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魔女姫と呼ばれた第1王女に拾われました 〜平民特待生ですが、なぜか天災王女の側近になっています〜  作者: 彩名氏シエル


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魔石盗難事件 ー 4

僕たちが隠れていた角から出て問題の場所を見やると、そこは混沌としか言いようのない空気が漂っていた。

カーペットの引かれた広い廊下の真ん中で、周囲を多くの生徒たちが囲んで、中心に円形の空間が生まれている。生徒たちは迷惑そうに、或いは好機の視線でその中心を見ていた。

そして、その中心には4人の生徒が立っていて、何やらもめているようだった。

「はっ?あんた何言ってんのかわかってるの?」

1人は小柄な女子生徒だった。貴族には珍しくない金髪に青目。制服からしておそらく1年生。

「分かってるに決まってるだろ?前からうんざりしてたんだよ、お前の嫌味には。」

もう一人はかなり顔立ちの整った男子生徒だ。こっちは金髪に緑目でいかにも好青年と言った様子だ。身長も高いし姿勢もいい。ただ、髪型や付けているアクセサリーからどことなく軽薄な印象も出ていた。

「嫌味って……。私は当たり前の注意をしただけじゃない。婚約者としてお茶会には参加してとか、他の女子生徒を口説くのは止めなさいとか。」

「それがウザイって言ってるんだよ。分からないのか?」

そう言って周囲をほったらかしで喧嘩を始めてしまう。

まだこちらには気づいていないらしい。僕の隣に王族が面白そうに見ているんですが大丈夫なのかな。

そんなことを思いつつまだ見れていない二人の方を見ると、見覚えのある顔だった。というか……。

「あの、アビゲール殿下。」

「何かな。」

「あれってエレイン殿下とフェアブルーム男爵令嬢ですよね。エレイン殿下のお友達の。」

「そうだね。」

「そうでございますね。」

アビゲール様だけじゃなくてレベッカさんも答えてくれたから僕の目が間違っているわけではないのだろう。

空間の中心にいる残りの二人はクラスメイトのエレイン王女殿下とその親友として有名な黒髪赤目の少女、アリシア・フェアブルーム男爵令嬢だった。

エレイン様はおろおろと周囲に視線を巡らせ、明らかに助けを求めている様子だった。それに対してアリシア様は言い争いをしている二人、特に男子生徒とエレイン様の間に入って、何かあってもいいようにしているようだ。

そして、しばらくだれも動けずにいたが、段々と周囲に集まっている生徒たちがこちらに気づき始めた。

そうすると、自然アビゲール様の不機嫌そうな表情が目に入るわけで。

それを見た全員がヒュッと引きつったように喉から空気を絞り出して、落ち着きがなくなっていく。中にはそそくさと逃げようとしてアビゲール様の一瞥で縫い留められているものもいた。

そうしているうちに、さすがに騒動の中心人物たちも違和感に気が付き始める。

真っ先に気が付いたのはエレイン様だった。

「あ!お姉さま!!」

そう言ってこちら側へ近づいてくる。ただ、途中でアビゲール様が不機嫌そうに見ていることに気が付いたのか、肩をびくつかせて立ち止まってしまった。

それに続いたのはアリシア様。ただ、こっちはただ侍女のようにエレイン様の後ろに控えて会釈をしてきただけだったが。

むしろ意識は残りの二人に向けているのが視線の動きで分かる。

そして、エレイン様の反応に遅れること5秒。喧嘩をしていた生徒二人がこちらに振り向いた。

女子生徒は顔を真っ青にしていたが、男子生徒は都合がいいと言わんばかりに喜色さえ浮かべていた。

アビゲール様は一通りの観察を終えたのか、小さくため息をついてから口を開いた。

「さて、エレインに話を聞きたいところだが、その様子だと状況の理解もできていなさそうだ。フェアブルーム男爵令嬢アリシア、状況の説明を頼む。あぁ、ここにいる全員に聞こえるようにだぞ。周囲の諸君もしっかり第三者として聞いていてほしい。」

