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宙に名を刻め【完】  作者: 壱原 棗
宙に名を刻め
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promposal

 一方参列席には、式典用のローブを被った教員たちの中にエトはいた。魔術工学部の表彰も半ばでゼミ生とリアンの番を見守ると、夜のパーティー会場の下見へ向かった。警備とトラブル巡回のために飛ばすドローンの数と動きをチェックしたかったのだ。


 ゼミ生の中にも卒業生がいるので今年はローブの下はちゃんとした礼服を着させられて少々動きにくいが仕方ない。ローブは足元しか見えないくらいまで隠れるから多少大きい動きでもカバーできるだろう。


 パーティー会場はすぐ隣のホールで、中庭が見通せるように開放できる。夜の準備と真っ最中の式典が終わるのを待つ生徒たちでごった返していた。アタッシュケースを広げて、起動装置を押せば飛行魔法が蓄積された鉱石を嵌め込んだ複数のドローンがケースから飛び立った。少し風があって心配だが夜には落ち着くだろうし、ルートはそれぞれ決めてあるので一周できていればいい。


 実行委員らしき生徒たちは、自分達も半ばドレスアップした状態で慌ただしくしている。エトは噴水の前でアタッシュケースを置いてドローンが帰ってくるのを待った。空を見上げてからなるべく遠くを見渡す。うん、初動は異常なし。



 こういう雰囲気が好きなんだと、エトはここへ来てから初めて知った。幼い頃にできなかった、やってこなかったことを追体験しているような、不思議な気持ち。部屋に籠っていたら、わからなかったことばかりだ。


(リアンも楽しんでくれたらいいなぁ)


 夏を告げる、長い日のおかげで夜がゆっくりやってくる。もうすぐこのあたりの電飾も光り出してにぎやかになるだろう。チカチカと星が爆ぜるみたいな光景を想像してわくわくする。


「エト!!!!」


 期待に胸を膨らませていると、式典会場と続く中庭の方からこちらに向かって走ってくるリアンがいた。公の場では絶対に呼ばない、呼び捨てのまま叫んで。


「ど、どうしたの!?」

「はぁ、はぁ……っ、ゲホ、ちょ、ちょっと待っ…はぁ」

「あっ!」


 リアンはぜえぜえと肩で息をしながら、膝に手をついて呼吸を整える。走ったのとせき込んだせいか胸からブートニアがポロッとこぼれ落ちたのが見えて、慌ててエトがキャッチした。ピンで固定されてるはずなのにどれだけ揺らしたのだろう。


「ハァーー……ごめん」

「式の途中じゃなかった?外にいて大丈夫?」

「すぐ戻れば大丈夫。エト、聞いてほしいことがあるんだ」


 深く息を吐いて呼吸を整えるリアンの胸元にブートニアをあてて素早く修復魔法をかけながら耳を傾けると、聞こえた真剣な声に顔を上げた。


「ん?」

「聞いて」


 エトが見上げているはずなのに、リアンの真剣な視線はじっと覗き込むように感じ取れてよくわからなくなる。でもそれはリアンが目の前で跪いたことで、わかってしまった。


(嗚呼、どうして)


 彼が今、何をしようとしてるのか。何を、これから言うつもりなのか。その動きに驚いて目を見開くとスローモーションのようにさえ見えてしまう中で、エトの思考は混乱を極めていた。


 遠くで、わぁ!とはしゃぐ声が聞こえる。だってここは準備真っ最中の中庭。電飾が点灯するのを待ち構える生徒たちだっている。


(あたしはずっと、あなたには相応しくないんじゃないかって)


 エトはどこかで、リアンに後ろめたさを感じていたのかもしれない。自分のエゴで、彼の人生を変えてしまった。それが彼にとっての幸せだったとしても、周りがそう捉えないことが何度もあった。その記憶が、いま呼び起こされて逃げたくなる。


「エトが俺に何回も使う“一生のお願い”を俺はいまここで使うよ」

「…………」


 そう言われてしまって、エトは足をその場に縫い付けるしかなかった。逃げ道を塞がれた。自分の日頃の行いが仇となったのは今回だけではない。

◆promposal

プロムポーズ、プロムのお誘い

◆【語源】prom + (pro)posa


続きは本日21時に更新します

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