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第17話 「シリンダーレンズ」

 後に聞いたことだが、世界樹の雫とは、一粒で体力を全快にしてくれる、魔法の木の実なんだとか。

 せ◯ずかよ! と突っ込みそうになったが、食べ過ぎても風船のようにはならないみたいだ。

 今度、鼻に入れてない物を持ってないか聞いてみよう。


 ゴンザレスとむかい合い、バツ印の多く書かれた地図を見る。

 ざっと見ても、20近くのバツ印が記入されていた。


「これは、本来遭遇しないはずの魔物に遭遇した場所を記してある」


「それって――」


 ルガシコインの忠告が、眉唾じゃ無いってことか。


「ああ……森の魔物が何者かによって追いやられている……と考えている」


 そう言うと、森を挟んで村の反対側、雄大な山脈を指さす。


「恐らくは、山脈からか――」


 指はそのまま南西の方角を滑る。


「もしくは、魔族領のどちらかの影響だろう」


「北西や、以前言っていた北の世界樹って可能性はないんですか?」


 俺の言葉に、ゴンザレスが眉根を寄せる。

 そんな事も知らないのか、お前は森から来たんだろうと、今にも言い返してきそうだ。


「北西は幻獣領ヴェクトールがある。知性も持つドラゴンなどが統治しているが、有史以来、人との大きな戦争を起こしたことはない」


 魔法や妖精がいる世界だ、そりゃドラゴンだっているだろうと思っていたが……。

 ドラゴンが統治? そんなこと出来るのか?


 フォトン・レーザーが向かったのが丁度この方角だ。


「妖精国ユグドラシル……国民たちに危害を咥えない限り、友好的にやってきている。聖戦時、勇者に加護を与え魔王討伐にも協力してくれたそうだ」


「おぅふ」


「どうした?」


「いえ、なんでも……」


 変な声が出てしまった。

 やっぱしてたのか魔王討伐。


 いつかスファレに聞こうと思ってたのに。

 スファレと話す内容が減ってしまた。おのれゴンザレス。


「魔王が討伐されているのに、魔族が攻めてくるんですか?」


「魔族の侵攻は無い……と言い切れないのが現状だ。魔王がいなくとも、魔族の中に知性の高いものは多い。そういった物が上手く徒党をくみ、人間の領域に侵攻しないとは言い切れない」


「なるほど……ヴェクトール、ユグドラシルの侵攻が無くて、魔族の侵攻がありえるのは分かりました。では、山脈からと言うのはなんですか? 山脈にも国が?」


「いや、これはただの噂話が元だ。だが、極めて信憑性の高い噂なのだそうだ」


 そう言ったゴンザレスは、俺の後ろへと視線を向ける。

 俺もつられてそちらを見るが――何だ、何も無いじゃないか。

 ただ乱雑に積まれた羊皮紙の束があるだけだ。


「邪悪な死の王が、その山脈に封印されているそうだ」


「死の王、ですか。何で山脈なんかに……」


「さあな。聖戦時の封印らしいが、記録も知っている人間も全くと言って良いほどいなかったよ。ただ、ルガシコインが放ったあの光。それが丁度噂の辺りに飛んでいったと言う者がいる」


 誰も知らない噂や、ルガシコインの光を知ってる段階で、かなり怪しい人物だと思うのだが、その辺りゴンザレスは疑問に思わないのだろうか……。

 もしくは絶対の信用を持った相手と言うことか。


「さあ、答えたぞ。次はヒカルの番だ」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 話を終わらせようとするゴンザレスを、手で制する。


 結局のところ何も分かってないのに、そうですかと話を進める訳がないだろう。


 ルガシコインの話では、安全が保証されているのは今夜までなのだ。


「ゴンザレス支所長。結局、冒険者ギルドはその原因をまだつかめていないんですか? ほら、偵察の依頼を出すとか、危険なら空から確認するとかあるでしょう?」


「できるならやっている。だがヒカルも見て分かるだろう――」


 コンコンッと地図のバツ印を指で突く。


「これだけの数が、今日の、しかも午前中だけで確認されているんだ。冒険者ギルドも村を守る人員で手一杯になっている。今現在、偵察にさける人間はいないと言っていい」


「そんな……」


 まさか、そこまで追い詰められていたとは思わなかった。


「な、なら。他に援軍を求めるというのは」


 俺の言葉にゴンザレスは首をふる。


「アグロスは、戦争に加担しない事を条件に、冒険者ギルドによる自治権を得ているのだ。だが、その代償として、帝国制圧下の村や、帝国軍による軍事的関与は望めない」


 つまり、帝国の支配を受けないかわりに、自分たちの身は自分たちで守らないといけない、と言うことか。


 冒険者の多いこの村のことだ、それでもやっていけると、当時、誰もが考えうたがわなかったのだろう。


「なに、今現在なんとかしのげているのだ、森の魔物とて無尽蔵ではない。なら、その波が落ち着いて余力が出来てからの調査でも遅くはないだろう」


 そんな、ゆうちょうな事でいいのか。


「それにな、冒険者を動かすのにも金がかかる。村の商人や有志らによる依頼で、今は村を守って貰っているが、無償で動く冒険者はいないのだ。偵察を依頼するなら金はギルドが出すことになる。が、ギルドはそこまで裕福ではない」


