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オタな俺とオタク少女  作者: 蟻の巣
12/107

コスプレデート

その日の放課後

 俺は電気街にコスチュームを調達しに行く為足早に下校していた。

 校門付近にある体育倉庫の脇で火恋先輩と居土先輩が立っているのが見えた。何かトラブルでも起こっているのかもしれないと思い、倉庫の死角に入り聞き耳を立てた。

「どうしてなんだい!確かに君にも三石君にも悪いことをしたと思う、でもそれだけで許嫁から外されるのは納得がいかないよ」

 居土先輩はイケメンフェイスを外して必死に抗議しているが、対する火恋先輩の表情は火を失ったように冷たい。

「今回の件で君にも沢山の迷惑をかけたことを詫びる。君が悠介君とデートの時私を連れ出した事も元を正せば私が悪い、そして君も私の事を思ってやったことだと思う、それだけであれば私もお父様に掛け合うことは出来た。君の訴えも聞き入れる事が出来た。だが君は悠介君を傷つけた、許嫁云々の話ではない、人としてそれは最低な行為だ。彼が先に仕掛けたなんて愚にもつかないことを言わないでくれよ。それに私が許嫁候補を妹に引き継いだ瞬間雷火に鞍替えした」

「き、君だって三石君に乗り換えたじゃないか!」

「そうだね、私自身尻の軽い女だと呆れるよ。私も何もなければ君が正式な許嫁になって今回の話は終わると思っていた、でも終わらなかった。私は負けず嫌いなんだ、今回の件で雷火から悠介君を姉さんより幸せにしてあげると言われ目眩がしたよ。私は周りに不幸ばかり撒いてちっとも幸せにしてあげてないと、だから決めた私は彼のデートを無視した償いとして彼を幸せにしようと」

「そんな、たった一回デートをすっぽかしただけで…」

「軽い女なのか重い女なのか、ただ本来好戦的ではなく温和な彼が私たちの為に怒り、君に立ち向かう姿を見て初めて思いをぶつける相手が出来たと思った。すまない、酷いことを言わせてもらう、君に失恋したんだよ私は」

 火恋先輩ははっきりとそう告げると、居土先輩は点三つで表せるような顔(∵)をして真っ白になっていた。

 先輩はその後も何か追い討ちをかけていたが俺はこれ以上聞いてはいけないと思い足早に電気街へと向かった。










 あっという間に土曜日となった、俺は自分の武装を確認する、親父にデート中の写真が撮りたいんだと言って借りた(間違いではない)一眼レフカメラにコスチュームをしこたま入れた紙袋に指出しのグローブ、真っ赤なバンダナを装備し瓶底丸眼鏡をスチャっとかけて、俺は最前線で戦うカメラマン、フロントライン君へと変身する。

 伊達家へと向かう最中ご近所さんから奇異の目で見られたがそんなものは関係ない、必要なものは自分を貫き通す意思と折れない心、そうストロングハート。

 まぁ俺も近所をフロントライン君が歩いてたら引いてしまうと思う。


 伊達家へとつくと立派な庭を抜け玄関へ、毎度不釣り合いなインターホンを鳴らす。

「はい、あっ三石さんですね。すぐ行きます」

 インターホンから雷火ちゃんの声がしてすぐさま俺と判断してくれる、よくこの姿でわかったな。

「はい」

 ニコやかに雷火ちゃんは玄関のドアを開けると、俺の姿を見ると口を三角形にして、開いたドアをピシャっと閉じた。

「えっ、何で!?開けてよ雷火ちゃん!」

 ドンドンとドアをノックする俺。

「変質者の方にはお引き取り願ってますので」

「違うよ、俺だよ三石だよ!」

「三石さんはそこまでイケてなくありません!」

「えっ?そこまでってどういうこと!?ちょっとイケてないってことだよね!」

 ドンドンとドアを叩いていると火恋先輩が出てきたようで、中から声が聞こえる。

「何をしているんだ、悠介君が来たのだろう?早く開けないか」

 ドアが開かれると今度は火恋先輩が俺の姿を確認する。一瞬ピクリと止まると火恋先輩は視線をキョロキョロさせ少しキョドりながら、なかなか個性的な服装だねと、優しくイケてないぞお前、と言った。

 すみません着替えます。

 グローブもバンダナもとり、メガネもはずして家の中に入れてもらう。通してもらったのは火恋先輩の部屋のようで、純和室だった、青い畳に掛け軸、生花、桐でできた衣装箪笥、小さな机がありその上にはノートパソコンが乗っていた。

