14:魔法使い
泳ぐ男の子の髪が、うすく光をおびていた。髪の動きにあわせて光も動く。私と男の子のあいだに、小さな光の粒子ができてきた。それは、私たちを中心に渦をまいて、部屋いっぱいに広がっていく。
「――……きれい」
「だろう。まさか、わしもこうなるとはおもいもしなかった。この発光するひとつひとつが、わしの魔力の結晶だな。ユカリと同調し、それから増幅されて、こうして吸収しきれんかった分が、空中にただよっておる」
「あ、名前」
私、まだ名のってもないのに、なんでしってるんだろう。
「魔力がもどってくるさいに、いっしょに流れてきたからな。どうだ、体の熱と涙はひっこんだだろう」
「たしかに、いわれてみればなくなってる」
体のなかをなにかがめぐっている感覚は残ってるけれど、あの熱さはまったくなくなっている。そして、涙もぴたりととまっていた。
「さっきもいったが、これらはわしの魔力の結晶だ。いま、わしのもつ魔力は枯渇状態であり、肉体をけずり生命を維持さている状態だ。さっきの空腹はそこからきている。食事での魔力回復には、糖分を摂取するのが手っ取り早い。
ユカリ、礼をいわせてほしい。お前のおかげで、いま、わしはこうしていられる」
花のような笑顔をうかべて、男の子は顔をあげた。
あの横暴でワガママな姿でいままで話していたから、きゅうにそんなふうにいわれても、どこかこそばゆくてたまらない。
「林に落とされてから、わしは近くの廃屋にあった布っ切れをひっつかんで、ひたすら歩いた。歩いて、歩いて、ひたすらな。ただでさえ、体内魔力がない状態でのことでな。体は歩くたびにちぢんていくわ、魔力の消費をおさえようとこの髪を贄とし、魔力回復をはかったが、無駄におわるばかり。消費のほうが激しくて、焼け石に水みたいなものだ。街にでれば、だれか知り合いがいるかもとおもうだが、みないなかった。そこらの人間は、わしをじろじろ見るが助けてもくれない。声をかけてきた者もいたが、いやしい目をしてるやつばかり。わしはつかれておった。くたくたのへにゃへにゃにな…………じつはな、干からびて死ぬかもしれぬとも、覚悟したよ」
男の子の顔が、だんだんと距離をちぢめて近づいてくる。こころなしか、瞳の色がさっきよりも濃くみえる。表情は子どもににあわない、大人びた真剣な顔。
「わしの名はソーマ――魔法使いだ」
最後のほうは、あまりききとれなかった。ぐっと意識が遠くなったからだ。私と男の子――ソーマとの間は、ほんの少ししかなくなっていた。けど私は、ソーマの顔を薄いフィルターをひとつはさんでいるようにしかみえなくなっていた。くらい部屋に不思議に光るソーマの髪と、ルビーよりも紅い瞳だけが、色をもってみえる。
「もったいない、もったいない。すべてだ。こうも魔力がにげるのは。なぁに、すぐにおわる――そぉら、いただくぞ」
唇に、ソーマの甘いココアの吐息がかかる。
――――私の意識は、そこからまったく、ない。