そう言って、アビゲール様はアリシア様に顔を向けた。

隣りでエレイン様が傷ついたような表情を浮かべていたが一顧だにしない。

僕は誰かが動いたらすぐに取り押さえられるような位置にさりげなく動きつつ、話に耳を傾けた。

「はい。エレイン様と私がカフェテリアへ向かっていたところ、唐突にあちらのビクター・ハワード子爵令息が話しかけてきました。彼はこちらへ親し気に話しかけた後、大仰な身振り手振りでエレイン殿下と自分の『真実の愛』とやらを語り始め、最終的に婚約を打診してきました。」

「へー……。」

周囲では「うそだろ?」とか「なんてこと」という言葉が飛び交う。

アビゲール殿下はうすら笑いを浮かべて話の続きを手ぶりで促す。

「はい。そうしたら通りかかったミリア・カーター子爵令嬢がこちらの話を聞いていたらしく、婚約関係にあった二人の間でいさかいが起こり、結果としてビクター子爵令息がミリア子爵令嬢へ婚約破棄を宣告いたしました。」

「なるほどなるほど……。」

周囲は騒然とした空気に包まれている。王族への婚約打診だけでもおかしいのに、それが婚約済みの令息からおこなわれ、しかもその場の勢いで婚約破棄を告げるなんて異常の一言だ。

もともとゴシップ好きの貴族にとってはこのような醜聞はごちそうに等しいのだから、まあ騒がしくなるのは仕方がない。

僕が伯爵家で教えられたことを反芻していたら、アビゲール様とエレイン様に向かって、ミリア様が土下座するような勢いで跪いて頭を下げた。

「王家の方々に不敬な行いの数々……。元婚約者として心の底からお詫び申し上げます。すぐに家に帰り、婚約破棄の手続きをいたしますので、どうか、どうかご容赦を……。」

「え? あ、私は……。」

「そうかそうか。まあ安心していい。君の家に咎を問う気はないからね。この場はこちらでまとめておくので早く行くといい。」

「ありがとうございます。」

エレイン様が何かを言いたそうにしていたが、それをさえぎってアビゲール様が話を進めてしまった。それを聞いて顔色を悪くしていたミリア様もほっとした様子で足早にこの場を去って行った。