 村の命運がかかっていると言うのに、金の心配をするのか。


「もっとも、金を出し渋っている長老連中も、籠城戦になれば嫌でも金を出すだろう。都合よく、アグロスは半要塞として作られているしな。そうなった方が村を守りやすいかもしれん」


 どれほどが冗談なのか、ゴンザレスは今の話を笑いながら話していた。


「もう……いいです」


 もういい。

 話を持ちかける相手を間違えたのかもしれない。


 俺は、かなり冷め切った表情でゴンザレスの顔を見つめる。


 ゴンザレスが、一番村の事を考えて動いていると思っていたのだ。

 だが、結局は金で動く冒険者の頭領だった。


「ルガシコインのお話をします――それを聞いて、なおも今と同じ考えというなら……すきにしてください」


■◇■◇■


「ただいま~……あれ? スファレ、今、何を隠したの?」


「お、おかえりなさい先生! ず、ずいぶん早かったんですね! え? 別に、何も隠してませんよ?」


 両手を振りながら、そううったえる。


 いや、布みたいなのを顔に押し当てていたように見えたのだが……。


「そ、そんな事より見てください! かなり上手く出来るようになったと思うんです!」


 強引にでも話をそらそうと、テーブルに並べた数々のレンズを指さす。


 並べられた手のひら大のレンズには、全てにアラビア数字が書き込まれており、その数字の意味は聞くまでもなかった。

 0.5D(ディオプトリー)刻みで配置される凹レンズと凸レンズ。そこに混ざってカマボコのような形をしたレンズや瓦のような形をしたレンズも並ぶ。


「すごい……この短時間でシリンダーレンズまで作れるようになったのか」


 シリンダーレンズとは、主に乱視を矯正する為に使われるレンズの事だ。

 じくとよばれる、ある一定の方角にはDが全く無く、その軸に対して直角な面ではもっともDが強くなる仕組みのレンズである。


「えへへ、頑張りました」


 スファレが自慢気に検眼枠を持ち上げる。


 俺はそんなスファレの頭をそっと撫でる。

 最初驚いていたスファレも、直ぐに目を細めて気持ちようさそうにしてくれた。


「えへへ」


「スファレの――見せてもらっても、良いかな?」


「え……!?」


 驚き、顔を赤らめたスファレがなぜかオロオロする。


「いえ、あの……別に問題があるわけでは……昨日も見られている訳ですし……いえ、あれは見えて無かった……あれ? でも、まだお昼過ぎですし……あの」


「それじゃあ、失礼して――」


「ひ、ひゃいっ!」


 ビクリと背筋をのばし、目をキツく瞑る。

 俺はそんなスファレへと手を伸ばし――直ぐ後ろのプラス4Dと書かれたレンズを手にとった。


 そばに転がしてあるレーザーポインタをレンズに向けて照射する。

 レンズの50センチ前方から照射した光は、見事50センチ後方で焦点を結んでいた。


「……すごい」


「――へ? あれ? レンズ?」


 俺の隣で唖然とするスファレ。


「ん? 何だと思ったんだ?」


「っへ? いえ!? なにも? そ、そうですよね! レンズですよね!! いや、私てっきり、あはは、あははは」


 てっきり? なんだと思っていたのだろう……。


 その後、何枚かのレンズを重ねたりしながら全般的な精度を確認し、結果、メガネのレンズとして全く遜色のないレベルで有ることが分かった。




「えっと、そ、それでは授業を初めます」


「よろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いします! 先生!」


「今先生なのはスファレだよ?」


「そ、そうでした……」


 そうとう緊張しているのだろう。

 肩に力が入りすぎてガッチガチだ。


 先に言った通り、今スファレには先生をやってもらっている。

 以前約束をした相互指南の約束をはたしてもらっているのだ。


「で、で、では、魔法に、ついて――といっても元素魔法とか、闇魔法とか時魔法とか音魔法とか光魔法とか色々ありまして! あれ? でも元素以外は私もあまりしらなくて……ええっと……魔法、魔法って言うのは~……」


 でも、この調子じゃいつ終わるかわからないな……よしっ。


「スファレ」


「ふ、ふぁい!?」


「今度、どこか遊びに行かないか?」


「え?」


「そうだな、ピクニックなんてどうだろ? 今は少し危ないけど、安全になったらさ」


「え? え?」


 急に別の話を始めた俺に面食らっているようだ。

 さっきまで、魔法の事を必死に考えていたのだろう。

 なかなか頭が切り替わってこないのが見て取れる。


「あの草原とか……少し危ないけど森の方もいいな……ねぇ、 スファレ?」


「は、はい!」


「ダメかな?」


「え、そんな! 行きます! 行かせて下さい!」


 ようやく切り替わったのか、さっきまで泳いでいた視線が、今はキラキラと輝いている。


「よかった、いつにするかは、また後で決めようか」


「はい!」


「それじゃあ魔法の事だけど、スファレが使える魔法から説明してもらえるかな?」


「あっ――分かりました。それでは、元素魔法について説明します」


 何とか、緊張を取ることに成功したかな?