「火恋先輩の部屋ですよね?」

「ああ、少し散らかっているがゆっくりしてくれ」

 先輩は座布団を敷くと、飲み物をとってくると言って台所に向かった。残されたのは俺と雷火ちゃん。

「実はどっちの部屋に招くか、で揉めたんです」

「えっ?どうして?」

 あの人を連れてくるなんて部屋が汚れるから嫌とか、箪笥荒らしてパンツ頭に被りそうとかだったら泣ける。

「二人で自分の部屋がいいって引かなくて」

「あっそうなんだ、ちょっと安心した。それで雷火ちゃんが折れたんだ」

「単純に私の部屋物が多いんです、後で見ます?すごいですよ大型のスピーカーとかプロジェクターとかあるんで、撮影するには不向きだって事になったんですよ」

「確かにオタク部屋っぽいね」

「三石さん、やっぱり私オタクっぽいですか?」

「いや、全然。たまにイケメンとかがディープなオタクな時とかあるでしょ?それと同じ衝撃」

「イケメンって」

「可愛いってことだよ」

 雷火ちゃんは正座しながらバンバンと畳を叩き出した、仕草は可愛いのだが壊れたようで少し恐い。

「三石さん、あんまり可愛い可愛いって言ってると、効果がなくなりますよ」

「そうかな?でも雷火ちゃんは可愛い」

 バンバンと顔を赤くして畳を叩く、あんまり叩くと畳が破けるよ。

 火恋先輩が暖かいお茶をとお菓子を持って帰ってきた。

「何してるんだ雷火」

「何でもない」

 赤い顔の雷火ちゃんは取り繕うが怪しすぎる。


 三人で雑談をするが二人共、紙袋の中身が気になるようでチラチラと中を伺っているのが見える。

「じゃあ、早速ですが始めてもいいですか?」

 そう聞くと二人は、神妙な顔で頷いた。別にそんな酷いことをするつもりはないから気楽にしてほしい。

 俺はガサガサと紙袋を漁ると沢山でてくるコスチューム達。

「うわ…、いっぱいありますね」

「それもフリフリキラキラ…」

 普通の人に見せれば、それ服なの?といわれてしまいそうなコスチュームだが、知っている人に見せればよく作ったなと賛辞をいただけるだろう。

「さぁ、どれからいきましょうか?」

 二人は広げられたコスチュームを見て、雷火ちゃんは目を輝かせているが火恋先輩は着た姿が想像できないようで、コスを裏にしたり表にしたり上下逆さにしたりして、どれがどうなってるかわからず困惑している。

「これはインナーなのかい」

 三角形のヒモ状の下着を見て赤面している火恋先輩。

「そうですよ、でもスカートあるんで見えないから安心して下さい」

「見えないなら普通の下着でいいんじゃないのかい?」

 それを聞いて雷火ちゃんがわかってないなと口の端を吊り上げる。

「姉さん、そういうのはね見えないところまでコスするのがこだわりなの」

「そういうものなのか?」

「もし見えた時に普通の下着だったら見てる方はがっかりするわ、この場合見る方は三石さんだから」

「そう…か」

 火恋先輩は俺と三角形を交互に見比べて、何故かよしと呟いた。

「いや、そこまで無理しなくていいんで」

「大丈夫だ、やろう」

 火恋先輩は何か覚悟を決めた顔になり、凛々しい表情になる、俺の憧れた表情だ。それでピンクの三角形を持ってなければカッコよかった。

「では手始めにボカノ系でいきましょうか」

 雷火ちゃんは、はーいと答えると初峰ミコの青を基調としたコスチュームを手にとった。

「火恋先輩はこれいきましょうか」

 俺は同じくボカノ系で別キャラの巡峰ルコの黒を基調としたコスチュームを手渡す。

「それではお着替え下さい」

 俺は着替えが終わるまで部屋の外で待機することにした。

「あぁ実に楽しみだ、この中ではめくるめく桃源郷が」

 しかしこの薄い襖を開けるだけで俺は前科一犯となってしまう、開けたい、でも開けられないこのジレンマ、一昔前の漫画のキャラクターなら間違いなく開けていただろうが生憎昨今の根性無したちは襖一つあけられないのだ。

