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オタな俺とオタク少女  作者: 蟻の巣
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オタと嵐

 リムジンに乗り込んだ俺の前に、ストンと腰を下ろす水咲さん。

 リムジンの中はとても広く、大人三人が並んで寝転がってもまだまだ余裕があり、座ったクッションもお尻がどんどん沈んでいく。

 タクシーのような変な臭いもせず、ミントっぽい鼻を抜ける良い匂いがして、乗り心地はとても快適だ。

 ただ、俺の真正面で足を組んで座る少女にどう反応すればいいかわからないだけだ。

 水咲さんは、あれだけ派手に登場した割に、そわそわと落ち着き無く、そっぽを向きながら自分のドリルを指でクルクルしている。

 俺たちの乗車を確認したリムジンは緩やかな速度で発車した。

 乗り込んだのはいいが、何処に行くのかも目的も聞いていない、会話すべき事はたくさんあるのだが何故だか車内は無言だった。お互い会話の糸口が見つけ出せずに膠着状態と言ったところか。


 しばらく窓の外から景色を眺めていたが、地元の一つ隣の駅が流れていって、俺は不安になってきた為、ようやく口を開ける。

「あの、水咲さん、これからどこに行くんですか?」

 俺が問うと、水咲さんはクルクルをやめてピンと背筋を正した。

「兼ねてからお話したいと思っていましたので、これから(わたくし)の自宅にご案内しようと思っていますの。どこに行くか考えたのですが、やはり落ち着ける場所がよろしいと思いまして、悠介様には少々敷居が高く感じられるかもしれませんが、全く心配する必要はございません。是非自分の家だと思って、くつろいでいただけると良いのですが、この水咲アリスティア嵐、できうる限り悠介様のご期待に添えるように、準備をいたしましたので。夕食の方もご心配なさらなくて結構ですわ、水咲が誇る最高のシェフ達が悠介様の舌に合うものをご用意させていただきますので、何か特別好きなものや嫌いなもの等がありましたら、対応させていただきます。それと悠介様がとても謙虚で紳士で慎み深い素敵なお方で私に敬語を使われていましたが、私のような若輩にそのような気遣いは一切無用ですので、まして私は悠介様より年下、こちらには敬う義務がございますが、悠介様はもっと気楽にフレンドリーに、そうですわね、癪ですが雷火さんのように接していただければ良いかと。悠介様さえよろしければ、それ以上の接し方でも私の方は全く構いません。また私の事は水咲さんではなく、気軽に嵐とお呼び下さいませ、私の方は悠介様と呼ばせていただいていますので、こちらだけ下のお名前で呼ばせていただくのは、いささか不自然と思われますので、こちらの方だけは徹底をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」

 俺が質問すると、彼女は話のきっかけを待っていたのか、怒涛の勢いで喋り始めた。とりあえず俺が理解出来たのは、これから水咲の家に行くという事と、敬語使うなって事と嵐と呼んで欲しいってことだけだ、後は夕食がどうとか。

 俺が圧倒されながらポカンとしたバカみたいな顔を作っていると、彼女は自分のスピードに俺がついてこれていないことに気づいて顔を赤らめた。

「し、失礼しました。ついはしゃいでしまいまして…」

 恥ずかしそうに俯きながら、スカートの裾をキュッとつまんでいる姿は可愛いなと思った。

 俺はふと視線を下げると、彼女の学生鞄だろうか、紺色のナイロンバッグにクレーンゲームにありそうな、親指程度の大きさの三頭身マスクドヒーローエックスと現在放送中の五色ヒーロー物、怪物戦隊バケモノジャーの五人セットが並んでぶら下がっていた。

「それ…」

 俺が指を差すと、彼女は慌ててバッグを自分の背中に隠した。

「あ、あの、ち、違うんです、私としたことが別にエックスもバケモノジャー好きなわけではありませんのよ。そう、これは妹が趣味で、たまたまです、たまたま妹の悪戯でバッグについていただけなんですよ。と、特撮なんてそんな子供地味た趣味未だに持っているなんてそんなことありえませんわ」

 恥ずかしげに一生懸命隠そうとするのだが、その拍子に鞄が逆さまになり、中からポーズの違うエックスとバケモノジャー、更にプリティプリンセスの人形が出てきた。日曜朝のヒーロー達だ。

