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宙に名を刻め【完】  作者: 壱原 棗
宙に名を刻め
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報酬と本番

 ついにやってきたプロム当日。夜のダンスに参加するほとんどの生徒は午後から準備が始まる。

 夕方ごろに実施される式典のためリアンとメイプルは早めに準備を進めていた。報酬のランチは先ほど終えたばかりである。


「何となく合わせないと嘘っぽいじゃないですか!嘘ですけど!」

「えぇ??」

「はいはい、色変え魔法っと。チェック可愛いですね、きっと年下感出ますよ。私もダミーとしてチェック入れるか。あ、ブートニアこれでよかったです?」


 パートナーという情緒は消えて、お互いありあわせの衣装合わせで着の身着のまま「ここ色少し変えたい」と言いながらメイプルによって自身のドレスが少しずつ変えられていく。一方リアンは明るいグレーチェックのショールカラージャケットと、ウィングカラーの光沢のあるパープルプリーツシャツ。その上に落ち着いたゴールドのタイを乗せている。寮生たちと相談してシャツとタイを新調した。


「ありがとう」

「あの魔法、ちゃんと練習しました?」

「嫌というほどしたよ……寮で練習してたら、ナルムクツェ先生に見つかってできるまでやらされた」


 思い出したくないといった様子でリアンは顔をしかめた。もともと苦手だった実践系魔法を急ごしらえで身体に覚えこませたのだ。


「先輩、呪文学は必須以外取ってないですもんね。ちょっと召喚の応用もありますし、ナル先生は完璧主義だしうるさそうだなぁ……ふふふっ、卒業前にそんな扱き受けてる先輩ウケますね」

「俺もそう思うよ。はぁ、いたずらって結構めんどくさいんだね」

「だからこそ、成功したら嬉しいじゃないですか!!私もここまで念入りに準備するの初めてだから!!推しカプへの愛がなかったらできてないですよ!!」


 メイプルはダンスの事前練習まで文句を言わずに付き合ってくれて、そのたびにお礼を言うと課題の手伝いを頼まれた。一週間前から該当者の招集があり、簡単なダンス講習があったのだ。

 しかも特典なのか救済措置か、どうしてもできない者には靴にダンスステップの術式をかけてもらえるという。長い時間踊るわけではない。該当者が一斉に踊るのでせいぜい1分や2分そこらだ。


「成功、するといいな……」


 だから今からやることは___。

 __夢だと錯覚するくらいでちょうどいい。


 胸に咲く、色とりどりの小ぶりなアスターの花を見下ろしてリアンは小さくため息をついた。


* * 


 二人でなんなく会場の受付を終える。一度別れて表彰のあるリアンはステージ袖に待機した。

 メイプルは「ちゃんと見てますから!私!見てますから!!」と手にカメラを携えてやかましく観客に混ざって消えた。



 ネビュラルの儀式の方が厳かだったが、長く時間を過ごしたこの場所の方がリアンは緊張してきた。

 舞台上では成績優秀者の表彰がつつがなく行われている。会場のガラス張りの天井から黄昏の空に月が薄く覗いている時間。


 順番が来て名を呼ばれ、リアンは思っていたより眩しい壇上を進んだ。エナメル質の靴先が光るのがちらりと見えたことにハッとして前を向く。少し震えそうになりながら受け取った証書には『首席』の文字。


 Novaも首席も、これから進む道にとっては点である。箱庭だけの評価はきっと、外では通用しないのだろう。でも、少しは過去の自分は報われてくれただろうか。


 この評価は、選択は、あの時掴んだ手が始まりだ。

 (お前の勇気は、間違ってはいなかったよ)


 拍手の音が不思議と遠く感じた。袖に戻って証書をスタッフに預ける。リアンは足早に外に出た。

 表彰者によるダンスが始まるまでにはまだ時間がある。それまでに、リアンは”同意”を求めに目的の人物を探しに行った。


 外は学祭の時のような準備に賑わいを見せる。そろそろ沈みそうな夕日が、空にブルーとオレンジの見事なグラデーションを作っていた。

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