12:ウソかホントか
こうもありえないことをさも事実っぽく話されてもなあ。
七夕の物語は、両親が話してたのかもしれない。昔話とかを自分でアレンジして話す親は、多いだろうしね。
「笑わんかったことは、ほめてやる。しかしな、お前、しんじてはないだろう? これっぽっちも、な。これだから、その頭の中が、すっからかんと、おもわれるのだ!」
「あのね、夢を壊すようで悪いけど、そういうのは、ただの言い伝えよ? 昔からある有名なね」
「ちがう、ちがう。言い伝えとかいうのではなく、事実だ。いまの世まで話が残っているのは、そういうふうに話が残るよう、裏で意図的に伝えている者がおるからだ――当の本人たちが、いいように話を流せば、自分らにデメリットはなかろう」
「自分でいいように話をすればあたり前ね。けど、証明できないわよ。私からすれば、ただの童話とか昔話とか、そんなんでしかないわ。
だから、ごめんなさいね。信じられないの」
男の子は不満げに顔をくもらせた。愛らしい顔に似合わないシワがよる。
「ええい、まったく。こうも、話がうまく伝わらんとは。女――んん? そういえば、わしは……ぉお! 女、さっきわしが名をきいたのに、なぜ答えない!」
あまりに理不尽なことをいいやがった男の子は、残りすくないゼリーを八つ当たりといわんばかりにスプーンでつき刺した。ダンッダンッと、意地汚くふり下ろされるスプーンは、いびつにゼリーをゆがめる。ただし、ごろごろはいっているフルーツは、うまい具合によけている。
「名前をしりたいときは、自分からよ。おわかりかしら、おぼっちゃん?」
「どうやら目上へ対する口のきき方をしらないらしいなあ」
「それよ、それ。まず、その話し方。よくないわ」
男の子は、握っていたスプーンを置いた。
年上には敬語。
それは、あたり前のことじゃない。
小学低学年でも、ある程度は守れるお約束。私は、男の子はわざとこういう話し方をしているとおもっている。子どもの中には、わざと大人を怒らせて、その反応を楽しむような子もいるかもだけど。男の子は、それにカテゴリーされるかもしれない。
「ふむ。ここはわしがひとつ、大人な対応をしてやろう――右手をかせ」
ちいさい紅葉のような手が、しっかりと私の手をにぎった。