LIVE.38 この後、無茶苦茶成敗した。
2324年2月1日
第二世界連邦 第六区 ガルナフ
大国神社 御神木
『神剣 神楽』守護処入口
メイは、賽銭箱下に隠されていた御神木の中へ続く入口の横に座り込んで日向ぼっこをしていた。
ピー、チチチチッ ピビッ
御神木の生い茂る枝葉の中で、小鳥たちがさえずっている。
その声を聞いて、メイは癒されている。今が任務中ということも忘れそうになっていた。
「ふくーぅ。朝っぱらから動き回ってるせいでお腹すきっぱなしだ……」
地面に足を、ググゥッと伸ばすメイ。
右手に地面の感触を感じる。
「土、だ。なんか久しぶりだなぁ、この感じ」
呆けていると、左の腕に重さを感じた。
「んん?」
視線を移すと、子ウサギが肩の上に乗っていた。真っ白なまるまるとした体に、ルビーを埋め込んだような澄んだ瞳をしていた。爪は美しいピンク色をしている。
「はは、ウサギだ」
メイが頬を近づけると、白いウサギは、すりすり、とすり寄って答え、瞳を細めた。
ほんわりとしたウサギの体温を感じて、メイはくすぐったい気持ちになる。
「可愛いなぁ……、お前、家族は?」
メイが話しかけると、ウサギはメイから見て9時の方向を見やる。
御神木を取り囲む木々から、かさかさ、と音がした。
ぴょこん、とウサギが三匹ほど現れた。最後の一匹は結構なヘビー級で、遅れて出てくる。
三匹ともコロコロとしてて、メイに向かって耳をピコピコさせている。
「しあわせもんだなぁ、お前。紹介してよ」
びょこん
白ウサギは、メイの肩から飛び降りると、三匹のウサギに向かって、小さく鳴いた。三匹のウサギは、ぴょこぴょこっとメイに駆け寄ってくる。
メイは一匹遅れてきた太っちょのウサギを両手で抱えてやる。
「こんにちは、ここは異人が来ないから、平和だろ? 仲良く暮らせよ?」
と言って、鼻先までウサギを持って行き、鼻頭同士をくっつけた。
「そういえば、子供の頃、よくこの辺で遊んでたなぁ」
メイの周りにはいつのまにか動物がわらわらと集まってきていた。
リスにハト、猫に犬、ねずみにウサギ、なにやらわらわらと沢山である。
「うっひょお、こりゃびっくりだ」
これには、メイもたまらず笑い出して、
「ちょーどよかった、俺、置いてきぼりくらってすごいヒマだったんだ、遊ぼうか」
あぐらをかいて、動物たちと戯れはじめる。
「盛況だな、メイ」
声は、メイの目の前から聞こえた。
「う? 動物がしゃべった?」
メイは、ぐりぐりした目をぱちくりさせた。
「ちがわいっ! よく見ろっ!」
ぽかん
錫杖がメイの“どたま”に命中した。
「いってぇ……って、玄武さん?!」
玄武は、抹茶色の作務衣に下駄を履いていた。
シャラリンと錫杖を鳴らす。
錫杖のトップに掲げられている宝玉はエメラルド色の光を放っている。
玄武が結界を展開している証拠である。
白目のない漆黒の瞳はうるうるとしている。
「藍統殿と戒人たちは下に?」
「ええ、俺は見張りで」
「ほぉほぉ」
コクコクと一人頷き、カランコロンと下駄を鳴らしてメイの横に座る作務衣のおっさん。
「玄武さんは、相変わらずな亀っぷりで」
「余計な世話だ」
「……へへ、よかったです。
さっきはあまり喋れなかったから」
メイは、指に止まった小鳥をあやしながら、ニコリと笑いかける。
「久しぶりだな、メイ」
玄武は、頬を持ち上げるようにして、ゆっくりと微笑み返す。
膝の作務衣の上には、リスが乗っかっり、
玄武の丸っこい指を甘噛みしている。
「…………」
陽だまりの中で、しばらく二人は黙り込んでいた。
「……あの時は、すまなかった」
先に口を開いたのは、玄武だった。
「ううん、俺こそ。背中の傷は?」
メイは眉毛をへの字にして首をふるふると振る。
「式神、なめるなよ」
「ですよねー!」
「あの後の事は、魅子から聞いたか?」
「うん、魅子とは地下街ではぐれたって」
「牢獄から出してやって、地下街までは行けたんだが、
地下街も地下街で、大混乱していてな……」
玄武は、錫杖を握り込んでうつむく。
「……仕方ないよ、玄武さんは悪くない」
メイは言葉を噛みしめるように玄武に届けた。
「ははは、メイに慰められるとは思わなんだ」
玄武は、困ったように笑う。
「ヒドイな、真剣なのに」
「ーーーー正直な、メイ。