「違うって姉さん、それ先に通したらこっちつけられない」

「着る順番があるのか?」

「首の音符は別パーツだから、裏から回さないと継ぎ目が見えちゃう」

「難しいな。それに胸が非常に苦しいのだがこれはそういうキャラクター設定なのか?」

「喧嘩売ってんの!?」

「何故怒る!?」

 あぁ楽しそうで何よりです。

 入っていいとのお許しが出たので火恋先輩の部屋に戻ると、憧れの先輩と慕ってくれている後輩のコスプレ姿が並んでいた。

「死んでもいいかもしれない」

 二人共、スカートの裾やスリットを気にしている。

「あの、三石さんガン見してないで、何か言っていただけると助かるんですが」

 火恋先輩もコクコクと頷いている。

「素晴らしい、そう素晴らしい!」

「意味わかんないです」

 ボーカノイドというキャラクターコスプレをした二人は髪の色に差異ははあったがそんなもの気にならないくらいに、似合っていた。

 雷火ちゃんはミニスカートから伸びる長い脚線が美しく、長い髪をツインテールで纏めてくれているので普段と違い快活なイメージが出ている。

 また火恋先輩はロングスカートに入った深いスリットと窮屈そうな胸元を抑えており、健全な青年を刺激して余りうる破壊力のある姿だ。

「サイズが少し合っていないようなのだが」

「そうですね、先輩に渡した衣装はあえて少し小さいものを選びました」

「どうして?」

「パツパツの衣装を抑えてる先輩の姿がきっと萌えると思ったので」

「すまない、私に理解できるように言ってもらえると助かるのだが」

「そうやってスリットとか胸元とかを気にしてる先輩が可愛いってことです」

「そういうものなのか…、頑張るよ」

 何を頑張るかはわからないが、途中でやめると言われなくてほっとした。火恋先輩とは対象的に少し不機嫌になっている雷火ちゃん、胸元辺りを触っているところを見ると、全然キツくないんですけどと言いたいようだ。

「雷火ちゃんはぴったりみたいだね」

「はい…、むしろ少し大きいかなって言うくらいで…」

 サイズの合っていない姉をむしろ羨むような視線を送っている雷火ちゃん。

 実は雷火ちゃんに手渡した初峰ミコは標準サイズな上にパッドは外しているので、普通より余裕のあるサイズになっている。

 何でそんな事をしたんだって?この姉妹の胸が規格外に大きいからだよ、言わせんな恥ずかしい。

「三石さん、あんまり他の女の人を可愛いとか言っちゃダメです」

「い、いいだろ少しくらい褒められても!」

 それに反応する火恋先輩。雷火ちゃんは意外とヤキモチ焼きのようだ。

「じゃあ撮るんでポーズどうぞ」

「えっえっ?」

 二人が戸惑ってる隙にパシャパシャと撮ってしまう。流石火恋先輩抑えていたスリットも胸元も平然と離して即座にキメポーズをとってくれる。

「何で姉さんそんなに慣れてるの!?」

「なんとなくでやってるだけだ、別に慣れてるわけじゃない!」

「嘘、いきなり写真撮られてそんなポーズできるわけないじゃない!」

 火恋先輩は足を開き腰を少しひねり右手は腰に左手は顔の横で水平スリーピースのポーズをとっている。確かに咄嗟にできるものじゃないかもしれない。

「うん、可愛い」

「また、姉さん褒められてる、ズルイ」

「ふん」

 俺火恋先輩の勝ち誇ったドヤ顔初めて見たかもしれない。

「はいはい、雷火ちゃんも撮るからね」

 パシャパシャとシャッターを切ると、ぎこちないながらもポーズを撮ってくれる。これはこれで可愛い。

「はい、二人でポーズ」

 少しずつ慣れてきたのか、隣にいる姉がノリノリでポーズを変えていくため羞恥心が消えたのか雷火ちゃんもかなりあざと…ぅうん、可愛いポーズをとってくれた。

 三、四十枚くらい撮った辺りから火恋先輩の視線が別に移りはじめていた。

 その視線の先には朝の少女アニメ、ハートナックルプリティプリンセスのコスチュームがあった、今回俺が一番凶悪だと思うコスチュームだ。とても可愛らしい衣装を着た少女達がハードに戦う、ターゲットは本当に子供なのかと疑いたくなる内容のアニメはやはり大きなお兄さん達のハートにもナックルを入れてしまった作品だ。

(火恋先輩、凄く着たそう)

