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魔科学錬金術師Rio ~詳細把握・再配置スキルと現代科学で無双する~  作者: 宇寄ともな


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第19話:純銅の導線と、歪んだ視線

旧銅鉱山から持ち帰った赤茶色の鉱石塊は、小型魔導炉の前にうず高く積み上げられた。


「まずは銅の精錬ね。酸化銅を炭素粉末と一緒に加熱して酸素を奪う還元反応よ」


イクミが羊皮紙に記した配合比率に従い、リオは粉砕した鉱石と木炭粉を坩堝へ投入した。

魔導炉の集光熱風が赤々と燃え盛り、坩堝の中で鉱石がドロドロの液体へと溶け落ちていく。


リオは坩堝の外壁に手を添え、【詳細把握】で溶融状態を見極めながら【再配置】を発動した。

遊離した酸素と炭素が結びついて排熱ラインへ抜け、重い純銅の原子だけが坩堝の底へと沈降していく。スラグとなった酸化鉄やケイ素のカスを表面から掬い取ると、鈍い赤金色の美しい純銅インゴットが仕上がった。


「不純物のない銅……向こうの世界でいう『無酸素銅』に近い純度ね。これなら魔力の伝導効率も桁違いのはずよ」


「うん。この純銅を細く伸ばして、さっきの輝精石と組み合わせれば、極小サイズの魔導回路が作れるよ」


リオはインゴットを加熱して叩き伸ばし、ハディードの工房から借り受けていた『黒鋼製の伸線板(穴の空いたダイス工具)』を取り出した。

穴に銅の棒を通し、万力とテコを使って物理的に引っ張ることで、均一な太さの針金へと引き抜いていく。


「全部を【再配置】で作ろうとすると魔力の消耗が激しすぎるからね。大まかな成形はハディードさんの工具に任せて、僕は引き抜いた後の内部組織の歪みを整えるだけに集中するよ」


リオが引き抜いた銅線に触れて【再配置】を施すと、加工硬化で生じた内部の引っ掛かりが消え、しなやかで均一な導線が完成した。

さらに、手に入れた輝精石をごく薄いチップ状にスライスし、銅線の接続部に配置する。


魔力を流すと、紫色の燐光とともに回路全体へ滑らかに魔導信号が行き渡った。

従来の王立ギルド製回路が親指大のゴツゴツした真鍮板だったのに対し、二人が作った回路は小指の爪ほどのサイズに収まり、エネルギーロスは従来の十分の一以下に抑えられていた。


「すごい……! こんなに小さくて薄いのに、しっかり魔力が循環しているわ。これなら結界杭に組み込んでも邪魔にならないし、魔石の持ちや稼働時間を何倍にも延ばせるわね」


イクミが感心して回路を観察していると、小屋の扉がノックされた。


訪れたのはクラロだったが、その表情にはいつもの軽妙さはなく、険しい色が浮かんでいた。


「二人とも、無事だったかい? ……どうやらマテオ・コブラオロの奴、なりふり構わず動き出したようだ」


クラロは店から持ってきたという一枚の布告書を机に広げた。


「ギルドと街の治安評議会を抱き込んで、『境界林外縁部における無許可の資源採取の全面禁止令』を強引に通しやがった。さらに、街の門番に私兵を配置して、怪しい物資を持ち込む者の手荷物検査を徹底させている」


「無許可採取の禁止……? 境界林はこれまで、危険地帯だからこそ誰でも自由に採取していい共有地だったはずじゃ……」


リオが眉をひそめる。


「ああ。名目は『魔獣の活性化に伴う安全確保』だが、狙いは完全に坊主たちだ。市場の素材を押さえた上で、現地調達の道まで法的に塞いで兵糧攻めを完成させる腹づもりさ。……それに、ギルドお抱えの荒くれ冒険者たちに『森で無許可の採集者を見つけたら実力で排除しろ』と裏で賞金を懸けているらしい」


マテオ・コブラオロによる締め付けは、商業的な妨害から物理的な排除の段階へと移りつつあった。


「……なるほどね。自分たちの土俵に引きずり込めないとなると、力づくで潰しに来るわけか」


イクミは眉一つ動かさず、冷徹に状況を分析した。その瞳に恐れの色はない。


「クラロさん、この工房の場所は割れていないのよね?」

「ああ。地中熱交換の排熱隠蔽と結界杭のおかげで、外部からの魔力探知や煙の追跡は完全に防げている。だが、森の中を動き回ればいつ奴らの雇ったゴロツキと鉢合わせるかわからない」


「なら、森をうろつく必要がないくらい、一回の採取で効率よく素材を確保できる体制を整えましょ。それに……」


イクミは机の上に並ぶ純銅の極小回路と、黒鋼の投射器を指先でトントンと叩いた。


「相手がルールを捻じ曲げて実力行使に出てくるなら、こっちも防衛の基準を引き上げるだけよ。フィエル隊長とのパイプを活かして、法的な正当性を固めつつ迎え撃つ準備をしましょ」


「うん。僕たちの工房は、絶対に潰させない」


リオも力強く頷いた。

理不尽な権力による包囲網に対し、二人の魔科学と職人たちの絆が静かに研ぎ澄まされていく。


第19話をお読みいただきありがとうございました!

次回、第20話は、明日18:00に更新予定です!


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