteのサイトにTエムAとコメントを添えられて投稿されてしまう。
カシャカシャと勢いよくとられていく俺の痴態。
「藤乃、私たちをとりなさい」
「はっ」
部屋で待機していた、イケメンもじゃもじゃ執事はレンズからビームがでると言われても納得してしまいそうな、強そうなカメラをその手に持っている、なんなら三脚まで用意していた。
まさか、やめて、そのカメラで乱暴する気でしょう!エロ同人みたいに!
俺は不祥事による謝罪会見の如く、凄いスピードで写真を撮られた。
「お嬢様、もっとお近づき下さい」
「えっ?こう」
二人で写真に写っていたのだが、藤乃さんの注文がどんどん俺と嵐ちゃんをくっつけさせていくものにかわっていた。
「お嬢様その位置でははみだしてしまいます、もっと、そうです、もっと重なるように」
お前が下がればいいだけの話で、ズームアウトすれば解決するだろと、そんな正論言えるわけもなく。腕を組んだりさせられた。
「お嬢様、そうですもっと抱きつくように、三石様もっと寄って下さい」
「はい」
「お嬢様、フレームから外れてしまいます、三石様、お嬢様を後ろから抱きしめるように」
「はいはい」
「お嬢様それではフレームから落ちてしまいます、三石様、お嬢様を抱っこして下さい」
「落ちるってなんだよ」
外れるとかずれるとか聞いたことあるけど、落ちるって何だ、お前のさじ加減一つじゃないのか。
なんか執事の目がキラっと光った気がするから抱っこするんですけどね。
雷火ちゃん達なら意識してしまって赤面するに違いないだろうが、無心になった俺は凄い、何も感じる事なく、ただ撮影をこなしていく。
恐らく二、三百枚程俺の黒歴史が記録されたところで、撮影はひと段落ついた。
「いきなり、無茶なお願いをして、申し訳ありません」
「いや、いいよ」
そう答えながらも俺の口からはエクトプラズマ的な何かが出ていると思う。
「このような事をお願い出来るのは悠介様以外におりませんので」
「藤乃さん?にしてもらえばいいんじゃないかな、とても似合うと思うんだけど」
「藤乃は従者であり、お友達ではございませんので」
「そんなもんなんだ」
「そうですわ」
「その、今日呼んだ理由ってこれなのかな?」
俺はコスプレ衣装を指でつまむ。
「いえ、これは単に私の思いつきですので、着替えましょうか」
お互い着替え室に行って、俺は元の制服に。彼女は昨日と同じ水色カラーのエプロンドレスをして、白のニーハイを履いている。見た目は完全に不思○の国のアリ○コスプレだ。
素直に可愛いと言える姿で、胸元にリボンの装飾がされており、後ろの腰部分にあるエプロンの結び目も大きいリボンに見えて可愛かった。しかもイギリス人の母を持つに相応しく、日本人にはない高い鼻と大きな目を持っているので、とてもよく似合っている。
やっぱりコスプレって外人の方が似合うよね、嵐ちゃんはハーフだけど。
「どうかいたしましたか?」
「いや、可愛いね」
「そ、そうですか?あまり親以外に褒めていただいたことがありませんので、恥ずかしいですわ」
俺の言葉で恥ずかしげに俯く嵐ちゃん、やっぱりこの辺は女の子なんだなと思う。
「この服も親の趣味で、こんなのばっかり着せられていたら自分の趣味もこのようなものに…」
「いいんじゃないかな、とっても可愛いと思うけど」
その結構尋常じゃないくらいのミニスカートっぷりは男心を掴んで離さないと思う。
「ありがとうございます」
嵐ちゃんは机を挟んだ対面に腰掛けると、イケメンもじゃもじゃ執事が唐突にもの凄い胡散臭い咳払いをした。
「わ、わかってますわ!」
小声でボソボソと何やら呟きながら、執事の方を睨みつける嵐ちゃん。
「悠介様、し、失礼しますわ!」
そう言って立ち上がったかと思うと、俺の膝の上に腰を下ろした。
お尻が柔らかいなとか、スカート短くて広がってるから、俺の上に乗ってるのはパンツ越しのお尻なんだろうなとか、そんなやましい事は一切思っていない。ホントだよ?
