LIVE.39 白虎門を死守せよ!
2324年2月2日 午前
薙杜 メイは、帝国ティルナノーグで朝を迎えていた。
昨晩ーー、
* *
玄武と共に、あらかた異人を倒したメイは、荒い呼吸をしながら、周囲を警戒していた。
「玄武さん!」
「呼んだか? 眷族」
がらがらっ
瓦礫の下からぴょこりと玄武は顔を出して、にんまりと笑う。
のそのそと地上に這い出てくると、腰に手を当ててトントンと叩いた。
「運動不足かのー、応えるわい」
「大丈夫ですか? 玄武さん、怪我は?」
「式神なめんじゃねーよ」
くあ、とあくびをしながら白目のない瞳でキロリとメイを睨む玄武。
「で、ですよねー!」
メイはデジャヴを感じつつ、ふぅ、と安堵のため息をついた。
ギャァァァァァアゥ
「な、この鳴き声は!!」
異人が現れた時と同じ、
耳をつんざく鳴き声がまた聞こえた。
続いて、バッサバッサと大きな翼の羽音が御神木の枝葉の中でこだまする。
「来るか!?」
メイは66式を構え直した。
シ…………ン……
「?」
暫く臨戦態勢をしていたメイだったが、一向に異人が現れる気配はない。
「……、どうゆうこったい」
ぼやいて、メイは66式を下ろす。
チャリ
太陽の光を受けた十字刃がキラリと光る。
「そういえば、さっき、あの鳴き声を聞いて光の眷族って言ってたけど、
あれってどういう意味なんですか?
ねぇ、玄武さーー」
ぱか、と大口を開けてメイは玄武に声をかけ、
ヒュッ
「!?」
その先に、メイは一閃の光を見た。
鮮烈な光の光線に、メイは微動だにできない。
「ぐふぬぅっ!」
続く玄武のうめき声に、メイはハッとして声の元を辿る。
「玄武さんっ!!」
玄武は、背中をばっさりと切り裂かれていた。
ぴしゅうっ
漫画みたいに血液が飛び散ると、どくどくと溢れる赤は、玄武の作務衣を赤黒く染めて行く。
ギェエェェァァァィァァア
鳥の鳴き声は、西の方から聞こえた。
すでに移動している。
羽音はだんだんと小さくなって行く。
「玄武さんっ」
メイは慌てて玄武に駆け寄った。
「大したことはないっ、……多分」
「多分ってなんだよ!」
メイはふざける玄武にツッコミを入れる。
「回復はする……っ、ただ、」
「ただ?!」
メイは玄武を抱えてその顔を覗き込んだ。
引きつって笑っているが大分ヤバそうなのは、メイにも分かった。
「すまん、俺がやられてしまったから、北門の結界は破られてしまう。
じきに、ここに異人が来る、ッ」
「げぇえ、マジかよ」
「仕方ねぇだろが!
いいか、メイ。
奴らの狙いはふたつ。
ひとつは、戒人と魅子。
もうひとつは、『神剣 神楽』だ」
「それはなんとなくわかるよ」
玄武は、自身の傷に短い手を添えた。
ぽう、と青白く光始めた傷口はゆっくりと塞がって行く。
「玄武さん、あいつは何処に向かってんだ?」
「式神を倒して回っている。
霊人につかえていた四人の式神だ。朱雀、白虎、青龍、そして俺だな。
俺たちにダメージを与えちまえば、大国神社を守る結界は弱くなるからな、四人やられれば、神社は丸腰だ」
「な、じゃあ」
「先陣は、朱雀が破られたからだろう、西は」
「朱雀さんが!?」
メイの穏やかな瞳は、憤慨で燃えた。
ざわりと、メイから狂気じみた殺気が放たれる。
「白虎さんッ!!」
叫んでメイは立ち上がる。
「待て、待てメイ……!!」
止める玄武の声はメイには届かない。
メイは神風工廠産電動移動兵器 疾風を起動して、飛ぶように西門に向かって行ってしまった。
「チッ、あの暴走癖、どーにかならんのか」
ジワジワと出血が止まらない傷口を眺めながら、玄武は大きく溜息をつく。
「仕方ない、ここで高みの見物でもするか……ッイテェな、クソ……」
まるっこい体をさらに丸めて、玄武は小さく舌打ちをする。
* *
フィィィィィィィィィィィィ
疾風の独特なエンジン音は高速になるだけ高音になる。
まるで超音波のようなそれに、メイは顔をしかめる。
メイの体感速度で、時速35キロ程度は出ている。
「いそげよ! ハヤテちゃん!」
重心を器用に変えながら、メイは林を抜けると、空を見上げた。
メイの進行方向にやたら尻尾の長い、巨大な翼を持った鳥が飛んでいる。
「居た!!」
そのまま、メイは大国神社の本殿横の社務所の屋根へと飛んだ!!
だぁん、ずぎゃぎゃぎゃっ!
屋根のレンガが剥がれるのも構わず、メイは疾走する。
「みーっっけ!」
そのまま、屋根を鳥に向かって滑るっ!