お前には、もう会えないと思っていた。
あの状態では、ソウルシーカーズにはなれないのは、明白だったからな」
メイは、四年前を思い出す。
メイは、死に際に、玄武によって左腕を切り落とされ、左ももに重傷を負っていた。
とてもじゃないけれど、ソウルシーカーズになれる最低条件である『蘇生すればすぐに戦力になれる』状態ではなかった。
「あの、左腕にお前が受けた銃な?」
「うん」
狙撃された左腕は、高熱をもって激しく脈動していた。
まるで、別生き物が寄生したなような感覚を思い出し、メイは寒気がした。
「あれから、お前の他に誰かしら受けたことは?」
「響大将にも聞いたことがあるけど、そんな前例はないし、今までないみたいだ」
「ふむ……」
玄武は、まるっこい体を前に倒して、さらに丸くなる。
「……今があるのは、
響大将と、神風博士のおかげなんだ」
メイは、ぐ、っと自分の左腕を掴む。
「あれから、玄武さんと別れて一人になって、
ソウルシーカーズが、……響大将が助けに来てくれた。
その時に、頼んだんだ。
俺を、軍人にしてくれって…………、
気づいたら、こうなってた」
メイは、照れたような、困ったような顔をした。
「メイ、……お前が生きていて、よかった」
玄武は慈愛を込めて言う。
「やめてよ、泣いちゃうじゃんか」
「もう泣きおるクセに」
亀のような口を吊り上げて、玄武は「くふふ」と喉を鳴らした。
「性格が悪ィなぁ」
メイは、ぐい、と涙を拭う。
カランコロン
玄武はむくりと立ち上がる。
しゃりん、と錫杖が鳴る。
「闇の眷族の末裔よ、何があっても諦めるな」
力のある言葉は、メイの心臓に重く響く。
「玄武さん?」
「メイ、お前は、【神話の本当】を求めた。
【神話の奴隷】の道は辛く険しいものになる。
お前の魂が叫ぶことに従え。
それがお前の正義になる」
「……わかりました」
「命に代えても、魅子を、闇喰の姫巫女を守るんだ」
「うん」
メイは瑠璃色の瞳で、玄武を射抜く。
玄武は一度俯いてから、天を仰ぐ。
なぜか、その表情は晴れていない。
「さぁ、メイ、【神話の更新】が始まるぞーー」
ギャァァァァァァァア
「な?!」
遠くから、耳をつんざく鋭い鳥の鳴き声がした。
メイたちに群がっていた動物たちは一斉に御神木の中に逃げて行く。
「ーーやはり来たか、“光の眷族”め」
玄武の漆黒の瞳は怒りに燃えていた。
「光の、眷族だってーー?!」
メイは咄嗟に66式をホルダーから外し、周囲を警戒した。
ジャッッ!
カートリッジを装填してから十字刃を展開し、臨戦態勢に入る!
御神木を取り囲む林の中から、鎌が光った!
ーー異人だ!!
「玄武さんっ!」
「ふぬっ?!」
玄武に子供の背丈ほどの鎌の刃が振り落とされる!
メイは咄嗟に玄武をかばい飛んだ!
66式が間に合わないっ!
「畜生がぁぁぁぁっっ!!」
メイは左腕を大きく伸ばす!
カアアアァァアンッ
金属音がして、異人は一度後退した。
『ヒヒギィ?!』
「残念だったな! 白豚野郎!」
メイは黒いカットソーをたくし上げて異人に見せつけた!
「さすが、神風工廠産だぜ!」
そこに、人の肌はない。
在ったのは、黒い機械仕掛けの義手だった!
太陽の光を受けて、ぎらりと鈍い光を放つ。
『ギギヤァァアンッッ』
再度鎌を振り上げる異人!
「大事よね! ネバギバマインドォッ!」
すかさず、メイは66式で応戦する!
「くうぅっ!」
ギリッギリッギリッ
競り合う十字刃と鎌、メイも異人も一歩も引かない。
だあん!
メイは隙をついて、大きく後ろに飛ぶ。
「無事か? 眷族!」
「よゆーっち!」
駆け寄る玄武に、ウインクで応えるメイ。
『グリィィ、ミギィミギィミギギキィッッ』
突然、異人は大きく鳴いた。
「う、うるせぇ……!」
「なんて声だ……ッッッ」
機械じみた奇声に、メイと玄武は顔を顰めて耳を塞ぐ。
奇声を聞いてか、わらわらと異人たちが現れるっ!
数にして30ほどだ。
「どうする、闇の眷族よ」
玄武がシャリン、と錫杖を鳴らす。
「上等だよ。
群れなきゃ生きていけないなんて、つまんねぇ奴らだな」
メイは、ぺっと、白の群れに向かって唾を吐きつけた。
「さあさぁ、こちとら欲求不満だ。
隅から隅まで、ーー成敗してやんよっ!」
ーーそんなこんなで、戦闘開始である。




