玲愛とコスプレ少女
三角座りして着替えをワクワクしながら待っていると、火恋先輩の部屋から奥にある廊下からぬらりと誰かが顔を出した。
今現在家にいるのは火恋先輩と雷火ちゃんと玲愛さんだから、今二人は着替え中なわけで残る一人と言えば玲愛さん以外にいないわけで。
玲愛さんは体にピッタリフィットする肩出しの腰より下まであるロングセーターを着ていて、下に真っ黒なストッキングを履いていた。見ている方には寒いのか暑いのかよくわからない服装だ。
口には液状ゼリーのパックを咥えていて、ため息をつきながら長い髪を手櫛していた。
「どもです」
俺が胸の大きな人がセーター着ると凶悪だな、と思って見ていると、邪な思考がバレたのか玲愛さんは一気に不機嫌な表情になり、ペタペタとスリッパの音を響かせながら俺の方に近寄ってくる。
「ここで何をしている」
「は、妹さんたちと遊ばせていただいています」
唐突な詰問につい軍隊の如く敬礼してしまう俺。
「二人共一緒なのか?」
「はい、三人で遊ばせていただいています」
「二股か」
ギロりと俺を睨む玲愛さん、その威圧感は女性版剣心さんで、優しそうなお母さんの血をあまり受け継がなかったのかなと思う。
「違います」
「別に二股でも構わない、子供さえしっかり産んでくれればな」
「そんなの許す人いませんよ」
俺が苦笑いしながらそう言うと玲愛さんは、張り付いた氷のような表情からピクリと一つ眉を動かす。
「じゃあ、お前ともし火恋が結ばれたとしよう、その時女の子しか生まれなかったらどうする?」
「どうって…」
「大家族もいいが、無理をして子供を産ませすぎると母体に負担がかかるぞ」
「それは確かにそうですけど…」
「それでもきっと火恋はお前の為に子を成し続けるだろう。そう思わないか?」
「思います」
生真面目な火恋先輩の事だ、もし仮にそのような状態になったとき、火恋先輩に一切責はないが自身を責め、必死になる事は間違いないだろう。
「そんな時に雷火がいる」
「…保険みたいな言い方はどうかと思います。それにその時には結婚しているでしょうし、家督を継ぐのが結婚した娘の子ではなく、結婚相手の妹の子供で何故か父親は俺っておかしいじゃないですか」
玲愛さんはフンっと鼻で笑うとニヤリと悪戯的な笑みを浮かべた。
「どうしてだ?美人姉妹とヤリ放題だぞ」
「何をですか、何をヤリ放題になるって言うんですか!?」
「セック○」
「わーーーーわーーあーーーーー!」
あっけらかんと言ってのける玲愛さんの言葉に耳を塞いでぶんぶんと頭を振る。
「そんな調子で本当に子供が出来るか疑わしいな」
「とても男として魅力的なご提案ですが、お二人の事を考えるとやはり二股は…」
「聞いているか知らないが、あくまで重要なのは男の子供だ。それさえ入手出来れば伊達は文句を言わない。火恋の子だろうが雷火の子だろうが一向に構わない」
「伊達はそうかもしれませんけど、火恋先輩や雷火ちゃんが可哀想ですよ」
俺がそう言うと、玲愛さんはヤレヤレと一つため息をついて、呆れるようにこちらを見据えた。
「可哀想だって、お前がフった方は政略結婚に使われるだけだぞ」
「えっ?」
「フられた方は当然の結末だろう、今は三人で楽しいかもしれないが、いずれお前がどちらかを選び取るなら、片方の未来はどん底だ」
ショックな事実だが想定出来なかったわけじゃない、玲愛さんは自分を捨てて伊達家を回している、火恋先輩も伊達を存続させる為に許嫁の子を宿す覚悟をしている、雷火ちゃんだってそうだ。だから伊達を更に繁栄させるなら他と強く結びつくことが重要、その為の政略結婚を行う可能性だって十分に考えられた。