言っていたとおりに婚約破棄の手続きに向かったに違いない。

「お、おい、ミリア。何さっさと行こうとしてるんだよ? そこは俺に縋りつくところじゃないのかよ!?」

そう言って、ビクターがミリアの背中に焦ったように話しかける。……正直、ドン引きしてしまった。

いや、どういう思考回路していたらあの状況で逆に棄てないでと懇願されると考えられるのだろうか。

あれか? 自分はイケメンで貴族だから周囲の女は惚れて当然。婚約者に選ばれるなんてどれだけ自分のことが好きなんだろうかと思い込んでいたのだろうか。

……同性として、その考え方が理解できないし、シンプルに気持ち悪い。

周囲の男子も「うわっ……」という表情を浮かべているし、女子生徒に至っては軽蔑の視線でにらみつけている者もいる。

ミリア様も、一瞬立ち止まってちらりとビクターを見ただけで、何も返すことなく歩き去ってしまった。

そうして気まずい沈黙が流れる中、ビクター様が血走った目でエレイン様を見つめた。周囲からは軽い悲鳴も聞こえてくるほど、それは尋常な様子ではなかった。

「なあ、エレイン様。俺たち相思相愛だよな? だったら、王家の力でミリアを俺の後妻にしてくれよ。そうすれば全部まるく収まるからさぁ。」

「ひっ!? え、あのその……。」

エレイン様は落ち着かなげに視線を彷徨わせていたが、おずおずと答えた。

「そもそも、貴方と会話したのは初めてですよね……? それでどうして婚約という話になるのでしょうか……?」

その瞬間、その場の空気が凍り付いた。

全員の心の中から「会話も無かったのか!?」という大合唱が聞こえてきそうだった。

そして数秒の間を置いて、

「ククククッ……。」

アビゲール様が笑い出した。

「お、お姉さま……?」

「エレイン、一応聞いておくが初対面というわけじゃないんだろう?」

「え? はい。挨拶ぐらいだったと思います。」

「そうか、クッ、クククク……。」

とうとう耐えきれなくなったのか、アビゲール様は胸の下で組んでいた腕を腹部に当て、そのまま笑い出してしまった。

周囲の生徒たちにも耐えきれずに噴き出す者が続出していた。

そういう僕も、他人事ながら見事な喜劇に肩の震えを抑えることができなかった。

そうして、全方位から笑われ、当てにしていたエレイン様との関係性を暴露された上、脈無しということを突きつけられたビクターは、

「う、うわあああああああああ!?」

そう叫んでエレイン様に向かって飛びかかった。

「カイト君。」

「分かってます。」

僕は素早くエレイン様とビクターの間に入ると、伸ばしてきた腕を掴んでひねった。

そして、痛みから体をひねって背中を見せたところで足払いをかけて床に押し倒し、その背中を踏みつけた。

そして、倒れたビクターは身勝手にわめき始めた。

「ふざけるなぁ! 俺がどんな気持ちで結婚してやってもいいと言ったのかわからないのかこのくそ女! そもそもお前が誘惑してきたのが悪いんだろうが!! おい、平民風情が俺を踏みつけるんじゃねえ!!」

必死にもがくが、力のかけ方の問題か一向に抜け出すことができていない。

周囲の全員から冷たい目で見られていることにも気が付かず、ビクターは一通りの罵詈雑言を叫び続けた。

そして、息が切れた所でアビゲール様が近づいてくる。その顔には冷酷な笑みが浮かんでいて、ビクターの顔とつま先がぶつかる寸前で足を止めた。

「さて、ビクター・ハワード子爵令息。色々言ってくれたけど、我々の身分を忘れちゃいないかい?」

「……? ……!?」

「おいおい、今更かい? まあ、父上に報告してから、王族に対する不敬罪でしょっ引いてもらわないとね。」

「……。」

「あと、この調子だと余罪もありそうだし、騎士団にしっかり言い含めておかないと。どんな手段を用いてもいいからしっかり罪を洗い出してくれって。」

アビゲール様は嗜虐的に、言い聞かせてなぶるように言葉を続けていく。

その言葉が放たれるたびにビクターの顔色は青ざめ、騎士団の名前が出たあたりで土気色に変わった。

「ご、ご容赦を……。私には王家への不敬を働くつもりなど……。」

「黙りたまえよ。今更そんなたわごとが通用するとでも? さて、後は騎士団の人に任せるとしよう。レベッカ。」

「はい、既に人を使わせております。」

「よろしい。生徒諸君も解散してくれ。あとは生徒会で処理をしておこう。ビクターへの処罰は追って報告するので気になる者はそれを待ってもらおう。」

そう言えば、少しずつ生徒たちが解散していく。中には僕に踏みつけられていたビクターを指さしてあざ笑ってから離れていくものもいた。

ちなみにビクターはアビゲール様の発言後から真っ白になっており、もう逃げ出す気力もなさそうだ。

「さて、騎士団の人員はあと5分もすれば来るだろう。カイト君、引き渡しをレベッカと一緒に頼む。私は先生方とベンジャミンにことの顛末を報告してくる。ほら、エレインも来なさい。あとフェアブルーム男爵令嬢も。」

そう言って、アビゲール様はレベッカを置いてどこかへ行ってしまった。

それから、5分もしないうちに王都の騎士団が6人ほど来て、ビクターを連行していった。最後は抵抗することもなく、引きずられるようにして遠ざかっていった。

ストックが切れたのと、ちょっと今週忙しいので、来週の日曜日まで投稿を一時中断いたします。

今後とも、当作品をよろしくお願いいたします。

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