「……」

「……」

 一瞬の沈黙。恐らくこの一瞬で誤魔化すか開き直るか、観念するか決めているようだ。

「ち、違いますのよ。あ、あの子ったら私の鞄にこんなに悪戯して、帰ったらきつく叱っておきますわ」

 誤魔化すことに決めたようだ。しかし苦しい。

「そうなんだ、俺エックスもバケモノジャーも好きだけどな」

「あっ?そっ、そうでしたの?」

 嵐ちゃんはキョトンとしているようだった。

「じ、実は私もこのジャンルに兼ねてより興味はありましたので、これは妹の悪戯ですが、自宅の方にまだ沢山ありまして」

 さっきより目を輝かせて、俺の方に身を乗り出してくる嵐ちゃんは鞄からジャラジャラと人形を取り出す。彼女は隠れオタというやつかもしれない。

「そうなんだ、俺実はヒーローショーでエックスの役やったことあるんだよ」

「ほ、本当ですの!?そ、それはどちらでですの?東京のドームシティ、もしかして有明やインテックスでしょうか?それともどこかホールなのでしょうか?」

 凄い食いつきようでズイと身を寄せてくる。よっぽど興味があるんだろうな。

「いや、そんな大きなところじゃないよ。このすぐ近くにある百貨店なんだけど、まぁ知らないよね」

「○ビル百貨店ですの!?」

 顔が触れ合うくらいに近づいてくる嵐ちゃんは、よほど驚いているのか目を丸くしている。

「そ、そうだけど」

「しくじりましたわ…」

 俺の肯定を聞くと、ペタンとクッションに座り込んで、頭を抱えた。

「何かまずかった?」

「いえ…、そんなところにチャンスがあったのかと思いまして。あれは水咲主催のイベントだったのですわ」

 そう言えば、提供に水咲グループとか出演者のお姉さんが最後に言ってたような気がする。

「まさか、出会いがそんなに身近にあったなんて…」

「と言っても、俺が参加したのは数回だから、会えなかったもしれないよ」

「絶対悠介様、背負い投げしてたエックスですよね?」

「あれ、知ってるの?」

「私その場にいましたから」

 そうなんだ、実は意外な人に見られてるもんだなと思った。

 嵐ちゃんは、後悔するようにうぐぐぐと唸っている。

「あのイベントで、雷火ちゃんと再会したんだ」

「雷火さんと再会?」

「一度電気街で会っててね。その時はお互い買う物が被ってて、ちょっとした取り合いになったんだけど、雷火ちゃんが譲ってくれてね。その後雷火ちゃんの分を探すことになったんだよ」

 その後エロ本コーナーで(ぶつ)を見つけたんだったな。甘いんだかしょっぱいんだかわからない思い出だ。

「後日にヒーローショーのバイトで再会してね、そこから付き合いが始まったんだ」

「うぐぐぐ、もしかしたらその立ち位置が私だったかもしれないと考えると悔しさがこみあげてきましたわ」



 そんな話をしていると水咲家へとついたのか、リムジンは緩やかに停車した。

 後部座席が運転手さんによって開かれると、俺は水咲家へと降り立った。

 水咲家の最初の印象は城だった。中世の物語に出てくるような、尖んがり屋根で、ブロックを敷き詰めて作られた城、見た目は完全にそれだった。

 日本にこんなとこあるんだと、日本すげーなと改めて思った。

 辺りを見回すと、綺麗な青い芝生が一面に敷き詰められ、ライオンの彫像…じゃないな、うなぎ?犬?よくわからない生き物の彫像からゴボゴボと水が吹き出している。

 大きなハサミをもった、使用人の方なのか、タキシードにエプロンをつけたダンディな男性が大きなハサミでちょきちょきと庭木の手入れを行っている。

「す、住む世界が違う」

 伊達さんの家が純和風のお屋敷だとしたら、こっちは純洋風の洋館というに相応しいだろ。ただ気になったのが、ところどころに人間サイズの彫像が置かれている、どれも知っているマンガやアニメのキャラクターだ。

「ぴ、ピンキーモモじゃないか、古すぎる。こっちはかぼちゃパインのエムちゃんじゃないか、ふ、古すぎる。あ、あっちには四つ目がまかり通るだ」

「全て父の趣味です、お気になさらずに」

 お気になさらずにって、四つ目の目が電飾でピカピカ光ってるし、無視しろってのは無理があるだろ。

「父と母の趣味ですわ、ご近所さんからは不気味がられています」

 そりゃ夜中にこんなピカピカ光る像を見たら不審に思うだろう。

 庭を抜けて、屋敷に入ると、広いホールだった。豪華なシャンデリアぶら下がっているがよく見るとあれ、アト○スのジャックワンタンじゃないか?

