第18話:廃棄鉱床の鉱脈と、思わぬ収穫
討伐したアーマード・ハウンドから得た二つの魔石を使い、リオは廃小屋の周囲に打ち込んだ木杭へ魔力を通した。その際、魔力の波長にわずかに歪みのような物を感じたが次の瞬間には気にならない程度の感覚として、意識から流れて消えていた。
【再配置】によって魔石の結晶軸を揃え、微弱な忌避波動を外周へ均一に放射させる。これで低級魔獣が不用意に小屋へ近づくリスクは大幅に減った。
「さて、投射器の実用性も確認できたし……次はクラロさんが言っていた『古い坑道跡』を探してみましょうか」
イクミが腰の投射器を軽く叩きながら言った。
マテオ・コブラオロによる資材封鎖に対抗するため、二人が次に目をつけたのは、境界林の外縁部にあるという「放棄された旧銅鉱山」だった。何十年も前に採掘し尽くされたと判定され、今では立ち入り禁止になっている場所だ。
「うん。クラロさんの話だと、昔の製錬技術じゃ不純物が多すぎて捨てられた粗悪な鉱石の山が、坑道の入り口あたりにそのまま残っているらしいんだ。ヴェルダの鉱床は掘り尽くされているけれど、隣のセルバ領の山脈まで地脈が続いているはずだよ」
二人は境界林の斜面を北へと進んだ。
しばらく歩くと、蔦や雑草に覆われた崩れかけの木組みと、ぽっかりと口を開けた洞窟が現れた。周囲には長年の雨風に晒されて赤茶けた岩石がうず高く積まれている。
リオは山積みになった赤茶色の岩塊に近づき、しゃがみ込んで直接掌を押し当てた。
【詳細把握】を発動する。
岩石の内部を魔力が浸透し、原子レベルの構造が読み取られていく。
「……なるほど。酸化銅と鉄が複雑に混ざり合っていて、当時の炉の温度じゃ分離できなかったんだね。でも、今の僕たちの魔導炉と【再配置】を使えば、純銅を綺麗に抽出できるよ」
「それだけじゃないわね」
イクミが足元の岩を拾い上げ、割れ目の断面を観察しながら言った。
「この青緑色の結晶……孔雀石の成分が含まれているわ。銅を取り出した後の残渣からも、良質な緑色顔料やガラスの着色材が作れるはずよ。捨てるところがないわ」
「すごいな、イクミさんは本当に何を見ても使い道がわかるんだね」
リオが感心しながら岩石を麻袋に詰めようとした、その時だった。
崩落した坑道の奥から吹き出す冷たい風の中に、微かな結晶の匂い――魔力を帯びた鉱物に特有の、甘く澄んだ気配が混じっていることにリオが気づいた。
「……イクミさん、ちょっと待って。坑道の入り口近くの岩壁を調べてみたい」
リオは崩落した坑道の間口に慎重に近づき、露出した黒ずんだ岩肌に直接手を触れた。
【詳細把握】を深く送り込む。
岩肌の表面は脆い泥岩だったが、その三層ほど奥、地圧で押し固められた亀裂の隙間に、規則正しい六角柱の分子構造が密集しているのが伝わってきた。
「……これ、ただの銅鉱床じゃない。『輝精石』の細い鉱脈が走ってる」
「輝精石……? 初めて聞く名前ね。どんな鉱石なの?」
イクミが不思議そうに尋ねる。
「高位の魔導具や精密な魔導回路で、魔力の流れを何倍にも増幅するために使われる特級の触媒鉱石なんだ。採掘量が少なくて王都のギルドが完全に独占してるから、市場に出回れば小さな欠片でも金貨数十枚で取引される代物だよ。銅の採掘当時は見落とされていたんだと思う。鉱脈自体は細いけれど、僕のスキルで周囲の母岩だけを【再配置】して脆くすれば、傷をつけずに原石を取り出せるよ」
リオは深呼吸し、魔力を集中させた。
岩壁の隙間に魔力を浸透させ、輝精石を抱き込んでいる周囲の珪酸塩結合だけを意図的に緩めていく。
ポロリ、と。
乾いた音とともに、リオの掌の中に親指ほどの大きさの結晶が転がり落ちた。
薄暗い坑道の中で、それは自ら淡い紫色の燐光を放っていた。不純物のない、極めて高い透明度を誇る結晶原石だ。
「綺麗……! まるで自ら発光するアメジストみたいね」
イクミが感嘆の声を漏らし、透き通る紫の光を見つめた。
「うん。これがあれば、クラロさんに頼まなくても自分たちで高品質な魔導回路の増幅核が作れるよ。マテオ・コブラオロがいくら市場の素材を買い占めても、僕たちには痛くも痒くもない」
二人は必要な分の銅鉱石と、数片の輝精石を麻袋に収め、坑道を後にした。
自分たちの足で素材を見つけ、知識と技術で価値あるものへと変えていく――工房の自立に向けた歩みは、確実に前へと進んでいた。
第18話をお読みいただきありがとうございました!
次回、第19話は、明日18:00に更新予定です!
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