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魔科学錬金術師Rio ~詳細把握・再配置スキルと現代科学で無双する~  作者: 宇寄ともな


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第15話:王都ギルドの影と、監査官の暗躍

交易都市ヴェルダの上空に展開された新型結界は、街の外壁を守る兵士たちの士気を劇的に高めていた。

従来の結界にあった不快な魔力酔いの振動は消え去り、夜間警備の兵たちは澄んだ魔力膜の恩恵を肌で実感していた。


だが、その防衛成功を苦々しい表情で見つめる一角があった。

ギルドヴェルダ支部の応接室。豪奢な革張りの長椅子に深く身を沈めた監査官マテオ・コブラオロは、手元の羊皮紙を激しい勢いで机に叩きつけた。


「……信じられん。王立工房を追放されたあのごく潰しが、なぜこれほどの結晶を作れるのだ」


マテオの前に控えていた書記官が、怯えながら報告書を差し出す。


「警備隊のフィエル・セルタセロ隊長が、街の全結界塔の心臓部を『領主直属指定工房』の品に換装したと正式通達を出しました。これにより、王都ギルドが独占していた防衛資材の納入枠が完全に白紙となりました。年間の資材マージンだけでも、当支部の損失は莫大なものになります……」


「ええい、黙れ! 誰のおかげでこの街が王都の流通網に預かれていると思っているのだ!」


マテオ・コブラオロは立ち上がり、爪を噛みながら部屋を行き来した。

代々王都で徴税と物資監査の利権を握ってきたコブラオロ家の看板に泥を塗るわけにはいかない。何より王都の筆頭錬金術師ペサードからは、「追放した無能が辺境で妙な動きを見せたら即座に芽を摘め」と厳命されていたのだ。このまま実績を積み上げられ、領主の正式な庇護が盤石になれば、自分自身の出世街道すら危うくなる。


「……マテオ様、王都の上層部より、直々の通信魔導文が届いております」


書記官が差し出した封書には、王都ギルド重鎮の印章が捺されていた。

封を破り、文面に目を通したマテオの口元が醜く歪む。


『――辺境の不届き者に、素材なくして錬金術は成り立たぬという道理を叩き込め。ヴェルダへの高純度鉱石、および触媒資材の供給網を直ちに締め上げよ』


「ふ、ふふ……そうだ。あの小僧がどれほど小細工を弄そうと、錬金術師は素材の仕入れができなければ何も生み出せぬただの無力な子供に過ぎん」


マテオ・コブラオロは冷酷な笑みを浮かべ、書記官に命じた。


「直ちにギルド加盟の全商会へ通達を出せ。ヴェルダ領内の珪砂、精製木炭、銅および特殊合金の原石をすべてギルドが独占買い付けする。端切れ一つ、あのごく潰しどもの工房へ流すな。違反した商人はギルド追放の上、通行手形を剥奪すると脅しておけ」


「は、しかし、クラロのような独立商人や闇ギルド寄りの者たちは指示に従わない恐れが……」


「従わねば実力行使で店を封鎖するまでだ。それに、あいつらが素材を求めて境界林の奥へ潜らざるを得なくなればしめたものよ。魔獣の餌になるか、不法採取の現行犯で冒険者崩れの私兵をけしかけて捕縛してやる」


マテオの謀略により、ヴェルダの表の市場から急速に錬金術資材が姿を消し始めていた。


その翌日。

境界林の工房では、リオとイクミが作業台を前にして、クラロからの知らせを聞いていた。


「……というわけさ。マテオ・コブラオロの奴、コブラオロ家の権威を笠に着て街の問屋や鉱物商を完全に締め上げちまったよ。うちの店も監査の名目で役人を張り付かれて、表立って金属インゴットや高純度シリカを仕入れるのが難しくなった」


クラロは肩をすくめ、苦い笑みを浮かべた。


「資材の兵糧攻め、というわけね……」


イクミが腕を組み、冷静に状況を整理する。


「王立工房やギルドが素材の流通ルートを独占しているのは知っていたけど、まさかここまで露骨にやってくるとは思わなかったよ」


リオは机の上の空になった資材箱を見つめ、唇を噛んだ。

手元にあるのは、昨日森で採取してきたわずかな珪砂と、ハディードから譲り受けた使い古しの黒タガネだけだ。


「どうする、坊主? フィエル隊長に泣きついて、警備隊の軍用備蓄を融通してもらうかい? だがそれをやると、マテオの奴は『軍事物資の私的流用』だと騒ぎ立てて、領主館を巻き込んだ泥沼の政治闘争に持ち込む気だろうがね」


クラロの問いかけに、リオとイクミは顔を見合わせた。


「……いいえ、その必要はありません」


イクミの瞳に、不敵な光が宿っていた。


「彼らが買い占めたのは『市場で流通している高価な精製素材』だけでしょ? 誰も素材だと思っていないようなゴミ同然の原料から、それ以上のものを取り出してしまえばいいのよ」


「ゴミ同然の原料……?」


リオとクラロが同時にイクミを見つめた。


「ええ。たとえば、鉱山の近くに捨てられている『鉄鉱滓(スラグ)』や、そこらの泥川に溜まった粗悪な川砂。科学とリオの力があれば、誰も見向きもしない産業廃棄物から最高純度の鉄とシリカをいくらでも精製できるわ」


ギルドによる経済封鎖を逆手に取った、二人の新たな技術革新が始まろうとしていた。


第15話をお読みいただきありがとうございました!

次回、第16話は、明日18:00に更新予定です!


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