ただただ反応に困るだけ、とりあえずそれ以上後ろの方にずれてこないで欲しい、この歳で前科者にはなりたくない。
両者共に真っ赤になっていると、イケメンもじゃもじゃ執事が見かねたのか、嵐ちゃんに耳打ちする。だがこの近距離で耳打ちにどれだけの意味があるというのか。
「お嬢様、接近が必要と申し上げましたが、それは接近しすぎです。まだ信頼関係が構築されていない段階でその行動は逆効果となります」
「ど、どうすればいいの、藤乃。あなたが男は尻に敷かれると喜ぶなんていうもんですから」
「お嬢様、尻に敷くの意味合いが違っております。尻に敷くとは男性にイニシアチブを握らせず、お嬢様が主導権を握るということです」
「そんな…私、現在悠介様を本当に尻に敷いてしまっているのですよ!」
「はい、ですからそれは誤解であったと謝罪して、隣に座るのが正しい選択かと」
「わかりましたわ」
あのですね、話の内容が全て筒抜けなんですが。
「あら、私としたことが、申し訳ございません!座る位置を間違えてしまいましたわ。あまりにも悠介様がご立派ですのでキングチェアかと思ってしまいました」
ホホホとわざとらしく笑いながら隣にずれる嵐ちゃん。スカートめくれ上がってるよ。
「お嬢様、それでは三石様を椅子扱いしているのと同義ですので、失礼にあたります。この場合は自身の過失と認め、過度なコミュニケーションを図ろうとした事を謝るべきです、お嬢様の言い分では、お前が家具に見えたから座ってしまったんだ、この椅子野郎とも聞こえます」
「そう言うことは先に言いなさい!」
嵐ちゃん水縞か、こだわりを感じるな。いや、俺も別に椅子野郎って言われてるとは思わないけどさ。
ようやく落ち着いて話が出来る。嵐ちゃんは隣に座ったままだが、上に座られているよりかは幾分落ち着いて話す事が出来るだろう。
「その、お話の方させていただいてもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ」
「それではですね。単刀直入に申しまして、伊達さんとの許嫁関係を解消していただけないでしょうか?」
「えっ?」
「突然の申し出、困惑されることと思いますが。現在の伊達でのトラブルの内容をご存知でしょうか?」
「いや、わからないけど」
「現在居土製薬が商品の卸をある商社にだけ止めています、その商社は悠介様のお父様が務められている会社です」
淡々と告げられた内容だったが、俺は唐突に心臓を鷲掴みにされた気分だった。
「えっ、まさか…?」
「はい、居土製薬は子供の仕返しに悠介様のご両親に嫌がらせをしているのですよ。それを水面下で行ったようですが、昨日それがバレたようで、伊達が間に入ろうとしていますわ」
「嘘…、玲愛さんは何も」
「知らせるつもりはなかったのでしょうね。当初商品の差し止めが行われた事を悠介様のお父様も伊達に報告しませんでした、何故だかおわかりになりますか?」
「伊達に嫌な話がいくと思って?」
「そうですわ、ゴタゴタを伊達に持ち込んで悠介様の許嫁の話が流れることを恐れたようです」
親心というやつですねと、嵐ちゃんは付け加える。
俺の知らないところで、そんなことになっていたなんて。一瞬目の前が明滅した。
「この件は完全に伊達の逆鱗。まぁ玲愛さんのですわね。その逆鱗に剛速球を叩き込んだようで、現在怒り狂ってらっしゃるようで、恐らくこの一週間で居土製薬はなくなりますわね。それで今商品の代替えルートの確保や、関連企業に対して、今からこの会社潰すからしばらくは別の会社使ってねと言って回ってる最中でしょう、さしずめ殺す準備をしているところでしょうか」
お、恐ろしい…。
「でも、それじゃあ今度は居土製薬の人が」
俺が加害者の心配をしていると、嵐ちゃんは、俺が口をつけたティーカップを自分の口に運び一口飲むと、先ほどまでの柔らかい目ではなく、怒るような厳しい目になった。
「悠介様、制裁は当然の事なのですよ。まして自分の利益の為の背反行為ならまだ理解が出来ますが、息子一人の為に数多の関連企業に迷惑をかけているのです。私も深くは内容を存じ上げておりませんが、言い分的には居土家の逆上と聞いております」
確かに居土先輩は許嫁を外されたことを納得していなかったようだけど。
「ましてグループ内同士の事となれば、トップである伊達が裁決を出すのは当然です。そして伊達はそのような行為は絶対に許してはなりません、相手の心情を汲み取って仕方ないなんてことは社会ではございませんので」