二人の明るさから遠い未来なんてことを考えてしまったが、間近に迫っている未来なんだ。
「そんな絶望的な表情をするな。だから言っているだろう、三人で仲良く子作りすればいい。そうすれば誰も溢れない、私自身そうしてほしいと思っている。伊達が好きな男を選べるなんて、今回が最初で最後なんだからな、私からすればくだらない倫理は捨てろ」
玲愛さんはそう強い口調で言い切ると、イライラしてきたのか、咥えていた液体ゼリーのパックをグジュっと握り潰した。
「お前と火恋と雷火で仲良く子作りするか、どちらかが幸せになり、どちらかがどこぞの会社のロリコン親父と結婚させられるか。どちらがいいのかと考えれば答えは出るはずだ」
「それでも…不誠実ですよ」
俺がそう言うと玲愛さんは少し失望したように、口の端を歪めた。
「悠、この家はな一般家庭とは違うんだ。誰か一人に愛され、最愛の人と子をなすということが出来ない、だが幸い誰か一人の点は無理だが最愛の人の子を成し、暮らす事が出来るんだ。体裁が気になるなら私が重婚でも何でもさせてやる」
無茶苦茶な事を言うが、玲愛さんならどっか重婚が認められてる国の国籍を取得してやりそうで恐い。
「どうせお前これから働かなくてもいいんだ、精一杯二人を幸せにすることだけにお前の人生使え。それが嫌なら許嫁から降りろ」
本来ならニート大歓喜となるところだが、素直に喜べずつい苦い顔になってしまう。
「考えて早くに結論を出せ。私は雷火に用がある」
そう言って玲愛さんは俺の背にしている襖を開けようとした。
まずい。
「あの雷火ちゃんに用でしたら後にした方がいいんじゃないですかね?」
言えない、あんなちょっとシリアスな話をした後で妹さん二人共部屋の中でプリティプリンセスコスの着替え中なんですなんて言えない。しかも写真撮影して後に残るようにしますなんて言えない。
「どうして?」
「今二人で秘密の会議中らしくて、それを俺が聞いちゃダメらしいんですよ」
「では耳を塞ぎ目を閉じろ」
「いやぁそれでも聞かれてるかもしれないという不安が残るのではないかと」
必死に無理やりな言い訳を考えるが、胡散臭すぎる。
「知らん、後で謝れ」
部屋の襖に手をかける玲愛さんの手をとる。
「二股ではなく三股か?」
それも面白いとつけ加える玲愛さん。
「違います」
「では離せ」
「出来ません!」
バナージばりの声を張ったつもりだが、構わず開けようとする玲愛さん。俺は全体重を使い必死に阻止しようとしたが、玲愛さんは片手で何食わぬ顔をしている。何この人その気になれば簡単に開けられるんじゃないの。
「しつこいな、お前は」
「諦められないところは諦めません!」
「何だそのカッコイイセリフは」
見られると家族会議、ひいては親族会議に発展する恐れがある。そして何より、よくも妹にハレンチなことをしてくれたな、お前も許嫁失格じゃボケーと言われても何一つとして反論のしようがない。
ガタガタと揺れる襖。
「大体中で何をやっている」
「玲愛さんには関係ないのでお引き取り下さい」
お互い一歩も引かないが玲愛さんの目がキラっと光った瞬間、鋭い角度でボディーブローが突き刺さった。
「ごはっ」
「折れるほど深くは突いてない、態勢を崩す程度だ」
そんな馬鹿な、これで態勢を崩す程度だと?俺の体はくの字に折れ曲がった。
だが俺は負けん、あの姉妹の名誉を守る為に俺は、闘う!