 この前の撮影からあった疑いは最早確信にかわっていた。

 火恋先輩は可愛い服が凄く好き。

 学校では凛々しい、強い、気品そんな言葉が似合う火恋先輩はイメージ通り和服や着物をよく着ているが実際はこんな可愛いのを着てみたかったんだろうなと撮影していて思った。

 火恋先輩をズームインしたりアウトしたりしてると、唐突に雷火ちゃんがアップで写りこんだ。

「三石さん、姉さんばっかり撮ってます」

 気づくと少し多めに火恋先輩を撮っていたようだ、ごめんと謝ろうとしたが雷火ちゃんの表情が悲しそうなのにかわっていることに気づき、俺は自分の頬を打った。

 まずい自分だけで楽しんでた。

「よし、雷火ちゃん、ポーズ言うからその通りにやってみてもらってもいいかな」

「はい、やります!」

 雷火ちゃんにポーズの指定をすると、言うとおりにしてくれて、その表情は胸にくるものがある。

 撮影しているのでカメラを見るのは当然なのだが、カメラを通り越して俺を見ていると言うか、カメラを見ているのにカメラを無視しているというか、視線で物事を訴えている。

 もっと見てほしいと訴えるかのような上目遣いは正直反則の域だと思う、この魅惑的な視線に抗えるものか。

 パシャパシャと雷火ちゃんを撮影していると、今度は火恋先輩を放置している気がすると思いカメラを向けると、案の定少し怒っているような気がした。

 これは難しいぞ、どっちかを撮りすぎるとどちらかが怒るし、帳尻を合わせようと撮影すると今度はまた撮ってもらえない方が怒る、なんだこれは。

「二人同時にいきますから」

 二人をフレーム内に入れて撮影する、最初からこうすれば良かった、と思ったが今度は二人でズイズイと近づいてくる、どうやらどっちが大きく写るかで争っているようだ。

「ちょっと、この変でコスチュームチェンジしましょうか?」

 なんとか間を入れたくて衣装変更を申し入れると、二人は快く受け入れた。

「じゃあ次は…」

 俺は次の撮影衣装を選ぶ、当然火恋先輩がプリティプリンセスの衣装を見ていたのは知っている。

「じゃあ今度はこのヴァンパイアブレードのモルガンとリリィでいきましょうか」

 そう言うと雷火ちゃんはレオタードのような衣装を見てうわぁと感嘆の声をもらしている。

 ただ、火恋先輩はモルガンの衣装を手に取らずプリティプリンセスの衣装を手に取っている。

「先輩それじゃないですよ」

「これじゃないんだ…」

 あっ凄くがっかりしてる。

「先輩、それでいきましょうか」

 俺がそう提案すると火恋先輩はぶんぶんと首を振る。

「いや、別に私はこれが着たいわけではないのだよ」

 と言いつつも手から話さないプリティプリンセスコス。

「先輩、俺がそれで撮影したいんでお願いします」

 俺が両手を合わせて頼み込むと

「君がそこまでいうのなら…、それにこれは私のバツゲームだしね」

 そう言って受け入れてくれた、やはり自分からこの衣装を着たいというのは抵抗があるらしい。

「雷火ちゃんもいいかな?」

 雷火ちゃんもプリティプリンセスのコスを眺めて、これは流石に難易度高くないですか?と言っている。それはそうだろう、衣装はセパレート型でおへそは見えるし、スカートの丈も先ほどの比ではないほどに短い、あくまで少女の可愛らしさを前面に出したデザインなのでヒーローやヒロインから卒業した世代には辛い。

「あの、三石さんプリティプリンセスってスパッツ履いてましたよね?ないんですか?」

「あるんだけど、サイズがね…」

 俺はお子様サイズのカラフルなスパッツを見せる。

「これは履けませんね…」

「でしょ」

 これを渡してくれたコスプレ屋の兄さんナイス、テレビの規制で履かされたスパッツなんて滅びてしまえ。

「ルナナイトの衣装なら、まだ大丈夫だと思う」

 キャラクターによってデザインに差があるので比較的大人しめのキャラクターコスを手渡すが、火恋先輩がなんの迷いもなくセパレート型の主人公のコスをとった為、雷火ちゃんに対抗心がわいたのか、同型の仲間の衣装を手にとった。

「負けませんから」

 雷火ちゃんは笑顔なのにちっとも笑ってるように見えない不思議な表情で俺を部屋から追い出した。

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