「………」
「ショックを受けるお気持ちは、察しいたします。しかし社会には必ず損益というものがございます。このことによって受けた悠介様のお父様の会社が受けたダメージ、それは自身が招いたものではなく、故意におこされたものです、であればその損益を補填する必要がございます。それはダメージを与えた会社が受けねばならないのです。これが社会的制裁ですわ」
「………でも、居土製薬は潰されちゃうんだよね」
もしかしたら、自分が原因かもしれないことで、大勢の人が職を失う、そう考えると俺の胃は悲鳴を上げた。
「そうですわね…」
「そっか…」
俺は胃の痛みで、頭がゆっくり下がってしまう。
そんな俺を見かねたのか、嵐ちゃんはゆっくりと柔らかく息を吐いた。
「しかしご安心くださいませ、脅すような事を言いましたが、頭が伊達にかわるだけですので大きな問題はでないでしょう」
「そうなんだ…」
「ただ今回の話どうやら居土単独での行動ではないようで、裏でまだネズミが動いているようですわ」
「じゃあ」
「ええ、まだ難を逃れたと言えませんね。現在伊達は悠介様の商社のリカバリーと居土トップの追い詰めを行っています、その後にネズミの調査にはいるでしょう、ですがその頃にはネズミは雲隠れが関の山ですわね」
「…………」
「このネズミがなんだかおわかりになります?」
「………」
「悠介様の伊達家入を快く思っていない居土家と同類の人間ですわ」
ぼんやりとして、伊達の人たちに守られていたからわからなかったけど、裏でそんなことになっていたなんて。自分の馬鹿さかげんに頭と胃が痛くなる。
「伊達は悠介様を受け入れる限り、外からだけでなく内からも攻撃を受け続けることでしょう」
「俺の存在が…悪い?」
「ですが伊達には剣心様と玲愛さんの二枚の最強がございますし、火恋さんや雷火さんも力をつけてきています。そうそう簡単に落ちることはございませんので、ご心配はあまり必要ないかと」
「そう…か…」
「そこでですね、私と悠介様が婚約することで、伊達と更なる繋がりをもち、水咲が伊達に巣食うネズミを一掃して差し上げますわ」
俺の手をとり、のしかかるように身をよせてくる嵐ちゃん。
まさか自分が政略的意味合いを持つ駒になるとは思っていなかった。
そう考えると彼女の狙いは、伊達との繋がりがほしい為だったのかもしれない。確かに伊達家には女性しかいないしな。いやでも考えたら俺じゃなくても伊達の親類なら誰でもいいんじゃないのか?
「その嵐ちゃんはどうして、俺を?」
その質問をすると彼女はキョトンとした後にニコリと微笑んだ。
「そんなの勿論、私が悠介様と結婚したいと思ったからですわ」
「か、かっこいいな。普通はそんなこと言えないよ」
「普通の人と同じことを言ってどうしますの?欲しいものにはすぐに手を伸ばす、それが水咲ですわ、取られてからでは遅いのです。今回は既に伊達さんが手を伸ばしているものに手をつけるわけですので、略奪というのも燃えますわ」
ホホホと小さく笑っているが、何げに恐ろしいこと言ってるなこの子。
彼女は今度は自発的に、間違いでもなく俺の膝の上に向かい合って座る。
「あの…」
「困ったお顔も魅力的ですわ」
対面で座られるのは、胸が目の前にきて心臓によくない。
そっと目を反らすと嵐ちゃんが俺の両頬を掴んで正面を向かせる。
「伊達さんには勿体ないですわ、水咲の方にお越しくださいませ」
潤んだ瞳と、熱い吐息が耳にかかり、俺の脳を直撃する。
「伊達さん達を裏切ったら辺り一面が火の海になるよ」
「気づいていませんの?悠介様から一言水咲に入ると言っていただければ、伊達は引きますわ。そして伊達よりも頼もしい水咲家が全力で悠介様のバックアップに回りますわ」
お互いの胸がくっつきぺったりと体が寄りかかってくる。
そっと近づいてくる嵐ちゃんの顔を困り顔で押しとどめた。
「ごめんね、嵐ちゃん。それでも俺は伊達の人が好きなんだよ。俺の為にこんなにも怒ってくれる人を俺は裏切れない」
そう告白すると、嵐ちゃんは少し体を離して笑顔になった。
「私、乙女ゲーをするときは真っ先に身持ちの硬い男性から攻略しますの」
今度はちょっとゾクっとするような妖艶な笑みを浮かべて彼女は俺の膝から退いてくれた。
「これから食事にしたいと思うのですが、そのご様子ではお帰りなられますか?」
俺が自分の制服を正すと空気を察してくれた。
「用意してくれたのにごめんね」