「三石さん、さっきから何ガタガタやってるんですか?ひょっとして覗きですか?」
俺のカッコイイ決意は内側からの力によってあっさり瓦解してしまった。
まぁそんなわけで現在三人正座して怒られてるわけですが。
「楽しそうだな」
「いや、これは…」
どもるプリンセスサン。
「楽しいわよ」
開き直るプリンセスアクア。
「それでお前は、そのカメラで妹たちの痴態を撮ろうとしているわけか?」
「いえ、痴態ではありません。可愛いものと可愛いものをくっつけて更に可愛いものをつくろうという美の研究です」
座りながらソバットという非常に器用な技を繰り出す玲愛さん、惜しむらくはその標的が俺ということ。
「お前ら一体いくつなんだ?ヒーローやヒロインごっこはとうの昔に卒業したものだと思っていたのだが」
「一周回って帰ってきました」
鋭いブローが再度俺の内蔵をえぐり、声がでないまま、もんどりうつ。
「違うんだ姉さん、これが以前話した居土君の件で悠介君に迷惑をかけた謝罪なんだ」
「どんな謝罪の仕方だ」
まったくだ。
玲愛さんは仲良くするのは構わないが、恥を後世に残すような事はするなと言ってプリンセスアクアを連れて何処かに行ってしまった。
「雷火ちゃん連れて行かれちゃいましたね」
「そう…だな」
「どうします、まだ撮りますか?」
「勝手に撮影すると後で雷火が怒りそうだし後日にしようか?」
それがいいと、本日の撮影は終了することになった。
その後プリンセスサンとインターネットで全国のレイヤーさん達の写真を見て回り、可愛かったキャラクターの名前と作品名をワードファイルに書き残していった。
なかなか帰って来ない雷火ちゃんの事を話をしながら火恋先輩と二人きりで手作りの食事をとった。
お互い二人きりにはあまり慣れていないので、目と目が合うだけではにかんだり、中学生かと言いたくなる、ぎこちないながらも心地いい時間が過ぎていった。
日も暮れてきて、良い時間になってきた。そろそろお暇させてもらおうかなと思った時に不貞腐れた顔でプリンセスアクアが帰ってきた。
「玲愛姉さんのせいで、三石さんとのデート時間削られたー」
ブーとぶー垂れるアクア。
「大変だったね、どんな話だったの?」
「伊達家の事をもっとよく勉強しろって、いつ何が起こるかわからないから、私たち姉妹全員が、後継の教育を出来るようにならなきゃならないって。面白い話ではなかったですよ」
「ああ、私もそれは言われた。これから勉強の時間が増えるぞ」
「うぇー勘弁してよ、ただでさえ帰国して日本の勉強覚えるのに必死なのにー」
というか雷火ちゃん、そんな真面目な話をそんなコスプレ姿で聞いてたんだね。
伊達の未来に一抹の不安を感じる。
「そろそろ時間も遅いし帰るよ」
「えーそんなのないですよ三石さーん、私全然遊んでませんよー」
口ではそう言っているものの理解はしている為抵抗は弱い。
「また今度ゆっくり話そうね」
「うーうー、明日、明日また遊びましょうよー」
可愛く唸りながらグイグイと服を引っ張ってくる。
雷火ちゃんって意外と甘えん坊な一面もあるのかもしれない、そう思って笑みが溢れた。
「あっうっ?今の変でした?」
「いや」
可愛いなと思ってと言おうかと思ったが、あんまり言い過ぎると効果がなくなると言われたので自重した。
「じゃあまた明日来るから、荷物置いていっていいですか?」
「ああ、構わない。その…試着とかしても大丈夫かい?」
少し恥ずかしそうにサザンカちゃんの服を見ている先輩。今日は撮影があまり進まなかったのでコスプレ出来なかったのが残念なのだろう。
「いいですよ、カメラも置いていきますので、自画撮りしてもらってもいいです」
「し、しないよ。…その…撮影は君がしてくれ」
真っ赤な顔で嬉しいこと言ってくれるじゃないのと思いながら。俺は玄関の方に向かった。
「じゃあまた明日ね」
そう言って靴を履こうとした時に玲愛さんがひょこりと顔を出した。
「何だ帰るのか?父さんいないから泊まらせていくものだと思っていた」
そう言って、再び廊下の奥に引っ込んだ。
「………」
「………」
「じゃ、じゃあ帰るね」
ガッ←服を掴む音
「泊まりましょう、そうしましょう」
「そ、そうだね、悠介君は男とはいえ一人で夜道を帰すのは危険だ、明日帰ればいい、そうすると良い」
「いや、それは流石にまずいのでは」
お父さんがいない間に男を泊めるって、流石に。
「大丈夫です、玲愛姉さんがOK出したんですから、パパが何言ったところで無駄です」
どんだけ発言力高いんだよ玲愛さん。
「いや、泊まる準備も何もしてないんで」
「「用意しよう、ます」」
有無を言わせぬ迫力で、誰が帰すかと言わんばかりに服を引っ張ってくる姉妹。