 話題を逸らして、別の楽しい話をしている間に緊張を取る、一般的な手法の一つだ。

 その上で、話しやすい授業内容をアシストする事も忘れない。


 いくぶん緊張のとれたスファレが、俺に読めない文字で元素魔法に付いて書きつづっていく。


「人の種族が使える元素魔法と言うのは、主元素4つと副元素4つで成り立っています」


 ひし形に文字を並べ、それを俺に見えやすいように掲げてくれる。


「主元素は火、風、氷、土です」


 そう言って、ひし形の上下左右を指さす。


「副元素は雷、水、木、鉄となってます」


 今度はひし形の辺に当たる場所を指さしていく。


「へぇ~」


 水と氷が別の元素って扱いなのはなぜなんだろう?

 事実、氷は水が固まっただけなのだから、俺の知る元素では全く同じものなのだ。


 だが、その疑問は直ぐにとけた。


「8元素にはそれぞれ、与える影響力に違いがあります」


 先ほどの8元素にカッコ書きで付けたしていく。


「溶解、貫通、破裂、振動、硬化、衝撃、収縮、切断――この、与える影響が、呪文詠唱の時に大きく意味を持ってくるんです」


 最終的に、羊皮紙にはこう書かれている。(らしい)


      火(溶解)

 (切断)鉄 雷(貫通)

(収縮)土 ※ 風(破裂)

 (衝撃)木 水(振動)

  (硬化)氷


「魔法を行使する者は、呪文の詠唱により、属性に新たな形を与えます。例えば、私のギガスグレイブは土属性の魔法なのですが、その収縮という影響を大地に与えて放つ魔法なんです」


 ……急によくわからなくなった。


 ええっと、土に影響を与えるから土魔法なんじゃないのか?

 それに加え、収縮させる事しか出来ない、ということなんだろうか?


 だが、その影響? の意味で水と氷が差別化されていると言うのは分かった。

 水は流動的で、波というイメージにはピッタリだ。

 そして、氷の硬化もイメージしやすい。


 結局、影響がまず先に立ち、その影響に対してそれぞれの属性名が付いているのかもしれない……が、そこの所どうなんだろう。


「その詠唱と同時に、その魔法で一体どうしたいか、それをイメージとして念じています。それが魔法にさらなる力を与える言われています」


 ああ、俺の尻がむず痒くなるあれか。

 まさか、スファレが言葉以外に念じていた事だとは思わなかった。


 ん、でもまてよ? 何で俺はそれを感じ取れたんだ?


「あの……私の話、分かりにくかったでしょうか?」


 俺が思案を巡らせていると、スファレが不安そうに覗きこんできた。


「いや、全然問題ないよ、むしろ分かりやすかったくらい」


「そうですか! 良かったです!」


 スファレの表情が明るくなる。


 まあ、文字が読めないのは問題だが……折角説明の為に書いてくれた羊皮紙が無駄になってしまう。

 配置を覚えている今だからギリギリわかるが、明日には忘れてしまいそうだ。


 次回は文字の授業をしてもらうことにしようか。


「ところで、スファレ。その魔法を俺が使うにはどうすれば良いんだ?」


 今回一番の肝へと話題を移す。

 魔法の授業をおねがいしたのは、結局のところ俺が魔法を使いたいがためなのだから。


 せっかく異世界に来たんだ、魔法が使えなきゃ楽しさが半減しちゃうだろ?


「あ、はい。そうですね……さっき属性と影響の詠唱、イメージの話をしましたよね」


「ああ、ちゃんと理解した、と思う」


「なら後は、それに必要量の魔力を込めるんです」


「魔力を込める……」


「はい。あ、でもいきなり大きな魔法を使うと込める魔力量が分からなくて、暴発や枯渇する恐れもあるので注意してください」


 何それ怖い。


「最初は小さな魔法で、少しの魔力を込めるようにして、自分の魔力放出の感覚をつかむんです」


「よし、わかった! やってみるよ!」


「はい!」


「で、スファレさんや」


「何でしょう?」


「どうやって魔力を込めるの?」


「え?」


「ん?」


 二人して首を傾げる。


「どうやって魔力を込めるのかな?」


 そもそも俺の中に魔力ってあるのかな?

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

◆シリンダーレンズ

人の目とは、近視、遠視のみで完全矯正が出来る事は稀である。

その原因は、人の角膜が完全なる球面をしていることが"殆ど無い〟からで、

人は、少なからず乱視を持っている。

ただ、その乱視が矯正する程のものでないと判断された時、乱視無しのメガネをかけることになる。


レンズの性質上、遠視レンズは物を大きく見せ、近視レンズは物を小さく見せるが、乱視レンズは細く見せたり太く見せたりしてしまう。

それが原因で、両眼視をしたさいに、気持ち悪さを感じる人間も多い。

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