「一発必中ってなっ」
ジャカッ
そのまま66式を空に向ける。
トリガーに指をかけて安全装置を外す。
狙いはもちろん鳥だ。
銃を打てば、当然反動がかかる。
走りながらの反動は、体の負担がかかりすぎる。
それは、メイにもよくわかっていた。
社務所の先には、ーー白虎門。
「させねぇよ!」
鳥居を認め、メイは疾風の速度をさらに加速させた。
「疾風最高速度、風向き良好、視界良好、ターゲットロックオン!」
ぺろりと舌なめずりをするメイに、風が鋭く頬を掠める。
ぐん、とメイは身を屈め、
フィィィィィィィィィィィィウゥン!
そのまま、社務所の屋根の端から白虎門に向けてーーーー飛んだ!!
「いっけぇええええええええええ!」
旋回しようとした鳥とメイの目が合う。
(仕留めてやんよッ!)
メイの斜め上、30メートル上空に、鳥はいた。
メイの瞳がギラリと瑠璃の光を放つ。
地球の怒りを映すように閃く。
どぅぅぅん!!
66式が咆哮する反動で、メイは空中で数回転する。
ギャァァァァァィィィィィヒィィィィ
醜い獣の鳴き声が聞こえると、バッサバッサと翼の羽ばたく音が続く。
ざんっ!
メイは左足で地上に着地した。
特殊金属で作られた神風工廠産の義足は、しっかりと地上を踏みしめる。
「やったか!?」
メイは、すぐさま鳥を目で追った。
だがしかし。
その姿は、すでに目では確認できなかった。
ただ、遠くから聞こえるその翼の羽ばたきは、どこか詰まったような感じだった。
「とりあえず、成敗っ!」
ひとりガッツポーズをしてから、パンパン、とマントを整えるメイ。
「なかなかやるじゃないか、メイ」
「へ?」
呼ばれて低いトーンの声に振り向くと、白虎門に凭れている黒ずくめの男が一人。
メガネで表情は見えないが、口元は嗜虐の笑みで三日月型につり上がっている。
「あ、藍統さんっ!?」
「さすがは、大国神社の姫巫女の眷族、と言ったところか。
ガキの頃から、式神たちに戦闘術を叩き込まれていたとは聞いていたが、ここまで神風工廠モノを使いこなせてるなんてのは予想外だよ」
「あはは、どうも」
藍統は、内心でメイの戦闘力に畏怖さえ感じていたが、表には出さなかった。
鳥を仕留める刹那、メイが垣間見せた狂気に、藍統はゾクリと寒気がしていた。
(いち人間が出せるようなモノではなかった。ーー面白い)
藍統がクスリと笑うと、メイもニカッといつも人懐っこい笑顔を鬼のモリビトに向けた。
「あの、魅子たちは?
さっき、鳥を追跡してるときに異人の声もしたような……、
大丈夫でしたか?」
「問題ない、二人とは別行動だ」
「は、はい……」
心なしか、しゅん、と項垂れるメイ。
「なんだ?」
それを見逃す藍統ではない。
「あ、いえ、なんでもないです」
「不安か?……いや、『不満』か?」
ぎょくっ!?
「いやいやいやいや、そんなそんなそんな」
メイは図星をつかれて、びくりと跳ねると、顔を真っ赤にしてみせた。
「そうだろうなぁ、不満だろう?
戒人と魅子が一緒なのはーー」
飄々と藍統は続ける。
「だぁからっ! 気にしてないっす!! ってばぁ!!」
「ふふ、貴様はからかいがいがあるなぁ」
藍統は腹を抱えて笑う。
「意地悪すぎますよ」
情けない声を出してメイは反抗した。
「いやいや、若いっていいねぇ」
「ほっといてください。なんすかそれ、超親父くさい」
「親父だからな。
じゃあ行くぞ、こっからはおっさんとランデブーだ」
「おっさんとってーー」
メイが言い終わる前に、
ぽおん!!
白い煙が藍統を包む。
「ファ?!」
メイは咄嗟に右手で口元を覆う。
しばらくして、煙が晴れると、
そこに藍統の姿はなく、かわりに大きな黒い狼が居た。
漆黒の艶やかな長い毛に覆われている。
全長は二メートルはある。尻尾を含めると三メートル強。
背中に大きな翼を持っている。
ばさり
一度、風を含ませるように羽ばたくと、黒い羽が数枚、ひらひらと地面に落ちた。
ぶるる、と一度体を震わせる大きな狼。
「へ?」
メイは、ほおけた顔で狼(翼付き)を見る。
大きな尻尾を、ぶん、と振るうと、ドヤ顔でメイを見上げてきた。
「何をぼさっとしている、犬。
さっさと乗れ」
狼(翼付き)から、紛れもない藍統の声がすると今度こそメイは混乱した。
「ふええええ!?
あ、藍統、藍統、藍統さささささ、んんんッッ??」
「壊れたパソコン音声か己は。
間違ってないから、さっさと乗れ」
ふんす、と息をまく狼に、口をぱくぱくさせらながら、メイは驚くばかりだった。
ーーこうして、
メイは藍統と共に帝国ティルナノーグへと向かうことになったのだった。