「いえ、私は全く構いません。藤乃車を回して」
「かしこまりました」
うぉあぶねぇ、この人いるんだった、忘れてた。
俺は玄関先で藤乃さんと一緒に車を待っていた。
「今日はありがとうございました。多分まだいろいろ用意していただいてたと思いますけど、それを全部ダメにしちゃってごめんなさい」
「いえ、構いません。またお嬢様と遊んであげてください、お嬢様は友達が少ないですので、今日の姿は新鮮でした」
「そうなんですか?」
「ええ、あのような照れたり、男性の膝の上に自分から乗りに行くお嬢様なんて見たことがありませんよ」
「す、すいません」
「別に謝ることではございません。あの頃の少女が恋をするくらいが普通です。自分では悠介様の事を強い憧れだと言い張っていましたが、あれは完全に恋煩いですね」
「憧れ…。そんないいものじゃないですけどね」
「確かにお顔を褒められたものではございませんが、きっとお嬢様も、伊達様も三石様の内面に惹かれたのでしょう」
結構グサッとくること言うなこの人。
「あの、藤乃さんはその、嵐ちゃん、嵐さんの事をどう思っているんですか?」
「別に取り繕わなくても結構ですよ。三石様と、お嬢様はご友人関係ですので。私とお嬢様はあまり年齢が離れていないので、よくそう言った質問がでるのですが、私は男色家ですので、あまり女性というもの自体に興味がございません」
「成程……えっ?」
「私はバ○ですので」
「うわーーー、聞きたくなかったです!」
「安心してください、三石様、私のストライクゾーンは年下で平均より下目の顔ですので」
俺ドストライクじゃね?
オイィィィ!!早く車来い!
その願いが通じたのか、リムジンがとろとろと玄関前にやってきた。
俺はまた来た時と同じ白髪の運転手さんに安心してリムジンに乗りこんだ。
「またお越し下さいませ」
二度と行かん。
悠介が帰った後の水咲家で、嵐は悠介が座っていた場所に寝転んでいた。
「お嬢様、好きな人が座っていた椅子に頬ずりするのは、はしたないのでやめた方がよろしいですよ」
嵐は頬を膨らませながら、顔をあげた。
「…………うぐぐぐ」
「三石様と直にお話してみてどうでしたか?」
「好き」
ちょっとむくれながら答えを返す嵐。
「それは感想ではございません」
「うー、凄く良い人であることは間違いありませんわね」
「私には少し頼りなさげに見えましたが?」
「思考が漏れっぱなしの表情が素敵ですわ、何を考えているすぐにわかる。本当は伊達さんの話はもっと脅かそうと思っていましたが、あまりにも悲しそうな顔をするので、フォローしてしまったわ」
「そうですね、私も特に不安げな表情はそそりました」
「あげませんわよ!」
「まずは伊達からの奪取が先決でしょう、応援していますよお嬢様」
「うー、なんだか邪な気配を感じますわ」
「気のせいです」
嵐は思い出したように、自分の携帯を取り出すと、ホーム画面とロック画面の壁紙を自分と悠介のコスプレツーショットに変える。そしてメール画面を開き宛先を伊達雷火にして、自分が悠介に抱っこされている写真を送りつけた。
「これぐらい許されますわね」
玲愛のもとでせかせかと働かされていた雷火だったが、事が悠介に関することだったので、中堅社員も顔負けの働きをしていた。
丁度ひと段落ついて、様子を見に来た火恋と玲愛、三人で会社の休憩室に転がっていた。
「姉さん缶コーヒー頂戴」
「自分で買え」
「ケチ」
「私のをあげよう」
「火恋、あまり甘やかすな」
玲愛がたしなめるが、雷火はヤターと喜んで火恋から缶を受け取った。
雷火はコーヒーを口に含みながら、今しがた届いたメールを開いた。
「プーーーーー」
盛大にコーヒーを吹き出す雷火。
「雷火汚い」
「姉さん雑巾どこにあるの?」
足を組みながら苦い顔をする玲愛に、雑巾を持ってくる火恋。
雷火は震えながら携帯を強く握りしめている。
「そんなに強く握ると液晶割れるぞ」
時すでに遅く雷火のスマートフォンには指型のヒビが入っていた。
「大体何を見ている?」
玲愛がコーヒーを口に含みながら、雷火の携帯画面を見る。
「ブッ!」
玲愛は雷火の顔面にコーヒーを吹きかけた。
「姉さんまで、何を?」
火恋も同じように雷火の携帯を覗き込む。
「ゴホッ」
そして火恋は玲愛の頭にコーヒー吐きかけた。
三人ともびちょびちょになりながらも携帯の画面を凝視していた。
「「「どうなってんのよこれーーーー!」」」
三姉妹の叫びが休憩室に木霊した。