「お父さん野武士ロードの社長さんなんだよね?」

「ええ、筋金入のオタクですわ。母はイギリス人オタクで、父とはコミケットで結婚しました」

「す、すげー。正しくオタ婚だ」

「アリスティアは母のミドルネームをそのまま使用していますの」

「へー、良い名前だね」

「オタクっぽい名前でしょう?別にミドルネームなんてなくても良かったのですが、その方がキャラが立つなんて理由で父が残しましたの」

「す、凄いお父さんだね」

「母も、父に乗っかるのでタチが悪いんです。誰も止める人がいなくて」

「でもキラキラネームとかじゃなくて良かったね」

「不幸中の幸いでしたが、候補の中には羅夢(らむ)努論女(どろんじょ)なんてのもあったのですよ、とても自分の子供につける名前とは思えませんわ」

「そ、そうだね」

 苦笑いが浮かぶ。

「まぁこの嵐というのも、某有名探偵マンガのヒロインからきてるんですけどね」

「ああ、成程…。でも漢字は違うんだよね?」

「人からパクってくるくせに、オリジナルを入れたがる、典型的なオタクの癖ですわ」

 す、すんません。

 ホールを抜け、客間?に案内されると嵐ちゃんは着替えてきますと言って、姿を消した。客間に来る前に、他の部屋がチラッと見えたのだが、どこも凄い作りだった、等身大のフィギュアが並んでる部屋だったり、模型やガン○ラで埋め尽くされた部屋に、コスプレ衣装と思われるコスチュームが大量に置かれている部屋。オタク天国のような場所ばかりだったが、通された部屋は以外にも普通で、装飾こそ豪華だがオタクアイテムは一切おいておらず、強いて言えば、巨大な液晶テレビの前におかれている、PSぐらいのものだろう。

 部屋の中にはその液晶テレビとゼブラ柄をした毛皮でモコモコのソファーに石?でできたオシャレな机がある。

 俺はソファーに腰掛けると、ふわふわさがやばかった。中身は水なのだろうか?座る度にグニュグニュと形を変える。リムジンのもすごかったがこっちはスライムに乗っている気分だ。無性に揉み揉みしたくなる。

「ええんか、ええのんか、ここがええのんか」

 変態の如くクッション部分を揉みしだいていると。唐突に机の上にカチャリと音をたててティーカップが置かれた。

 慌てて自分の世界から帰ってくると、目の前に物凄いイケメン執事がいた。

「どうぞ」

「あっ、すいません(超小声)」

 小声にもなるだろう、あんな頭おかしいと思われるところ、超イケメンに見られたら。

 見たまんま執事なのだろうが、燕尾服に黒ネクタイをした、イケメン執事ドラマにでも出てきそうな、爽やかもじゃもじゃ頭をした青年は俺に一礼すると一歩下がって、ナプキン?タオル?みたいな白い布を腕にかけて待機している。

 えっ、もしかしてこの人いるところでお話するんですか?自分の矮小さが際立つのでマジ勘弁していただけると助かるのですが。

 嵐ちゃんもすぐに来るかなと思ったが意外と戻ってこない。

「………」

「………」

 気まずい、爺さんとかおじさんぐらいの年齢なら、無視することも可能なのだが、年上だとは思うがそこまで年齢差があると思えない人が仕事の為にじっとこちらの様子を伺っているというのはどうにも緊張してならない。

 フツメン以下の生き物は無条件にイケメンと相性が悪い、俺の人生そこまでイケメンに関わってきたわけではないが、同学年でも何故か敬語を使ってしまったり、ほぼ必ずと言っていいほど君付けになる。本能的にあのカテゴリーに勝てないと認識しているのかもしれない。

 ブサメン、フツメン達がやっかむのには理由がある。※ただイケと言う言葉をご存知だろうか?※ただしイケメンに限ると言う言葉の略なのだが、対人関係に関して、事態が好転すること。例えば私はオタク君の事が好きです、オタク君の趣味や話す内容が大好きですと異性から好意を向けられるとき、それはオタク君の趣味が好きなわけでも、話す内容が好きなわけでもなく、きっとそのオタク君が相当なイケメンなだけであって、もしオタク君がブサメンであれば同じことにはならないと言いたい言葉だ。

 イケメンであればギャルゲをやろうがエロゲをやろうが、異性に興味があるのね男らしい素敵!となるがブサメンが同じことをやれば、キメーんだよ!タクくせぇこと学校で話してんじゃねーよ!と怒られる。また俺は昔学校で普通にパンを食ってるだけでキモイと言われた事がある、それは隣にイケメンの友人がいたからだと今でも思っている。

 ここまでくると極端ではあるが、それぐらい俺はイケメンを警戒している。居土先輩の件もあったしね。


 ティーカップに口をつけながらこっそりとイケメン執事を伺う、だがチラ見してるのがバレて彼の顔がふわっと笑顔になる。やめてくれ、惚れてまうやろ。

 イケメンのタチの悪いところは、世界の好意を享受してきた為、性格までいいパターンが多いのだ、逆にブサメン達は謂れ無き罪を背負わされ続けてきた為、卑屈な人間が多かったりする。もう完敗じゃないか、どうしたらいいんだ。

 居心地の良い部屋で居心地の悪さを味わっていると、部屋の扉が開かれて、ようやく嵐ちゃんが帰ってきてくれた。

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